デザインを保護する意匠登録とは?登録の要件・メリットは何

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(1)意匠登録とは?

意匠登録とは?

意匠登録とは、特許庁に提出された意匠登録出願が審査に合格して登録査定となった場合に、設定の登録手続により意匠権を発生させる、特許庁による行政処分のことをいいます(意匠法第20条第1項)。

審査に合格できる意匠は、未だ世の中に発表されていない新しいデザインであること、既にあるデザインから容易に創作できる意匠ではないこと等が要求されます。

審査に合格した場合に特許庁で登録査定がなされ、出願人に通知されます。出願人が登録手続と登録料の支払いを行った場合には、特許庁で設定登録がなされ、意匠登録により意匠権が発生します。

登録された意匠に関係する物品を製造販売できるのは意匠権者だけです。意匠権者以外が登録された意匠に関係する物品を製造販売した場合には、差止請求、損害賠償請求等の民事的救済や、罰金、禁錮刑等の刑事的救済を受けることができます。

意匠とは?

意匠法に定める意匠とは次の通りです。

意匠法 第2条第1項
この法律で「意匠」とは、物品(物品の部分を含む。以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。

意匠法第2条第1項

意匠法 第2条第2項
前項において、物品の部分の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合には、物品の操作(当該物品がその機能を発揮できる状態にするために行われるものに限る。)の用に供される画像であつて、当該物品又はこれと一体として用いられる物品に表示されるものが含まれるものとする。

意匠法第2条第2項

意匠であるためには、以下の要件を満たすことが求められます。

物品あるいは物品の部分における形状・模様・色彩に関するデザインであること(意匠法第2条第1項)

意匠法にいう意匠は、物品そのもののデザインである必要があります。物品を離れた、モチーフとしてのデザインについては原則として保護を受けることができません。

工業上利用できる(量産できる)もの(意匠法第3条第1項柱書)

意匠の定義である意匠法第2条には工業上利用できる点までは要求されていませんが、審査に合格できる要件として、ある程度量産でき、工業上利用できるという条件が課せられていますので、工業上利用できる点は実質的な要件の一つです。

工業的(機械的、手工業的)生産過程を経て反復生産され、量産される物品のデザインであることが、意匠権で保護される意匠に求められる条件です。

このため量産できない一品ものは、美術的な創作表現の観点から著作権により保護される対象とされ、意匠登録されません。

また物品の操作の用に供される画面デザインも意匠に含まれます。具体的にはコンピュータ表示画面上のアイコンデザイン等が保護される意匠に挙げられます(意匠法第2条第2項)。

視覚を通じて美感を起こさせるもの(意匠法第2条第1項)

意匠法では、物品のデザインという美的観点からみた創作を保護の対象としています。またデザインの中でも目による視覚により認識できることを条件としていることから、物品の内部構造等のように、物品を破壊しなければ観察することのできないデザイン等は意匠登録できません。

また文芸、学術、音楽の範囲に属する、思想又は感情の創作的な表現は、意匠登録される意匠に原則該当しません。これらの創作的表現は著作権法により保護されるべきものです。

意匠登録の具体例

(1) 物品の形状のデザイン

図1 物品の形状のデザイン

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ここではタブレット型コンピュータのデザインを例にとり説明します。このデザインの場合は、タブレットコンピュータの左側に、親指の付け根にかけて、誤ってタブレットを落としてしまうのを防ぐ突起部分がついています。

この場合のように、物品の形状のみを指定し、模様・色彩については指定しないで出願することができます。

図2 物品の形状と模様が結合したデザイン

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この場合は上記に説明した物品の形状に模様が付加されています。この場合、物品に追加される模様が変更された場合、その変更された模様がある意匠のデザインとは非類似と判断される可能性があります。

つまり、物品の形状と模様が結合したデザインについては、「物品の形状」に「模様」という限定が付いた、と解釈される場合があります。

模様を付けることにより、デザインとしてはより引き立ちますが、模様を付加することにより権利範囲が狭くなる場合があることに注意してください。

図3 物品の形状と色彩が結合したデザイン

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意匠法の場合、色自体は昔から存在するものであり、権利が与えられる条件としての新規性がないと考えます。このため色のみが違うデザインの場合は、原則として互いに類似するものとして扱われます。

