特許庁の判断に納得がいかない場合、その決定を裁判所で争う手段として「審決取消訴訟」があります。この制度は、特許庁が行う商標登録に関する判断に異議を申し立てるための重要な手続きです。以下で詳しく解説します。
1. 特許庁の役割と商標登録の判断
特許庁は、産業財産権(特許、商標、意匠など)に関する事務を管轄する行政機関です。その主な業務には、以下が含まれます:
産業財産権の審査
特許や商標の登録に適しているかを判断します。
審判業務
登録後の有効性をめぐる争いを裁定します。
商標権は産業財産権の一つであり、商標登録を希望する場合、特許庁に出願し、その有効性を争う場合も特許庁に審判を請求します。
このように、商標登録に関する初期判断は特許庁が行いますが、その判断が最終的なものではありません。
2. 特許庁の判断に不服がある場合
特許庁が行う商標登録の判断は、国民の財産権である商標権に直結します。このため、適切で公平な手続きが求められます。
しかし、行政機関である特許庁の判断に全てを委ねるだけでは、中立的な観点での再評価が担保されません。
そのため、日本では行政機関の判断に不服がある場合、司法機関である裁判所に判断を仰ぐ制度が設けられています。これにより、国民の権利が適切に保護される仕組みが確保されています。
3. 審決取消訴訟の仕組み
審決取消訴訟は、特許庁の判断に対して異議を申し立てる手続きであり、以下の特徴があります。
対象
特許庁が行った「審決」や「決定」が含まれます。
提起可能者
商標権者をはじめ、特許庁の判断によって不利益を受けた者
目的
特許庁が行った判断の正当性を裁判所で再評価し、必要に応じて取消を求める。
例えば、特許庁が商標登録を取り消す決定を下した場合でも、商標権者は審決取消訴訟を提起してその判断の見直しを求めることができます。
ここがポイント
審決取消訴訟は、特許庁の判断に対する「セーフティーネット」としての役割を果たします。
この制度により、特許庁の決定が司法機関によって客観的に審査され、商標権者の権利が適切に守られる仕組みが整っています。
4. 審決取消訴訟の手続き:流れをわかりやすく解説
審決取消訴訟の具体的な手続きは、大きく4つのステップに分けられます。それぞれのポイントを押さえながら、スムーズな対応を目指しましょう。
4-1. 訴えの提起
審決取消訴訟を起こす際の最初のステップです。
期限
特許庁から「審決の謄本」が送達された日から、30日以内に訴えを提起する必要があります。一般的な行政事件訴訟での6ヶ月とは異なり、短期間で対応しなければなりません。
提出先
訴状は、東京地方裁判所の特別支部である知的財産高等裁判所に提出します。
訴状の内容
訴状には定型的な内容を記載し、具体的な取消理由などは後日提出する準備書面に記載するのが一般的です。準備書面は、通常、訴状提出後1ヶ月以内に提出する必要があります。
証拠収集の重要性
訴訟を有利に進めるためには、早い段階で証拠を収集し、専門家と連携して準備を進めることが大切です。
4-2. 第1回口頭弁論期日
訴状を提出すると、裁判所から第1回口頭弁論期日が指定されます。
被告の対応
被告(通常は特許庁)は、原告が提出した準備書面をもとに反論を準備します。可能であれば、第1回口頭弁論期日までに反論の準備書面を提出します。
弁論の進行
第1回口頭弁論期日では、主張や証拠の整理が行われます。商標に関する審決取消訴訟は特許の案件と比べてシンプルであり、多くの場合、1~2回の口頭弁論期日で審理が終了します。
早期判決
両者の主張がそろっていれば、第1回口頭弁論期日に弁論が終結し、判決言い渡し日が指定されます。
4-3. 判決
判決の結果によって、以下のように対応が分かれます。
原告の請求が認められた場合
審決は取り消されます。判決が確定すると、特許庁はその内容に従い、改めて審決を行います。
原告の請求が棄却された場合
審決に違法がないことが確定し、特許庁の判断が最終的に支持されます。
4-4. 上訴
知的財産高等裁判所の判決に不服がある場合、最高裁判所に上訴できます。
上訴の期限
判決書の謄本が送達されてから2週間以内に、上告提起または上告受理申立てを行う必要があります。
早急な判断が必要
上訴するかどうかの判断は、時間が限られているため、判決内容を分析した上で迅速に検討する必要があります。
ここがポイント
審決取消訴訟の手続きは、短期間で対応しなければならない場面が多く、的確な準備が求められます。
特に証拠収集や法的な主張の整理は専門的な知識が必要なため、商標登録や訴訟の経験が豊富な弁護士・弁理士による専門家のサポートを受けることを強くおすすめします。
審決取消訴訟の費用について
審決取消訴訟にかかる費用は、主に以下の項目に分かれます。訴訟の進行に伴い、コピー代や郵送費などの実費負担も発生する点にご注意ください。
- 審決取消訴訟提起費用:580,000~円
- 収入印紙代 :13,000円
- 予納郵便切手代 :6,000円
- (準備書面作成手数料:300,000~円)
- 成功報酬 :100,000~円
1. 費用の概算
審決取消訴訟は、1~2回の口頭弁論期日で終了することが多いため、通常、準備書面の作成回数は限られています。そのため、長期にわたる裁判と比べて費用は比較的抑えられる傾向にあります。
2. 費用の変動要因
事件の難易度や証拠収集の範囲、さらには訴訟で争う内容の複雑さによって、必要な作業量が異なるため、費用も変動します。以下の要素が影響を与えます:
- 証拠の収集や分析の必要性
- 主張の整理や準備書面の作成量
- 特許庁の判断内容の精査にかかる時間
3. 個別の見積もり対応
審決取消訴訟の費用は、案件ごとに異なるため、ご依頼時に具体的な状況をヒアリングしたうえで、個別に見積もりをご提示します。これにより、不透明な費用負担を避け、納得のいく条件で進められるよう配慮します。
まとめ
審決取消訴訟の費用については、事前の見積もりやご相談が重要です。不明点や不安があれば、ぜひお気軽にお問い合わせください。あなたの商標権を守るために、弁護士が専門的なサポートを全力で提供いたします。
ファーイースト国際特許事務所弁護士・弁理士 都築 健太郎
03-6667-0247