商標登録で花火を保護するには?

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1. 「大曲の花火」と商標のかかわり

日本の夏の風物詩といえば花火大会です。中でも秋田県大仙市で毎年8月最終土曜日に開催される全国花火競技大会は、「大曲の花火」の名で親しまれ、日本三大花火大会の一つとして全国的な知名度を誇っています。

1910年(明治43年)に第1回大会が開催されて以来、100年を超える歴史を持つこの大会は、単なる花火の打ち上げではありません。

全国から集まった花火師たちが、自ら製作した花火を自らの手で打ち上げ、その技術と芸術性を競い合う、まさに花火師の甲子園ともいえる競技大会なのです。優勝者には内閣総理大臣賞が授与されるなど、その権威は国内最高峰として認められています。

近年では毎年70万人を超える観客が訪れ、2010年には過去最高となる80万人もの人々がこの花火の祭典を楽しみました。地域経済への波及効果も大きく、大仙市にとって欠かせない一大イベントとなっています。

(1−1)登録商標「大曲の花火」について

最初の商標登録は日本酒から始まった

「大曲の花火」という名称を最初に商標登録したのは、花火大会の主催者ではなく、秋田県内の酒造メーカーである秋田清酒株式会社でした。同社は地元の一大イベントである花火大会の名前を冠した日本酒を販売するために、この商標を取得したのです。

商標登録 第2517230号

出願番号/登録番号/国際登録番号:登録2517230(商願平02-078476)
商標(検索用):大曲の花火
区分:33
出願人/権利者/名義人:秋田清酒株式会社
出願日/国際登録日(事後指定日):1990/07/09
登録日:1993/03/31

登録区分は以下の通りです。

  • 第33類「日本酒、洋酒、果実酒、中国酒」

この登録により、「大曲の花火」の名を冠したお酒は、正式に商標として保護されることになりました。地域の名産品と伝統行事を結びつけた、地域ブランディングの先駆的な例といえるでしょう。

花火大会主催者による包括的な商標戦略

その後、花火大会の主催者である大曲商工会議所は、大会運営の観点から「大曲の花火」の商標を複数の区分で登録しました。これは、大会の名称を不正に使用されることを防ぎ、ブランド価値を保護するための戦略的な取り組みです。

商標登録 第5458799号

出願番号/登録番号/国際登録番号:登録5458799(商願2011-045512)
商標(検索用):大曲の花火
区分:16 41
出願人/権利者/名義人:大曲商工会議所
出願日/国際登録日(事後指定日):2011/06/16
登録日:2011/12/22

登録区分:

  • 第16類「印刷物」
  • 第41類「花火の興行の企画、運営または開催」

パンフレットやポスターなど、大会に関連する印刷物についても商標保護の対象となりました。

商標登録 第5791830号

出願番号/登録番号/国際登録番号:登録5791830(商願2015-009152)
商標(検索用):大曲の花火
区分:09 11 14 …
出願人/権利者/名義人:大曲商工会議所
出願日/国際登録日(事後指定日):2015/02/02
登録日:2015/09/11

登録区分:

  • 第28類「人形、将棋用具、すごろく、トランプ、運動用具」等を含む多区分

お土産品や記念グッズなど、幅広い商品カテゴリーでの商標保護を実現しています。

(1−2)ブランドを守るために 〜商標使用の規定について

大曲商工会議所は、長年築き上げてきた「大曲の花火」のブランド価値を守るため、2016年4月より商標使用に関する明確な規定を制定しました。これにより、「大曲の花火」の名称使用は原則として有償となり、使用希望者は正式な手続きを踏む必要があります。

商標使用を希望する事業者は、まず「商標使用許諾申請書」に使用する商品やサービスの詳細、商標の使用方法を示すサンプルや写真を添付して提出します。

その後、大曲商工会議所による厳格な審査が行われ、ブランドイメージを損なう恐れがある場合や不適切な使用方法と判断された場合には、「使用拒否通知書」が発行される仕組みとなっています。

このような管理体制により、無断での名称使用や粗悪な関連商品の流通を防ぎ、100年以上の歴史を持つ「大曲の花火」のブランド価値と信頼性を維持しているのです。地域の誇りでもある花火大会の名前を、次世代に正しく継承していくための重要な取り組みといえるでしょう。

2. 演出や技術も商標登録で保護を

(2−1)現代花火のショーを商標登録

花火の世界は、伝統的な技術を守りながらも、常に新しい表現方法を追求してきました。特に21世紀に入ってからは、コンピューター技術の発展により、これまでにない演出が可能となっています。