ただし色彩に特徴がある場合、例えばだんだん色彩が多色に変化する場合等には、デザインの要素として判断されるため、色彩が違うことから形状が同一でも異なった意匠として扱われる場合があります。

図4 物品の形状と模様・色彩が結合したデザイン

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図4のように、物品の形状に加えて、模様と色彩とを併せて出願することもできます。ただし図2の場合と同様に、「物品の形状」に「模様」と「色彩」との限定が付いた、と解釈される場合があります。

模様と色彩とを付けることにより、デザインとしてはより特徴的なものになる反面、権利範囲が狭くなる場合があることに注意してください。

図5 物品の部分のデザイン

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タブレット型コンピュータ自体は、既に多くのデザインのものが市販されています。このため点線で示したタブレット型コンピュータのデザインについては現時点ではありふれたものであり、独占権を与えて保護する必要のあるデザインであるとはいえません。

そこで親指の付け根の部分をかける部分にデザインの特徴を主張する方法もあります。この場合は実線の部分を部分意匠として保護を求める出願をすることも可能です。

意匠登録の歴史

1888年:意匠条例

意匠の登録制度の始まりは意匠条例によります。

この意匠条例により、工業上の物品に応用する形状、模様または色彩についての意匠が登録を受けられることが規定されました。出願内容が審査されて意匠権が発生する制度の原型が生まれました。また独占期間は、3年、5年、7年、10年の四種類がありました。

1899年:意匠法として改正

明治32年には意匠権によるデザインの独占期間は10年に一本化されました。その後も何度か意匠法について改正がなされています。

1988年:物品の部分の意匠を保護する「部分意匠制度」の導入

物品全体だけではなく、物品の部分についてもデザインの保護対象となりました。

2007年:現行の意匠法が施行

現行法の意匠法の特徴は、これまでの意匠法の中心にあった新しく創作した意匠を創作者の財産として保護する点を守っている点にあります。意匠の創作を奨励し、産業の発達に寄与する目的を達成するためです。

意匠登録のメリット

独占排他権

意匠登録されると意匠権者に意匠権が与えられます。意匠権者は意匠を実施する権利を占有することができます。

意匠権により、他人が実施するのを排除したり、他人に実施権を許諾することが可能です。

また意匠権の存続期間は、登録日から20年です。商標権の場合には権利の存続期間は更新手続により更新することができますが、意匠権には権利の存続期間の更新制度はありません。

デザインについては、20年の期間経過後は、みんなのものとして広く開放して使ってもらうためです。

意匠の保護

意匠権者は以下の権利を有することができます。

差止請求権

第三者が登録意匠や登録意匠に類似した意匠を無断で製造販売することを止めさせることができます。

侵害物排除請求権により、意匠権に抵触する内容の製品を破棄するように侵害者に対して請求することができます。
さらに予防行為差止請求権により、製造するための設備の除去等を侵害者に対して請求することができます。

損害賠償請求権

意匠権の侵害があった場合に、過去における損害を賠償請求することができます。ただし損害賠償請求には3年の時効がありますので、侵害の事実を発見した場合には放置しないように注意が必要です。

名誉回復措置請求権

侵害者が粗悪品を販売したことにより意匠権が侵害されて、意匠権者の信用が損なわれる場合があります。この場合には侵害者に新聞に謝罪広告を出させる等の請求もできます。

(2)意匠登録の要件

意匠権を得るためには特許庁に意匠登録出願の願書を提出して審査を受ける必要があります。この審査に合格するための条件として、下記の要件を満たすことが必要になります。

意匠の「新規性」(新しい創作)

意匠法の目的は、新たなデザインを国家に対して公開した者に対して意匠権を付与して意匠を保護することにより、新たな意匠の創作を促して、より産業活動の発展に貢献することにあります(意匠法第1条)。

既に世の中に知られているデザインについては、わざわざ意匠権を与えて保護するほどでもありません。このため審査に合格できる意匠は、未だ世の中に知られていないという条件が課せられています。

出願される意匠は、今までにない新しい意匠であるか、また出願前にそれと同一または類似の意匠が存在しないかどうかが審査の焦点になります。

「創作非容易性」(容易に創作できないこと)

