美容・エステ・ネイルサロンの商標登録とは何か、が分かる

無料商標調査 定休日12/28-1/5

索引

初めに

開業している美容、エステ、ネイルサロン等のオーナーの方がご自身のこととしてまず関連するだろうと思われる法律が三つあります。

一つは道交法です。また一つは所得税法です。そして残る一つが商標法です。いずれも美容等業に直接関連する法律ではなくて、業際関連法規です。

自動車をご自身で運転されているオーナーの方なら、一度は道交法のお世話になったことがあるのではないでしょうか。また毎年税務申告の際には直接間接に税務関連の法律の規制を受けます。

ただ、商標法は耳慣れない法律だと思います。美容・エステ・ネイルサロンのオーナーの方とは直接関係のない法律のように思えるからです。

この商標法は、実は、サロンの売上が上がってきたり、サロン自体が有名になってきたりした時に初めて威力を発揮する法律です。

実は多くの美容・エステ・ネイルサロン等のオーナーの方は、ご自身のサロンの名称に商標権を設定できることをご存じありません。

またご自身のサロンの名称に商標権を設定できることを知っていたとしても、なぜ商標登録しなければならないのかの理由も非常に分かりにくいです。

そもそもサロンの売上は、およそオーナーの方の店舗を中心とした半径800m圏内に何人の昼間人口があるかでほぼ決まってしまいます。

このためオーナーの方の営業圏内に同じ名前のサロンが存在しなければ、サロンのネーミングに重複があったとしても特に問題は生じないように思われます。

サロンのネーミングに権利があったとしても、営業圏が分かれているがゆえに、顧客層をサロン同士で取り合う必要はないからです。

また美容等のサロン開業時には近隣地域に名前の同業者の店舗がないか注意していると思いますが、最初の段階で特に問題がなければ、以降はご自身の店舗の商標に注意を払うことはなくなると思います。

ところが、

(a)商標法のことを知らない場合
(b)商標の重複があったとしても営業圏が別のため実害がない場合
(c)最初に商標の問題がないことを確認した場合

のいずれの場合であっても、実は商標法違反で訴えられることがあります。現代においてある意味、知らないというのは罪です。もしこれらの事項について知らなければ、競合他社からオーナーの方ご自身が攻撃を受けることになってしまうからです。

これらのことをオーナーの方がご存じであれば、今度は立場が入れ替わって競合他院に比べてオーナーの方は優位な立場につくことができます。

(1)美容サロンを商標登録すれば何ができるのか

(A)美容・エステ・ネイルサロンのネーミングを商標登録により独占できます

美容等院の名称について商標登録できたなら、そのサロン名称について美容関連の業務に使用できるのはオーナーの方ご本人だけになります。

(B)商標権の存在を知らない場合でも、権利行使ができます

商標法の枠組み上、商標権の権利行使ができるかできないかの条件は、美容等に関連する業務で、登録された商標と似ている範囲の商標を使用していることだけです。商標権を侵害した側が登録商標の存在を事前に知っていたかどうかは権利行使の条件になっていないのです。

すみません、商標権が存在するなんて知りませんでした、という言い訳は通用しない、ということです。

(C)民事上と刑事上の対応策を採ることができます

商標権が侵害された場合、民事上の対応策と、刑事上の対応策を採ることができます。

民事上の救済措置としては、サロンの名称の使用をやめさせる使用差止請求や、これまでサロンの名称を無断で使用していたことに対する損害賠償請求等が挙げられます。

特に損害賠償請求については、過去3年分に渡って請求することができます。

また刑事上の救済措置の一例としては、懲役10年以下、侵害の当事者は罰金1000万円以下、法人が絡んだ場合には罰金3億円以下の刑罰が課せられる場合があります。

(D)商標権は商圏の枠組みを超えて行使することができます

商標権の効力は商圏や都道府県の別には全く関係がありません。日本全国、日本の法律がおよぶ範囲内であればどこでも権利の効力がおよびます。

このため、例えば関東圏で開業されているオーナーの方が、関西圏の商標権者から美容等の営業店舗の商標使用差止の攻撃を受ける場合があります。営業の範囲が重複しているかどうかに関係なく攻撃がくることが特徴です。

