索 引
商標権は企業のブランド価値を守る重要な知的財産権です。日本の商標制度は「先願主義」と「登録主義」という二つの基本原則に基づいて運営されています。
これらの原則は企業のブランド戦略に大きな影響を与えるため、正しく理解しておくことが極めて重要です。今回は、この二つの原則について詳しく解説していきます。
1. 先願主義・登録主義の基本的な考え方
先願主義とは
先願主義とは、同じ商標について複数の出願が競合した場合、最も先に出願した者に商標権を与える考え方です。言わば「早い者勝ち」の原則と言えるでしょう。
例えば、AさんとBさんが同じ「SAKURA」という商標を出願した場合、たとえBさんが実際にビジネスで先に使用していたとしても、特許庁への出願日が早いAさんに権利が与えられることになります。
この原則は日本を含む多くの国で採用されており、これに対立する概念として「先使用主義」があります。先使用主義は実際に最初に使用した者を優先する考え方で、アメリカなど一部の国で採用されています。
登録主義とは
一方、登録主義とは、商標権は実際の使用の有無にかかわらず、所定の要件を満たして特許庁に登録することで発生するという考え方です。
つまり、いくら商標を長期間使用していても、正式に登録しなければ商標権は発生しません。
逆に言えば、まだ一度も使用していない商標であっても、登録さえすれば法的な権利として認められます。
この登録主義に対立する概念が「使用主義」であり、こちらは商標の使用によって権利が発生する制度です。
先願主義・登録主義の早分かり図表
2. 日本が先願主義・登録主義を採用する理由と背景
なぜ日本は先願主義と登録主義を採用しているのでしょうか。
権利の明確化と安定性
その最大の理由は「権利の明確化と安定性」にあります。
特許庁への登録という公的な手続きを経ることで、誰が真の権利者かを明確にできます。
もし先使用主義を採用していると、公的機関に登録されていない人が権利者となる可能性があり、後から「実は私が本当の権利者だ」と主張する者が現れるなど、実務上非常に不安定な状況が生じかねません。
登録主義であれば公式書類に権利者情報が残り、権利の所在が一目瞭然となります。
出願の先後判断の容易さ
また「出願の先後判断の容易さ」も重要な理由です。
先願主義を採用することで、どちらが先に出願したかという客観的事実だけで優劣を判断できます。
誰が先に商標を使用していたかを証明するのは非常に困難ですが、出願日は明確に比較でき、特許庁の審査も迅速かつ簡便になります。
このため、日本の商標法(第8条)では先願主義を採用しており、審査の効率化が図られています。
国際的調和と制度整合
さらに「国際的調和と制度整合」の観点も見逃せません。
日本は明治期に商標制度を整備した当初、先使用主義的な側面もありましたが、その後の法改正で先願・登録主義に移行しました。
これには欧米諸国(特に欧州各国)の制度や国際的な知的財産制度との調和、そして特許制度など他の産業財産権と整合性を持たせる狙いもありました。
実際、日本を含む多くの国が先願主義・登録主義を採用しており、日本もその国際的な潮流に合わせて制度設計されているのです。
営業信用の保護
最後に「営業信用の保護」という側面があります。
登録主義は、商標の将来的な使用による信用まで先取りして保護しようとする政策的背景があります。
実際にはまだ使用していなくても登録を認めることで、将来その商標に蓄積されるであろう顧客の信頼(信用)を事前に守ることができるという考え方です。
これにより、新しい商標を使う予定の事業者が、使用開始前でも安心して商標を確保し、長期的なブランド戦略を立てられるようになります。
3. 企業のブランド戦略における実務上の示唆
このような制度理解に基づくと、日本で事業を展開する企業は早期の商標登録が極めて重要となります。新製品やサービスの名称を決定したら、使用開始を待たずに速やかに出願すべきでしょう。
また、海外展開を視野に入れている場合は、日本と異なる制度を採用している国があることも念頭に置き、国ごとの戦略を練る必要があります。
先願主義と登録主義を理解し活用することで、企業は自社の大切なブランド資産を守り、安定したビジネス展開が可能になります。
ただし制度は複雑なため、専門家のアドバイスを受けながら戦略を立てることをお勧めします。
