商標登録時の区分選択の考慮点
商標を登録する際、申請書には商標を使用する商品やサービスを明記する必要があります。
申請書に記載する商品やサービスはそれぞれ指定商品や指定サービスと呼ばれます。これら指定商品・指定サービスは、第1類から第45類までのいずれかの区分に分類されます。
この区分は商標登録の費用を決定する単位となります。区分が多くなると、それに比例して商標を取得する際の費用も増えます。
もちろん、費用を抑えたいという気持ちは理解できますが、費用を節約しすぎて重要な部分を競合他社に取られてしまうという失態は避けるべきです。
一方で、あれもこれもと全てをカバーしようとすると、いくら費用があっても足りなくなってしまいます。
どれだけの区分をカバーすべきなのか、という問いに対して最適な解答を出すためには、まずライバル企業がどのような商標区分を取得しているのかを調査し、それを参考にします。
ライバル企業と同等の商標保護範囲があれば、初期段階ではそれで十分と言えるでしょう。さらに保護範囲を広げるかどうかは、事業の進行具合を見てから決定しても遅くはありません。
直接の競争相手が存在せず、参考になる商標区分の情報が得られない場合でも、同じ業界で先行する企業の商標取得状況を調査することで、有益な情報を得られるはずです。
言うまでもなく、あなたが所属する業界に関連する競争相手は必ず存在します。参考となる情報は必ずどこかに存在するはずですので、以下に示す手順を参考に、適切な商標区分の情報を探しましょう。
ライバルが取得している商標区分を丸裸にする
まず、ライバルが取得している商標区分を詳しく調べます。
最初に、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)のウェブサイトを開きます。そしてプルダウンメニューから「商標検索」を選択します。次に、「出願人/書換申請者/権利者/名義人」を選択し、検索キーワード欄にライバル企業名を入力します。
ここで大事なのは、J-PlatPat上に登録されている情報と完全一致するキーワードを入力しないとヒットが得られない点です。一方で、何もヒットしない結果を避けるために、部分一致でもヒットするように検索します。そのためには、キーワードを二つの「?」で囲みます。
Fig.1 特許情報プラットフォームで商標検索から「テスラ」と入力
例えば「?テスラ?」と入力すれば、社名に「テスラ」を含む全ての企業が検索結果として表示されます。
Fig.2 「?テスラ?」と入力して、登録上のテスラの正式名称を探る
その中から、イーロン・マスク率いるテスラである「テスラ,インコーポレイテッド」を選び、その商標取得状況を調査します。なお文字列にスペースの空白が挟まっている場合は除去してください。そうでないと不要な情報が大量に表示されてしまいます。
Fig.3 テスラの正式名称からテスラの権利取得状況一覧を入手できる
以上の手順により、ライバル企業がどのような商標区分を取得しているのかを詳しく調べることができます。
さまざまなライバル企業の商標区分取得状況を比較し、それに基づいて自社が取得すべき商標区分を見極めることができます。
変わりゆくトレンドに対する注意が必要
以前は、特許庁の特許情報プラットフォームを通じて競合他社がどの分野で登録を行っているかを参照することが可能でした。しかし、2020年頃から商標登録のトレンドに大きな変化が見られるため、その点には注意が必要です。
下記のFig.4のグラフは、商標権の登録範囲に洋服が含まれているにもかかわらず、その範囲から下着の登録が欠けている件数の年次推移を示しています。
Fig.4 下着の登録が欠けている洋服に関する商標権数の年次推移
また、下記のFig.5のグラフは、商標の登録範囲に印刷用紙が含まれているにもかかわらず、その範囲から印刷済みの印刷物の登録が欠けている件数の年次推移を示しています。
Fig.5 印刷済みの印刷物の登録が欠けている印刷用紙に関する商標権数の年次推移
上記のグラフの例にあるような、登録漏れを避けるためには、初めからそれらの範囲を申請書に記載しておけば済みます。最初から記載しておけば追加の費用は発生しません。
ところが、一度特許庁へ申請書を提出した後では、登録漏れのある申請書に対する範囲の追加や変更は、特許庁では全く認めていません。補正を試みても、審査官により却下されてしまいます(商標法第16条の2)。
上記のグラフのような登録申請漏れは、専門家ならばありえないシンプルなミスです。専門家が申請書の内容を確認した場合、このようなミスを見逃すことはないはずです。仮にプロが願書に目を通したなら、権利申請漏れを直ちに修正するので、年を追う毎に権利申請漏れ事故は防ぐことができるはずです。
これができていないのは、専門家がチェックしないままに、ひな型をコピーして使いまわすか、機械的な一律処理によりミスが再生産されていることが理由として考えられます。
これを比喩で表現するなら、ブロック塀を建てるときに、鉄筋を通さずにブロックだけを積み上げるようなミスと言えます。商標権の売買には数億円を超えるものの取引が行われる場合もあり、後からこのような登録漏れが発覚するとトラブルの原因となります。
登録漏れを起こした場合、その修正のために再度、倍額の費用を支払って申請をやり直す必要が出てきます。このため、登録範囲を調べる際には、直近のケースだけでなく、一定期間過去のケースも確認することをお忘れなく。
ファーイースト国際特許事務所