1.出願人となれる者
商標権を取得するためには、まず「出願人」として適格な立場にある必要があります。商標出願は特許庁に対して行い、その結果として商標権を得ますが、その出願者が商標権の主体となることができる人、または組織でなければなりません。
出願できるのは「自然人」または「法人」
商標権を取得できるのは、法律上「権利能力」を持つ者に限られます。この権利能力を持つのは、「自然人」と「法人」のみです。
- 自然人:個人のこと。個人事業主として活動している場合でも、出願は自分の名前で行う必要があります。屋号(ビジネス名)では出願できません。
- 法人:会社や組織など、法律に基づいて権利能力が認められた存在です。
出願できないケース
- 法人化していない団体:例えば、同窓会や趣味のクラブなど、法人化していない団体は商標の出願はできません。団体として活動していても、法人として認められていない場合は、商標権を得ることはできません。
- 屋号での出願:個人事業主が事業名(屋号)で出願することも認められていません。出願は必ず個人の名前で行う必要があります。
外国人の出願について
外国人でも、パリ条約など国際条約に加盟している国の国民であれば、特に問題なく商標出願が可能です。実際、外国人が出願人として商標を取得する例も少なくありません。
商標権の出願は慎重な手続きが求められるため、個人での出願を考えている場合や、法人化を検討している団体は、専門家に相談するのが安心です。
2.手続において他者の関与が必要な者
商標登録の出願は、基本的に個人で行うことができます。弁護士や弁理士に依頼することも可能ですが、必須ではありません。ただし、特定の状況では他者の関与が必須となる場合があります。
未成年者の場合
未成年者は、通常、自分だけで商標登録の手続を行うことができません。代わりに、法定代理人(通常は両親)が手続きを代行する必要があります。商標登録は事業活動を前提とするため、未成年者が商標登録を出願するケースは少ないですが、未成年者の法的保護の観点から、手続は法定代理人によって行うのが原則です。
- 成年被後見人も同様に法定代理人が手続きを行います。
- 被保佐人の場合、保佐人の同意が必要です。
ただし、例外として、未成年者が両親の同意を得て特定の事業を行っている場合は、商標登録手続きを単独で行うことも可能です。
在外者の場合
日本国内に住所がない「在外者」は、商標管理人を通じて手続きを行う必要があります。これは、日本国内の手続きにおける時間的な制約に対応するためであり、外国に居住する出願者が日本国内でスムーズに手続きを進めることができるようにするための措置です。
商標出願は法的な手続きが多く絡むため、専門的な支援が求められるケースがあります。未成年者や在外者は特に、事前に商標管理人や法定代理人と連携して準備することが大切です。
3.国の機関
国や地方公共団体も商標を使用し、商標登録を行うことができますが、その手続きには特別なルールが適用されます。ここでは、国や地方公共団体が商標を使用する際のポイントを解説します。
国や地方公共団体の標章
国や地方公共団体は、行政活動の中で標章を使用します。例えば、国旗は国の象徴として代表的な例です。これらの標章は、商標として商品やサービスに使用されることもあり得ます。しかし、国や地方公共団体の標章の一部には、第三者が勝手に商標登録を行えないよう商標法上で特別に保護されているものがあります。
商標登録の手続き
国や地方公共団体が自らの標章を商標として登録し、保護を受けたい場合は、一般の個人や企業と同様に、商標登録出願を行う必要があります。
- 地方公共団体:法人格を持つため、地方公共団体が出願人として商標登録を申請します。例えば、東京都は商標登録を受けた事例があり、地方公共団体として法人名で出願しています。
- 国の機関:国も法人格を持っていますが、特許庁の実務では、国自体が出願人となることはなく、各省庁の長が国を代表して出願します。また、権限を分掌しているため、局長や課長などが出願人となるケースもあります。例えば、内閣官房の担当者が出願し、商標登録を受けている例があります。
(商標登録第5986440号の商標公報より引用)
- 商標登録第5986440号
- 権利者:東京都
- 出願日:2017年 3月16日
- 登録日:2017年10月 6日
- 指定商品役務:第35類「広告業」等
(商標登録第6038111号の商標公報より引用)
- 商標登録第6038111号
- 権利者:内閣官房会計担当内閣参事官
- 出願日:2017年 1月31日
- 登録日:2018年 4月27日
- 指定商品役務:1〜45類の商品及び役務
商標権の帰属
各省庁の長が出願人として登録されていても、商標権は最終的に国に帰属します。これは、国有財産として商標権が管理されるためです。商標登録された標章は、国の活動を保護するための重要な手段の一つとなっています。
国や地方公共団体が商標を登録するケースも少なくなく、商標法による特別な保護を受けつつ、商標権を活用しているのです。
4.おわりに
個人事業者が法人成りした場合、商標を個人で出願するべきか、法人で出願するべきか迷うことがあるかもしれません。しかし、法律上では、個人でも法人でもどちらでも商標出願が可能です。
商標登録が認められた際、登録料を納付した出願人がそのまま商標権者となります。そのため、商標権を誰に帰属させたいかをしっかりと考えた上で、個人で出願するのか、それとも法人で出願するのかを選択することが重要です。
特に法人成り後の事業では、法人に商標権を帰属させる方が自然なケースが多いですが、将来的な事業展開や組織変更を考慮して慎重に判断することをお勧めします。商標はビジネスの重要な資産となるため、正しい判断が必要です。
ファーイースト国際特許事務所
弁護士・弁理士 都築 健太郎
03-6667-0247