80年代に社会現象を巻き起こした「セーラーズ」。商標登録のご縁から見つめた、ひとりの起業家の選択

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1. はじめに——12年前のゴールデンウィークに起きたこと

2014年5月3日当時、東京・ラフォーレ原宿にわずか1.5坪の小さなショップが出現しました。店頭に並んだのは、水兵さんのキャラクターをあしらったトレーナーやジャケット。その光景を目にした瞬間、「あのセーラーズだ」と声を上げた人も少なくなかったでしょう。

私はその前日、2014年5月2日のブログで「明日からセーラーズが復活します」と告知しました。あれから12年。

いまあの出来事を振り返ると、ブランド復活劇ではなく、ひとりの女性起業家が人生の優先順位をどう定めたかという物語が見えてきます。そしてその後のセーラーズは、私の予想を超える展開を見せることになりました。

2. 9坪で年商28億円。1980年代の熱狂の正体

セーラーズというブランドをご存じでしょうか。1984年、創業者の三浦静加さんが渋谷にオープンした小さなショップから始まりました。転機は翌1985年頃、テレビ番組「夕やけニャンニャン」でおニャン子クラブがセーラーズのトレーナーを着用したことでした。

店舗面積はわずか9坪。それでいてピーク時の年商は24億円から28億円に達したと報じられています。単純計算で坪あたり約3億円という数字です。1日の来店者数は2000人を超え、整理券を配布し、40人ずつ入店させ、滞在時間は1人15分まで、購入金額は15万円までという独自のルールを設けていました。店員がレジを打ちすぎて腱鞘炎になったというエピソードは、当時の熱狂ぶりを物語っています。

国内ではとんねるずや小錦関が愛用し、海外からはマイケル・ジャクソン、アーノルド・シュワルツェネッガー、マイク・タイソン、ブルック・シールズといった名だたるセレブリティが顧客に名を連ねました。三浦さん本人の証言によれば、マイケル・ジャクソンとは17回ほど会ったことがあり、特別なメッセージ入りジャンパーの制作を依頼されたこともあったそうです。

3. 2000年、突然の閉店。その理由は「人気の低迷」ではなかった

飛ぶ鳥を落とす勢いだったセーラーズは、2000年に一度実店舗を閉じます。ブランドの人気が落ちたからだと思われがちですが異なります。

三浦さんの娘さんが1歳頃に脳性まひと診断されたのです。三浦さんはシングルマザーとして娘さんを育てる決断をし、「娘のために生きよう」と事業からの撤退を選びました。本人は後のインタビューで「両立は難しいと判断した。迷いはなかった」と語っています。

ビジネスの成功と家族のケア。その両立が難しいとき、何を優先するか。三浦さんは明確に後者を選びました。これは「キャリアの中断」というより、「人生の優先順位の再定義」と呼ぶべきものでしょう。

4. 14年の沈黙を経て。2014年5月、ラフォーレ原宿での4日間

私が三浦さんと知り合ったのは、今から20年ほど前に、彼女の商標権を特許庁に登録するお手伝いをさせていただいたことがきっかけでした。商標登録の実務を通じて、ブランドを守ることの大切さ、そしてそのブランドに込められた想いを間近で感じる機会をいただきました。

2014年5月3日から6日までの4日間、ラフォーレ原宿で「14年ぶりの復活」として期間限定ショップがオープンしました。わずか1.5坪のスペースでしたが、初日だけで450万円を売り上げ、坪あたり売上の記録を更新したと報じられています。来店したのは、かつてセーラーズに熱狂した世代だけではありませんでした。当時を知らない若いファンが「憧れていた」と訪れる姿もあったそうです。

あのとき三浦さんは還暦を迎えていましたが、そのパワフルな雰囲気は少しも衰えていませんでした。私は前日のブログで「ゴールデンウィーク中に覗いてみてくださいね」と案内しましたが、実際に足を運んだ方々は、商品だけでなく、三浦さんという人物の生き様にも触れることになったのではないかと思います。

