先に商標登録された場合の「先使用権」について

無料商標調査 商標登録革命

1.先使用による商標の使用をする権利

1. 商標権の登録主義とは?

商標権者は、登録された商標を指定された商品やサービスに独占的に使用する権利を持っています。これにより、他者がその商標を無断で使用した場合、差止請求や損害賠償を求めることができます。

日本の商標制度は「登録主義」を採用しているため、同じ商品やサービスに対して同じ、または類似した商標を使おうとする複数の者がいた場合、先に登録を済ませた者が強い立場を得ます。

2. 登録主義の例外としての先使用権

しかし、もし登録主義を厳格に適用すると、未登録の商標を知らずに使用し続け、ブランドや信用を築き上げてきた事業者が不利益を被る可能性があります。これでは、商標法の目的である「健全な経済活動の保護」に反する結果になるかもしれません。

そのため、商標法では、未登録でも長期間使用し続けて一定の知名度を得た商標に対しては、その商標の継続使用を認める「先使用権」という仕組みが設けられています。これにより、周知性を獲得した商標を引き続き使うことができるのです。

2.ゼルダ事件

この事件は、アパレル業界において先使用権が認められるかどうかが争われたものです。特に、先に商標を使用していた者が、その権利を引き続き主張できるかがポイントとなりました。

以下は東京高等裁判所の判決の要約です(東京高裁平5.7.22)。

「商標法第32条第1項に基づく先使用権の趣旨は、既に広く認知された商標を使っている先使用者を保護することにあります。ただし、この権利が認められるのは、使用している商標が登録前に使っていたものと同じ構成であり、使用する商品も同じ場合に限られます。場合によっては、商標権者の独占的使用権は、先使用者の商標に対して制限されることになります。」

さらに裁判所は、登録商標権者が受ける不利益と先使用者が商標を全く使えなくなる不利益を比較した際、先使用者が受ける不利益の方が大きいと判断しました。この観点から、先使用権の「広く認識された」という要件は、有名な未登録商標の存在を理由に出願商標の登録を認めない別規定の要件よりも柔軟に解釈されるべきだとしています。

三1 商標法三二条一項所定の先使用権の制度の趣旨は、職別性を備えるに至った商標の先使用者による使用状態の保護という点にあり、しかも、その適用は、使用に係る商標が登録商標出願前に使用していたと同一の構成であり、かつこれが使用される商品も同一である場合に限られるのに対し、登録商標権者又は専用使用権者の指定商品全般についての独占的使用権は右の限度で制限されるにすぎない。そして、両商標の併存状態を認めることにより、登録商標権者、その専用使用権者の受ける不利益とこれを認めないことによる先使用者の不利益を対比すれば、後者の場合にあっては、先使用者は全く商標を使用することを得ないのであるから、後者の不利益が前者に比し大きいものと推認される。かような事実に鑑みれば、同項所定の周知性、すなわち「需要者間に広く認識され」との要件は、同一文言により登録障害事由として規定されている同法四条一項一〇号と同一に解釈する必要はなく、その要件は右の登録障害事由に比し緩やかに解し、取引の実情に応じ、具体的に判断するのが相当というべきである。

五 したがって、被控訴人は、商標法三二条一項の規定により、婦人服について、被控訴人標章の使用をする権利を有するものということができるから、被控訴人が婦人服に被控訴人標章を使用する行為は、本件商標権の侵害を構成しない。

東京高裁平5.7.22(一部抜粋)

継続使用の問題

また、この事件では、先使用者が一時的に商標の使用を中止した時期があり、「継続して使用していた」と言えるかどうかが争点となりました。

しかし裁判所は、商標の使用中止が控訴人(商標権者)からの警告によるものであり、争いが解決すれば使用を再開する意思があったとして、継続使用の要件も満たしていると認めました。

この事件は、先使用権の範囲や条件について裁判所が具体的に判断を示した重要な判例として注目を集めました。商標に関心のある人々にとって、非常に参考になる事例です。

3.まとめ

ゼルダ事件では、被控訴人に先使用権が認められ、商標権侵害の成立が否定されました。しかし、重要なのは、日本の商標法は「登録主義」を基本にしている点です。つまり、先使用権は商標法において例外的な扱いであり、多くの場合認められないことが多いのです。

また先使用権を主張する場合は、商標権者の出願よりも先に先使用を主張する商標が「広く認識された」状態に達していることを主張立証して、裁判所で認めてもらう必要があります。

単に先に商標を使用している、というだけでは先使用権は認められませんので注意してください。

さらに、先使用権を主張するには、証明に多大な時間とコストがかかります。もし証明が不十分で失敗した場合、商標権侵害が成立し、事業に大きな影響を及ぼすリスクもあります。

そのため、今後使用する商標や現在使用中の商標については、事業の安全性を考慮して、早めに商標出願を行い、登録を受けることを強くお勧めします。

ファーイースト国際特許事務所
弁理士 秋和 勝志
03-6667-0247

無料商標調査

あなたの商標が最短1ヶ月で登録できるかどうか、分かります
識別性を判断することで、商標登録できるかどうか、分かります
業務分野の検討が、商標の価値を最大化します

コメントする