索 引
(1)マドプロとは?
海外で商標登録を検討する際、直接各国に出願する方法以外にも便利な手段があります。
それが「マドリッド協定議定書」(通称:マドプロ)です。マドプロを利用すると、加盟国の中から商標登録を希望する国を指定することで、一度の手続きで複数の国に出願したような効果を得られます。
これにより、以前よりも簡単に海外での商標登録が可能になりました。
マドプロは現在、世界115か国(2024年5月時点)で締結されており、対象国については特許庁の公式サイトで確認できます。
ここがポイント!
マドプロを活用すれば、手続きの手間を大幅に減らし、複数国での商標保護を一度の申請で実現できるため、ビジネスの国際展開にとって強力なツールとなります。
商標登録をグローバルに広げるなら、マドプロの活用は検討に値します。
(2)出願できる条件は?
マドプロを活用して商標を海外で登録するためには、いくつかの条件を満たす必要があります。以下にその条件をまとめました。
1. 日本国内での出願・登録が必要
まず、その商標がすでに日本国内で出願されているか(基礎出願)、または登録されている(基礎登録)必要があります。これが前提となります。
2. 同じ商標であること
マドプロで出願する商標は、日本国内での基礎出願・基礎登録と同じものである必要があります。デザインやマークが異なると認められません。
3. 指定商品・サービスが同一または範囲内であること
マドプロで出願できるのは、基礎出願・基礎登録と同一、もしくはその範囲内の指定商品やサービスに限られます。ただし、国ごとに指定商品やサービスを絞ることは可能です。
4. 同じ出願人であること
最後に、出願人(名義人)は日本での基礎出願・基礎登録と同じ人物や企業でなければなりません。この名義が異なると出願は無効になります。
ここがポイント!
これらの条件を満たせば、マドプロを利用して簡便に複数国で商標登録が進められます。特に、国ごとに出願する手間を省きながら、国際展開を効率的に進めたい企業に最適な手段です。
(3)国際登録に至るまで
商標の国際登録を進めるためには、いくつかの手順を踏む必要があります。マドプロを活用することで手続きが簡素化されますが、どのような流れになるのか、詳しく見ていきましょう。
1. 日本での商標出願・登録
まず最初に、日本国内で商標を出願するか、すでに登録されている商標を基に国際出願を行います(基礎出願・基礎登録)。
2. 願書提出と国際登録日
願書は日本の特許庁に提出します。ここでの受理日が「国際登録日」となり、その後、特許庁からWIPO(世界知的所有権機関)へ手続きが進められます。
3. WIPOでの方式審査
WIPO国際事務局では、方式審査が行われ、問題がなければ「国際商標登録証」が発行されます。同時に、指定した国々に対して登録の通知が行われます。
4. 各国での実体審査
次に、指定した各国で個別に実体審査が行われます。審査の結果はWIPOを通じて出願者に通知されます。
5. 更新手続き
国際商標の有効期限は登録日から10年です。更新手続きはWIPO国際事務局に直接行い、指定した国々の登録を一括で更新することが可能です。
ここがポイント!
マドプロを活用すれば、複数国での商標登録を効率よく進められ、国際ビジネスを展開する企業にとって大きな利便性があります。更新手続きも一括で行えるため、長期的なブランド保護が可能です。
(4)マドプロで出願するメリットは?
商標を複数の国で登録する場合、それぞれの国の手続きに従い、時間と労力をかける必要があります。しかし、マドプロを利用すれば、一括での手続きが可能になり、非常に効率的です。ここでは、マドプロの主なメリットを紹介します。
1. 特許庁への一括出願
マドプロの最大のメリットは、日本の特許庁に一度出願するだけで、WIPO国際事務局を通じて指定した複数の国に商標が伝達されることです。国ごとに別々の手続きをする必要がなく、大幅な手間を省けます。
2. 願書作成が簡単
出願に必要な願書は1通のみで、しかも英語での作成が認められています。各国に個別に出願する場合、各国の言語に翻訳する必要があるため、その手間を大幅に軽減できます。
3. 審査期間が決まっている
マドプロでは、各国が審査結果を通知する期限が1年または18カ月と定められているため、結果を長期間待たされることはありません。迅速な審査が期待できます。
4. 費用の節約
複数国への出願を一括で行うため、個別に出願するよりもコストが抑えられる可能性があります。また、国ごとに代理人を雇う必要がなく、その分の費用も節約できます。さらに、支払いは一つの通貨で行えるため、手続きがシンプルです。
ここがポイント!
