iPhone脱獄で逮捕。商標権侵害の理由解説

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索引

(1)iPhone脱獄とは?

iPhone脱獄とは、iPhoneを不正改造することです

「脱獄スマホ」の不正販売により、商標権侵害違反で24歳の男性が千葉県警に逮捕されたニュースが報道されました(2016年10月3日、日本経済新聞)。

iPhone脱獄とは、iPhoneを不正改造することを意味します。またiPhoneの不正改造は、メーカーであるアップル社が認めていない改造であり、不正改造をすると、以降はアップル社の商品の保証を受けられなくなります。

iPhoneに限らず、スマートフォン等の電子通信機械器具は、メーカーが指定したアプリ(スマートフォン用アプリケーションの略。専用の電子計算機用プログラムの一種)以外はダウンロードもできないし、仮にダウンロードができたとしても指定外のアプリは起動しない仕様になっています。

簡単に任意のアプリが使える設定になっているのであれば、悪意のあるアプリに端末を乗っ取られる可能性があります。端末乗っ取り等を防ぐ意味でもメーカー側は積極的に、指定するアプリ以外のアプリが機能しないようにセキュリティガードを設けています。

スマートホンで使えないアプリを使えるようにするためには、メーカーの設定したセキュリティシステムを破る必要があります。

こういったメーカーの設定したセキュリティの壁を超える意味のスラングとして、”脱獄”という表現が用いられます。

制限から解き放たれて自由に各種アプリが使えるようになることを脱獄になぞらえることや、不正改造という直接的な表現を使うよりも、改造する側からすればよりしっくりくる表現であったこと等から、脱獄という表現に落ち着いたと思われます。

本来なら使えいないはずのアプリを使えるようにする行為を脱獄と表現する他、端末識別カード等の変更等、正規には認められていない改造も脱獄と表現されることがあります。

(2)登録商標が付いた商品の転売は商標権の権利侵害になるか?

登録商標が付いた商品をそのまま転売する場合は、原則として商標権の権利侵害になりません

登録商標とは、特許庁の審査合格を経て登録手続が完了し、商標権が発生している商標のことをいいます。この登録商標が表示されている商品を販売できる場合とできない場合は次の通りです。

商標権者から許可を貰わずに販売する場合は商標権侵害になります

登録商標が表示されている商品について、その商品が登録商標に指定されている商品である場合には、登録商標を使うことができるのは商標権者と商標権者の許可を得た者だけです。

これ以外の者が登録商標に指定されている商品(類似品も含みます)について登録商標(類似する商標も含みます)を使用すれば商標権侵害になります。

商標権が侵害された場合、刑事罰として10年以下の懲役、個人の場合は1000万円以下の罰金、法人の場合の罰金は3億円以下の罰金の対象になります。

さらに裁判により、差止請求や損害賠償請求も可能になります。

商標権者から購入した正規品をそのまま転売する場合は商標権侵害になりません

一度、商標権者が適法に登録商標を表示した商品を販売した場合には、その登録商標が表示された商品については、商標権は用い尽くされたものと判例学説上は考えます。これを”用尽説”または”消尽説”といいます。

商標権から購入した正規品を、そのまま転売する行為は原則として商標権侵害になりません。通常商品は卸売の現場からから小売の現場へと順次転売されて消費者の手元に届くのが普通だからです。

登録商標が表示された商品が適法に販売された時点で、商標権は消尽したと考えることにより、商標権者は市場を流通する商品の売買に介入して商標権侵害を主張することができなくなります。

仮に市場の任意の取引段階において商標権者が商標権侵害を主張できるとすれば、円滑な商取引が妨げられるからです。

ただ、法律の建前としては、商品を販売後は商標権の主張は認められないとの規定は一切ありません。つまり適法に商品を購入した者が、その商品をそのまま転売したとしても商標権によりその転売を止めさせることができるようにみえます。

