索 引
夏の風物詩として、かき氷を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。ふわふわの氷に色とりどりのシロップがかかった、あの涼やかな一品。
私たちが何気なく楽しんでいるかき氷にも、様々な商標が登録されているのをご存知でしょうか。
今回は、かき氷の歴史から最新のトレンド、そして商標登録の観点から、この夏の定番スイーツを紹介します。
1. かき氷の歴史 – 平安貴族から現代まで
かき氷の歴史は、実は古いものです。その起源は平安時代にまで遡ります。
清少納言が執筆した「枕草子」には、「削り氷にあまづら入れて、新しき金まりに入れたる」という記述があり、これが日本最古のかき氷に関する記録とされています。
「あまづら」とは甘葛を煎じた汁で、当時の貴重な甘味料でした。清少納言はこれを「あてなるもの(上品なもの)」として挙げており、削った氷に甘いシロップをかけて食べる、まさに現代のかき氷の原型がすでに平安時代に存在していたことがわかります。
当時は冷蔵技術もない時代。氷は大変貴重なもので、かき氷を楽しめるのは宮中の貴族など、ごく限られた人々だけでした。
冬に採取した天然氷を氷室で保存し、夏まで大切に保管していたのです。江戸時代になると、氷は代々の徳川将軍家に献上される高級品として扱われていました。
江戸時代末期になると状況は変わり、アメリカから横浜港に天然氷が輸入されるようになって日本人の中川嘉兵衛が氷屋を開業しました。
その後、明治時代に入ると製氷機械が発達し、氷の保存技術も向上。ようやく一般庶民もかき氷を楽しめるようになったのです。
こうして、かき氷は貴族の贅沢品から、誰もが楽しめる夏の風物詩へと変化していきました。
2. 現代のかき氷シーン – 進化する氷の芸術
現代のかき氷は、もはや単なる「氷にシロップをかけたもの」ではありません。各地の名店では、独自の工夫を凝らした創作かき氷が次々と生まれており、まさに食べる芸術品とも言える作品が登場しています。全国各地の話題のかき氷店をご紹介しましょう。
東京・谷中「ひみつ堂」
東京都台東区谷中にある「ひみつ堂」は、都内屈指の人気かき氷店として知られています。JR日暮里駅から徒歩4分という好立地にありながら、下町情緒あふれる谷中の街並みに溶け込む趣のある店構えが特徴的です。
こちらの最大の特徴は、明治創業の蔵元から仕入れた天然氷を使用していること。自然の寒さでゆっくりと凍らせた天然氷は、不純物が少なく、口どけが格別です。
さらに、昔ながらの手動式機械で丁寧に削ることで、ふわふわの食感を実現しています。シロップは店主が厳選した国産フルーツと砂糖のみで作る無添加の手作り蜜。素材本来の風味を存分に味わえます。
人気No.1メニューは「ひみつのいちごみるく」。濃厚な自家製いちごシロップが、ふわふわの氷と絶妙にマッチします。季節ごとにメロンや柿など、旬のフルーツを使った限定メニューも登場し、一年中行列のある人気店となっています。
奈良「ほうせき箱」
奈良県は全国有数のかき氷激戦区として知られており、その中心的存在が奈良市餅飯殿町の「ほうせき箱」です。近鉄奈良駅から徒歩8分、もちいどのセンター街内にあるこの店は、「かき氷の聖地」とも称されています。
「ほうせき箱」の最大の特徴は、固定メニューがほとんどないこと。その時々の旬の食材を使った季節限定かき氷が次々と登場し、多くのメニューが考案されています。例えば初夏には「キウイヨーグルトエスプーマ氷」が登場。爽やかなすだちシロップをかけた氷をヨーグルト風味の泡(エスプーマ)で包み、レモングラスゼリーと奈良県産さくらんぼをトッピングした、見た目も味も楽しい一品です。
鹿児島「天文館むじゃき」
鹿児島県鹿児島市の「天文館むじゃき本店」は、創業1947年の老舗で、鹿児島名物「白熊(しろくま)」発祥の店として有名です。市電「天文館通」電停から徒歩3分の好立地にあり、1階がカフェ「白熊菓琲(かふぇ)」として営業しています。
「白熊」は、練乳シロップをかけた氷の上に、色とりどりのフルーツや寒天、甘豆をあしらった鹿児島を代表するかき氷です。
白くまの顔のような愛らしい見た目と、優しい甘さが特徴。定番の白熊のほかにも、チョコレート白熊、プリン白熊、コーヒー白熊、ヨーグルト白熊など、バラエティ豊かなメニューが揃います。
