索 引
商標登録の申請書類には、商標そのものに加えて、その商標を使用する商品や役務(サービス)を記載します。
この商品・役務の記載があいまいだと、記載されていない内容は権利範囲から漏れてしまいます。「なんとなく」の記載が、後から大きな損失につながるケースは少なくありません。
1. 「生活用品」「日用雑貨」では特許庁の審査を通らない
具体的な記載が求められる理由
たとえば「生活用品」「日用雑貨」といったあいまいな表現で申請すると、特許庁の審査で拒絶される可能性が高くなります。商標法では、申請書に具体的な商品・役務を明確に記載するよう求めているためです。
適切な表記を調べるには
審査を通すには、どんな表記が認められるかを事前に確認しておく必要があります。
「特許庁商標課編 類似商品・役務審査基準(発明推進協会)」を私は参考にしています。電話帳ほどの大きさがあり、大きな書店の商標コーナーで入手できます。
最新情報に注意
商品・役務の法律表記は毎年変更されることがあります。今年の1月1日から表記が変わっている項目もあるため、古い情報のまま申請しないよう気をつけてください。
権利範囲を明確にし、正確な表記で申請する——これが商標権を確実に取得するための第一歩です。
2. あいまいな依頼は業者の思う壺
「生活雑貨」「日用小物」のようなざっくりした指定で業者に依頼するのは危険です。
仮にそのまま申請して、審査を通ったのが「たわし」と「バケツ」だけだったとします。業者からは高額な請求書が届きますが、「たわし」と「バケツ」の商標権に、果たしてお金を払う価値があるでしょうか?
本当に必要だったのは別のアイテムかもしれません。それが取得できなければ、商標登録した意味がなくなります。
守りたいものを先に伝える
商標権を取得すべき商品があるなら、それを最初に業者へ伝えてください。「生活雑貨」と一括りにするのではなく、具体的なアイテム名を指定すれば、必要な権利を確実に押さえられます。
あいまいな依頼をすると、不要なものだけが手元に残り、本当に必要な権利が漏れてしまうおそれがあります。
3. いい加減な申請内容は大きなリスクを伴う
「カメラ」に関する商標権を取得しようとして、実際に扱う商品が「デジタルカメラ」だったケースを考えてみましょう。
申請内容を「カメラ」とだけ書くと、問題が生じます。
商標法上、フィルムカメラは第9類の「写真機械器具」に分類されます。一方、「デジタルカメラ」は同じ第9類でも「電子通信機械器具」に分類されるため、「写真機械器具」として申請しても「デジタルカメラ」はカバーされません。
商標法のワナに注意
こうした分類の違いは商標法の中に数多く存在します。知らずに申請すると、実際に必要な権利を取り逃すことになりかねません。
事前調査で防げる
正確な分類と具体的な商品名を事前に確認してから申請すれば、不要なトラブルや無駄な費用を防げます。「カメラ」ではなく「デジタルカメラ」と書く。この一手間が、権利の抜け漏れを防ぎます。
4. あいまいな権利申請が招くライバルの侵入
「デジタルカメラ」が「写真機械器具」の権利範囲に含まれないと聞くと、驚くかもしれません。日常の感覚では「カメラはカメラ」ですが、商標法では「デジタルカメラ」と「写真機械器具」は異なる分類として扱われます。
なお「写真機械器具」と「デジタルカメラ」は「備考類似」として特別に類似扱いされる場合があります。これは特許庁の審査基準の備考に記載されている関係です。
備考類似でも油断できない
備考類似だからといって安心はできません。
「デジタルカメラ」の権利がほしいのに「写真機械器具」だけを指定して申請した場合、ライバルが「電子通信機械器具」を指定して同じ商標を出願し、そちらが通ってしまうことがあります。結果として、自分の商標権に穴が空いた状態になるのです。
穴を埋めるには追加費用がかかる
商標権に抜けが生じた場合、異議申立や無効審判で対処する道はありますが、追加の費用と手間が発生します。最初の申請時に正確な指定をしておけば、この費用は不要だったはずです。
5. ぼかした権利申請は誤解を招く
日常生活では、立場をはっきりさせないほうが将来の選択肢を残せることがあります。
しかし、この感覚を商標登録に持ち込むと失敗します。あいまいな申請は、特許庁の審査でも裁判所の判断でも不利に働きます。
書いていないものは権利に含まれない
商標法の規定上、申請書に記載されていない商品は権利範囲外として扱われます。これは特許庁の審査でも裁判所でも同じです。
具体的に書けば権利が広がる
権利範囲を確保するには、あいまいな記載ではなく、具体的な記載が必要です。「電子製品」とだけ書くのではなく、「スマートフォン」「タブレット」など、実際に使う商品を列挙してください。
書いたものが権利になり、書かなかったものは権利にならない。商標登録ではこの原則を常に意識してください。
6. 権利範囲が決められない理由
商標登録の申請内容があいまいになるのには背景があります。商標登録を希望する方は、大きく分けて二つの考え方を持っています。
- 「自分が使うので、他人が邪魔をしないよう権利関係を明確にしたい」
- 「とにかく他人にこちらの商標を使わせたくない」
本来、商標権は自分が使用する商品・サービスについて取得するものです。
「他人に使わせたくない」という発想が先に立つと、あらゆる分野で商標権を取ろうとしがちですが、これには問題があります。
広すぎる権利範囲の落とし穴
権利範囲を広く設定すれば、その分だけ取得費用が増えます。実際に使わない商標権にお金をかけるのは無駄ですし、使用していない登録商標は不使用取消審判で取り消されるリスクもあります。
さらに、闇雲に範囲を広げると、他人の既存の権利と衝突しやすくなります。一部でも他人の権利と抵触していれば、その部分を除去しない限り審査には合格しません。
費用をかけて広く申請しても、結局は通らない——これでは本末転倒です。
7. ではどうすればよいのか
あいまいな申請が招く問題を防ぐ方法はシンプルです。実際に行う予定の商品や業務内容を、箇条書きで具体的に記載してください。
同じ区分内であれば、権利申請の項目が多くても少なくても、特許庁に支払う費用は変わりません。
項目が多い場合、審査官から「本当にこれだけの範囲で商標を使うのですか?」と確認されることはあります。ただし、項目数が多いだけで審査に落ちることはなく、審査官の指導に従えば合格します。
漏れなく書き出すことが大切
自分が将来使用するアイテムについて、漏れなく箇条書きで記載してください。これが権利の抜け漏れを防ぎ、後々のトラブルを回避する最も確実な方法です。
商標登録の申請は「あいまいに広く」ではなく「具体的に漏れなく」が鉄則です。自社の商品・サービスを一つひとつ洗い出し、正確な表記で記載する。この手間をかけるかどうかが、商標権の実効性を左右します。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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