4. 日本が先願主義・登録主義を採用するメリット
権利関係の明確化と紛争の減少
日本の商標制度では、登録によって商標権の所在、有効性、存続期間が公に確定します。これにより商標を巡る権利関係が明確になり、無用な争いを未然に防止することができます。
アメリカなどで採用されている先使用主義のように、実際の使用実績や市場での認知度を証明しなければならない不安定さがなく、一度登録さえすれば権利の存在自体を争う必要がないため、事業者は安心して商標を利用し、そのブランドに投資を行うことができます。
特に新規事業を立ち上げる際や、新商品を発売する前の段階では、この明確さが大きな安心感をもたらします。ビジネスの初期段階からブランド戦略を練り、それを法的に保護できるという点は、企業経営において非常に価値のある要素といえるでしょう。
審査・権利取得の効率性
先願主義では、特許庁が出願日を見るだけで優先関係を判断できるため、審査過程が効率的に進められます。
複雑な使用実績の証明や市場調査を行う必要がないため、審査の負担が軽減され、結果としてより迅速な審査が可能となります。
事業者側にとっても、長年の使用証拠を積み上げることなく、単に他者より早く出願手続きを行うだけでスピーディーに権利取得ができるというメリットがあります。
新規事業や新商品の発売を控えている企業にとって、この効率性は非常に重要な利点です。
全国的な独占権の確保
登録主義によって得られる商標権は、日本全国に及ぶ強力な独占排他権です。
これにより、たとえ一部の地域でしか事業を展開していなくても、全国規模での権利保護が可能となります。
早期に出願・登録しておけば、後から他者に先を越されて権利を奪われる心配がなくなり、将来的な事業拡大にも安心して取り組むことができます。
このような全国的な保護は、フランチャイズ展開を考えている企業や、オンライン販売など地域を超えたビジネスモデルを持つ企業にとって、特に大きな価値を持ちます。他社による模倣や便乗商法から自社ブランドを守るためにも、この独占権の確保は欠かせません。
将来のブランド価値の先取り保護
日本の商標制度の大きな特徴として、実際に商標を使用する前でも出願が可能であるという点が挙げられます。これにより、商品の発売前や事業開始前の段階でブランドを法的に押さえておくことができます。
特に新規事業や新製品の開発に取り組んでいる企業にとって、この先取り保護の仕組みは非常に重要です。
例えば、大規模なマーケティングキャンペーンを行う前に商標を登録しておくことで、そのキャンペーンによって生まれる潜在的な信用やブランド価値を先取りして守ることができます。
後から第三者に商標を取られて使えなくなるというリスクを大幅に減らせる点は、登録主義ならではの強みといえるでしょう。
国際的信頼と整合性
商標権は各国ごとに登録が必要ですが、日本が採用している先願主義・登録主義は世界的に広く採用されている標準的な制度です。このため、国際的にも理解されやすく、外国企業が日本で商標を取得する場合にも同じルールが適用されるという公平性があります。
属地主義の原則の下、各国で先に出願した者が原則として権利者となるという仕組みは、国際的なビジネス展開を考える企業にとって予見可能性が高く、安心感をもたらします。
また、マドリッド協定議定書などの国際登録制度との親和性も高いため、グローバルなブランド戦略を展開する上でも有利に働きます。
ここがポイント
日本の商標制度における先願主義と登録主義は、権利関係の明確化、審査・権利取得の効率性、全国的な独占権の確保、将来のブランド価値の先取り保護、そして国際的な整合性など、多くのメリットをもたらします。
これらの特徴を理解し、戦略的に活用することで、企業は自社のブランドを効果的に保護し、その価値を最大化することができるでしょう。
商標は企業の顔であり、消費者との重要な接点です。早期に適切な商標戦略を立て、先願主義・登録主義のメリットを最大限に生かすことで、ビジネスの長期的な成功につながる強固な知的財産基盤を構築することができます。
5. 日本が先願主義・登録主義を採用するデメリット
先使用者が保護されにくい不公平感
日本の商標制度では、たとえ長年その商標を使い続けてきた企業があったとしても、他者が先に出願・登録してしまえば、原則として権利を主張できなくなります。