(2)美容サロンの名称の権利発生時期の注意点

(A)開業時には問題がなくても後から商標権侵害で訴えられる場合がある

美容サロン等の名称について、開業当初、商標登録の問題がないことを確認した場合であっても、後から商標権侵害で訴えられる場合があります。

商標法の枠組みでは、商標権者になることができるのは、最初に美容サロン等についての商標を使用したものではなく、その商標について、最初に特許庁に願書に提出した者になっているからです。

オーナーの方がご自身の美容サロン等のネーミングについて商標登録を済ませていない場合、そのネーミングは後から他人によって商標登録されてしまう可能性がある、ということです。

多くの開業されている美容サロン等のオーナーの方は、実際に商標登録のトラブルが発生して初めてファーイースト国際特許事務所に相談に来られます。

商標登録の制度が最初に使ったものが勝つ制度ではなく、先に商標登録をした者が勝つ制度であることを事前に知っていればトラブルに巻き込まれることはなかったのに、と思えるケースがほとんどです。

ちなみに開業時の時点で存在する商標権を洗いざらい調べてみたが、問題となる商標権は存在しなかった。それにも関わらず後発的に発生した商標権で以前から使っていたサロンの商標が使えなくなるというのは納得できない、というオーナーの方も多いと思います。

この法的措置は適法です。過去において存在しなかった事後の法律の規定によって、過去の行為を裁くのは原則としてできません。しかし後から法律が発生したため、ある時点を境としてそれ以降の法の枠組みが変更される場合は普通にあります。

例えば、昔はシートベルトを締めなくても誰からもとがめられることはなかった時代が過去にありましたが、現在ではシートベルトをしていないと警官に車を停めさせられる例があります。

(B)売上が上がってきたとき、有名になったときは要注意

サロンの売上がそれほどでもない時期は、商標権侵害で訴えられるケースは少ないです。損害賠償請求しても侵害者側の売上が少ない場合には裁判費用も取ることができないことになるからです。

反面、有名になってくると、商標権侵害の問題が発生したこと自体がこちらに不利な材料になります。商標権侵害という法律違反をした事実を外部に漏らしたくないという心理が働くからです。

こちらの売上が上がるのを待って、こちらが心理的に不利な状況になるのを待ってから相手側の攻撃が始ります。

(3)商標登録できない美容サロンの商標

商標登録の対象となる商標は、漢字・ひらがな・かたかな・アルファベット等の文字、記号・数字、図形・マーク等からできているものです。

注意しなければならないのは、特許庁の審査に合格できない美容サロンの商標です。

(A)美容関連業務の内容をそのまま説明する商標

例えば、「美容サロン」、「美容マッサージ」、「美容施術」、「美容整体」、「ネイルサロン」等の商標は、特許庁に商標登録出願することはできますが、いずれも審査に合格することができません。これらの商標は、美容・エステ・ネイルサロン業界に関係する関係者全員が使用する必要のある言葉であり、一人の商標権者に独占させる理由がないからです。

(B)他人の氏名を含む商標

他人の氏名を含む商標も、特許庁の審査でストップがかかります。例えば、商標「東京花子美容サロン」について特許庁に商標登録出願をすると、他の「東京花子」という氏名のオーナー全員から商標登録の許可をもらってきなさい、という指示が特許庁の審査官からきます。

通常はこの審査官からの要求に応えることができません。他の東京花子という氏名のオーナーの方は、自身に関連する商標を使用できなくなる状態をはいはいと受け入れることはないからです。他の同姓同名者の同意が得られなければ、商標登録の審査に合格することができません。

(C)他人の商標権に抵触する内容の商標

商標権は最初に特許庁に権利申請した最先の出願人のみに与えられます。同じ内容の権利については、二番手以降の申請は全て拒絶されます。

ちなみに現時点で、美容・エステ・ネイルサロン業に関連する商標権は3万9千件以上あります(サロン限定。化粧品、健康食品などのアイテムを除く)。美容サロン・エステティックサロン・ネイルサロン等のオーナーの方が自由に使うことができない商標は4万件近くあることは覚えていてください。