5. 2014年以降——新世代アイドルとともに再燃したブーム

2014年の復活は、セーラーズにとって新たな章の始まりにすぎません。その後のブランドは、かつてのおニャン子クラブと同様に、新世代のアイドルたちとの結びつきによって再び脚光を浴びることになります。

2020年1月にはBSテレ東のドラマ「ハイポジ 1986年、二度目の青春。」に衣装を提供し、乃木坂46の鈴木絢音さんがメインビジュアルでセーラーズを着用しました。2022年2月、日本テレビの「乃木坂スター誕生!」では、元おニャン子クラブの国生さゆりさんと乃木坂46メンバーがセーラーズの衣装を身にまとい、「真赤な自転車」を披露するという、世代を超えたコラボレーションが実現しました。80年代のおニャン子クラブから令和のアイドルへ——セーラーズは時代を超えて「アイドルの衣装」としての役割を引き継いでいったのです。

同年、FANTASTICS from EXILE TRIBEとのコラボパーカーも発売されました。メンバーがデザインに参加した「ビックリおもちゃ箱パーカー」は、ファンの間で大きな話題となりました。

6. 起業50周年。5時間待ちの行列が証明した「伝説」の健在

2021年12月、三浦さんの起業50周年を記念して、渋谷モディで5日間のポップアップストアが開催されました。このイベントは、セーラーズというブランドが単なるノスタルジーではなく、現在進行形で支持されていることを証明する場となりました。

オープン初日、開店前から行列ができ、一時は4階まで列が伸びたといいます。11時の開店に合わせて来店した人がようやく買い物できたのは、5時間後の16時でした。「また来ます」と出直す人がいる一方で、「セーラーズは並んで買うのが当たり前。かつての行列を思い出して懐かしかった」と語るベテランファンもいたそうです。ポップアップストアの運営を担当したBASEの担当者は「過去最高の人気と売上高で驚いている」とコメントしています。

注目すべきは来店客の多様性です。昔からの熱狂的なファンに加え、AKB48、欅坂46、乃木坂46、日向坂46などのアイドルが着用しているのを見てファンになった若い世代、さらにはYouTubeで80年代の映像を見て「カワイイ」と思った人々まで、幅広い客層が訪れました。

7. 2022年、50周年記念コラボの連続

2022年は、セーラーズにとって記念すべき年となりました。同じく50周年を迎えた他の企業やグループとのコラボ企画が次々と実現したのです。

10月には、恩賜上野動物園のパンダ来日50周年とセーラーズ企業50周年を記念したコラボ商品が発売されました。12月にはモスバーガー創業50周年とのコラボとして、AKB48の武藤十夢さんがプロデュースした「サンジャポ×セーラーズコラボ商品」が期間限定で登場しました。同年の雑誌「昭和45年女・1970年女」Vol.10では、セーラーくんが表紙を飾るという栄誉にも浴しました。

三浦さんは「若い方々が大きなサイズをビッグシルエットで着こなすスタイルも可愛いですよね。こだわる部分と、若い方々の感性を取り入れた部分と、ハイブリッドで楽しみながら、ブランドが100年続くように頑張っていきたい」と語っています。

8. 2024年、テレビ出演と渋谷出店40周年

2024年2月、三浦さんはテレビ朝日「激レアさんを連れてきた」に出演し、セーラーズの伝説的な歴史と自身の人生を語りました。そして同年5月には、渋谷セーラーズ出店40周年を記念して、再び渋谷モディでポップアップショップが開催されました。1984年に渋谷で産声を上げたブランドが、40年の時を経て同じ街で祝福される——これもまた、商標を守り続けてきたからこそ実現した光景です。

9. 商標登録の専門家として思うこと——ブランドは「物語」を宿す

商標登録の仕事をしていると、ブランドとは単なるロゴやマークではないことを痛感します。そこには創業者の想い、顧客との関係性、時代の空気、そして時に人生の転機までもが刻み込まれています。

