商標登録の出願が拒絶され、拒絶査定不服審判を請求しても認められなかった。あるいは、自社の商標登録に対して無効審判が請求され、登録を無効とする審決が出た。特許庁の審判での判断に納得できないとき、次に争う場は裁判所です。
この記事では、特許庁の審決を裁判所で争う「審決取消訴訟」について、どのような判断が対象になるのか、誰が誰を相手に訴えるのか、出訴期間と手続きの流れ、判決の効果、そして費用の考え方をご紹介します。
1. 審決取消訴訟とは
審決取消訴訟は、特許庁の審判で出された審決や決定の取消しを、裁判所に求める訴訟です。商標に関する審決取消訴訟は、東京高等裁判所の専属管轄と定められており(商標法63条1項)、実際には東京高等裁判所の特別の支部である知的財産高等裁判所が審理します。全国どこの事業者であっても、訴える先は知的財産高等裁判所です。
対象になる特許庁の判断
審決取消訴訟で争えるのは、特許庁の審判手続きを経た判断です。商標の分野では、主に次のものが対象になります。
- 拒絶査定不服審判の審決:出願を拒絶した審査官の判断を審判で争い、それでも拒絶が維持された場合
- 無効審判の審決:登録を無効とする審決、または無効にしないとする審決
- 取消審判の審決:不使用取消審判などで、登録を取り消す審決、または取り消さないとする審決
- 登録異議の申立てに対する取消決定:異議申立てを受けて商標登録を取り消す決定
- 審判請求書や登録異議申立書の却下の決定
審査官の拒絶査定そのものを、いきなり裁判所に持ち込むことはできません。拒絶査定に不服があれば、まず特許庁に拒絶査定不服審判を請求し、その審決に対して審決取消訴訟を起こす、という順番です。
登録異議の申立てについては、登録を維持する決定に対しては、異議を申し立てた側から訴えを起こすことができません(商標法43条の3第5項)。登録を維持された商標を争いたい場合は、無効審判を請求するのが筋道になります。
行政の判断を裁判所が見直す仕組み
特許庁は行政機関です。行政機関の判断に不服がある場合に、司法機関である裁判所に見直しを求められる仕組みは、憲法が保障する裁判を受ける権利の一部です。審決取消訴訟は、この仕組みを特許庁の審決について具体化した制度です。
審判の段階で当事者が主張と証拠を尽くしていることが前提になるため、裁判所の審理は審判で判断された内容の当否を見る形で進みます。審判で主張していなかった無効理由や新しい拒絶理由を、訴訟になってから持ち出すことは原則としてできません。審判の段階から、訴訟まで見通して主張を組み立てておくことになります。
2. 誰が、誰を相手に訴えるのか
訴えを起こせる人
審決取消訴訟を起こせるのは、その審判の当事者、参加人、または参加を申請して拒否された者に限られます(商標法63条2項で準用する特許法178条2項)。審決によって不利益を受けた側が原告になります。拒絶査定不服審判なら出願人、無効審判なら請求人または商標権者のうち、審決で負けた側です。
被告は事件の種類で変わる
誰を被告にするかは、審判の種類で決まります(同63条2項で準用する特許法179条)。
- 拒絶査定不服審判の審決、登録異議申立ての取消決定、却下の決定:被告は特許庁長官
- 無効審判、取消審判の審決:被告は審判の相手方(審判の請求人または被請求人)
出願人と特許庁の間で争われた事件は、訴訟でも特許庁長官が相手になります。一方、無効審判や取消審判のように当事者同士が争った事件では、訴訟も当事者同士で行い、特許庁は当事者になりません。被告を間違えると訴えが不適法になるため、訴状を作る段階で確認しておきます。
3. 出訴期間は審決の送達から30日
審決取消訴訟は、審決または決定の謄本の送達があった日から30日以内に提起しなければなりません(商標法63条2項で準用する特許法178条3項)。この期間は不変期間で、裁判所が延長することはできません(同178条4項)。一般の行政訴訟の出訴期間が処分を知った日から6か月であるのと比べると、はるかに短い期間です。
審決の謄本が届いた日が起算点です。社内で回覧している間に日数が過ぎてしまう例もあるため、審決が届いたらその日を記録し、訴訟を検討するかどうかを直ちに決めなければなりません。遠隔地や交通の不便な場所にいる者のために、審判長が職権で附加期間を定めることはできますが(同178条5項)、国内の事業者がこれを当てにするのは現実的ではありません。
30日の間に、審決の理由を読み込み、どの判断に誤りがあるのかを見極め、訴訟で勝てる見込みがあるかを判断しなければなりません。判断に迷う場合でも、期限内に訴状を提出しておけば、取消事由の詳細は後から準備書面で補うことができます。
4. 手続きの流れと判決の効果
訴状の提出と準備書面
訴状は知的財産高等裁判所に提出します。訴状には、取消しを求める審決の特定と請求の趣旨など定型的な内容を記載し、審決のどこに誤りがあるのかという取消事由の詳細は、訴状の提出後、裁判所が指定する期限までに準備書面で提出するのが一般的な進め方です。
準備書面では、審決の認定や判断の誤りを、審判の記録と証拠に基づいて具体的に指摘します。商標の類否、識別力の有無、周知性の認定、使用の事実の認定など、争点ごとに審決の論理を追い、どの段階の判断が誤っているのかを示します。
口頭弁論と判決