これは実際のビジネスの現場では大きな不公平感を生み出す大きな要素の一つになります。
特に創業間もないスタートアップや小規模事業者にとって、まだ知名度の低い自社の商標が競合他社や第三者に横取りされるリスクは看過できません。
最悪の場合、商標を最初に使い始めた側が「被害者」という立場に追いやられながらも、法的には「侵害者」として訴えられる逆転現象さえ起こりえるのです。
このような状況が続けば、ビジネスの実態と法制度の間に大きな乖離をもたらしかねません。
例えば、地方で長年愛されてきた老舗の名称が、全国展開を考え始めた時点で既に他者に登録されていたというケースは珍しくありません。
そこには「自分たちが育てた名前・ブランドなのに」という痛切な思いが生まれますが、制度上はそれが保護されないジレンマがあります。
悪意の出願・商標の先取り問題
登録主義の下では、実際に商標を使用する意思や実績がなくても権利化が可能です。
これを悪用し、第三者が利用予定のない商標を投機的または妨害的な目的で大量に出願する「商標ゴロ」「商標ブロッカー」と呼ばれる問題が発生しています。
彼らは市場で価値が出そうな商標や、他社が使いそうな商標を先回りして押さえ、後に高額な対価で譲渡したり、競合他社の事業展開を妨害したりします。
このような悪意の出願は、健全なビジネス環境を阻害するだけでなく、本来その商標を使って事業を展開したい誠実な事業者の計画を挫折させる一つの要因となります。
また、一度このような状況に陥ると、正当な権利を取り戻すための交渉や法的手続きに膨大な時間とコストを要することも大きな問題です。
特に資金力の乏しい中小企業やスタートアップにとって、これらの負担は事業継続の大きな障壁となりかねません。
未使用商標の蓄積による市場の停滞
先願主義と登録主義がもたらすもう一つの弊害は、実際には使用されない「休眠商標」の増加です。
これにより市場で利用できる商標の選択肢が不必要に狭まるという問題が生じています。
例えば、新規事業を立ち上げる際に理想的な名称を考えても、それが既に登録されている可能性は高く、しかもその多くが実際には市場で活発に使用されていない状況があります。
この現象は商標という資源の新陳代謝を妨げ、市場における創造性やイノベーションを阻害する要因となっています。
特に近年のように新しいビジネスが次々と生まれる環境においては、魅力的でわかりやすい商標の不足が事業展開の大きな障壁となることも少なくありません。
結果として、事業者は覚えにくい造語や複雑な組み合わせの商標を選ばざるを得なくなり、消費者にとっても混乱を招く要因となります。
商標権維持コストと行政負担の増大
登録主義のもとでは商標の権利化は比較的容易ですが、その出願・登録・維持には相応のコストがかかります。
事業者にとっては、実際に使用していない商標にまでコストを割かなければならない非効率が生じることがあります。また、商標を多数保有する大企業では、管理コストだけでも無視できない金額になることがあります。
一方で特許庁側からみると、大量の出願を処理し、権利の存否を管理する行政負担も看過できません。
登録主義のもとで権利が乱立すると、審査官の作業量が増加し、審査期間の長期化など行政効率の低下につながる懸念があります。現在でも商標出願数は毎年10万件を超え、適切な審査体制の維持は常に課題となっています。
このような状況は、真に保護すべき価値のある商標の審査が遅れるという本末転倒な結果をもたらす恐れもあります。
一般人の直感に反する制度設計
最後に、日本の商標制度は「先に使っていたのに負けるのはおかしい」という多くの人々の直感的な感覚と乖離している点も大きな課題です。
特に米国のような先使用主義に親しんでいる国の人々からすると、日本の制度は納得しづらい面があると指摘されてもおかしくありません。
この点については、日本の制度が重視する「権利の安定性」や「登録による公開性」といった価値観を広く周知し、制度の趣旨を理解してもらうことが重要です。
ただ、現実には、多くの事業者が商標制度の基本原則を十分に理解しないまま事業活動を行っており、後になって思わぬトラブルに見舞われるケースが後を絶ちません。
そもそも商品や業務、店名等に権利を設定できる商標登録の制度の存在そのものを知らない、というケースもあります。
