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商標権の更新を忘れたらどうなる?追納期間と期限後に権利を回復する手続き

商標権は、登録すれば永久に続く権利ではありません。10年ごとの更新登録を忘れると、長年育ててきたブランドの権利が消えてしまいます。

とはいえ、更新の期限を過ぎてしまった時点で、すべてが終わるわけでもありません。満了後6か月の追納期間があり、さらにその期間を過ぎた場合でも、条件を満たせば商標権を回復できる制度があります。

この記事では、商標権の更新登録の基本から、期限を過ぎてしまった場合に商標権がどう扱われるのか、回復の手続きにはどのような要件と費用があるのか、そして回復しても残る制限までをご紹介します。

1. 商標権の存続期間と更新登録の基本

商標権の存続期間は、設定登録の日から10年です(商標法19条1項)。特許権や意匠権と違い、商標権は更新登録の申請をすることで10年ごとに何度でも延ばせます(同19条2項)。使い続ける限り権利を維持できる点が、商標権の大きな特徴です。

更新登録を申請できる2つの期間

更新登録の申請ができる期間は、法律で次のように決められています。

  • 通常の申請期間:存続期間の満了前6か月から満了日まで(商標法20条2項)
  • 追納期間:存続期間の満了後6か月以内(同20条3項)

通常の申請期間に更新登録料を納めて申請すれば、それで手続きは終わりです。特許庁に納める更新登録料は、一括納付で1区分につき43,600円、前期と後期に分ける分割納付なら1区分につき22,800円ずつです。

満了日を過ぎてしまった場合でも、追納期間の6か月以内であれば申請できます。ただしこの場合は、更新登録料と同額の割増登録料を上乗せして納めなければなりません(同43条1項)。つまり、特許庁に納める金額が倍になります。

更新の申請に審査はない

更新登録の申請には、商標を使っているかどうかの審査はありません。期間内に申請書を提出し、登録料を納めれば更新されます。手続きそのものは単純で、問題になるのはほぼ「期限を守れるかどうか」の一点です。

特許庁から更新時期の案内が届くことは、制度上ありません。担当者の交代や登録住所の変更、代理人との連絡切れなどで期限の管理が途切れると、そのまま更新を忘れてしまう事例が実際に起きています。

2. 追納期間も過ぎてしまうと商標権はどうなるのか

追納期間の6か月以内にも更新登録の申請がなかった場合、商標権は存続期間の満了の時にさかのぼって消滅したものとみなされます(商標法20条4項)。追納期間の間は権利が続いていたように見えても、法律上は満了日に消えていた扱いになります。

消滅した商標権は、原則として戻りません。同じ商標を出願し直すことはできますが、出願日が新しくなるため、その間に他人が似た商標を出願していれば、こちらが後願として拒絶される可能性があります。長年使ってきた商標であっても、登録の先後は出願日で決まります。

2023年4月1日から回復の要件が緩やかになった

この「原則」には例外があります。追納期間を過ぎた後でも、一定の条件を満たせば更新登録の申請ができ、商標権を回復できる制度です(商標法21条1項)。

以前は、期間内に申請できなかったことについて「正当な理由」があることが条件でした。災害や重い病気など、権利者の側で防ぎようがなかった事情が求められ、単に忘れていたという理由では認められませんでした。

2023年4月1日以降に追納期間が満了する案件からは、この条件が「故意によるものでないと認められる場合」に変わりました。期限を守れなかったことがわざとでなければ回復を申請できる、という基準です。うっかり忘れていた、担当者が交代して引き継がれていなかった、といった事情でも、故意でなければ対象になります。

3. 期限後に商標権を回復する手続き

申請できる期間

回復のための更新登録の申請ができるのは、追納期間が終わった日から6か月以内です(商標法21条1項、商標法施行規則)。存続期間の満了日から数えると、満了後6か月の追納期間と合わせて、満了日から1年以内が最終の期限になります。この期限を過ぎると、どのような事情があっても回復はできません。

気づいた時点で残りの期間がどれだけあるのかを、最初に確認してください。J-PlatPatで登録番号を検索すれば、存続期間の満了日が分かります。

必要になる手続きと費用

回復の申請では、次の3つをまとめて特許庁に提出します。

  • 商標権存続期間更新登録申請書:本来行うべきだった更新登録の申請そのものです。登録料は追納期間と同じく割増登録料を含む倍額になります(商標法43条1項)
  • 回復理由書:期間内に申請できなかった経緯と、それが故意によるものでないことを説明する書面です
  • 回復手数料:特許庁に納める手数料で、86,400円です

たとえば1区分の商標権を一括納付で回復する場合、特許庁に納める金額は、更新登録料43,600円と同額の割増登録料を合わせた87,200円に、回復手数料86,400円を加えた173,600円です。通常の期間内に更新した場合の4倍近い費用になります。代理人に依頼する場合は、その手数料が別にかかります。

回復理由書に書くこと

回復理由書には、なぜ期間内に申請できなかったのかを具体的に書きます。担当者の退職で期限の情報が引き継がれなかった、管理していた台帳の記載を誤っていた、代理人からの案内を見落としていた、といった事実を時系列で説明し、期限内に更新する意思はあったが結果として手続きが漏れた、という筋道を示します。

