索 引
商標登録の手続きを進めている方なら、特許庁の検索システムで「存続-登録-異議申立のための公告」という表示を見かけたことがあるかもしれません。
この表示を見て「何か問題が起きたのか?」と不安になった経験はありませんか?
実は、この表示は商標登録の正常なプロセスの一部なのです。今回は、この表示の意味と対処法について、商標登録のプロとして詳しく解説いたします。
1. 「存続-登録-異議申立のための公告」とは?
登録後に必ず表示される重要な段階
商標登録出願を行い、特許庁での厳格な審査を通過すると、晴れて商標権が発生します。しかし、ここで終わりではありません。商標権の発生という重要な事実を広く国民に知らせるため、特許庁から商標公報が発行されます。
この公報発行が、次の段階の始まりを告げる合図なのです。
商標公報が発行されてから二ヶ月間という期間は、商標登録制度において重要な意味を持ちます。この期間中は、誰でも特許庁に対して「この商標登録の判断は本当に正しかったのか?」という再検討を求める異議申立を行うことができるのです。
「存続-登録-異議申立のための公告」という表示は、まさにこの異議申立が可能な期間であることを示す重要なサインなのです。
異議申立があってもなくても、異議申立可能期間の場合にでる表示

異議申立期間が終了した場合にでる表示

異議申立制度の存在意義
特許庁の審査は非常に専門的で厳格に行われますが、人間が行う以上、時として判断に誤りが生じる可能性は完全には排除できません。また、審査官が見落とした先行商標や類似商標が存在する場合もあり得ます。
このような状況に対処するため、商標法では異議申立制度という安全装置を設けているのです。いわゆる「ちょっと待った!」の制度です。
異議申立は、特許庁の商標登録判断に疑問を持つ任意の第三者が申し立てることができる制度です。
ただし、この制度を利用するには商標法上、明確な条件と手続きが定められており、単なる感情論や個人的な不満では申し立てることはできません。
2. 異議申立制度の詳細メカニズム
異議申立が可能な期間と場所
異議申立制度では、商標公報発行から二ヶ月間という期限が設けられています。
この期間を過ぎてしまうと、もはや異議申立はできなくなります。特許庁の検索システムで「存続-登録-異議申立のための公告」と表示されているすべての案件は、まさにこの二ヶ月間の期間内にあることを意味しています。
異議申立の手続きは、東京虎ノ門にある特許庁でのみ受け付けられます。
全国に支所があるわけではなく、特許庁本庁の一箇所でのみ対応しているため、地方在住の方は郵送での手続きとなることが一般的です。
異議申立の具体的手続き
異議申立を行う際は、単に「この商標登録はおかしい」と主張するだけでは不十分です。
商標法に定められた具体的な異議申立理由に該当することを、説得力のある証拠とともに書面で詳細に説明する必要があります。
異議申立理由として認められるのは、商標法で明確に規定されている事項のみです。
例えば、既存の商標との類似性、商品・サービスの類似性、公序良俗に反する内容、他人の著名商標との関係などが主な理由となります。
法律に基づかない主観的な意見や感情的な反対意見は、残念ながら採用されることはありません。
異議申立の審理プロセス
特許庁に異議申立が提出されると、三名の審判官による合議体が組織され、準司法的手続きの下で厳格な審理が行われます。
この審理は、裁判制度でいえば東京地方裁判所の第一審に相当する重要度を持ちます。
審理では、異議申立人の主張と証拠、取消理由に対する商標権者の反駁と証拠が慎重に検討されます。
この過程は通常数ヶ月から一年程度の時間を要し、最終的に異議申立が認められるか商標権が維持されるかの判断が下されます。
3. 検索システムにおける各種表示の解読
出願から登録までの段階別表示
特許庁の検索システムである特許情報プラットフォームでは、商標出願の現在の状態が段階的に表示されます。「係属-出願-審査待ち」は、出願は受理されたものの、まだ審査官に割り当てられていない初期段階を示します。