被告は原告の準備書面に対して反論の書面を提出し、裁判所は口頭弁論期日を開いて双方の主張と証拠を確認します。商標の審決取消訴訟は、技術的な争点を含む特許の事件と比べて争点が絞られていることが多く、口頭弁論は1回から2回で終結し、判決の言渡し日が指定される例が少なくありません。
判決の内容によって、その後の展開は次のように分かれます。
- 請求が認められた場合:審決は取り消されます(商標法63条2項で準用する特許法181条1項)。判決が確定すると、特許庁の審判官が改めて審理を行い、判決の判断に沿って新たな審決をします(同181条2項、行政事件訴訟法33条1項)
- 請求が棄却された場合:審決に違法はないと判断され、審決の内容がそのまま維持されます
審決が取り消されても、裁判所が商標登録を直接認めたり無効にしたりするわけではありません。事件は特許庁に戻り、裁判所の判断を前提にした審決がやり直されます。拒絶査定不服審判の審決が取り消された場合、特許庁で再び審理が行われ、他に拒絶理由がなければ登録を認める審決が出る、という流れになります。
最高裁判所への上訴
知的財産高等裁判所の判決に不服がある場合は、最高裁判所に上告または上告受理の申立てができます。期限は判決書の送達から2週間以内です(民事訴訟法313条で準用する同285条)。
ただし、最高裁判所で争えるのは、憲法違反や重大な手続き違反がある場合(同312条)、または法令の解釈に関する重要な事項を含む場合(同318条1項)に限られます。事実認定の不満を理由に上告することはできません。判決を受け取ってから2週間で判決内容を分析し、上訴の理由が立つかどうかを見極めることになります。
5. 審決取消訴訟の費用
当事務所で審決取消訴訟をお引き受けする場合の費用は、主に次の項目で構成されます。訴訟の進行に伴い、コピー代や郵送費などの実費が別途発生します。
- 審決取消訴訟提起費用:580,000~円
- 収入印紙代 :13,000円
- 予納郵便切手代 :6,000円
- (準備書面作成手数料:300,000~円)
- 成功報酬 :100,000~円
裁判所に納める費用
収入印紙代は、裁判所に納める訴え提起の手数料です。審決取消訴訟は金銭の請求ではなく訴額を算定できないため、訴額を160万円とみなして手数料が決まり、13,000円になります(民事訴訟費用等に関する法律4条2項、別表第1)。予納郵便切手代は、裁判所が書類を送達するための郵便料金を前納するものです。
費用が変わる要因
審決取消訴訟は口頭弁論が1回から2回で終わることが多く、準備書面の作成回数も限られるため、長期にわたる侵害訴訟と比べると費用は抑えられる傾向にあります。一方で、次のような要因があると作業量が増え、費用も変わります。
- 周知性や使用の事実など、証拠の収集と分析に手間がかかる争点があるか
- 審決が複数の理由を挙げており、それぞれに反論を組み立てる必要があるか
- 被告側の反論に対して、追加の準備書面が必要になるか
費用は案件ごとに異なるため、ご依頼の前に審決の内容と争点を確認したうえで、個別にお見積りをご提示しています。審決が届いてから出訴期間の30日が過ぎるまでの間に、訴訟の見込みと費用を並べて検討できるよう、早めにご相談ください。
審判の種類と内容については商標法の審判とは?を、登録異議の申立てについては商標登録の異議申立とは?成功するための重要なポイントをご覧ください。侵害訴訟の裁判所の管轄は近くの裁判所で訴えを起こせる?知的財産権侵害訴訟の「管轄」とはで取り上げています。
6. よくある質問
Q1. 拒絶査定を受けました。すぐに裁判所で争えますか?
できません。拒絶査定に不服がある場合は、まず特許庁に拒絶査定不服審判を請求します。その審判で拒絶が維持された場合に、審決に対して審決取消訴訟を起こすことができます。
Q2. 地方の会社ですが、地元の裁判所に訴えられますか?
審決取消訴訟は東京高等裁判所の専属管轄で、実際には知的財産高等裁判所が審理します(商標法63条1項)。所在地にかかわらず、訴える先は知的財産高等裁判所です。
Q3. 出訴期間の30日は延ばせますか?
審決の謄本の送達から30日という期間は不変期間で、当事者の申立てで延ばすことはできません。取消事由の詳細を固めきれていなくても、期限内に訴状を提出し、詳細は後の準備書面で補う進め方が取られます。
Q4. 無効審判で負けました。被告は特許庁ですか?
無効審判や取消審判の審決に対する訴訟では、被告は特許庁長官ではなく、審判の相手方です。無効審判で商標権者が負けた場合は、無効審判を請求した者を被告にします。
Q5. 勝訴すれば、その時点で商標登録が認められますか?
判決で審決が取り消されても、裁判所が登録を認めるわけではありません。判決の確定後、特許庁で改めて審理が行われ、判決の判断に沿った審決が出されます。拒絶査定不服審判の事件であれば、他に拒絶理由がなければ登録を認める審決が出る流れです。
ファーイースト国際特許事務所
弁護士・弁理士 都築 健太郎
03-6667-0247
参考資料
- e-Gov法令検索「商標法」(43条の3、63条)
- e-Gov法令検索「特許法」(178条、179条、181条)
- 知的財産高等裁判所
- 商標法の審判とは?
- 商標登録の異議申立とは?成功するための重要なポイント
- 近くの裁判所で訴えを起こせる?知的財産権侵害訴訟の「管轄」とは
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ファーイースト国際特許事務所|弁理士 平野泰弘
