商標登録出願後、出願済みであることを広く知ってもらうためにはどうすればよいか

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索引

初めに

特許庁に商標登録の願書を提出した後、出願した事実を広く公開してライバルにこちらの商標の使用を思いとどまらせたい、また先に使用しているライバルの使用をやめさせたい、と考えたとします。商標法上、書面にて警告した後に、警告先が出願商標を使用した場合には商標権の設定登録前であっても金銭的請求権が認められる場合がありますが、制限があるので注意が必要です。

(1)出願後、出願済みであることを広く知ってもらうのがよいか

(A)審査合格前の金銭的請求は条件が課せられている

商標法上は商標登録出願の審査合格前であっても、書面を提示して警告する等の条件を満たした場合には金銭的請求権を認める規定があります(商標法第13条の2)。

しかしこの金銭的請求権には法律上の制限があり、例えば、書面による警告に加えて、侵害者側が出願商標を使用していること、実際に出願した指定商品・指定役務について使用していることが条件となっています。

また、実際に権利を行使できるのは商標権発生後であり、審査に合格できなければ金銭的請求権を行使することができません。

(B)法律上は出願商標に類似する商標とは記載されていない点に注意

上記の金銭的請求権は、商標権発生の条件となる設定登録前までの行為を救済するものですが、請求権が認められる商標は、出願商標に類似する商標とは商標法上規定されていない点に注意しなければなりません。

つまり、相手が使用している商標が出願商標と類似しているが同一でない場合には請求権が認められない場合があります。

またこの金銭的請求権は、商標出願人側に損害が発生していることが前提であり、実際に裁判で損害が発生したことを出願人側が裁判所に納得してもらう程度に主張立証していく必要があります。そのために、実際に出願商標を指定商品・指定役務について使用していることが前提であり、使用していない商品役務については金銭的請求権は認められないことになります。

商標権が実際に発生する前に例外的に認められる請求権なので法律上の制限が掛かりすぎて、実務上は行使がしにくい権利になっています。

また警告後、警告先が商標の使用を止めた後に商標登録が認められず、審査に不合格になった場合、警告先に商標の使用中断により損害が発生している場合には民法上の損害賠償請求の返り討ちにあう可能性もあります。商標権が得られなければ金銭的請求権は初めから生じなかったものとして法律上扱われます(商標法第13条の2第4項)。

(C)相手を刺激しないことが得策の場合も

結局、商標権が得られていない段階では金銭的請求権を使っても打撃力は弱いです。商標権が得られた後に請求すると書面を提示して警告したところで、金銭的請求権が認められない範囲が存在します。相手側もそういった事情をよく理解している可能性もあり、金銭的請求権が認められない範囲でわざと使用を継続するなど、逆に相手を調子に乗せてしまって逆効果になる可能性もあります。

(2)出願商標の存在を知れば審査妨害が可能になる

(A)ライバル側は特許庁に対して審査合格を妨げる活動が可能に

商標登録出願後に、既に特許庁に出願を済ませたことを広く自社のホームページ等で公表した場合、ライバルがその事実を尊重して自主的にこちらの商標の使用を止めるかというと、あまり期待できないです。

というのは、ライバル側はこちらが商標登録出願をしている事実をしれば、特許庁に対して審査合格を阻むための情報提供をすることができるからです。

つまりこちらからライバルに商標を使うなと教えることは、こちらが商標権取得に動き出したことをわざわざ教えてあげる行為になってしまいます。

商標登録の専門家は、出願している事実を教えてもらう方が、実はありがたいです。早めに対策を採ることが可能になるからです。

また審査を不合格に持ち込む情報提供は匿名で実施できるため、誰が特許庁に情報提供をしているのか分からない状態で行うことができます。

(B)相手に油断させておく方が得策

商標登録出願を済ませたことをライバルが知ると審査合格を阻止する活動ができるわけですから、ここはあえてこちらが出願を済ませた事実を教えない、という作戦もあります。

商標権に関係する問題の発生を知るのが早ければ早いほど、ライバル側は対策を立てて対応しやすくなるので打撃が小さいです。

これに対して、あえてこちらが商標登録出願を済ませた事実を知らせず、商標権発生後に正規の商標権を使って相手の侵害を止めさせる方が、相手に対する打撃が大きくなります。

また実際に商標権が発生した後でそれを取り消したり無効にしたりするには数十万単位で費用がかかります。しかも商標権を消滅させるために特許庁で争ったとしても、数十万円かけたとしても必ずしも権利を消滅できるかどうか不明のため、相手側は行動を躊躇して、自主的に商標を変えるなど、権利衝突を避けることが期待できます。

(3)商標権侵害警告は異議申立期間が終わってから

(A)商標権が発生しても商標公報発行から2ヶ月間は異議申立ができる

実際に審査に合格して商標権が発生した場合、商標権者以外のライバルは、商標公報発行から2ヶ月以内は異議申立を特許庁に対して行うことができます。

この異議申立は、特許庁の行った商標登録が正しかったかどうかを争うもので、実際に特許庁の審判官の合議体が審査官の判断を調べ直します。

異議申立に理由があれば商標権者側に取消理由通知が発行され、審判官が納得できる説明をできない場合には登録が取り消され、商標権が最初からなかったものになります。

異議申立は誰でもできるため、商標権侵害でライバルに警告する場合はこの異議申立期間が過ぎて、異議申立ができなくなってから行うのがよいです。

(B)異議申立以外にも無効審判を特許庁に請求できる

異議申立期間が終わった後でも、特許庁に対して商標登録を無効にすることを求める無効審判を請求することができます。

異議申立は誰でもできるのに対し、無効審判は当事者であることが請求条件となっているため、名乗り出る必要があります。

もし商標登録の無効に失敗したら、逆に商標権が有効とのお墨付きを特許庁から貰えるため、無効にするはずが逆にワクチンを打って、商標権を強化してしまったのと同じ結果になります。

無効にできると確信が持てる程度に十分に攻撃材料がないと、特許庁に無効審判を請求することが難しくなるわけです。

ですので、仮に商標権侵害でライバルを牽制するなら、実際に審査に合格した後、商標登録の異議申立期間が過ぎてからがよいです。申立期間経過後に商標権侵害による警告などを行うのがよいです。

(4)まとめ

商標登録出願をした後は、出願した事実を早く広めて自主的にこちらの商標の使用を止めて貰うように働きかけたい気持ちは分かります。

けれども、この様に早く動きたい、早くライバルを牽制したいという人で、私はライバルがどの様な商標権を取得しているのか、また、どの様な商標を使用すれば商標権の侵害になるのかを研究している人に出会ったことがありません。

ただ闇雲に動いても効果は薄く、逆に反撃を受ける可能性もあります。

相手のことを訴える前に、そもそもこちらが揚げ足を取られる不利になる材料はないか、ライバルが取得した商標権をこちらが侵害している事実はないか等を、これから攻撃しようとする相手について先に調査する必要があります。

相手にこちらの商標の使用を止めさせようとした結果、逆に相手を勢いづかせてしまったなら本末転倒です。

どのタイミングで攻撃を掛けるのが最も効果的か、専門家と相談した上で、よく考えて行動するようにしましょう。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘

03-6667-0247

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