目次

(1)特許明細書に何が書かれているのか分かる

特許明細書は二種類がある

特許権の内容を確認するときに見る特許明細書には、審査が終了していない”公開特許公報”と、審査が終了して特許権が発生している”特許公報”の二種類があります。

公開特許公報は、特許庁に提出された発明の内容を特許庁が強制公開したものです。ですので、公開特許公報をみてもそれが特許されているかどうかは分かりません。

また公開特許公報が発行されていても、審査で拒絶されたり、審査の依頼を特許庁にしなかったりした場合には特許権が発生しません。

特許権の内容を把握するためには「特許公報」を見なければなりませんので、見ている文献が特許公報であることを事前に確認してください。

特許公報には特許権の内容が記載されている

特許公報の内容は特許庁のウェブサイトから特許情報プラットフォームにより無料で見ることができます。

特許情報プラットフォームにはヘルプデスクがありますので、電話にて無料で使い方も案内してもらえます(特許情報プラットフォームのヘルプデスク電話番号:03-6666-8801)。

特許公報には”願書”、”特許請求の範囲”、”詳細な説明”および”図面”があります。

特許権の内容が書かれているのは、上記の項目のうち”特許請求の範囲”です。特許権の内容を把握するために特許公報の中の”特許請求の範囲”をまず見ます。

(2)特許請求の範囲の請求項に何が書かれているのか分かる

特許請求の範囲と請求項との違い

“特許請求の範囲”と”請求項”とは異なります。

特許請求の範囲とは、特許権の権利内容の全体が示されている欄です。

これに対し、請求項は個々に独立した特許権の内容が示されている欄です。

具体的に請求項1、請求項2および請求項3が仮にあったとします。この場合、個々の請求項の記載が特許権の内容になります。

この場合には請求項1から請求項3まで三つの請求項に書かれた特許権があります。それぞれの請求項は独立であり、一つの請求項でも抵触すれば特許権侵害になります。

またこれらの請求項1から請求項3までを束ねたのが特許請求の範囲です。

特許権侵害になるかどうかは、販売している製品が、請求項1を満たすか、請求項2を満たすか、請求項3を満たすか、といったように、全ての請求項に当てはまるかどうかを見ていきます。

なぜ複数の請求項があるのか

複数の請求項がある理由は、裁判所で通用する特許権を得るためです。

例えば次の特許権があったとしましょう。

【特許請求の範囲】

  • 【請求項1】自動車。
  • 【請求項2】アンチロックブレーキ付きの請求項1に記載の自動車。
  • 【請求項3】自動運転装置付きの請求項2に記載の自動車。

まず請求項1から請求項3までの相互関係を説明します。

請求項1には他の請求項2とか請求項3とかの関係が書かれていません。請求項1のように、他の請求項との関係がない請求項のことを”独立請求項”といいます。

これに対して請求項2には、”請求項1に記載の自動車”と書かれています。この”請求項1に記載の”との意味は、”請求項1の内容を全て含んだ”、という意味です。

請求項2とか請求項3とかのように、”請求項*に記載の・・・”等の限定がある請求項のことを”従属請求項”といいます。

最終的に請求項2の内容は、”請求項1の自動車”に、”アンチロックブレーキ付き”との要素限定が付いている、とみます。

東京都よりも、東京都中央区の方が面積が狭いです。東京都に中央区との限定が付いているからです。請求項の記載も全く同じです。

自動車よりもアンチロックブレーキ付き自動車の方が権利範囲が狭いです。

請求項3の場合は、さらに自動運転装置付きとの限定がかかっているから、請求項2よりも権利範囲が狭いです。

上記の例では、請求項1に自動車があれば、この特許権者のみが自動車の製造販売ができます。

ところが自動車もアンチロックブレーキ付きの自動車も、上記の特許権の出願日より前に知られていた。だからこの発明は特許されてはいけなかった、という話になったとします。

このケースでは無効審判により、特許請求の範囲の請求項1と請求項2で無効になります。

ところが請求項3は無効にできなかった、というケースの場合は、最終的に請求項3だけが生き残ります。

仮に請求項3の記載がなく、上記の特許文献に請求項1と請求項2のみが書かれていた場合には、全部の請求項が無効になってしまい、差止請求や損害賠償請求を裁判所は認めません。

