索 引
1. はじめに
化粧品メーカーや製薬企業から「医薬部外品の商標を取りたいが、第3類でいいのか第5類なのか判断できない」というご相談を受けることがあります。薬機法では明確に「医薬部外品」というカテゴリーが存在するのに、商標法のニース分類にはその枠がありません。この不一致が、医薬部外品の商標登録を実務的に難しくしています。
このページでは、薬機法上の「医薬部外品」と商標法上の指定商品区分の関係を踏まえつつ、機能ベースで区分を選ぶ判断ルール、薬用表示と商標の接点、複数区分出願のコスト構造まで実務目線で解説します。化粧水・スキンケア・育毛剤・殺虫剤など、医薬部外品の商標を保護したい事業者の方に向けてまとめました。
2. 医薬部外品とは何か(薬機法上の定義と3類型)
医薬部外品は、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)第2条第2項で定義されています。医薬品ほど強い作用はないものの、特定の目的で人体や動物に対して使用される製品群です。
薬機法上、医薬部外品は次の3類型に分かれます。
イ類:人体への作用が緩和な3用途
吐き気や口臭・体臭の防止、あせも・ただれ等の防止、脱毛防止・育毛・除毛の3用途に使われる物が該当します。日常的に流通している制汗剤、デオドラント、薬用シャンプー、育毛剤の多くがこの類型です。
ロ類:防除用医薬部外品
ねずみ・はえ・蚊・のみなど、人や動物の保健に関わる害虫を防除する目的で使われる物です。家庭用殺虫剤や蚊取り線香、虫よけスプレーの多くがここに分類されます。
ハ類:指定医薬部外品
薬機法第2条第1項第二号・第三号に規定する目的(疾病の診断・治療・予防、身体の構造機能への影響)のうち、厚生労働大臣が指定したもの。ビタミン含有保健剤、整腸薬、生薬主薬製剤などがこの類型に入ります。元々は医薬品として扱われていたが、安全性が確認されて医薬部外品へ移行した経緯を持つ製品が多い類型です。
薬機法の3類型は「人体への作用」を基準にしており、商標法のニース分類とは設計思想がまったく異なります。
3. 商標法ではなぜ医薬部外品の枠がないのか
商標法は商品やサービスの識別のための法律で、指定商品・指定役務は国際的なニース分類(Nice Classification)に基づいて決められています。ニース分類は世界知的所有権機関(WIPO)が管理する国際分類体系で、各国共通の枠組みで運用されます。
このため、日本の薬機法に固有の「医薬部外品」というカテゴリーは、ニース分類には存在しません。商標を出願する側は、自社の商品が機能的・用途的に45の区分のどこに当てはまるかを自ら判定して出願区分を決めます。
医薬部外品が関係しそうな主な区分は次の3つです。
区分 主な対象 該当する医薬部外品の例 第3類 化粧品、せっけん、香料類 薬用化粧水、薬用クリーム、薬用美容液 第5類 薬剤、衛生用品、殺虫剤 育毛剤、養毛剤、消毒薬、殺虫剤、ビタミン剤 第10類 医療用機器、衛生用ゴム製品 殺菌消毒用医療機器(医薬部外品本体は対象外)
第3類と第5類のどちらに該当するかは、商品の効能効果・使用目的を実質的に評価して判断します。「医薬部外品だから第5類」という単純な対応はありません。
4. 機能で決まる商標区分の判断ルール
医薬部外品の商標出願で第3類か第5類かを判断するときの実務的な目安を、機能ごとに示します。
商品の主機能 推奨区分 判断の根拠 美化・清潔・保湿(化粧品的用途) 第3類 ニース分類で化粧品・せっけんは第3類 病気の予防・治療効果を訴求 第5類 薬剤に分類される あせも・ただれ防止(皮膚保護) 第3類または第5類(両出願も検討) 訴求文言で判断、両方カバーするケース多い 育毛・脱毛防止 第5類 「育毛剤」「養毛剤」は第5類の表示例 害虫の防除 第5類 殺虫剤は第5類の代表例 衛生用ティッシュ・マスク 第5類 衛生用品として第5類 体臭・口臭の防止 第3類または第5類 デオドラント石けんは第3類、薬用と訴求する場合は第5類も
第3類と第5類は、化粧品か薬剤かという境界線で分かれます。同じ「保湿」でも、肌をしっとり保つことを訴求すれば第3類、肌荒れの予防効能を訴求すれば第5類というように、訴求文言と効能効果の表記が区分判断を左右します。
5. 具体例で見る医薬部外品の商標登録
薬用せっけんの区分変更
薬用せっけんは、かつて商標法上は第3類に分類されていました。しかし2017年のニース分類第11版改訂で「薬用せっけん」という表示自体が削除され、化粧用せっけんは第3類、薬剤としてのせっけんは第5類というふうに用途で区分が分かれる扱いになりました。
旧表示で登録された商標は、更新時にどちらかの区分に振り分けて指定商品を見直します。
薬用化粧品・薬用化粧水
薬用化粧水・薬用クリームは2016年までは第3類で「薬用化粧品」として登録されていましたが、現在は「薬用化粧品」という表示が認められません。化粧水・クリームとして第3類に出願し、商品自体は薬機法上の医薬部外品として承認を得る道筋がよく取られます。
訴求として「薬用」を商品名に含めるかどうかは、薬機法の承認内容と突き合わせて判断します。
ビタミン剤・栄養ドリンク
ビタミン剤は薬機法上は指定医薬部外品ですが、商標法上は第5類「薬剤」に分類されます。栄養ドリンクのうち医薬部外品にあたるものも同じく第5類です。第32類「清涼飲料」と混同しがちですが、薬効を訴求する栄養ドリンクは医薬部外品にあたり、第5類で出願します。
殺虫剤・防除用医薬部外品
家庭用殺虫剤やゴキブリ駆除剤は薬機法では防除用医薬部外品にあたりますが、商標法上は第5類「殺虫剤」として出願します。第3類との重複は通常発生しません。
