(1)最初に商標を使用した場合に発生する権利とは?
誰も使用していない商標を最初に使い始めた場合、日本の商標法では特別な権利が認められません。単に最初に使い始めたという事実だけでは、商標権者と名乗ることはできず、また「先使用権」という権利も認められないのです。
商標権者になるためには?
日本の法制度では、商標権を得るには特許庁に商標登録の申請を行い、審査を通過しなければなりません。これが完了し、特許庁の内部で正式に登録されて初めて商標権が発生し、商標権者となることができます(商標法第18条)。
手続きの流れ
他の多くの行政手続きとは異なり、商標登録には書面の提出だけではなく、審査を通過する必要があります。
不備があった場合、その場で修正しても再提出しなければなりません。商標を最初に使用したとしても、正式な手続きを経なければ商標権を取得することはできないのです。
以上のように、商標を最初に使用したからといって自動的に権利が発生するわけではなく、特許庁での正式な手続きが必要です。
(2)先使用権はどうなっているの?
第三十二条 他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際(第九条の四の規定により、又は第十七条の二第一項若しくは第五十五条の二第三項(第六十条の二第二項において準用する場合を含む。)において準用する意匠法第十七条の三第一項の規定により、その商標登録出願が手続補正書を提出した時にしたものとみなされたときは、もとの商標登録出願の際又は手続補正書を提出した際)現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。
商標法第32条より引用
商標を最初に使用したからといって、自動的に「先使用権」が発生するわけではありません。
商標法によれば、先使用権が認められるためには、その商標が「自己の業務に係る商品または役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている」必要があります。つまり、その商標が一般に認知されるほど有名である必要があるのです。
先使用権の発生条件
先使用権が認められるには、他人が商標登録をする前にその商標を使用し、広く認識されていることが条件です。
商標が有名になる前に他の人が商標登録を行った場合、その商標権者が優先され、先使用者はその商標を使用するための許可を得なければなりません。
先使用権の効力
先使用権は他人の商標権に対する「抗弁権」であり、商標権そのものではありません。
抗弁権は、商標権者から商標使用の差止めや損害賠償を請求されないための防御策であり、独占的な権利を与えるものではありません。先使用権があるからといって、商標権者に対して差止請求や損害賠償請求を行うことはできません。
先使用権の判断
先使用権が認められるかどうかは、商標権の侵害訴訟などで裁判所が判断します。
したがって、訴訟がなければ先使用権が正式に認められることはありません。単に商標を使用しているだけでは何の権利も得られず、商標の使用停止を求めることもできません。
このように、商標を最初に使用した事実だけでは権利は発生しないことに注意が必要です。
(3)登録をしていなくても不正競争防止法で守られるのでは?
商標を特許庁で正式に登録していなくても、商標が有名であれば不正競争防止法によって保護されることがあります。
しかし、この保護を受けるためには、商標が「有名である」ということを裁判所で証明する必要があります。これは、不正競争防止法の適用を主張する側が行うもので、裁判官にその商標の知名度を納得させることが求められます。
保護を受けるための「有名さ」の基準は、需要者のほとんどがその商標を知っている状態を指します。もしその商標を聞いても、多くの人が認識していない場合、不正競争防止法の保護を受けることは難しいです。
また、特定の地域でのみ有名であれば、その地域内でのみ不正競争防止法の適用が認められることがあります。全国的な知名度がない場合、全国規模での保護は受けられない可能性があります。
(4)まとめ
先使用権や不正競争防止法は、商標が有名である場合に例外的に保護を受けるための規定です。
しかし、これらに頼るのは非常にリスクが高いです。商標登録は、その商標が有名であることを条件としていません。そのため、同じような商標がすでに登録されているなどの理由がなければ、審査に合格して商標権を得ることができます。
商標を使用する際には、商標登録を行って法的な保護を確保することが重要です。登録を行うことで、自分の商標が他人に無断で登録されることを防ぐことができます。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247