(4)美容サロンについての権利申請の注意点

商標登録出願の際には、美容サロン・エステサロン・ネイルサロンのネーミングやマーク、ロゴなどの商標だけではなくて、その商標を使う業務範囲を明確にしておく必要があります。商標法では業務範囲ごとに商品・役務(サービス)について第1類から第45類の商標区分が設定されています。

これらの商標区分の中からご自身の業務にぴったり当てはまる区分を選択します。

美容エステのオーナーの方が取得すべき商標区分は、美容エステのオーナーの方が何を専業にされるのかによって変わります。それぞれの代表例は次の通りです。

(A)美容・エステ・ネイルサロンを専業する場合の商標区分

美容等業を専業する場合の商標区分としては、例えば次のものがあります。

  • 第44類:美容 マッサージ スキンケア ネイルケア

(B)美容・エステ・ネイルサロン業に関連する商品の商標区分

美容・エステ・ネイルサロン業の業務は、商標法上は役務(サービス)として位置づけられています。美容等の業自体は売買の対象とならず、マッサージ、スキンケア、ネイルケア等の形の役務を提供すると考えるわけです。これに対して美容等に関連する商品の商標区分としては、例えば次のものがあります。下記の商品区分は、オーナーの方がこれから販売するための区分です。このため顧客に商品を販売しないのであれば取得する必要はありません。

  • 第 3類:化粧品 せっけん つけ爪
  • 第 5類:サプリメント
  • 第10類:マッサージ器
  • 第11類:美容美顔器
  • 第21類:化粧用具 美容用マッサージローラー

(C)美容等師に対するコンサルタント関連の商標区分

美容等業ではなく、エステさんに指導する立場の方は商標区分が異なる点に注意してください。

  • 第35類:市場調査 経営の助言
  • 第36類:事業資金の調達に関する情報の提供
  • 第41類:資格の認定 知識の教授 セミナーの開催

なお、商標登録の際に指定しなかった区分については権利が未取得の状態で残ります。このため第三者が商標登録出願すれば、指定しなかった区分の商標権を取られてしまう点にも注意が必要です。

(5)サロンのオーナーの方が商標登録する理由

オーナーの方が商標登録する理由は次の通りです。

(A)開業後のサロンの商標を巡るトラブルに巻き込まれないため

先に説明した通り、先に商標登録をした者が権利者になります。このためどれだけ美容サロンの商標を使い続けていたとしても商標権者になることはできません。商標登録の手続を完了しない限り、他のサロンからの商標権による攻撃の可能性が残ります。

(B)築き上げた実績の横取りを未然に防ぐため

オーナーの方がこれまで堅実に来店者に対して施術を続けてきた結果、地域の方々から信頼されるようになってきました。ところが近所に開業した同じ名前の美容サロンの施術がずさんであった場合はどうでしょうか。施術がずさんなサロンに対する風評がこちらに対して影響を及ぼすことが考えられます。

仮に商標権を保有していない場合には、相手はオーナーの方からのサロンの名称変更の要求を受け入れる必要がありません。どちらもサロンを経営するオーナーとしての立場は同等なので、一方の意見を他方が受け入れなければならない強制力がないからです。

これに対し商標権を持っていればこちらが正当権利者で、相手方は法律の違反者という立場になります。しかも商標権による差止請求権は日本国により保証されています。

(C)次世代へ実績をつないでいくため

美容サロンの後継者問題で紛争が生じた場合でも、商標登録されている美容サロンの商標を使うことができるのは商標権者だけです。

しかも商標権は10年毎の更新申請を失念しない限り、理論上は半永久的に権利が存続します。

このためオーナーの方が一線を退いた後でもオーナーの方の意向通りの代表に対して商標権のライセンスが可能であり、美容サロン・エステサロン・ネイルサロンの経営が第三者に乗っ取られる事態を防ぐことができます。

さらには商標権は有償の移転という形で売買も可能ですので、後継者にこれまで築きあげてきた事業を売却することも可能になります。

ファーイースト国際特許事務所

平野泰弘所長弁理士