こうした問題を防ぐためには、事業者自身が早い段階で商標の重要性を認識し、適切な権利化戦略を立てることが不可欠です。
同時に、制度自体も実際のビジネス実態により即した形で進化していくことが求められているのではないでしょうか。
6. 横取り商標登録問題とは
商標を長年使用していても特許庁に商標を登録していなければ、第三者に先に出願・登録されてしまうというリスクが常に存在します。
実際に自社で使用していた未登録商標を他者に出願されてしまう「横取り商標」の問題は、特に中小企業やスタートアップにとって深刻な打撃となりえます。
このような悪意の出願に対して、日本の商標法はいくつかの対抗策を用意していますが、その実効性には疑問符がつくケースも少なくありません。
周知・著名商標による拒絶制度
商標法第4条には、公序良俗違反や他人の周知・著名商標と紛らわしい商標は登録できないという規定があります。
つまり、既に他人の商品・サービスを示すものとして広く知られている商標について第三者が出願した場合、審査段階で拒絶される可能性があるのです。
しかし、この保護は「周知性」や「著名性」が認められる場合に限られます。
ある地域で少し知られている程度では「周知」とは認められず、全国的な知名度や相当規模の認知が求められるケースが多いのが現実です。
したがって、知名度が十分でない中小企業の商標は、この保護を受けられないことが多いという課題があります。
先使用権の存在と限界
日本の商標法には例外的に「先使用権」の制度が設けられています。
これは、ある商標について他人の出願前から日本国内で継続して使用し周知性を得ていた者は、たとえ後から他者に登録されても、その範囲内で商標を使い続ける権利が認められるというものです。
しかし、先使用権成立のハードルは非常に高く設定されています。
単に使用していただけでは不十分で、使用商標が広く認知され周知となっていることが必要です。例えば、過去の判例では15年以上地域で使用し年商14億円を上げていた飲食店の名称でさえも「周知」と認められず、先使用権が成立しなかったケースがあります(たこ焼工房商標権侵害事件:平成31(ワ)784)。
また、仮に先使用権が認められたとしても、その効力は出願前に使用していた商品・役務と地域に限定されます。
さらに商標権者に配慮する措置を付加するなどの条件が付くこともあります。このように先使用権は極めて限定的な救済措置であり、横取り出願への十分な抑止策とは言い難いのが現状です。
不使用取消制度の活用
登録主義の弊害である未使用商標の死蔵に対処するため、日本では「不使用取消審判」という制度が設けられています。
これは、3年以上使われていない登録商標について、利害関係人が取消請求をすることで商標権を抹消できる仕組みです。
悪意で取得された商標も、出願人が実際に使用していなければ3年経過後に取り消すことができるため、長期間の権利の死蔵を防ぐ効果があります。
ただし、取消審判で権利が消えるまでの間はその商標権が有効であるため、横取り被害者の即時救済という観点では限界があることも否めません。
特許庁による制度的対応
近年問題化した他人の商標を大量に先取りする「嫌がらせ出願」に対し、特許庁も積極的に対策を講じています。
例えば、商標登録出願を特許庁に行う際に、出願印紙代を一切払わない業者もいます。
特許庁に納付しなければならない料金不納を理由に出願が却下される直前に、料金不納の不備のある出願を別の出願に分ける分割出願を繰り返す手口が一時期横行しました。
出願料未納による年間数万件に及ぶ大量出願に対しては、2018年の法改正で分割出願の濫用を防止する措置が取られました。
この改正により、出願料未納で却下された出願を基にした分割出願は出願日が遡及しなくなり、意図的に手数料を払わず出願だけを早く行う手法が封じられました。
さらに特許庁は、明らかに悪質な大量出願については出願から数カ月で却下処分を行う運用を実施しています。
平成28年には特許庁から「他人に商標を先取り出願されても自社の商標出願を断念しないように」との注意喚起も出されており、行政としても正当な権利取得者を守る姿勢を示しています。
批判的視点と議論
先願・登録主義は「先手必勝」の制度であるため、「真っ先に使った人が報われないのは不公平」との批判も少なくありません。