化粧品メーカーが第3類と第5類で取った実例
スキンケアブランドが「薬用美容液」シリーズを展開する場合、化粧品ラインは第3類、薬用ラインは第5類で別々に出願するパターンが多く見られます。コーポレートブランドとして第3類と第5類の両方で押さえると、後続の薬機法承認状況の変化に対応しやすくなります。
6. 「薬用」表示と商標の関係
商標出願の文字列に「薬用」を含めること自体は禁じられていませんが、登録後の使用段階で薬機法第66条(誇大広告等の禁止)に抵触する可能性があります。
薬機法第66条第1項は、医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器・再生医療等製品の名称・製造方法・効能効果・性能について、明示的・暗示的を問わず虚偽または誇大な記事を広告・記述・流布することを禁じています。
商標が登録されていても、実際の商品が医薬部外品の承認を受けていなければ、その商標を商品に付して販売すること自体が薬機法違反となるおそれがあります。商標権の取得と薬機法承認は別系統の手続きなので、両方を並行して進めます。
事務所での実務では、商標出願と薬機法承認申請の時期を並行管理し、登録予定の商品名で承認を取れる見通しを立ててから出願に進むケースが増えています。
7. 複数区分出願のコストと戦略
医薬部外品の商標を第3類と第5類の両方で出願する場合、コストと権利範囲のバランスを事前に設計します。
出願戦略 出願時印紙代(特許庁) 5年分割登録料 メリット デメリット 単一区分(第3類または第5類) 12,000円 17,200円 安価、手続きシンプル 区分境界の判断ミスで権利空白が発生 二区分(第3類+第5類) 20,400円 34,400円 化粧品ラインと薬用ラインを両方カバー 印紙代・登録料が約2倍 三区分以上 28,800円〜 51,600円〜 関連商品群を広くカバー コスト増、不使用取消リスクも増える
※印紙代は2024年4月時点の特許庁料金。代理人費用は含まず。
第3類と第5類の両方で出願する場合、5年分割の登録料を含めても初期費用は5〜7万円程度の差で済むため、医薬部外品本体と化粧品的訴求を併用する商品では二区分出願が現実的な選択肢となります。一方、機能が単一区分に明確に収まる商品(純粋な殺虫剤、純粋な化粧水)では単一区分で十分です。
不使用取消審判のリスクも頭に入れておきましょう。広く区分を取りすぎると、3年以上使用していない区分が他社の取消請求の対象になります。実際の販売予定に沿った区分設計が大切です。
8. よくあるご質問
Q. 第3類と第5類のどちらに出願すべきか迷ったときの判断基準は?
A. 商品の主要な訴求が「美化・清潔・保湿」なら第3類、「予防・治療・効能」なら第5類が原則です。両方の訴求を併存させたい場合は二区分出願を検討してください。判断に迷う場合は、商品パッケージ・広告で使う想定の文言を弁理士に提示すると、区分のシミュレーションが可能です。
Q. 商標名に「医薬部外品」「薬用」を含めて登録できますか?
A. 商標登録は可能ですが、登録された商標を実際に商品に付して使う段階では、薬機法第66条の誇大広告禁止規定に抵触しないよう、商品の承認内容と突き合わせて運用します。承認を受けていない一般化粧品に「薬用○○」と表示することは認められません。
Q. 薬機法の承認を取る前に商標出願していいですか?
A. 出願自体は問題ありません。むしろ、承認取得後に出願すると先願主義により他社に先を越されるリスクがあります。承認申請と並行して商標出願を進め、承認内容と商標の使用態様が乖離しないよう調整する運用が一般的です。
Q. 海外で医薬部外品を販売する場合、ニース分類はどう適用されますか?
A. 海外ではそもそも「医薬部外品」というカテゴリー自体が存在しない国が多く、ニース分類の第3類・第5類のどちらかに振り分けて出願します。各国の薬事規制(米国FDAのOTC、EUのCosmetic Regulationなど)と商標出願の区分は独立した手続きであり、現地代理人と連携した戦略設計が欠かせません。
Q. 既存の医薬品商標と類似と判断されたらどうなりますか?
A. 第5類で出願した場合、既存の医薬品商標と称呼・観念・外観が類似すると判断されると、商標法第4条第1項第11号(先願商標との類似)で拒絶されることがあります。事前にJ-PlatPatで先願調査を行い、医薬品と医薬部外品の両方を含めて類似性を検討しておくと安心です。
9. 医薬部外品の商標登録はファーイースト国際特許事務所へ
医薬部外品の商標登録は、薬機法と商標法の両方を見渡した判断が求められる、専門性の高い分野です。区分の選定一つで権利範囲とコストが大きく変わり、登録後の使用段階で薬機法違反となるリスクもあります。
ファーイースト国際特許事務所では、化粧品メーカー・製薬企業・健康食品事業者の医薬部外品商標を多数取り扱ってきました。承認取得状況・販売計画・訴求文言を踏まえた区分設計、複数区分出願のコスト最適化、薬機法表示との突き合わせまで、まとめて対応します。
医薬部外品の商標についてご相談は、無料調査フォーム(/mailform)または費用ページ(/fee-schedule-trademark)からお問い合わせください。実務経験10年以上の弁理士が直接対応いたします。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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