意匠権は登録意匠と同一か似たデザインの物品の製造販売を禁止できる強力な権利です。既にあるデザインから簡単に創作できるような意匠に対して独占権を付与した場合には、逆に自由なデザインの創作活動が邪魔されてしまい、却って新たなデザインの創作ができなくなってしまいます。

自由なデザインの創作活動を確保するために、簡単に創作できるようなデザインは審査に合格できないことになっています。
創作性が低いと判断される意匠はNGになります。

「先願であること」(同じ出願が前になかったこと)

同じような内容のデザインに関する出願が競合した場合には、最初に特許庁に権利申請した者が意匠権者になります。
特許庁に先に出願した者が権利者になる制度のことを先願主義といいますが、先願主義であれば、誰が本当の権利者かを簡単に判別することができます。

このためほとんどの国で先願主義が採用されています。

意匠権者になれるかどうかは、他人よりも早く出願しているかどうかに依存します。

一意匠一出願

意匠登録出願は、一意匠ごとにしなければならないことが規定されています(意匠法第7条)。

一つの出願に、多数のデザインを記入して出願される場合があるため、そのような行為は許されないことを注意的に規定しています。

仮に一つの意匠登録出願の中に複数の意匠を入れた場合には審査に合格できません。

なお、複数の物品であっても、一定の要件を満たしているものは「組物の意匠」として登録が認められる場合があります。

「意匠」として認められないもの

意匠法上の意匠として認められないものは、特許庁に意匠登録出願をしたとしても審査に合格することができません。

無体物

概念やアイデアなど、形状を伴わないものは意匠に求められる形態性がないものとして審査不合格となります。

形がないもの

形状のあることが意匠登録の条件となっていますので、形状がないものは意匠登録の対象外になります。

不動産(建築物等)

不動産については、工業的に量産できるものではなく、一品一様の性格が強いことから意匠権が与えられる意匠には該当しません。

ただし、量産可能な建築用材料などは、工業上利用できるため、もちろん意匠登録の対象となります。

固体以外(電気、光、熱、液体、気体等)

液体や気体など、一定の形状がないものも、意匠に求められる形態性がないものとして審査不合格となります。
またネオンサインなどの放電現象についても、具体的な形状があるわけではないので審査に合格することができません。

肉眼で見えないもの

原子構造や分子構造、タンパク質そのものの構造など、肉眼で見ることのできないデザインは審査に合格できる意匠として扱われません。

仮に、何らかの微小構造を拡大して意匠登録された場合には、その拡大されたものと同程度の大きさを持つものが権利侵害になる場合がありますが、拡大前のものが目に見えないものなら、拡大前のものを使っても意匠権侵害にはならないです。

粉状物、粒状物

粉状物や粒状物等のように、全体としては肉眼で把握できるが、一つひとつの形状は肉眼では判別しがたい物も、審査に合格できる意匠ではありません。意匠法で認められるデザインとは視覚を通じて把握できるものだからです(意匠法第2条第1項)。

外部から見えないもの

破壊しなければ観察できないような、外部から見えないものも審査に合格できる意匠の対象外です。意匠法で保護されるデザインは物品の外部形状に現れている必要があります。

このため機械の内部構造は、意匠登録の対象にはなりません。

(3)意匠登録の手続き

手続きの流れ

意匠登録の手続の流れは次の通りです。

(1) 先行登録意匠の調査

意匠登録出願したとしても、似たようなデザインが既に登録されている場合には、後から同じようなデザインについての意匠登録出願をしても審査に合格することはできません。このため、意匠登録出願する際には先行登録意匠を調べることがよいです。

先行登録意匠を調べるには、特許庁のJ-PlatPat(特許情報プラットフォーム)を使って、インターネットにより誰でも無料で調べることができます。

この無料のデータベースを使って、問題となる先行登録意匠がないかどうかを調べることができます。

(2) 願書の作成

意匠登録出願にはデザインを表した図面を準備する必要があります。同じ縮尺で、正面、背面、真上、真下、右横、左横の合計6枚の図面を準備することが原則です。

また意匠の全体を理解しやすくするために、必要に応じて斜視図を添付することもあります。

なお、願書に記載する意匠は、物品から離れた、モチーフとしてのデザインだけの意匠登録出願は認められないことに注意してください。

さらに、出願後は事実上、意匠登録出願の際に添付した図面を補正することができません。このため後で書き直しがないよう各図面と物品との対応に矛盾が生じないように注意して図面を作成します。

