(1)商標更新の手続き
商標登録の更新は、ブランドの保護を継続する上で欠かせない手続きです。商標権は、登録された日から数えて10年間有効であり、その期間が終了する前に更新手続きを行うことでさらに10年間延長を繰り返すことが可能です。この記事では、商標登録の更新手続きの流れ、必要な費用について詳しく説明します。
(1-1) 商標権存続の更新
次の更新期限まで権利期間が延びます。商標権の存続更新は商標法に定められています。
「商標法第19条」から
- 商標権の存続期間は、設定の登録の日から十年をもつて終了する。
- 商標権の存続期間は、商標権者の更新登録の申請により更新することができる。
- 商標権の存続期間を更新した旨の登録があつたときは、存続期間は、その満了の時に更新されるものとする。
商標権の有効期間は商標権の生じる登録日より10年になります。10年ごとに更新の手続を続ければ、商標権は無くなることなく残り続けます。
特許権、実用新案権、意匠権、著作権のいずれの権利も、一定の期間が過ぎれば権利が消滅します。これに対して商標権だけは10年分の登録費用を納付する更新手続を毎回繰り返せば、理論上は日本国が続く限り、いつまでも自然になくなることはありません。
自動車の運転免許と同じで、権利が切れる前に更新手続すれば、また次の更新期限まで権利期間が延びます。
(1-2) 更新申請のフロー・更新登録申請
次の更新期限まで権利期間が延びます。
更新登録申請
更新期限が近づいたら特許庁に対して更新登録申請をします。無事申請が承認されると更新登録されて、商標権の権利期間が10年伸びます。
【注意点・その1】
更新登録申請は10年毎にありますが、登録料を5年分ごとに分割して支払った場合は、後半の5年分の登録料の支払を忘れると、権利の有効期間が余っているのに商標権が消滅する点に注意が要ります。
更新申請登録通知書
無事更新が済んだら、特許庁から更新申請登録通知書が届きます。登録証の発行は最初の登録時だけで、更新しても登録証は再発行されません。手続をしてから通知書が原則電子形式で届くだけです。見逃さないようにしましょう。
更新登録申請を忘れた場合
更新期限をうっかり忘れても、そこでいきなり権利が失効するわけではありません。復活期間が設けられています。
第一の復活期間
更新登録の申請は、商標権の存続期間の満了前六月から満了の日までの間にしなければならない。
商標権者は、前項に規定する期間内に更新登録の申請をすることができないときは、その期間が経過した後であつても、経済産業省令で定める期間内にその申請をすることができる。
商標権者が前項の規定により更新登録の申請をすることができる期間内に、その申請をしないときは、その商標権は、存続期間の満了の時にさかのぼつて消滅したものとみなす。
「商標法第20条」から
更新期限を過ぎた場合でも、6ヶ月内なら商標権の存続期間の更新が可能です。
【注意点・その2】
更新期限を過ぎた場合、特許庁に納付する更新費用が倍額になります。二倍も払うのはあまりにももったいないため、更新期限を過ぎてもよいとは考えないでください。うっかりミスに対するペナルティが課せられている点に注意します。
第二の復活期間
この第二の復活期間は、令和5年4月1日から運用が変わりました。
期間徒過後の救済規定に係る回復要件が「正当な理由があること」から「故意によるものでないこと」に緩和されるとともに、回復手数料のペナルティ加算金の納付が必要になります。
第一の復活期間内に更新手続ができなかった場合でも、故意によるものでないなら第一の復活期間から半年以内なら復活可能です。
【注意点・その3】
第一の復活期間内に手続をすることができなかったことが「故意によるものでない」ときは、期間徒過後の手続ができるようになった日から2月以内かつ第一の復活期間徒過後6月以内に第一の復活期間内に行うことができなかった手続をするとともに、手続をすることができなかった理由を記載した回復理由書を提出すれば復活できます。
ただし、期間徒過後の社内の方針転換とか、共有者との調整不足による手続徒過とか、納付書の不備にかかる指令に対応せず手続却下された場合などは「故意によるものでない」との条件を満たさず、復活の理由になりませんのでご注意を要します。
【注意点・その4】
さらに、ペナルティー料金の加算があります。回復理由書の提出に、86,400円の回復手数料を加算して特許庁に納付する必要があります。
(1-3) 更新期間
更新期間は、最初の登録日から10年です。以降、最初の登録日を基準として10年毎の繰り返しになります。仮に登録日が6月1日なら10年後の6月1日が更新期限です。次は20年後の6月1日です。以降、無限に続きます。
最初の出願日、審査合格日、登録料納付日、登録証発行日のいずれでもないので、注意しましょう。
(1-4) 申請期間
更新登録申請は何時でもできるわけではありません。申請できる期間が定められています。