しかし専門家の見解では、現行法においては特許庁の判断は法に則った適正な審査であり、商標に法的保護すべき価値(周知性等)がない段階では先取り登録も違法ではないとされています。
我こそが本当の権利者だ、と自称権利者が後から次々と現れることを防ぐ意義があり、先願主義に基づいて「特許庁が横取り商標を登録するのは間違いだ」と一概には言えず、制度上やむを得ない側面があるという指摘もあります。
もっとも、商標制度本来の趣旨からすれば不正目的の出願は望ましいものではなく、社会通念上も許容されない行為であるため、企業倫理の観点からも批判されています。
実名で権利情報が公開される商標制度の下では、そうした不正行為は信用失墜を招き企業にとってリスクが高いことも広く認識されつつあります。
悪意の出願を実際に行うと、ネットで炎上し、自身の社会的評価を落とすだけです。
ここがポイント
日本の商標制度における先願主義と登録主義は、権利関係の明確化や審査の効率化といった観点では優れた制度です。しかし、実際に商標を使用している者が保護されにくいという側面も否定できません。特に成長過程の企業や個人事業主にとっては、自社ブランドの早期登録と定期的な商標監視が非常に重要です。
制度の限界を理解した上で、予防的な商標戦略を立てることが、ビジネスを守る最も確実な方法と言えるでしょう。横取り商標のリスクを軽減するためには、事業開始の初期段階からの商標登録を検討し、自社の重要な商標資産を守る意識を持つことが不可欠です。
7. 公的機関や専門家の見解
特許庁(公的機関)の見解
特許庁は公式に「わが国では、同一又は類似の商標の出願があった場合、その商標を先に使用していたか否かにかかわらず、先に出願した者に登録を認める先願主義という考え方を採用している」ことを案内しています。
経済産業省・特許庁からの注意喚起
産省所管の特許庁は近年、「自らの商標が他人に出願されても萎縮しないように」との注意文書を発出し、2018年改正による対策を周知しています。
また日本で商標権を保有していても、その効力は海外には及びません。そのため、日本で商標権をもっていても、そのブランド名やそのロゴマークを他の国でも使用し、第三者にその商標権を取られたくないのであれば、海外で商標出願をする必要がある等の注意喚起を図っています。
日本弁理士会など専門家の見解
知的財産の専門家からは、先願・登録主義について肯定的な評価と課題指摘の双方が示されています。例えば日本弁理士会は「ほとんどの国の知的財産権制度は先願主義(最初に特許庁に出願したものに権利を与える主義)を採用していますから、一日も早く出願することが大切」と説明しています。
また個別の弁理士の発信として、「商標制度は先手必勝だが、他人の商標を横取りする行為は推奨されない」との意見もあります。
理由として、権利情報は公開されることから社会的信用を損なうリスクが高いためであり、長期的に見て不正が疑われる出願は企業利益に反し得ると警告されています。このように専門家は制度のメリットを認めつつ、悪用防止や適切な運用についても言及しています。
総合評価
先願主義・登録主義は、日本の商標制度の根幹をなす方針であり、その採用理由には権利の安定性・明確性の重視という見解が一貫しています。
一方で運用上の課題(横取り出願や不使用商標の問題)については、公的機関・専門家ともに認識しており、立法・審査運用や民間の啓発活動を通じてその弊害を抑える努力がなされています。
ユーザー企業側にも「ブランド保護は早めの出願を」という教訓が示されており、制度を前提とした戦略的な商標管理の重要性が強調されています。
公的機関と専門家の見解からは、日本の先願主義・登録主義はそのメリットを最大化しつつ、デメリットを補完する仕組みを整えることでバランスを図っていることが読み取れます。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247
【参考資料】
- 特許庁:「商標制度の概要」
- 特許庁:「自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)」
- 特許庁:「海外商標出願のススメ」
- 日本弁理士会:「弁理士に依頼する場合のポイント」
- 弁理士:「なぜ特許庁は横取り商標の登録を認めるのか」