続いて「係属-出願-審査中」は、実際に審査官による審査が進行中であることを意味します。
そして審査に合格すると、いよいよ「存続-登録-異議申立のための公告」の段階に入ります。この表示こそが、今回のテーマである重要な局面なのです。
異議申立に関連する表示の変遷
「存続-登録-異議申立のための公告」の期間中に実際に異議申立が提出されると、表示は「存続-登録-異議申立中」に変わります。
この表示を見れば、単なる公告期間ではなく、実際に異議申立手続きが進行中であることが判明します。
異議申立の審理が完了すると、結果に応じて表示が変化します。異議申立が認められた場合は「消滅-登録-取消/無効」となり、商標権は初めから存在しなかったものとして扱われます。
一方、異議申立が棄却された場合は「存続-登録-継続」となり、商標権は安定的に維持されることになります。
4. 実際の検索システム画面での確認方法
特許情報プラットフォームを使用する際は、登録番号または出願番号を入力して検索を行います。検索結果画面では、現在のステータスが明確に表示されるため、商標の現在の状況を一目で把握することができます。
「存続-登録-異議申立のための公告」が表示されている場合、これは正常な登録プロセスの一環であり、特に心配する必要はありません。むしろ、商標登録が正常に完了し、法定の公告期間に入ったことを示す良いサインと捉えるべきです。
5. 商標権者が取るべき対応
この表示が出現した段階では、商標権者として特別な手続きを行う必要はありません。二ヶ月間の公告期間を静かに見守り、異議申立が提出されないことを期待するのが基本的なスタンスです。
ただし、もし自社の商標に対して異議申立が提出される可能性が懸念される状況にある場合は、事前に弁理士と相談し、反駁書面の準備を検討しておくことも賢明な判断といえるでしょう。
異議申立期間が無事に終了し、表示が「存続-登録-継続」に変われば、ひとまず安心です。
この段階に達すると、商標権は安定的な状態となり、積極的な活用を開始できる状況が整います。
「存続-登録-異議申立のための公告」という表示は、商標登録の成功を示す重要なマイルストーンです。この表示を正しく理解し、適切に対応することで、商標権を確実に取得し、ビジネスの発展に活用していくことができるのです。
6. 異議申立が実際に提出された場合の対処法
「存続-登録-異議申立中」表示への変化
もし二ヶ月間の公告期間中に実際に異議申立が提出されると、検索システムの表示は「存続-登録-異議申立中」に変化します。
この表示を発見した商標権者の多くは、初めて見る場合には大きな不安を感じることでしょう。
しかし、パニックになる必要はありません。異議申立が提出されたからといって、必ずしも商標権が取り消されるわけではないのです。
異議申立の統計を見ると、実際に申し立てが認められて商標登録が取り消されるケースは、2023年度で41件(9.4%)であり、ほとんどは異議申立が通らず維持決定がなされています。
つまり、70%のケースでは商標権者側が勝利し、商標権が維持されているのが現実です。この数字を知っているだけでも、精神的な負担は大幅に軽減されるはずです。
異議申立への効果的な対応戦略
異議申立が提出されると、特許庁から商標権者に対して異議申立書の副本が送付されます。この書面には、異議申立人の主張と提出された証拠が詳細に記載されています。
ただしこの段階では商標権者は特に応答の必要がありません。
特許庁における審理の結果、異議申立に相当の理由があり、登録を取り消すことが妥当と特許庁の審判官が判断した場合には、商標権者に取消理由通知が行われます。
商標権者は、この取消理由の内容を慎重に分析し、的確な反駁を行う必要があります。
反駁書面の作成は非常に専門的な作業であり、商標法の深い知識と豊富な経験が要求されます。異議申立人の主張の法的な問題点を指摘し、提出された証拠の信憑性や関連性を論理的に反駁することが求められます。また、自社商標の独自性や識別力を証明する追加の証拠を提出することも重要な戦略となります。