(3) 出願書の提出

願書に意匠に係る物品等を記載します。願書には意匠登録を受けようとする意匠を記載した図面を添付します。

意匠登録出願の願書の提出先は、東京・虎の門にある特許庁の一カ所だけです。持参してもよいですし、郵送してもよいです。
また電子データにより電子出願により願書を提出することもできます。ただし電子出願をする場合には、事前に電子出願をするための環境を整備する必要があります。

(4) 特許庁による審査

意匠登録出願がされると、特許庁で願書が受理できる程度に整っているかの方式審査が行われます。

願書に不備があると、特許庁から補正するように指令がきます。この指令には応答期間が定められていて、期間内に対応しないと出願が却下されます。このため特許庁からの指令があった場合には必ず応答しなければなりません。

方式審査に合格すると次は実体審査です。

審査官による実体審査は通常、半年前後です。早ければ5ヶ月程度で審査結果が返ってきます。

意匠法上、審査に合格できない理由がある場合には、審査官はその理由を示して、意匠登録出願人に意見をいうように求めます。

意匠登録出願人は、定められた期間内に意見書や補正書を提出して審査官の判断に対して反論することができます。

意見書の提出等により拒絶理由が全て解消した場合には審査合格となります。

また解消できていない拒絶理由が一つでも残っていると出願全体が拒絶査定になります。
なお拒絶査定になった場合には、別途拒絶査定不服審判で、審査不合格の結果について争うことができます。

(5) 審査が通った場合

審査の結果、合格した場合には特許庁から出願人に対して登録査定の謄本が送達されてきます。登録査定により審査は終了します。

(6) 登録料の納付

審査合格後は登録料の納付が必要になります。登録料の納付があれば特許庁内部で意匠権発生に向けた手続が開始されます。

(7) 意匠権の発生

意匠権は特許庁による設定の登録により発生します(意匠法第20条第1項)。実務上は意匠登録が完了した時点で意匠権が発生します。

意匠権者に意匠登録証が郵送されてきた段階で、意匠権者には意匠権が発生したことが分かります。

意匠登録証に記載されている登録日が意匠権の存続期間の起算日であり、登録日から20年間、意匠権は存続します。

(8) 意匠権のメンテナンス

納付した登録料が切れる年度よりも前に意匠の登録料を毎年分納付する必要があります。各年度の登録料を納付しないと意匠権が消滅するので注意してください。

(4)意匠登録制度の特徴

意匠登録と商標登録との違い

意匠登録により、物品の外部に現れるデザインを保護することができます。ただし意匠登録の場合には、物品から離れたデザインのモチーフは保護することができません。

このため、例えばデザインのモチーフのみを切り離して商品に貼る場合には、商標登録を使用します。

商標登録であれば、デザインが記載されたエンブレムを商品表示として使用することができるため、一つの物品形状だけに縛られることがありません。

ただし商標登録の場合はデザイン保護が目的ではないため、デザインそのものを保護するためにはまず意匠登録を考えるのがよいです。

なおデザイン商標とか意匠商標という言葉を聞きますが、意匠登録は意匠法により保護され、商標登録は商標法により保護される内容ですので混同しないようにしましょう。

意匠登録と特許・実用新案との違い

意匠登録はデザインを保護するのに対し、特許や実用新案はアイデアを保護するものです。

特許や実用新案では登録が難しい場合であっても、デザインの観点から意匠登録に成功することがあります。

また同じ物品に対して意匠権と特許権の双方が発生する場合があります。

これはファーイースト国際特許事務所で実際に意匠権と特許権とを取得した事例です。

図6 同じ物品に特許権と意匠権が並列する事例

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上記の例ではインプラント内部清掃用ブラシに対して、技術的アイデアの側面から左側に示す特許権が、デザインの側面から右側に示す意匠権が、それぞれ設定登録されています。

このように意匠登録と特許、実用新案とを絡めて権利化することもできますし、ネーミングの部分は商標登録により保護することができます。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘

03-6667-0247