注目したいのが黒砂糖焼酎を使った大人向けの「焼酎みぞれ」。南九州ならではの風味が楽しめる一品として人気を集めています。連日観光客や地元客で賑わい、夏場には鹿児島の風物詩的存在となっています。
大阪「がるる氷」
大阪市北区黒崎町にある「がるる氷」は、2016年に開業した比較的新しい店ですが、大阪・中崎町エリア初のかき氷専門店として話題を集めています。
大阪メトロ谷町線中崎町駅から徒歩2分という便利な立地にあり、レトロな商店街の一角で一年中かき氷を楽しめます。
人気メニューは「イチゴミルク氷」と「ティラミス氷」。ふわふわ氷に甘酸っぱい自家製いちごソースをかけた王道のイチゴ氷は、開業当初からの定番人気。ティラミス氷は、マスカルポーネチーズクリームとエスプレッソ蜜が調和しデザートを食べているような感覚があります。
この店の特徴的な点は、美と健康にこだわったメニューを提供していて美容志向の女性客から支持を集めています。
3. 家庭で楽しむかき氷文化 – かき氷バーの世界
お店で食べるかき氷も魅力的ですが、暑い夏の日に外出するのは大変という方も多いでしょう。そんな方々のために、家庭で手軽に楽しめる「かき氷バー」も数多く販売されています。実は、これらの商品名も商標登録されているものが多いのです。
「しろくま」バー
鹿児島名物のかき氷「しろくま」をバー状にした商品です。
氷の上にたっぷりの練乳をかけ、フルーツなどをトッピングした本格的な味わいを、アイスバーとして手軽に楽しめます。興味深いことに、「しろくま」は鹿児島名物でありながら、商標権は大阪の会社が保有しています。これは、商標登録における地域性と企業戦略の興味深い一例と言えるでしょう。
「ガリガリ君」
夏のアイスの定番といえば、多くの方が「ガリガリ君」を思い浮かべるのではないでしょうか。実は、ガリガリ君は1980年に「子供が遊びながら片手で食べられるかき氷ができないか?」という発想から開発されたという歴史があります。
かき氷の最大の弱点は、すぐに溶けてしまうこと。この問題を解決するために、かき氷の外側をアイスキャンディーでコーティングするという画期的なアイデアが生まれました。冷たくて爽やかな味わいはそのままに、持ち歩きやすく、食べやすい形状を実現。今では夏の定番商品として、幅広い世代に愛されています。
4. 4. 商標登録の重要性 – ブランド保護の観点から
今回ご紹介した商品やお店の多くは、「文字商標」と「図形商標(ロゴマーク)」の両方を取得しています。一見すると、文字でもロゴでも読み方は同じなのだから、どちらか片方だけで十分ではないかと思われるかもしれません。
商標の類似判断は「称呼(読み方)」「外観(見た目)」「観念(意味合い)」の3つの要素に基づいて行われます。文字商標とロゴマークでは、これらの要素が異なるため、両方を登録することで、より強固なブランド保護が可能になるのです。
例えば、「ガリガリ君」の場合、文字としての「ガリガリ君」と、特徴的なキャラクターのロゴマークの両方が商標登録されています。これにより、名称の無断使用だけでなく、類似したキャラクターの使用も防ぐことができます。
商標登録は、単なる法的保護だけでなく、ブランド価値の向上にも寄与します。消費者は商標登録されたブランドに対して、一定の品質や信頼性を期待します。かき氷という身近な商品でも、しっかりとした商標戦略が重要なのです。
5. まとめ
平安時代の貴族の贅沢品から始まり、現代では誰もが楽しめる夏の風物詩となったかき氷。その進化は今も続いており、各地の名店では創意工夫を凝らした新しいかき氷が次々と生まれています。
また、家庭で手軽に楽しめるかき氷バーも、それぞれに商標登録され、独自のブランドとして確立されています。皆さんがよく食べているかき氷のお店や商品も、実は商標登録されているかもしれません。
この夏、かき氷を楽しむ際には、ぜひその歴史や商標にも思いを馳せてみてください。一口のかき氷に込められた長い歴史と、それを守り続ける人々の努力。そんな背景を知ることで、かき氷の味わいもより一層深いものになるのではないでしょうか。
ファーイースト国際特許事務所所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247