商標権侵害訴訟の進め方:その全体像と具体的な流れ

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商標権侵害の問題が生じた場合、警告書の送付や交渉では解決しきれないことがあります。

そのような場合に選択肢となるのが、民事訴訟です。以下では、訴訟の具体的な流れと重要なポイントを分かりやすく解説します。

1. 訴訟前の対応と準備

警告書の送付

権利者は、被疑侵害者(問題の商標を使用している側)に対し、まず警告書を送ります。しかし、必ずしも回答が得られるとは限りません。

交渉の限界

被疑侵害者から回答があった場合でも、双方の交渉がまとまらない場合があります。その間にも、被疑侵害者が商標を使用し続け、権利者の商品やサービスの売上減少などの実害が深刻化することも。

民事訴訟の必要性

被疑侵害者の商標使用を止めさせるためには、民事訴訟が有力な手段となります。

2. 民事訴訟の進め方

訴訟の目的

民事訴訟では、商標権侵害の成立を主張・立証することで、次のような判決を裁判所から得ることを目指します。

  • 被疑侵害者の商標使用の差止め
  • 損害賠償の請求
  • 訴訟提起の効果

訴えが提起されると、被告(被疑侵害者)は必ず応訴しなければなりません。手続きを無視した場合、被告側に重大な不利益が生じます。

また、裁判所の判決は原告・被告の双方を拘束し、争いを終局的に解決する力を持っています。

訴訟準備のポイント

証拠の収集

訴訟提起前に、警告書送付や交渉の段階で一定の証拠を確保しておくことが重要です。さらに、被疑侵害者が予想される反論に対抗するための再反論の根拠となる証拠も準備しておくと万全です。

専門家への依頼

知的財産権関連の訴訟は専門性が高いため、通常は弁護士や弁理士に訴訟手続きの代理を依頼します。

委任契約の締結

弁護士・弁理士に手続きを依頼する場合、必ず委任契約書を交わす必要があります。

この契約がない場合、例えば口頭で相談しただけでは、弁護士や弁理士は手続きを正式に受任したと認識しませんので注意しましょう。

ここがポイント

商標権侵害訴訟は、慎重な準備と専門家のサポートが欠かせません。警告書の送付や交渉で解決できない場合でも、訴訟を通じて問題を最終的に解決する道があります。ただし、事前に十分な証拠を集め、信頼できる専門家と連携することが成功への鍵です。

3. 実際の審理の流れ

商標権侵害訴訟が提起された場合、その審理の流れは大きく3つのステップに分かれます。ここでは、それぞれのステップの具体的な内容と重要なポイントを解説します。

1. 訴えの提起

訴状の提出

原告は、訴状を裁判所に提出することから始まります。ただし、提出する裁判所は慎重に選ぶ必要があります。裁判所は全国にありますが、どこでもよいわけではなく、管轄権を有する裁判所を選択する必要があります。

管轄を誤ると、事件が適切な裁判所に移送され、訴訟が遅延する可能性があります。

適切な裁判所の選択

商標権侵害訴訟では専門性が求められるため、東京地方裁判所や大阪地方裁判所の知的財産権部が選ばれることが多いです。これらの裁判所では、商標権に関する問題について、より的確な判断が期待できます。

手続の進行

訴状が裁判所に受理されると、裁判長が内容を確認し、不備がなければ第1回口頭弁論期日が指定されます。この期日は原則として、訴え提起の日から30日以内に設定されます。また、被告には訴状の副本が送達され、第1回口頭弁論期日への出頭と答弁書の提出が求められます。

2. 商標権侵害の成否に関する審理

第1回口頭弁論

公開法廷で行われ、原告は訴状を陳述し、被告は答弁書を陳述します。この時点から、訴訟代理人(弁護士・弁理士)同士の争点整理が本格化します。

二段階審理の実施

商標権侵害訴訟では、次の2つのステップで審理が進行します:

  • 1. 商標権侵害の成否を判断する
  • 2. 商標権侵害が認められた場合に、損害額を判断する

侵害の成立要件

商標権侵害の成立には、以下が必要です

  • 被告が原告の登録商標と同一または類似の商標を使用しているか
  • 被告が原告の商標の指定商品やサービスと同一または類似の商品やサービスに使用しているか

これらが認められたとしても、商標登録の無効などの理由で、侵害が成立しない場合もあります。これらの主張について、裁判所で詳細に審理が行われます。

裁判官の心証開示

争点や証拠が整理されると、裁判官が商標権侵害の成否についての心証を開示します。この心証を基に、原告・被告双方が和解を検討することもあります。

3. 損害に関する審理

損害の主張立証

原告は、損害額を立証する責任を負います。この際、商標法で定められた損害額の推定規定を活用することが一般的です。

被告の対応

被告が原告の主張を否認する場合、具体的な資料を開示して争う必要があります。

資料開示に応じない場合、原告は裁判所に書類提出命令を申し立てることができます。この命令は、商標権侵害の成立が認められる心証が既に示されている場合、認められる可能性が高いです。

和解と判決

損害審理の過程で、双方が和解に達すれば訴訟は終了します。一方、和解が成立しない場合は、弁論が終結し、裁判所が判決言渡し日を指定します。

ここがポイント

商標権侵害訴訟では、審理の各段階で入念な準備と的確な対応が求められます。特に、管轄裁判所の選択や証拠の整理は訴訟全体の成否を左右します。また、裁判官の心証が和解や判決に大きく影響を与えるため、適切な弁護士・弁理士のサポートを受けることが重要です。

4. 商標権侵害訴訟の判決以降:その流れと注意点

商標権侵害訴訟における判決は、問題解決の重要な節目ですが、その後の対応によって、最終的な結果が左右されることもあります。判決後の流れや留意点は次の通りです。

1. 判決の言渡しと正本の送達

言渡しの手続き

判決は公開の法廷で言い渡されます。この際、裁判所では主文(結論部分)のみが朗読され、判決理由の朗読は行われません。判決理由は、後日送付される判決書の正本で確認する形となります。

判決書の送達

判決書の正本は通常、数日後に当事者へ送達されます。この送達を受けることで、判決が正式に確定するまでの期間がカウントされ始めます。

2. 平均審理期間と時間的な見通し

知的財産に関する民事事件は、専門性が高いことから、審理に一定の時間を要します。

平均審理期間

2023年(令和5年)時点での平均審理期間は8ヶ月です。

実務上の見通し

第一審の判決を得るまでには、少なくとも1年程度の時間を想定して準備を進めることが重要です。

3. 控訴の検討と手続き

第一審の判決に不服がある場合、控訴を検討します。

控訴の期限

控訴は、判決書の正本が送達された日から2週間以内に提起する必要があります。この期間を過ぎると判決が確定してしまうため、迅速な判断が求められます。

控訴の検討事項

控訴を提起するか否かを決定する際には、次の点を考慮します:

  • 第一審判決の法的妥当性
  • 判決内容の影響度
  • 控訴審における立証可能性や追加証拠の有無

4. 判決確定後の対応

判決が確定すると、その内容に基づき対応が進みます。

勝訴した場合

差止命令や損害賠償の請求が執行されます。被告がこれに応じない場合は、強制執行の手続きに移行します。

敗訴した場合

控訴をしない場合、判決内容を受け入れる形となり、対応が必要です。

ここがポイント

商標権侵害訴訟の判決は、争いの終着点であると同時に、次の対応を決定する重要な分岐点です。

控訴の期限や判決確定後の手続きについては、専門家と連携しながら適切に進めることが求められます。

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弁護士・弁理士 都築 健太郎
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