まことちゃんの「サバラ」は商標登録できるのか?

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1索引

2024年10月28日、漫画家の楳図かずお先生がご逝去されました。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

子どもの頃に読んだ楳図先生の名作「漂流教室」は、私にとってまさに人生のバイブルでした。その物語は、私の考え方や価値観に大きな影響を与え、今でも心の中で大切にしている一冊です。

今回は、楳図かずお先生の功績に敬意を表しながら、先生の作品を題材に、商標登録にまつわる問題について解説します。

(1)KISSのジーン・シモンズの商標登録による影響は?

1-1. ジーン・シモンズの指マークのポーズとは?

ジーン・シモンズの指マークは、楳図かずおの漫画「まことちゃん」で使われた「サバラ」の指のポーズと同じスタイルです。このポーズは、親指・人差し指・小指を立て、中指と薬指を曲げる形が特徴です。

一方で「まことちゃん」には、「グワシ」という別の指マークも登場します。この「グワシ」は、親指・人差し指・薬指を立て、中指と小指を曲げるポーズで、「サバラ」の指マークとは異なります。

1-2. ジーン・シモンズの指マークが商標登録されたらどうなるのか?

ジーン・シモンズは、この指マークを商標登録するため、米国で出願しています。この商標登録に関連して押さえておきたいポイントは以下の2点です。

1-3. 商標登録の影響範囲は限定的

米国内のみでの効力

米国で商標登録した場合、商標権の効力は米国内だけにおよびます。米国の法律が働くのは米国の領域内だけだからです。

ジーン・シモンズの商標登録は米国内に限定されています。そのため、米国内でのみ商標権が効力を持ちます。他国ではこの登録は法的な効力を持たず、日本においては影響を受けません。

指定商品・役務に基づく制約

商標権は、登録時に指定された商品や役務に限定して効力を発揮します。申請内容が「音楽アーティストによるライブパフォーマンス」に関連する業務が対象なら、この業務に限って効力が及ぶことになります。そのため、この指マークをライブパフォーマンス以外に使用する場合には、商標権に抵触することはありません。

ここがポイント

ジーン・シモンズの指マークが商標登録されたとしても、影響範囲は権利取得時に指定された範囲に限定されます。例えば、「米国内のライブパフォーマンス」に限られます。

一方で、日本の「まことちゃん」の指マーク「サバラ」や「グワシ」が同じデザインだったとしても、日本国内では影響を受けることはありません。したがって、双方の商標が直接競合する可能性は低いといえるでしょう。

(2)日本に対する影響はあるのか?

2-1. 日本に出願しなければ商標権は発生しない

KISSのジーン・シモンズは、日本で商標登録を申請することも可能です。しかし、現在のところ、ジーン・シモンズが日本でこの指マークの商標登録を出願した事実は確認されていません。

日本で商標権を取得した場合の影響

仮にジーン・シモンズが日本で商標登録を行い、その権利を取得したとしても、商標権にはいくつかの制約があります。特に重要なのは以下のポイントです:

2-2. 業務との関連が必要

商標権は、登録された範囲の業務や商品・サービスに使用される場合にのみ効力を発揮します。つまり、指定された商品やサービスに使用しない限り、商標権侵害として主張することはできません。

2-3. 日常生活での使用は問題なし

例えば、日常生活で「まことちゃん」の「サバラ」ポーズを友人や知り合いに向けて取る場合、これが商標権侵害に該当することはありません。商標権は業務的な使用を対象としているため、個人の非商業的な行動には適用されないのです。

ここがポイント

現時点では、ジーン・シモンズの指マークに関する商標が日本で出願・登録されていないため、日本国内における影響はありません。また、仮に日本で商標権を取得した場合でも、業務的な使用に限られるため、日常生活で「サバラ」ポーズを使用しても問題はありません。

一方で商標権の適用範囲は国ごとに異なります。日本で商業的に使用を検討する場合、商標登録の状況を事前に確認することが重要です。

(3)実際には商標権の放棄へ

3-1. ジーン・シモンズは商標権取得を断念

米国特許商標庁のデータベースを確認すると、ジーン・シモンズが出願していた指マークの商標登録は「DEAD(無効)」状態になっています。これは、商標登録が正式に放棄され、権利が消滅したことを意味します。

米国特許庁のデータベース(TESS)より引用

権利放棄の背景

ジーン・シモンズは一度この商標登録を出願しましたが、その後、社会的な反響の大きさや批判を受け、権利を放棄したと考えられます。多くの人々がこの出願に対して「過剰」や「不必要」と感じ、議論を巻き起こしたことが影響したのかもしれません。

遊び心の可能性も?

実際、ジーン・シモンズが本気で商標権を取得するつもりだったのかは疑問が残ります。もしかすると、話題性を狙った「遊び心」から出願したのではないかとも推測されます。

ここがポイント

ジーン・シモンズが商標権取得を目指した指マークの出願は、最終的に放棄されました。この結果、権利は発生せず、実際には「話題作り」で終わった可能性が高いと言えます。商標登録は、単なるデザインやポーズに対する権利だけでなく、社会的な影響や責任も伴うものであることが改めて示されたケースと言えるでしょう。

(4)まとめ

「まことちゃん」の漫画を知る世代にとって、「サバラ」の指マークは一目見てすぐに思い出せる懐かしい象徴でしょう。

一方で、KISSが日本で活躍していたのは今から約50年前のことであり、楳図かずおの「まことちゃん」と同様、時代の流れとともに過去の話となっています。

若い世代にとって、この指マークの商標登録を巡る今回の話題は、どこか遠い昔の出来事や別世界の話に映るかもしれません。懐かしさを感じる世代と、そうでない世代との間に、話題の温度差があるのも事実です。

時代を超えて商標権が影響を及ぼすことも

一方で、商標は、単なる過去の象徴ではなく、突然、権利として現在に影響を及ぼす可能性があります。

商標権は、更新申請を繰り返す限り、ほぼ無期限に権利を保有することができます。

このため仮に商標権が存続し続けているなら、無断で使うと商標権を侵害することにもなりかねません。

昔のものだから大丈夫、というわけではない点に注意が必要です。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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