以前の「正当な理由」の基準では、事情を裏付ける証拠書類の提出が求められていました。現在の基準では回復理由書での説明が中心ですが、特許庁から追加の説明を求められた場合に備え、社内のメールや台帳など、経緯が分かる資料は手元に残しておいてください。

特許庁の判断と、その後

特許庁は、申請が期間内に行われているか、登録料と回復手数料が納付されているか、そして申請の遅れが故意によるものでないと認められるかを確認します。回復が認められれば更新登録が行われ、存続期間は満了の時にさかのぼって更新されたものとみなされます(商標法21条2項)。登録簿の上では、権利が途切れなかった形になります。

4. 回復が認められないケースと、回復しても残る制限

「故意」と判断される典型例

基準が緩やかになったとはいえ、すべての申請が認められるわけではありません。期間内に手続きをしないことを自分で選んでいた場合は、故意によるものと判断され、回復は認められません。

  • その商標はもう使わないと判断して更新を見送った後で、方針が変わって権利を戻したくなった
  • 資金の都合で登録料の納付を意図的に先送りし、そのまま期限を過ぎた
  • 廃業や事業撤退を決めて権利を手放した後で、事業を続けることになった

いずれも「更新しない」という判断を一度している点が共通します。回復理由書にこうした経緯を書けば、そのまま故意と判断されます。事実と異なる説明をして回復を受けることは、当然ながら認められません。

回復した商標権には効力の穴が残る

回復が認められても、権利が完全に元どおりになるわけではありません。追納期間が終わった後、回復による更新登録が行われるまでの間に、他人がその商標を商品やサービスに使っていた場合、回復した商標権の効力はその行為には及びません(商標法22条)。

この期間中は、登録簿の上では商標権が消滅したように見えていました。それを信頼して商標を使い始めた第三者を保護するための規定です。回復までの空白期間が長いほど、権利を主張できない行為の範囲も広がります。回復を申請すると決めたら、手続きは早いほど有利です。

5. 更新忘れを防ぐための管理方法

回復の制度があるとはいえ、費用は通常の更新の4倍近くかかり、効力の穴も残ります。更新を忘れない仕組みを持つほうが、はるかに安上がりです。

  • 期限の一覧化:保有する商標権の登録番号、区分、存続期間の満了日を一覧にし、社内の複数人が見られる場所に置く
  • 複数回の通知:満了の1年前、6か月前、3か月前に通知が届くよう、共有カレンダーやスケジュール管理の仕組みに登録する
  • 担当の二重化:期限管理を一人に任せず、担当者が交代するときは引き継ぎ項目に商標権の期限を含める
  • 登録情報の更新:本店移転や社名変更があったら、商標登録原簿の名義や住所も変更する。特許庁や代理人からの連絡が届かなくなる事態を防げます
  • 代理人への管理委託:弁理士に更新期限の管理を任せる方法もあります。期限の前に案内が届き、更新の要否を判断するだけで済みます

更新の時期は、その商標を今後も使うかどうか、指定商品や役務の範囲を見直す必要がないかを考える機会でもあります。使っていない区分があれば、その区分を外して更新すれば登録料を減らせます。反対に、事業が広がって新しい商品に商標を使い始めているなら、更新とは別に新たな出願を検討してください。更新登録の申請では、指定商品や役務を増やすことはできません。

更新の手続きの全体像や費用は、商標登録の更新とは?更新手続きの方法と費用が分かる!でも取り上げています。更新のたびに権利内容を見直す考え方は、商標権の適切な更新で権利を守り続けましょうをご覧ください。

6. よくある質問

Q1. 存続期間の満了日を過ぎてしまいました。もう商標権は消えていますか?

満了日から6か月以内であれば、追納期間として更新登録の申請ができます(商標法20条3項)。登録料は割増登録料を含めた倍額になりますが、権利は途切れません。まず満了日から何か月が経過しているかを確認してください。

Q2. 追納期間の6か月も過ぎてしまいました。回復できますか?

追納期間が終わった日から6か月以内、つまり満了日から1年以内であれば、期限を守れなかったことが故意によるものでないと認められる場合に回復を申請できます(商標法21条1項)。倍額の登録料と回復手数料86,400円を納めます。満了日から1年を過ぎると回復はできません。

Q3. 単に忘れていただけでも「故意でない」と認められますか?

2023年4月1日以降に追納期間が満了した案件では、期限内に更新する意思はあったが失念や引き継ぎの漏れで手続きができなかった、という事情は故意によるものではないと扱われます。反対に、更新しないと一度判断していた場合は故意にあたり、回復は認められません。

Q4. 回復が認められれば、権利は完全に元に戻りますか?

存続期間は満了の時にさかのぼって更新されたものとみなされます(商標法21条2項)。ただし、追納期間が終わった後から回復による更新登録までの間に他人がその商標を使っていた行為には、回復した商標権の効力は及びません(同22条)。

Q5. 回復ができない場合、同じ商標を出願し直せばよいのですか?

出願し直すことはできますが、新しい出願日で審査を受けることになります。消滅の間に他人が似た商標を出願していれば、こちらが拒絶される可能性があります。出願前に、同じ商品や役務の分野で似た商標の出願や登録がないかを調査してください。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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