しかしこれまでの判例の積み重ねや学説により、そこまで商標権を保護してまで社会上の商取引の混乱を生じさせる必要はないことになっています。最初に商品を販売する際に、商品が転売されていく事実も考慮して売り渡し額を商標権者は決定できる裁量が残されているからです。

(3)なぜ脱獄iPhoneに消尽説が通用しないのか

脱獄iPhoneに消尽説が適用されない理由

一度適法に登録商標が表示された商品を販売した後は、商標権を主張できないとする消尽説にも限界があります。つまり、消尽説が通用しない場合があるのです。

商標の機能

商標には重要な下記の機能があります。

  • 自他商品役務識別機能:他人の商品等の中から自己の商品を識別することのできる機能です
  • 出所表示機能:特定の商標が表示された商品等が、特定の出所から供給されていることを保証する機能です
  • 品質表示機能:特定の商標が表示された商品等が、一定の品質を有していることを保証する機能です
  • 広告宣伝機能:商標が表示された商品等が持つ、需要者にリピート購入を促す広告宣伝の機能です

商標の機能が損なわれたときは商標権侵害になると解釈する

仮に商標権者とは関係のない第三者が、登録商標の付された商品を無断で改造したとすると、商標の持つ品質表示機能が損なわれたと考えます。

どの様な品質の商品を販売するかは商標権者だけが決定することができる権利も商標権に含まれると解釈し、商標の機能が損なわれた場合には商標権が侵害されたと解釈します。

なお、商標の機能が損なわれたことが商標権の侵害になるとの直接の規定は、法律上は存在しません。判例学説の解釈により、登録商標の表示された商品を無断改造すると商標権の侵害に該当すると考えます。

iPone脱獄の場合は

iPhoneには登録商標「iPhone」が付されています。このため商標権者であるアップル社に無断でiPhoneを改造して、「販売する行為」は、商標の品質表示機能を害する行為であるとして、商標権侵害になると解釈します。

iPhoneを正規料金を払って入手してそれを転売する場合、その転売が認められるのは真正品をそのまま転売する場合です。

転売する際に、登録商標の付された商品に手を加えると、商標権侵害になる場合があります。

(4)購入して転売する際に商標権侵害になる場合

上記に説明した消尽論が通用しない代表例は次の通りです。

(1) 商標権者に無断で登録商標の表示された商品を改造して販売すること

これは上記に説明した通りで、商標権者以外は商品を改造して販売することが認められません。

(2) 商標権者に無断で登録商標を剥奪抹消した商品を販売すること

原則、他人の登録商標を使用しなければ商標権侵害になることはないです。このため、他人の登録商標を使用しなくても商標権侵害になる、というのは法律の専門家でも意外に思われる方が多いと思います。

既に表示されている商標権者の登録商標を剥がして表示しなくする行為は、商標の持つ本来の機能を殺してしまうものであると評価されます。この場合も登録商標を無断で剥奪抹消する行為は商標権の侵害に該当すると解釈される場合があります。

(3) 商標権者に無断で登録商標の表示された商品を開封し、内容物を小分けして販売すること

適法に購入した商品を小分けして販売する行為が商標権の侵害行為になるときくと、法律の専門家でもびっくりされる方が多いと思います。

商品を開封した時点で、商品の中身について品質を保証することができなくなりますので、このような行為も商標の機能を害するものとして商標権侵害になると解釈される場合があります。

(5)判断はケースバイケースで

消尽論の否定には反対意見もあります

登録商標の表示されている商品には消尽論は通用しない、と考えるのは行き過ぎです。実際には商標権者の信用の保護と、市場取引の安定との間で妥結点を個別事案ごとに見出す必要があります。

例えば、上記の登録商標が表示された商品の小分けが商標権により認められないとすれば、例えばガソリンの販売がドラム缶ごとになるなど、およそ考えられない事態が生じてしまいます。

社会の商取引の実情に合わせて事案ごとに判断されるべきで、一括りに商標権が消尽するとか消尽しないとか、議論が乱暴にならないように注意する必要があります。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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