単に美しい花火を打ち上げるだけでなく、音楽と完璧にシンクロさせ、まるで夜空に描かれる壮大な絵画のような演出を実現する花火ショーが登場しました。国内外で数多くの花火ショーを手がける株式会社丸玉屋は、この革新的な演出方法を「花火ファンタジア」と名付け、商標登録により保護しています。

「花火ファンタジア」の最大の特徴は、花火の点火タイミングを、音楽の盛り上がりに合わせて複数の花火を連動させることで、感動的な体験を演出します。さらに、開花のタイミングや高度、色彩の組み合わせまで緻密に計算されいます。

「花火ファンタジア」の商標登録詳細

丸玉屋は、この独自の演出方法を確実に保護するため、複数の区分で商標登録を行っています。

商標登録 第4045757号

出願番号/登録番号/国際登録番号:登録4045757(商願平07-057762)
商標(検索用):Hanabi Fantasia
区分:13
出願人/権利者/名義人:株式会社日本橋丸玉屋
出願日/国際登録日(事後指定日):1995/06/09
登録日:1997/08/22

登録区分:

  • 第13類「花火玉」

花火そのものの製品としての保護を確保しています。

商標登録 第4107684号

出願番号/登録番号/国際登録番号:登録4107684(商願平07-057761)
商標(検索用):Hanabi Fantasia
区分:41
出願人/権利者/名義人:株式会社日本橋丸玉屋
出願日/国際登録日(事後指定日):1995/06/09
登録日:1998/01/30

登録区分:

  • 第41類「花火ショーの企画・制作または開催、コンピューターを使用した花火・照明効果および音楽からなる屋内・屋外ショーの企画・制作または開催、音楽その他を演出効果として使用した屋内・屋外での花火ショーの企画・制作または開催」

サービスとしての花火ショー全体を包括的に保護しています。

商標登録 第5271878号

出願番号/登録番号/国際登録番号:登録5271878(商願2009-027246)
商標(検索用):花火ファンタジア
区分:41
出願人/権利者/名義人:株式会社日本橋丸玉屋
出願日/国際登録日(事後指定日):2009/04/10
登録日:2009/10/09

登録区分:

  • 第41類(上記と同様の内容)

権利の更新や強化のための追加登録により、長期的な保護を実現しています。

3. 祭りで披露される花火を商標登録

埼玉県秩父地方で毎年3月に開催される「山田の春祭り」は、春の訪れを告げる伝統行事として地域に根付いています。この祭りの見どころの一つが、地元の金子花火工業株式会社が手がける音楽花火です。

金子花火は、本格的な「音楽花火」に成功しました。当時はまだコンピューター制御が一般的でない時代でしたが、独自の技術により音楽と花火の同期を実現し、新しい花火エンターテインメントの扉を開いたのです。

この画期的な技術と演出方法を保護するため、同社は早い段階で商標登録を行いました。

音楽花火(商標登録 第3022259号)

出願番号/登録番号/国際登録番号:登録3022259(商願平04-160435)
商標(検索用):音楽花火
区分:41
出願人/権利者/名義人:株式会社金子花火
出願日/国際登録日(事後指定日):1992/08/24
登録日:1995/01/31

登録区分:

  • 登録区分:第41類「打ち上げ花火の上演」

この商標登録により、「音楽花火」という名称は金子花火の独占的な権利として保護され、同社の技術力とブランド価値の向上に大きく貢献しています。現在では、全国各地の花火大会で音楽と連動した花火が見られるようになりましたが、その先駆けとなった功績は商標という形で歴史に刻まれているのです。

4. まとめ

花火は、単なる火薬の燃焼現象を超えて、日本の文化や地域の誇り、そして職人たちの技術の結晶として存在しています。商標登録は、これらの価値を法的に保護し、次世代に正しく継承していくための重要なツールとなっています。

「大曲の花火」の例に見られるように、地域の伝統行事がブランドとして確立され、商標登録により保護されることで、地域経済の活性化にも大きく貢献しています。また、商標使用の適正な管理により、ブランドの信頼性が維持され、観光客の誘致にもつながっているのです。

一方、「花火ファンタジア」や「音楽花火」のような革新的な演出技術の商標登録は、創造性と技術革新を保護し、花火業界全体の発展を促進する役割を果たしています。伝統的な花火師の技術に、現代のテクノロジーが融合することで生まれた新しい芸術表現が、商標という形で守られているのです。

夏の夜空を彩る美しい花火の裏側には、長い歴史と伝統、革新的な技術、そして地域の人々の情熱があります。そして、それらすべてを守り、未来へと継承していくために、商標登録という法的な保護が重要な役割を果たしているのです。

私たちが感動する花火大会の一瞬一瞬に、こうした努力と工夫が込められていることを知ると、花火の美しさがより一層心に響いてくるのではないでしょうか。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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