マドプロは、時間とコストの両方を大幅に節約できる優れた方法です。国際展開を目指す企業にとって、この一括出願の仕組みを活用することで、商標の保護を効率的に進められます。
(5)マドプロのデメリットは?
マドプロには多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。これらを理解して、最適な方法を選ぶことが重要です。
1. 加盟国以外への申請は不可
マドプロは加盟国でのみ利用できるため、現在の97カ国以外への商標登録は対象外となります。この場合、該当国へは個別に出願しなければなりません。
2. 国内の商標が抹消された場合
国際登録から5年以内に、日本国内での基礎出願が拒絶されたり、基礎登録が抹消された場合、その商標の国際登録も失効します。この状況を「セントラルアタック」と呼びます。各国で救済措置が用意されていることもありますが、その際には追加費用が発生するため注意が必要です。
親ガメがこけると子ガメもこける関係です。日本国内の登録に失敗すると、海外の権利を全て失うので要注意です。
3. 登録国が少ない場合の費用
もし出願する国が1カ国だけの場合、マドプロを利用せず直接その国に出願した方が、コストを抑えられる場合があります。少ない国への出願には、手続きの効率化を優先するか、費用を抑えるか検討が必要です。
4. 現地代理人が必要になるケース
各国での審査で拒絶や補正が求められた場合、その国の代理人を雇う必要があります。この手続きには当然追加の費用がかかるため、初期の見積もりよりもコストが膨らむ可能性があります。
ここがポイント!
マドプロを利用する際には、これらのデメリットもしっかりと理解しておくことが重要です。加盟国以外への出願や、5年以内の国内の状況に左右されるリスク、費用の増加なども考慮して、最適な商標登録方法を選びましょう。
(6)出願手数料の納付方法と金額は?
マドプロを利用して商標を国際登録する際には、WIPO国際事務局と日本の特許庁にそれぞれ手数料を支払う必要があります。具体的な支払い方法と手数料の内訳を以下にまとめます。
1. WIPO国際事務局に納付する手数料
手数料は次の3つの項目の合計額です。これらはすべてスイスフランで支払う必要があります。
- 基本手数料
- 付加手数料(指定国ごとにかかる手数料)
- 追加手数料(商品やサービスの区分が3を超える場合にかかる手数料)
なお、加盟国の中には、付加手数料の代わりに「個別手数料」が適用される国もありますので、事前に確認しておくことが重要です。
手数料の詳細については、WIPOの公式ホームページ(英語)で確認できます。以下のリンクからチェックしてください。
WIPO国際事務局・手数料一覧表
https://www.wipo.int/pct/ja/fees/
2. 日本の特許庁に納付する手数料
日本での出願手数料は、特許印紙を書面に貼付して支払います。予納制度や口座振替は利用できないため、直接印紙を購入して納付する必要があります。
- 国際登録出願手数料:1件 9,000円
ここがポイント!
出願時には、国際的な手続きと国内の手続きでそれぞれ異なる支払いが発生するため、漏れがないよう注意が必要です。特にWIPOへの支払いはスイスフランでの納付となるため、事前に準備をしておきましょう。
商標登録をスムーズに進めるためには、手数料の納付方法と金額をしっかりと理解しておくことが大切です。
(7)まとめ
いかがでしたか?
海外での商標登録というと、難しく感じるかもしれませんが、マドプロを利用すれば、そのハードルはぐっと低くなります。グローバル化が加速する今、大切な商標を日本国内だけでなく、世界中でしっかりと守ることが重要です。
マドプロを活用して、あなたのビジネスを国際的に展開し、商標の保護を万全にしましょう。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247