ビジネスモデル特許の権利範囲の読み方は?

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(1)ビジネスモデル特許の権利範囲の記載場所

特許公報と、特許公開公報とは別

ビジネスモデル特許の特許権範囲は特許公報にある「特許請求の範囲」の欄に書かれています。今回はビジネスモデル特許の権利内容をつかむ点に注力しましょう。

特許文献をみた経験が少ない人が最初につまずく点に、様々な種類の特許文献が存在して分かりにくい、という点があります。まずこの点に混乱します。

ビジネスモデル特許についての特許文献は、未だ特許権が生じていない段階の「特許公開公報」と、既に特許権が生じている段階の「特許公報」の大きく二つがありあます。

特許になっていない状態でも、特許庁に権利申請の書類を提出すると、その内容は出願日から遅くても1年半後には強制公開されてしまいます。審査が終わっていなくても強制公開されてしまった内容が「特許公開公報」です。

公開公報ではその後の審査により特許権の効力範囲が変化することがあります。また特許化できない点について記載があっても文献としては公開されることから、公開公報の内容に振り回されすぎないようにしてください。

要は、特許文献の中には、特許権が生じていない技術文献と、特許権の生じている技術文献があるのです。特許権の解析に必要な文献は、もちろん特許公報です。

この特許公報の中に書かれている、「【特許請求の範囲】」の部分が、ビジネスモデル特許の権利内容を示す部分です。「特許請求の範囲」の部分を探して、そこに書かれていることを吸収する点がビジネスモデル特許の特許権の内容を自分のものにする第一歩です。

求めるビジネスモデル特許を探す

特許文献は、特許庁のウェブサイトから入ることのできる特許情報プラットフォームでインターネット経由で無料でチェックできます。

今回は勉強のためにキーワード「営業支援システム」でヒットする特許公報の中から、「訪問準備システム」とのタイトルのビジネスモデル特許を題材に取り上げて解説します。

ビジネスモデル特許の権利範囲の読み方

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信ネットワークを介して少なくとも1つのクライアント端末と接続され、複数の商品パターンについての営業戦略を生成する営業支援システムであって、
該複数の商品パターンのうちの少なくとも1つの契約をしている既契約顧客及び該複数の商品パターンのいずれも契約していない新規顧客の各々について、それぞれの顧客と一意に関連し、顧客属性、顧客契約状況、及び顧客嗜好を格納する顧客アカウントと、該クライアント端末の機器識別子と一意に関連している識別子を割り当てられた少なくとも1人の営業担当者の各々と一意に関連し、該営業担当者の担当者活動履歴を格納する担当者アカウントと、該営業担当者用のメッセージを格納するメッセージテーブルとを格納するデータベースと、
該顧客アカウントの顧客属性及び顧客契約状況に基づいて、該複数の商品パターンの各々について、該既契約顧客及び該新規顧客による該商品パターンの予測契約確率を算出する確率モデルを生成し、該確率モデルを用いて、該既契約顧客及び該新規顧客の各々について、各商品パターンの該予測契約確率を算出するモデル生成部と、
該顧客アカウントの該顧客嗜好と該顧客属性と該顧客契約状況とに基づいて決定される優先順位と、該担当者アカウントの該担当者活動履歴と、該予測契約確率に基づいて、該少なくとも1人の営業担当者の各々について、該メッセージテーブルから複数のメッセージを選択するメッセージ決定部とを含む、営業支援システム。

特許庁公開の特許公報「特許第6035404号 訪問準備システム」より引用

見た瞬間に頭がくらくらしますね。でもここであきらめたらビジネスモデル特許をいつまでたっても理解できません。しばらくがまんしてついてきてくださいね。

特許請求の範囲をみる場合、まず表現内容そのものよりも文章の構成がどうなっているかに最初に着目します。

上記のややこしい文章を、次のように文章骨格にばらして眺めます。

  • (イ)「・・・営業支援システムであって、」
  • (ロ)「・・・を格納するデータベースと、」
  • (ハ)「・・・算出するモデル生成部と、」
  • (ニ)「・・・複数のメッセージを選択するメッセージ決定部」
  • (ホ)「・・・(上記のそれぞれを含む)営業支援システム。」

すると、上記の(イ)〜(ホ)という主骨格をもっていることが分かります。

ビジネスモデル特許の内容は主骨格をつかんで理解する

どのようにして上記の(イ)〜(ホ)に分けたか、というと、改行段落ごとにそれぞれの項目を書き抜いただけです。
なぜ改行段落で項目分けしてよいのか、については、段落ごとに発明の構成要件をまとめる、という暗黙の了解があるからです。

この特許請求の範囲の書き手は、「改行せずに文章が流れている部分(上記の「・・・」の部分)は、段落の最後に記載してある名詞への修飾部分ですよ」、というメッセージを発しています。