【注意点・その5】
更新登録申請は、いつでもできるわけではないです。最初の登録日から10年後(次回以降の更新も同様)までに更新登録申請をします。ただし期限が切れる6ヶ月前から申請できます。
更新登録の申請は、商標権の存続期間の満了前六月から満了の日までの間にしなければならない。
「商標法第20条第2項」から
期限が切れる6ヶ月前よりも手前の時点で更新登録申請しても手続が却下されて更新に失敗する点に注意します。
図1 更新登録申請ができる期間
(1-5) 商標権更新しない場合、商標権侵害のリスク
商標権の更新を怠ると商標は消えます。仮に全く同じ商標権の範囲の出願を他の誰かが行った場合、その他の誰かに商標権を取られてしまいます。
うっかり商標権を失効させてしまい、他人に商標権を取られてしまうと、以降、これまで使っていた商標が使えないばかりでなく、損害賠償請求を受けることもあり得ます。
他の誰かに商標権を取られてしまうと、話合いにより商標を使えるとしても、相当なライセンス料を毎年別途支払う必要など、経済的負担がでてきます。
(2)商標更新時にかかる費用
(2-1) 一括納付の費用
商標更新の費用は、区分数の上下により変動します。区分は第1類から第45類まで分かれています。これらの数を区分数と呼び、区分数が多くある商標権の方が、カバーする商品や役務が広いです。
(2-1) 一括納付の費用
商標更新の費用は、区分数の上下により変動します。区分は第1類から第45類まで分かれています。これらの数を区分数と呼び、区分数が多くある商標権の方が、カバーする商品や役務が広いです。
表1 商標更新時にかかる一括納付費用
(2-2) 分割納付の費用
商標更新の費用は分割して支払うこともできます。支払う額は安くなりますが、10年単位で見たトータルでは割高になります。このため分割納付を選択するのは短期で販売を終了する季節商品等に適用することをお奨めします。
表2 商標更新時にかかる一括納付費用
(2-3) 代理人手数料
代理人に支払う手数料は特許事務所により別々です。
ファーイースト国際特許事務所では、区分数の多い少ないによらず、更新手数料一律¥24,000-(消費税別。なお出願から管理委託されているお客さまにはさらに特別割引があります)でお請けしています。
(2-4) 中国の登録商標更新時
中国も日本と同様ですが、更新費用は10年分一括支払いの一択だけです。 支払う時の為替レートにより円建て費用が変化します。
また出願のときに指定商品、指定役務の数量に依存して追加料金を取られますが、更新の際には指定商品、指定役務の数量に依存した追加料金の請求はありません。商標権の効力は登録したその国限りで有効です。一つの国の法律は、その国の領域内だけで有効だからです。
(3)商標更新時に区分を減らすことが可能
(3-1) 更新時に区分を減らす
商標権の更新時には、区分を減らす補正ができます。区分の削除は費用削減に有効です。
更新の費用は区分の数に比例しますので、更新時点で不要になっている区分を削除することにより費用削減が可能です。
ただし、一度削除した区分を復活させる手段はありません。もし誤って削除してしまった場合には、また一から商標権を取得しなおさなければなりません。
(3-2) 区分を減らす方法
更新登録書類に記載して区分を減らします。
(3-3) 委任状について
更新の際に区分を減らす手続は、商標権者自らが行う場合を除いて委任状が必要です。更新の際に区分を減らすことも併せて代理人に依頼する場合には、代理人依頼時に委任状が必要になります。
(4)委任状が必要なケース
(5-1) 基本的には不要
更新申請の際に、商標権の内容に変更がなければ、弁理士に代理を依頼した場合でも委任状は特に必要ありません。
(5-2) 委任状が必要になるケース
更新申請の時に、商標権の中身が変わるケースでは委任状を要します。具体的には商標権の区分数が少なくなるケース、住所が変わるケース、会社名や個人名が変わるケース等です。
(5-3) 商標権を譲渡するケース
商標権を譲渡するケースでは、更新期限が近づいているなら、先に更新を行った後に譲渡手続に移ります。譲渡手続に時間を取られるために更新の締め切りを越してしまうことを防ぐためです。
(5)まとめ
更新は10年ごとに行いますが、担当者が変更になったり、退職したりすると管理不十分で権利が失効する危険があります。
また特許庁は個別には更新の案内はしていません。
住所を変更したのに、手続を依頼した特許事務所に住所が変更になった連絡を忘れると、特許事務所からの更新案内も受け取ることができません。
こうなると商標権は誰も管理する人がいない状態になり、風前の灯火状態になります。
このようなことがないよう、代理人と普段からしっかりと連絡を取り合い、権利が失効しないようにしましょう。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247