2017年のパテントクリフ特許切れ問題で週刊SPAで解説

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(1)2017年の特許切れ問題とは?

特許権は出願日から20年で権利期間を終える

2017年の特許切れ問題とは、これまで産業界を支えてきた大型特許群の権利期間が終了して、次々と特許権が切れる問題のことをいいます。この特許切れ問題を、特許の断崖絶壁にたとえてパテントクリフ問題といいます。

ただ2017年の特許切れ問題といっても、もちろん2017年に突然特許権がなくなるわけではありません。

特許権は出願日から20年で存続期間が切れます。薬など、販売までの認証手続が長くかかる分野については5年を限度に特許権の有効期間の延長がありますが、20世紀後半に開発されてきた技術に関係する特許群が相次いで消滅していきます。

特に日亜化学社が業界をリードしてきた青色LEDの特許群も順次特許権の期間満了を迎え、これらも消滅します。

特許権がなくなれば自由に使ってもよいのか

特許権は出願日から20年の権利期間がありますが、特許切れでフリーの技術になったとしても、自由に使えるのは「20年前に発表された技術」です。

現在実施されている技術については、20年前の技術とは異なった、新たに開発された技術に基づく新しい特許により通常は保護されています。

このため現在製造販売されている製品をそのまま無断で製造販売できる、というわけではありません。

それでも大型医薬の特許権が切れると、大型医薬の有効成分の製造販売が自由にできるようになりますので、ジェネリック医薬品と言われる後追いメーカーによる特許切れ医薬品の製造販売が始まります。

(2)パテントクリフ問題の事例とは?

自動車の技術分野におけるパテントクリフ問題の事例

トヨタによると、HV技術の特許については「最初の特許群が2016(平成28)年度から順次切れていくと認識している」(内山田竹志副会長)という。
産経新聞社 サンスポ SANSPO>COMより

プリウスを初めとするハイブリッドカーの基本特許が切れることから、これからはさらにハイブリッドカーの技術開発が進むことが期待されます。

医薬品の技術分野におけるパテントクリフ問題の事例

2015年4月、大塚HDの抗精神病薬「エビリファイ」が、米国で特許の失効を迎えた。
2015年11月17日 東洋経済 ONLINEより

2017年近辺で大型医薬品の特許切れにより、先発メーカーに動きがでています。

迫る「特許の崖」に特効薬なく 第一三共、米で営業部門半減
第一三共は現在2000人いる米国子会社の営業部門の従業員を半分に減らす。理由は米国での高血圧症治療薬「オルメサルタン」の特許が2016年で切れるからだ。
2015年10月20日 日本経済新聞の記事より

もちろんパテントクリフ問題に直面しているのは上記の自動車業界や医薬品業界だけではありません。

上述した青色LEDもそうですし、3Dプリンターも特許切れの問題に直面しています。

(3)なぜ特許が切れたら問題になるのか

結局は新しい開発を誰が負担するかが問題に

新しい技術の開発には膨大な開発費用がかかります。ハイブリッドカーのシステムはもちろんのこと、大型医薬品の場合は開発に長期の期間を要し、費用をかけた製品全てが医薬品として市場で販売できるわけではありません。

新しい技術や新薬を開発するには長期間莫大なコストを払い続けるリスクが伴います。特許権が切れると過去に支払った莫大な開発費用を回収できない場合もありえます。

これに対して特許権の切れた技術を使うのであれば、莫大な開発コストを負担する必要がありません。

特許切れ大型医薬品、つまりジェネリック医薬品を販売するメーカーは市場から大型医薬品が求められる限り、特許権消滅後に開発費を負担することなく稼ぐことができます。

開発費を負担する先発メーカーが稼ぐことができず、開発費を負担しない後発メーカーが稼ぐことができるなら、誰も難しい病気を治すための新薬開発に乗り出そうとはしなくなります。

特許権により医薬品の独占販売権を認めることに否定的な意見もありますが、特許権がないと、誰も苦労して新薬を開発しなくなります。これではまずいです。

ただし先行開発者に永遠に製造販売を独占販売させるのも、逆に社会に対して負担になります。

このため特許権は出願日から一定期間が過ぎれば自動的に消滅するようにされています。特許期間が定められているのは日本だけではありません。世界各国共通です。外国の特許も一定期間が経過すれば消滅します。

一方、ジェネリック医薬品を販売するメーカーが悪者か、というとそうではありません。

社会に対して低価格な医薬品を届けることにより、これまで高価で手を出すことができなかった患者にも医薬品を使ってもらえる環境を整えることができるからです。

特許権は、先行開発メーカーと、後発メーカーとが共存共栄できる調整弁の役割を果たしています。

(4)2017年の特許切れ問題の影響

開発メーカー同士の団結解消、再編への原動力へ

自動車や医薬品に限らず、あらゆる技術製品には複数の特許権が関係しています。技術製品に関係している全ての特許権をクリアしていないと特許権侵害の問題が生じます。

これに対応するため、通常各企業は自社の特許群と他社の特許群を自由に使うことのできる相互ライセンス契約を結びます。この相互ライセンス契約のことを”クロスライセンス”といいます。

うちの特許発明を自由に使ってよいから、おたくの特許発明を自由に使わせてくださいね、という相互契約を各社と結ぶことにより、特許権侵害の問題を発生させることなく製品開発を進めることができます。

ところが重要なパテントが有効期間が切れて消滅してしまうと、特定の一社とクロスライセンスするよりも、他のメーカーとか外国メーカーとかとクロスライセンスした方が有利になる場面も出てきます。

これまではお付き合いで円満にクロスライセンスをして事を荒立てないようにしてきたのに、2017年以後はきれいごとはいえなくなるかも知れません。

重要な特許群の権利消滅が続けば、これまでの協業グループを解消して有力なパートナーと協業関係を結び直す業界再編が加速される方向へ進むでしょう。

青色LED特許群の特許有効期間経過による権利消滅

青色LEDの開発により、既にあった赤色LEDと緑色LEDとを加えて赤、緑、青の三原色がそろい、白色光をLEDにより合成できるようになりました。

このLEDは照明分野という生活に密着していて切り離せない分野の技術であったことから波及効果が大きいです。

パソコンのモニターも、スマートフォンの画面も、道路の信号も、街の電光掲示板も、家の照明器具も、現在ではLEDなしでは考えられない時代になりました。

これらの基本特許群の権利消滅により、より低価格で生活の隅々にLEDがさらに行き渡るようになるでしょう。

(5)まとめ

生活に密着した青色LEDクラスの大型特許はなかなか簡単に生まれるものではありませんが、これまでの特許群が特許権の存続期間の満了により消滅していくのを座してみているだけではいけません。技術開発は息の長い長距離マラソンと同じです。

簡単ではありませんが、資源のない日本が世界の中で生き残っていくためにも、将来に向けた新規技術の発明が続くことが期待されます。

私のインタビュー記事は、週刊 SPA! 2017年1/3・1/10合併号に掲載されました。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘

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