登録商標で過失の推定は覆せるのか?裁判例から見る現実とリスク管理

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特許庁の審査に合格して登録料を納付すると、商標が登録されます。他人の権利を侵害するような商標は審査に合格できません。このため商標が特許庁で登録されたなら、一応は他人の商標権を侵害する、という事態は避けられます。

しかし、特許庁の判断にも過誤があり、登録の判断が間違っていたと後で判断される場合もあります。この場合に商標権侵害の実務はどの様になるのか。今回は商標登録の中でも深い問題に切り込みます。

1.過失の推定とは?商標権侵害における法律の基本

商標権侵害が成立するためには、「他人の登録商標」と同じ、または似ている商標を、その商標が指定された商品やサービス、またはそれに類似した商品やサービスに対して使用することが条件となります。さらに、商標権侵害に基づいて損害賠償を請求するためには、侵害行為が故意または過失によるものである必要があります。

過失を証明する必要がない商標法の特例

一般的な不法行為において損害賠償を求める場合、被害者側が加害者の過失を証明しなければなりません。しかし、商標権侵害の場合は特例があり、商標権者が侵害者の過失を立証する必要はありません。

商標法では、侵害者に「過失がある」と推定されるため、侵害者側が「過失がなかった」と証明しなければ、過失があったとみなされます。

過失の推定が成立する理由

商標法がこのような推定を設けている背景には、以下の理由があります:

1. 過失を証明するのが難しい

権利者にとって、侵害者が意図的に侵害を行ったかどうかを証明するのは難しいためです。

2. 登録商標が公表されている

商標公報などで登録商標は公開されているため、商標を使用する側は調査可能とされています。特に、商標を使用する事業者であれば、商標の調査は当然の義務とみなされます。

知らなかったでは済まされない

「登録商標の存在を知らなかった」と主張しても、それは正当な理由になりません。また、弁護士や弁理士から「この商標は侵害しない」との意見書を受け取っていた場合でも、過失の推定は覆りません。

商標法がこのように厳格なルールを設けているのは、登録商標の保護と、商標制度全体の信頼性を守るためです。

事業者は商標を使用する前に十分な調査を行い、リスクを回避する責任があることをしっかり理解しておく必要があります。

2.登録商標を信頼しても過失の推定は覆るのか?

特許庁が登録を認めた商標(登録商標)は、審査官が他人の登録商標との類似性などを確認した上で登録されています。

そのため、「登録商標は商標権を侵害しない安全な商標」と信じるのは当然のように思えます。

しかし、登録商標の使用で過失の推定が覆るかどうかについては慎重に考える必要があります。

登録商標でも取り消しや無効の可能性がある理由

特許庁による商標登録の判断が、必ずしも最終的なものではない点に注意が必要です。特許庁の審査にはミスが含まれる可能性があり、その誤りを修正するための仕組みが用意されています。具体的には以下の制度があります:

1. 登録異議申立て

登録商標が他人の登録商標に類似すると考えられる場合、第三者が異議を申し立てることができます。これにより、登録が取り消される場合があります。

2. 無効審判

商標登録後でも、無効を求める審判が請求されることがあり、審判で無効と判断されれば商標登録は抹消されます。

3. 裁判所での判断

無効審判の結果に不服がある場合、知的財産高等裁判所で最終判断が行われます。

こうした手続きにより、登録商標であっても、後に取り消されたり無効とされるリスクが常に存在するのです。

特許庁の判断を信頼しても過失は否定されない

特許庁の判断を基に登録商標を使用したとしても、「過失の推定」を覆すのは難しいとされています。以下の裁判例がその具体例です。

裁判例1: 登録商標の取り消し後も過失は否定されない(東京地方裁判所 平成25年3月22日判決)

被告は商標登録を取得し、その商標を使用していました。しかし、登録商標が異議申立てにより取り消される可能性や、無効審判請求により無効となる可能性は予見可能であったとされ、登録商標の使用を理由に過失の推定が覆ることは認められませんでした。

裁判例2: 登録維持決定を信頼しても過失は覆らない(東京地方裁判所 平成25年3月7日判決)

登録異議申立ての際に商標登録の維持が決定された商標を使用したケースでも、裁判所は「過失の推定を覆すべき相当な理由がない」と判断しました。たとえ複数の審判官による合議の上で登録維持が決まった商標であっても、過失が否定されることはありませんでした。

ここがポイント:登録商標の使用にもリスクはある

特許庁が審査し登録を認めた商標であっても、それを信頼した結果、商標権侵害が問われる可能性があります。商標を使用する事業者は以下の点に注意すべきです:

1. 登録商標でも後から登録が無効になる場合がある

登録商標だからといって必ず安全とは限りません。登録後も調査やリスク検討を怠らないことが重要です。

2. 商標調査を徹底する

他人の登録商標との類似性や、将来的な無効リスクを十分検討する必要があります。

3. 裁判所の判断が最終的な結論となる

商標権侵害のリスクは特許庁ではなく、最終的に裁判所が判断します。この点を理解してリスク管理を行いましょう。

登録商標を取得することは重要な一歩ですが、それだけでリスクを完全に排除できるわけではありません。事業者として責任ある調査と慎重な対応が求められます。

3.まとめ:登録商標に頼りすぎないリスク管理が重要

特許庁が登録を認めた商標は、一般的に「安全に使用できる」と考えられがちです。しかし、登録商標の使用であっても、過失の推定を覆すことは極めて難しいのが現実です。

登録商標はリスクを軽減する一方で、特許庁の判断にもミスがある場合がある

確かに、特許庁の審査を経て登録された商標を使用することは、商標権侵害のリスクを大幅に下げる手段の一つです。

しかし、それだけでリスクが完全になくなるわけではありません。登録商標であっても無効や取消しの可能性があり、使用に際しての注意は不可欠です。

商標権侵害を判断するのは最終的に裁判所

商標権侵害の有無を最終的に判断するのは特許庁ではなく裁判所です。この点を忘れず、以下のポイントを押さえた対応を心がけましょう:

1. 登録商標の有効性は後で覆ることがある

登録商標であっても、その使用が他人の商標権を侵害する可能性はゼロではありません。

2. 他人の商標と紛らわしい商標の使用を控える

近似商標の使用は特に慎重に避けるべきです。

3. リスク管理を徹底する

商標の取得だけでなく、日常的な調査や専門家のアドバイスを活用してリスクを最小化する努力が求められます。

信頼と慎重さのバランスを

登録商標は商標権侵害リスクの軽減に役立つツールですが、リスクを完全に排除するものではありません。

特許庁の登録を信頼しつつも、慎重な対応を怠らないことが、健全な事業運営の鍵となります。商標の使用においては、常に「最悪の事態を想定する」視点を持つことが重要です。

ファーイースト国際特許事務所
弁護士・弁理士 都築 健太郎
03-6667-0247

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