セーラーズの商標には、80年代の熱狂、2000年の決断、14年間の沈黙、2014年の復活、そして新世代との出会いという物語が宿っています。商標を登録するということは、そうした物語を法的に守り、次の世代へつなぐ行為でもあるのです。

「セーラーくん」というキャラクターは、三浦さんが下北沢の古道具店で見つけた1920年代のアメリカ海軍の看板から着想を得て、1979年に商標登録されました。あの時点で商標を押さえていたからこそ、40年以上経った今も、セーラーズはセーラーズとして存在し続けています。

三浦さんは現在、娘さんのケアに加え、認知症を患う高齢のお母様の介護も担っていると報じられています。いわゆる「ダブルケア」の状況です。それでも彼女は、支援を借りながら一人で抱え込まない工夫をしていると語っています。国士舘大学経営学部で起業家教育の講義を行うなど、その活動は多岐にわたります。

10. おわりに。「成功」の定義を問い直す

80年代、三浦静加さんは20代から30代にかけて、9坪の店舗から年商28億円を生み出す起業家でした。彼女の人生を振り返ると、事業拡大を続けることだけが成功ではないことに気づかされます。

娘のために事業を閉じる決断。14年後に再び世に問う勇気。新世代のアイドルやアーティストとのコラボレーション。そして「ブランドが100年続くように」という未来への眼差し。これらすべてが、ひとりの人間のライフコースとして連なっています。

2014年当時に紹介したブログは、一つのイベント告知でした。12年経った今、あの4日間は新たな物語の序章だったのだと理解できます。セーラーズは2014年に「復活」したのではなく、そこから「第二章」を歩み始めたのです。

セーラーズというブランドを覚えている方も、YouTubeや推しのアイドルを通じて初めて知った方も、この物語から何かを感じ取っていただければ幸いです。そして商標登録という仕事が、こうした物語を守り、世代を超えて受け継ぐ一端を担っていることを、改めてお伝えできればと思います。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

11. 参考資料

本記事の作成にあたり、以下の資料を参照しました。

報道・メディア記事

  • デイリースポーツ(2018年5月12日):テレビ出演内容に基づく報道(渋谷9坪、1日2000人、1日最高売上約3800万円、年商28億、2000年閉店、2014年ポップアップ初日450万円等)
  • withnews/朝日新聞系(2015年11月21日):ピーク年商24億円、2000年閉店(育児優先)等
  • Yahoo!ニュース エキスパート・松下久美(2021年12月26日):「『セーラーズ』の期間限定店に5時間待ちの行列 熱狂的ファンや過去動画視聴・アイドル着用で若い新規客も」
    https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/a85c904152d3572e17f49d5ab4e5eb6947feb31d
  • CHANTO WEB(2023年11月18日):本人インタビュー「脳性まひの娘のために生きると決めた」——閉店理由、運営ルール、娘の療育、母の認知症・介護等

業界紙・専門メディア

  • WWD JAPAN:2014年ポップアップの反響(若いファン含む来店、記録更新等)とブランド概要

プレスリリース・公式情報

  • PR TIMES/森ビル・ラフォーレ原宿関連(2014年4月1日):2014年5月3日〜6日(4日間)限定出店の告知
  • セーラーズ公式X(旧Twitter)アカウント @shibuyasailors:FANTASTICS コラボ、乃木坂スター誕生!出演告知等

出版物

  • 講談社:書籍『叶うなら娘より一秒長く生きたい!!~セーラーズ母娘物語~』紹介・プロフィール(9坪、年商28億、娘の脳性まひ、14年間等)

百科事典・データベース

  • Wikipedia「セーラーズ (アパレル)」:ブランド概要、三浦静加プロフィール、2020年以降の展開(ドラマ衣装提供、50周年コラボ等)

テレビ番組関連

  • 日本テレビ「乃木坂スター誕生!」シリーズ関連情報(VAP公式サイト、音楽ナタリー等):2022年2月放送回での国生さゆり×乃木坂46コラボ、セーラーズ衣装着用
  • テレビ朝日「激レアさんを連れてきた」(2024年2月5日放送):三浦静加出演

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