多くの場合、この段階で経験豊富な弁理士に依頼することが賢明な判断といえるでしょう。
弁理士は異議申立事件の豊富な経験を持ち、効果的な反駁戦略を立案することができます。
7. 異議申立制度の社会的意義と影響
商標制度の健全性を保つ重要な仕組み
異議申立制度は、商標登録制度全体の信頼性と公平性を保つために不可欠な制度です。
この制度があることにより、特許庁の審査で見落とされた問題点が事後的に発見・修正される機会が提供されています。また、商標権者にとっても、異議申立期間を乗り越えることで、より強固で安定した商標権を獲得できるという意味があります。
実際のビジネス現場では、競合他社が自社と類似した商標を登録しようとする場面が頻繁に発生します。このような状況において、異議申立制度は自社の既存商標権を守るための重要な武器として機能します。
適切なタイミングで異議申立を行うことで、競合他社の不当な商標取得を阻止することが可能になるのです。
異議申立費用と経済的考慮事項
異議申立を行う際には、特許庁に対する手数料として一件につき数万円の費用が必要です。さらに、弁理士に依頼する場合の報酬、証拠収集にかかる費用なども考慮すると、総額で数十万円の支出となることもあります。
一方、異議申立を受ける側(商標権者)の立場では、反駁のための弁理士費用や証拠収集費用が発生します。これらの経済的負担を考慮すると、異議申立制度は軽々しく利用されるものではなく、必要性の高いケースで活用される傾向があります。
8. 実務上の注意点とベストプラクティス
異議申立期間中の戦略的行動
「存続-登録-異議申立のための公告」期間中は、商標権者として積極的に取れる行動は限られていますが、いくつかの重要な準備を行うことができます。まず、自社の商標が他社の権利を侵害していないか、今一度確認することが推奨されます。
また、商標の使用実績を示す証拠の収集も一つの準備作業です。
商品パッケージ、広告宣伝物、売上実績、メディア掲載記録などを系統的に整理しておくことで、万が一異議申立が提出された場合に迅速かつ効果的な反駁が可能になります。
例えば、異議申立人側が、自分たちの商標が横取りされたと主張してきた場合でも、指摘された事実の日よりも前から商標を使っていて、横取りした事実そのものがないことを示す等です。
長期的な商標戦略の構築
商標登録は一度取得すれば終わりではなく、継続的な管理と戦略的活用が求められます。異議申立期間を無事に乗り越えた後は、商標権の適切な使用、権利侵害に対する監視、更新手続きの管理など、多面的な取り組みが必要になります。
特に重要なのは、商標権の積極的な活用です。登録された商標を実際のビジネスで使用し、ブランド価値を高めていくことで、商標権の価値は大きく向上します。
また、定期的な市場調査により、類似商標の出願や無断使用を早期に発見し、適切な対策を講じることも重要な管理業務となります。
9. まとめ
「存続-登録-異議申立のための公告」という表示は、商標登録プロセスにおける重要な通過点であり、決して恐れるべきものではありません。この表示は、あなたの商標が特許庁の厳格な審査を通過し、正式に登録されたことを示す喜ばしいサインなのです。
二ヶ月間の異議申立期間は、商標権の安定性を確保するための法定プロセスです。
この期間を冷静に見守り、必要に応じて適切な準備を行うことで、より強固な商標権を獲得することができます。万が一異議申立が提出された場合でも、適切な対応により商標権を守り抜くことは十分に可能です。
商標登録は、ビジネスの成功にとって極めて重要な知的財産権です。「存続-登録-異議申立のための公告」期間を乗り越え、「存続-登録-継続」の表示を確認できた時の安堵感と達成感は、商標権者だけが味わえる特別な喜びといえるでしょう。
この記事を通じて、商標登録プロセスへの理解が深まり、皆様のビジネス発展に少しでもお役に立てれば幸いです。商標権という強力な武器を手に入れ、競争の激しいビジネス世界で確固たる地位を築いていきましょう。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247