商標登録できる商標には制限があります。
例えば、お酒屋さんが商品「お酒」について商標「お酒」を商標登録することはできません。
一人のお酒屋さんに商標「お酒」の登録を認めると他のお酒屋さんが困るからです。
ですからこの様な商標を特許庁に商標登録出願しても登録は認められず拒絶査定になります。
同様に、例えば商品風邪薬について「ビタミンC入り風邪薬」という商標も商標登録を受けることができません。
そもそもビタミンCの入った風邪薬という言葉自体を特定の一業者に独占させる必要は認められませんし、またこの様な商標は商品の一般的な説明に過ぎず商標として相応しくないと判断されるからです。
これだけではありません。
風邪薬に「ビタミンC入り風邪薬」という商品名を付けるのは別の問題があります。
仮にA社が商品名「ビタミンC入り風邪薬」の販売を開始したとします。
A社が莫大な宣伝広告費用を投入することにより「ビタミンC入り風邪薬」が売れるようになったとします。
「ビタミンC入り風邪薬」が良く効くとの口コミを知ったあるお客さまが薬局にいって「ビタミンC入り風邪薬を下さい。」といった、とします。
薬局では「はいはい、分かりました。」といって「ビタミンC入り風邪薬」を探します。
このとき薬局で選ぶのはA社の「ビタミンC入り風邪薬」ではなく、薬局にとって利益率の最も高いビタミンCの入っている風邪薬です。
A社の風邪薬が売れるとは限らないのです。
そればかりか自社の風邪薬の宣伝をすればするほど、他社の風邪薬がその余波により売れる結果になります。
しかもA社の風邪薬は商標登録が認められませんので、他社はA社の商品名を模倣し放題です。
ではA社はどうすべきだったのでしょうか。
答えは一つで、風邪薬のネーミングに風邪薬の商品説明や成分表示を選ぶべきではなかったのです。
自社の風邪薬に「ビタミンC入り風邪薬」と名前を付けるのは罪が重いです。
自社の風邪薬に「ビタミンC入り風邪薬」と名前を付けるのは、自分の子供に「日本人」とか「人間」とか「男の子」とかの名前を付けるのと同じです。
仮に自分の子供に「日本人」とか「人間」とか「男の子」とかの名前を付けた親がいたとすればあなたはその親がふざけていると感じるでしょう。
私たちブランドのプロから見ると、自社の商品名に商品説明や成分表示を掲げるのはふざけていると感じます。
なぜなら商品説明や成分表示はブランドとしては相応しくないからです。
商品説明や成分表示ではお客さまが「世の中でただ一つのあなたの商品」であることを識別することができないからです。
お客さまに「ビタミンC入り風邪薬を下さい」と言わせるのはブランド戦略としては下の下です。
そうではなくて、お客さまに「パブロンください」とか「ルルください」とか「ベンザエースください」とかただ一つの商品に特定できる商品名を言わせないといけないのです。
お客さまが「パブロンください」といえば、薬局はお客さまにパブロンを売らなくてはいけません。
お客さまが「ビタミンC入り風邪薬を下さい」といえば、薬局(全ての流通経路に参入する業者)は一番利益率の高い他のビタミンC入りの風邪薬を売ろうとします。
ですから、商品に名前を付ける側はお客さまが自社の商品をどんずばり指定して購入するように道筋を付けてあげる必要があるのです。
この道筋が「ブランド」です。
世の中にある「ブランド」を思い出して下さい。
どれ一つとして商品説明や成分表示を付けているものはないはずです。
漫然と商品に名前を付けてはいけませんよ。
勝負は商品に名前を付ける段階から始まっているのです。
ファーイースト国際特許事務所
弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247