どころが請求項3まで書かれていた場合には全部の請求項がなくなることを防止できたため、特許権侵害があれば裁判所は差止請求や損害賠償請求を認めます。

このように、請求項を複数設置する理由は、多段階に発明を記載して、容易に発明の内容が拒絶されたり無効になったりするのを防ぐためです。

(3)請求項に書かれた発明の種類が分かる

発明の種類には何があるのか

発明者は自由に発明を表現して特許請求の範囲の請求項に記載できます。ただし、法律上、発明の種類は大きく二つだけです。

一つは、”物の発明”です。物の発明には、パソコンプログラムとかスマホアプリのように、実体として物と言えるのかどうかに迷うものも含まれます。

残る一つは”方法の発明”です。なお、方法の発明は何かを単純に使用する方法の発明と、物を生産する方法の二つに分かれます。

要は、物の発明か、方法の発明か、いずれかの形で発明を表現します。

物の発明の事例

物の発明の具体例としては下記のものがあります。

  • 電気自動車。
  • 骨補修用の無機医療材料。
  • 水素発生装置。
  • 燃料電池。

方法の発明の事例

方法の発明の具体例としては下記のものがあります。

  • 電気自動車の遠隔操作方法。
  • 骨補修用の無機医療材料の製造方法。
  • 水素発生装置による水素発生方法。
  • 燃料電池の保管方法。

物の発明と方法の発明の見分け方

物の発明か、方法の発明か判別しにくいときには、発明が時間の要素を含むかどうかにより原則判断します。

時間の要素を含まないのが物の発明であり、時間の要素を含むものが方法の発明です。

物の発明と方法は相互に変換可能

物の発明として書かれた請求項の内容を、方法の発明として書くこともできますし、逆に方法の発明として書かれた請求項の内容を、物の発明として書くこともできます

例えば、”檻を利用した農作物を食い荒らす動物の捕獲方法”との方法の発明は、”農作物を食い荒らす動物の捕獲用の檻”と物の発明に書き直すことができます。

(4)自社の製品が特許権に抵触するか分かる

特許権侵害判断のために、自社の製品を一つに固定する

特許権侵害判断についての最重要ポイントは、特許権侵害の対象を調べる自社製品を一つに固定することです。

例えば、自社で使っている自動車が特許権を侵害しているかどうかを検討するときには、概念上の自動車ではなく、実在する一個の自動車を対象にします。この実在する対象物のことを”イ号”といいます。

イ号は実在物ですから、例えば、搭載されているエンジンの形式、排気量、プラグの数、ホイール間の距離、最長高などのイ号に関する全ての項目は一つに特定されます。

この一つに特定された各項目が、特許権の内容を全て満たしているかどうかを対比していきます。

自社製品は一つではない場合でも、一つひとつ特定して、特許権の内容と対比します。自社製品が複数あるから特許権を侵害するかどうか分からなくなるのではなくて、一つひとつ、実在の製品が特許権を侵害しているか検討します。

