地域団体商標とは?
地域団体商標とは、協同組合等が、協同組合等の構成員に使用させる商標であり、地域名と、商品・役務の普通名称等を組み合わせた文字のみで構成されていて、一定以上有名になっている商標をいう。
[参考1]商標法第7条の2(地域団体商標)
第1項 事業協同組合その他の特別の法律により設立された組合(法人格を有しないものを除き、当該特別の法律において、正当な理由がないのに、構成員たる資格を有する者の加入を拒み、又はその加入につき現在の構成員が加入の際に付されたよりも困難な条件を付してはならない旨の定めのあるものに限る。)、商工会、商工会議所若しくは特定非営利活動促進法 (平成十年法律第七号)第二条第二項 に規定する特定非営利活動法人又はこれらに相当する外国の法人(以下「組合等」という。)は、その構成員に使用をさせる商標であつて、次の各号のいずれかに該当するものについて、その商標が使用をされた結果自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、第三条の規定(同条第一項第一号又は第二号に係る場合を除く。)にかかわらず、地域団体商標の商標登録を受けることができる。
第一号 地域の名称及び自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する文字のみからなる商標
第二号 地域の名称及び自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして慣用されている名称を普通に用いられる方法で表示する文字のみからなる商標
第三号 地域の名称及び自己若しくはその構成員の業務に係る商品若しくは役務の普通名称又はこれらを表示するものとして慣用されている名称を普通に用いられる方法で表示する文字並びに商品の産地又は役務の提供の場所を表示する際に付される文字として慣用されている文字であつて、普通に用いられる方法で表示するもののみからなる商標
商標法では、「地域名」と「商品・役務名」とを単純に組み合わせた商標の登録を認めていません。
例えば、「北海道焼き肉」とか、「東京タクシー」とか、「大阪ラーメン」とか、「名古屋進学塾」とか、「広島美容室」とか、「福岡ハンバーガー」等のように、地域名に対して、商品とか役務(サービス)についての普通名称とか慣用名称とかを組み合わせたものは、個人が仮に出願しても特許庁の審査を突破することができません。
地域団体商標も商標の中の一つです。商標は、いわば名前ですからその名前を聞いた場合に、少なくとも他の同業者が提供する商品等と区別できるものである必要があります。
商標「北海道焼き肉」の場合には、北海道で提供される焼き肉全般のことを意味しますから、その商標を見ただけでは誰が提供している商品なのか、全くわかりません。
このようにそもそも名前としての機能を持っていない商標は一人に独占権を与えて保護するよりも、商標法上、広くみんなに開放すべき商標であるとして位置づけられています。
みんなが使用している言葉を、なぜ一人に独占させなければならないのか、ということです。
みんなが使っている言葉を一人に独占させたら、他の同業者が困ってしまいます。
地域団体商標を保護する必要性
地域名にしても、商品や役務の普通名称にしても、これらの表記は広くみんなが使うことのできる表記であって、そもそも一個人が独占できる表記ではありません。
このため原則として、誰も「地域名」+「商品・役務の普通名称」の文字商標について商標権を取ることはできませんでした。
ところがこの原則を貫いた場合、不都合が生じます。
誰も独占権が得られない結果、誰もが自由に「地域名」+「商品・役務の普通名称」の文字商標を使える状態のままです。
この場合、悪徳業者が低品質の商品を「地域名」+「商品・役務の普通名称」の文字商標を使って売りさばく行為をストップさせる手段がないことになります。
一部の地域では既に地域が一体となって、「地域名」+「商品・役務の普通名称」の文字商標を特産品として育てている実情もあります。
地域の特産品保護と地域活性化、地域おこしの一環として、地域が一体となって、協同組合等を中心として「地域名」+「商品・役務の普通名称」の文字商標を有名にした場合には、地域団体商標として保護しましょう、という制度が平成18年に設けられました。
(1)地域団体商標の特徴:協同組合等の団体が構成員に使用させる商標であること
地域団体商標の商標権者になることができるのは、個人ではなく、協同組合等の一定の法人格を有する団体に制限されています。
個人が協同組合を設立して、その協同組合名であれば地域団体商標についての商標権を取得できるかというと、簡単には商標権を取得できない仕組みになっています。協同組合の構成員に使用させるための商標が地域団地商標ですから、地域全体がまとまっている必要があります。協同組合の構成員が揃っているかどうかも審査対象になりますから、見せかけの構成員を揃えても特許庁の審査を通過することはできないです。
(2)地域団体商標の特徴:「地域名」+「商品・役務の普通名称」の文字のみの商標であること
地域団体商標の商標登録が認められる特徴は、文字のみの商標であることです。文字以外の、図形とかマークの要素がある場合には、協同組合等の法人でなくても個人でも商標権を取得することができます。
ただし、「地域名」+「商品・役務の普通名称」に文字以外の図形とかマークとかの要素を付けて商標登録された場合、「地域名」+「商品・役務の普通名称」の文字のみを使う第三者に対して商標権の侵害であるとして使用の中止を求めることはできません。
「地域名」+「商品・役務の普通名称」の文字のみから構成される商標は、そもそも誰でも使用できる商標だからです。
(3)地域団体商標の特徴:一定以上、有名になっていること
地域団体商標が継続的に使われるようになった結果、一定以上有名になっている場合には法的に保護するだけの価値が実際に商標に生じている、と考えて保護します。
実際に法的に保護するだけの価値が発生する程度に有名になっているかどうかについても、特許庁の審査で判断されます。
ですので、一定以上有名になっていることを示すことができない状態で特許庁に商標登録出願しても、審査に合格できない点に注意してください。
個人や一企業は地域団体商標に手を出してはいけません
個人の方が一番欲しい商標は、「地域名」+「商品・役務の普通名称」の文字のみから構成される商標であると思います。
「横須賀サンドイッチ」とか、「長野まんじゅう」とか、「京都英会話教室」とかの文字だけの商標権が個人で得られるとしたら、こんなにすごいことはありません。
業務のカテゴリーを独占することができ、同業他社を簡単に排除することができるからです。
ところが最初に説明した通り、このような「地域名」+「商品・役務の普通名称」の文字のみから構成される商標は特許庁における審査に合格できない代表例です。
そもそも地域団体商標は、法人格を有する協同組合等が代表して商標権を取得して、地域活性化のために使用することを前提にしています。
もし、地域団体商標を使い始めてしまったら、地域のみんなのために宣伝広告費を使うことになってしまいます。
個人が率先して地域の活性化に取り組むことはそれはそれで意義があることですが、一個人が地域を活性化させるのは、事業の初期段階で取り組むべき課題ではないです。
商標権を取ることができない商標に関わっても、儲かることが分かると後から同業他社がこちらのマーケットに続々参入してきますので、結局得られる利益が減少することになります。
一個人は地域団体商標に手を出さないことを強くお奨めします。