特許請求の範囲の読み手はこのメッセージを読み取って、「ははぁ、ややこしい修飾部分(上記の「・・・」の部分)は抜きにして、このビジネスモデル特許は、”営業支援システム”、”データベース”、”モデル生成部”および”メッセージ決定部”を含む”営業支援システム”なんだね。」、とおおまかに理解します。

この点を理解した上で、再度上記の(イ)〜(ホ)を眺めると、この特許発明は、「(イ)営業支援システム」についてのビジネスモデル特許と分かります。

ただその(イ)営業支援システムは、(ロ)データベース、(ハ)モデル生成部および(ニ)メッセージ決定部という三つの条件を備えている、ことも分かります。

そしてこのビジネスモデル特許はそれら全部を備えた(ホ)営業支援システムだと分かるわけです。

ここに記載した(イ)〜(ホ)のそれぞれのことを「発明の構成要件」といいます。「発明を特定する事項」とか「発明特定事項」とも呼ばれます。

(2)自社の技術がビジネスモデル特許に抵触するかの判断方法

超重要!「権利一体の原則」

発明の構成要件(イ)〜(ホ)の主骨格が分かった段階で、ものすごく重要なポイントがあります。

今回取り上げたビジネスモデル特許の特許権に、自社の技術が侵害するかどうかは、自社の技術が発明の構成要件(イ)〜(ホ)の「全て」を備えるかどうかにかかっています。

自社の技術が発明の構成要件(イ)〜(ホ)の「全て」にあてはまる場合には、ビジネスモデル特許の特許権を侵害する疑いがでてきます。

これに対し自社の技術が発明の構成要件(イ)〜(ホ)の「少なくとも一つ」があてはまらない場合には、ビジネスモデル特許の特許権に抵触することは原則ないです。

ビジネスモデル特許に対し、全ての構成要件がそろうことにより、一つの特許権を形作っているからです。

逆にいうと、特許権者は発明の構成要件(イ)〜(ホ)の一つひとつについて権利を主張することが原則としてできません。

上述の通り、全ての発明の構成要件がそろってはじめて特許権の権利主張ができる関係を権利一体の原則と呼びます。

上記のビジネスモデルの特許について権利一体の原則の関係をまとめたのが下記の表1です。

表1 ビジネスモデル特許に抵触する場合と抵触しない場合

説明した通り、実はビジネスモデル特許の権利侵害となるのは発明の構成要件(イ)〜(ホ)を全て満たす場合のみであり、その他は特許権の抵触問題は原則ないです。

発明の構成要件に触れた際に、その一部がぶつかり合うから抵触しているかも知れない、とこれまで考えていたかも知れませんが、実は違う、ということに注意してください。

発明の構成要件(イ)~(ホ)を全て満たす場合には

発明の構成要件(イ)〜(ホ)を全て満たす場合には、次に各構成要件の修飾部分(上記の「・・・」の部分)の検討に移ります。

自社の技術に、各構成要件の修飾部分(上記の「・・・」の部分)のうちで一つでも当てはまらない場合には、原則として特許権侵害にはならないことになります。

一つの事例として、発明の構成要件(イ)についてみてみましょう。

発明の構成要件(イ)の修飾部分は次の通りです。

  • (a)「通信ネットワークを介して少なくとも1つのクライアント端末と接続され」
  • (b)「複数の商品パターンについての営業戦略を生成する」
  • (c)「営業支援システム」

仮に自社技術が営業支援システムであったとしても、上記の(a)と(b)の両方を満たしていない場合には、自社技術とビジネスモデル特許の特許権とを比較しても両者の間には抵触問題は原則生じません。

例えば、自社技術が通信ネットワークと接続されていなかったり、クライアント端末と接続されていなかったり、複数の商品パターンと関係がなかったりする場合には、原則的に特許権の抵触問題は生じないです。

上記の検討を全ての発明の構成要件にあてはめます。

すると、全て一致する場合、というのは案外少ない、ということが分かると思います。

特許文献をみていたずらに不安に思うのではなく、どの部分が一致し、どの部分が一致しないかを検討することにより、自社の技術がビジネスモデル特許の特許権の範囲に含まれるか否かを考えます。

(3)まとめ

最終的な判断は専門家の判断を聞く

上記のビジネスモデル特許の特許権の抵触問題について、原則として特許権を侵害しない、といったのは、発明の構成要件について自社技術と相違する点が存在するとしても、均等論によりビジネスモデル特許の特許権侵害問題が発生する場合があるからです。

特許請求の範囲のクレームの読み方については、高度に専門的な部分がありますから最終的な判断については特許の専門家の見解を求めるのがよいでしょう。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘

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