イ号の特定があいまいでは特許権を侵害するかどうかが曖昧になり、最終結論がゆらぎます。実在物ならあいまいな点はなく、最終結論が得られます。

特許権を侵害が侵害するかどうかは特許権の内容全てを自社製品が満たすかどうか

自社製品が特許権を侵害するか否かは、自社製品の内容が特許権の内容を全て満たすかどうかで判断されます。

特許権の全ての内容を満たすなら特許権侵害になり、一つでも満たさない項目があれば原則特許権侵害にはなりません。

例えば次の特許権があったとしましょう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】

  • アンチロックブレーキと、
  • 自動運転装置と、
  • を備えた電気自動車。

この場合、自社の自動車に”アンチロックブレーキ”が搭載されているか、”自動運転装置”を備えているか、”電気自動車”であるかどうかを調べます。

仮に自社の自動車にアンチロックブレーキと自動運転装置があったとしても、自社の自動車が電気自動車でなければ特許権の侵害に原則なりません。

また自社の自動車が自動運転装置を備えた電気自動車であったとしても、アンチロックブレーキを備えていなければこれも特許権の侵害になりません。

要は、全ての項目を満たしてはじめて原則特許権侵害になります。

(5)請求項の読み方が分かる

特許請求の範囲の請求項の読み方は段落ごとに把握する

概要が分かったら、実例をみて検討してみましょう。

検討用の実例として、本日発行された特許公報から衝撃吸収部材についての最新の特許発明を引用します。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向に延在するバンパ支持部材とバンパ表皮との間に配置され、潰れ変形することで衝撃を吸収する衝撃吸収部材において、
前記バンパ支持部材に対向して延在する後面と、前記後面の上端と連続して前方に延在する上面と、前記上面の前端部と連続して前記バンパ表皮の内壁に面する上側前面と、前記後面の下端と連続して前方に延在する下面と、前記下面の前端部と連続して前記バンパ表皮の内壁に面する下側前面と、を具備し、
前記上側前面は下端が上端よりも後方に位置する傾斜形状であり、前記下側前面は上端が下端よりも後方に位置する傾斜形状であり、
前記後面の上端と前記上面とが連続する連続部は、前記バンパ支持部材と離間し且つ前記バンパ支持部材の上端部よりも上方に配置され、
前記後面の下端と前記下面とが連続する連続部は、前記バンパ支持部材と離間し且つ前記バンパ支持部材の下端部よりも下方に配置されることを特徴とする衝撃吸収部材。

特許庁公開の特許公報「特許第6051085号」より引用

慣れていないと何が書いてあるか分からず戸惑うかも知れません。

そんな場合でも大丈夫。次の手順に従って請求項1の構造をみていきます。

特許発明の請求項1の構造

  1. (A)・・・(a1)と(a2)・・に配置され、(a3)する・・衝撃吸収部材において、
  2. (B)・・・(b1)と、(b2)と、(b3)と、(b4)と、(b5)と、を具備し、
  3. (C)・・・(c1)であり、(c2)であり、
  4. (D)・・・(d1)は、・・(d2)よりも・・(d3)に配置され、
  5. (E)・・・(e1)は、・・(e2)よりも・・(e3)に配置さることを特徴とする、
  6. (F)・・・衝撃吸収部材。

細かい文章表現はさておいて、まずは文章構造をみます。

まず段落ごとに大文字アルファベットを振ります。個々の大文字アルファベットを発明の構成要件と呼びます。

段落ごとに大文字アルファベットを振るのは、個々の段落ごとに特許発明の要素がまとめられているからです。これは特許明細書の書き方のお約束です。

特許発明の要素が段落毎にまとめられず雑に表現してあるケースでは、特許のことがよく分かっていない素人さんが書いていると思います。お約束を誰からも学んでいないと考えられるからです。

最初に特許発明の請求項1のそれぞれの段落構造の上記(A)と(B)から、この特許発明は、衝撃吸収部材についての発明であることが分かります。

その衝撃吸収部材について、(A)の(a1)から(E)の(e3)までの限定が加重されていると理解します。

次にこちらが販売している製品、つまりイ号について、発明の構成要件(A)を満たすかどうかを見ます。

仮にイ号が、(a1)、(a2)および(a3)による限定事項のある衝撃吸収部材を使っているなら、発明の構成要件(A)を満たします。

逆に(a1)、(a2)および(a3)の少なくとも一つを満たさないか、そもそも衝撃吸収部材を使っていないなら、発明の構成要件(A)は満たさないことになります。

以降、同様に発明の構成要件(A)から(F)を検討します。

特許権侵害になるのは、発明の構成要件の全てを満たす場合、つまり、発明の構成要件(A)から(F)にイ号が当てはまる場合です。

発明の構成要件(A)から(F)のうち、一つでもイ号が当てはまらないなら、原則特許権侵害にはなりません。

あまり細かい文言にこだわらず、文章構造に着目する点がポイントです。

(6)まとめ

特許明細書は分かりにくいと感じるかも知れませんが、慣れるとそうでもなくなります。ぎっしり文章が書いてある特許明細書に押されて気持ちが引いているだけです。

なれてくると、ポイントを押さえつつ内容を理解できるようになります。特許明細書を敬遠しないで研究するようにしてください。

なお、自社製品が他社の特許権を侵害するかどうかの最終判断は、必ず特許の専門家の意見を聞くようにしてください。専門家の意見を聞くことにより、特許明細書の読み方がより明確になり、スキルを磨くことができます。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘

03-6667-0247