索 引
1. 同一区分内の「取り漏れ」が招く長期コスト増
サマリー(要点)
商標の費用は区分数で増減します。同一区分内の品目追加は、原則として特許庁印紙代に影響しません。
いったん出願すると指定商品・役務の追加はできません。削除のみ可能です。取り漏れは別出願となり、出願料・登録料・維持費が二重になります。
初回出願時に、現時点と近い将来に要る品目を同一区分で取り切ることが、費用面で有利です。
2. はじめに
商標登録の費用を比較検討する際、「料金の安さ」や「登録の確実性」に注目が集まります。一方で、同一区分内の品目を取り漏らしたために、あとから別出願が要るケースが見受けられます。初期費用を抑えたつもりでも、長期的には費用がかさむ結果になります。
実務で発生しやすい「取り漏れ」のパターンと費用構造を整理します。出願設計のポイントを実例とともに解説し、無駄なコストを回避するための知識を提供します。
3. 実務でよく発生する「取り漏れ」パターン
同一区分で並べて考えると、一緒に入れておくべき品目の組み合わせが見えてきます。代表的な事例を示します。
第3類(化粧品・洗浄剤分野)の取り漏れ例

Fig.1 権利範囲にヘアートリートメントやリンスを含むのに、シャンプーの権利が抜け落ちた商標権数の推移
2019年は「シャンプーの権利が抜け落ちた案件」が1402件だったのに対し、2020年は1832件、2021年は2401件に増加しています。つまり2年間で1000件ほど、権利申請漏れが疑われる案件が増えています。
ヘアトリートメント、リンス、化粧品を指定したのに、シャンプーを忘れるケースがあります。ヘアケア商品を展開するなら、シャンプーは当然含めるべき品目です。
第25類(被服分野)の取り漏れ例

Fig.2 権利範囲に洋服を含むのに、下着や靴下の権利が抜け落ちた商標権数の推移
洋服を指定する際に下着や靴下を見落とすケースが散見されます。アパレルブランドが総合展開する場合、これらの品目も同時に保護対象にしてください。
第33類(酒類分野)の取り漏れ例

Fig.3 権利範囲に日本酒を含むのに、洋酒やワインの権利が抜け落ちた商標権数の推移
日本酒のみを指定して洋酒やワインを含めないケースがあります。将来、商品ラインナップを広げる可能性があるなら、初回出願時に広く指定しておきましょう。
これらの見落としは、「不要だから外した」という意図的な判断ではなく、同一区分内の品目を把握しきれていないことが原因と見受けられます。
無料で追加できるのに、あえて権利範囲から外す理由は「知らなかったから」「教えてもらえなかったから」ではないでしょうか。
4. 商標登録費用の基本構造:区分単位での課金システム
特許庁に納付する印紙代は区分単位で設定されています。同一区分内で指定商品・役務を増やしても、印紙代は変わりません。この点は費用計算で大切な要素です。
代理人手数料は、区分単位の定額制を採用している特許事務所が大半です。
品目数が通常の範囲内であれば、追加料金が発生しないケースが一般的です。ただし、品目が著しく多い場合は個別対応となることもあります。
初回出願時に同一区分内で品目を広げても追加費用が発生しないケースがあります。この費用構造を理解しておけば、効率のよい出願設計が可能です。
5. 取り漏れが引き起こす追加コストの実態
商標出願後は指定商品・役務の追加ができないため、漏れが判明したら同一商標で新規出願する形になります。この制約により、以下の追加コストが発生します。
倍額費用の増加
新規出願に伴い、出願料と登録料がもう一件分かかります。10年ごとの更新費用も二重に発生し続けます。30年間の権利維持を想定すると、更新費用だけでも大きな金額差が生じます。
申請漏れの穴埋め出願による権利増加
権利が複数に分かれると管理負担も増えます。更新期限の管理、名義変更や住所変更の手続き、ライセンス契約の管理など、事務作業が倍増します。企業の知的財産管理部門にとって、この管理コストは無視できません。
申請漏れ部分の、他社権利取得
競合他社に先取りされた場合のリスクも考慮してください。取り漏らした品目について他社が商標登録を行うと、その回復には無効審判や取消審判といった手続きが要り、さらなる費用と時間がかかります。
6. 商標出願に関する誤解と正しい理解
商標出願でよく寄せられる質問と、その回答を整理します。
範囲を広げると、審査期間が長くなるのでは?
「品目を増やすと審査が遅くなるのではないか」という懸念がありますが、審査期間は主に特許庁の審査体制や拒絶理由の有無で決まります。
審査に合格できるかは、競合出願より先に出願したかどうかがカギです。同一区分内で品目を増やしたことが審査遅延の主要因にはなりません。日本は先願主義を採用しているため、早期に出願することで他者の先取りを防げます。
範囲を広げると、不使用による取消請求を受けるリスクが増えるのでは?
「将来使用予定の品目まで含めると不使用取消のリスクがあるのでは」という心配も聞かれます。
不使用取消審判の請求には、継続した3年間の不使用が要件です。使用計画がある品目については、初回から含めておく方が総コストとリスクの観点で合理的です。ただし、事業計画とのバランスを考え、現実的な範囲で指定してください。
「代理人が最適な品目を自動的に選んでくれるはず」という期待もありますが、出願人の事業内容、販売計画、ECサイトや実店舗での取り扱い状況など、出願人にしかわからない情報がたくさんあります。弁理士・弁護士と協力して、指定商品・役務を決めてください。
7. 初回出願で漏れなく権利化するための実務手順
効果的な商標出願のために、以下の手順で準備を進めてください。
現在の取り扱い商品を明確にする
出願前のヒアリング段階では、現在取り扱っている商品・役務を詳細にリストアップします。SKUや型番、カテゴリー別に整理し、漏れがないか確認します。今後1年から3年の間に投入を予定している商品・役務も、内示レベルの情報で構わないので整理しておきましょう。
実務上取り扱う単位で考える
ECサイトでのカテゴリー分類や実店舗での陳列方法も参考になります。消費者がどの分類で商品を認識しているか把握すれば、関連商品の取り漏れを防げます。たとえば、自社のヘアケアコーナーにシャンプー、トリートメント、スタイリング剤が並んでいるなら、すべて権利申請範囲に入っているか確認してください。
海外展開も見据える
海外展開を予定しているなら、マドリッド協定議定書(マドプロ)の活用や各国の商標制度の違いも考慮に入れてください。国によって区分の解釈や指定商品・役務の記載方法が異なるため、将来の国際展開を見据えた出願設計が望ましいです。
権利申請漏れで他社に横取りされないよう検討する
ブランド戦略の観点でも検討してください。シリーズ名やサブブランドの展開、ライセンスビジネスの可能性、OEMやODM生産の有無など、事業展開の方向性に応じて指定商品・役務を決めましょう。
出願後は権利補充ができないからこそ、内容をチェックする
同一区分内の具体的なチェックでは、自社で扱う商品にうっかり漏れがないか確認します。第3類ならシャンプー、リンス、トリートメント、ヘアオイル、スタイリング剤、ボディソープなど。第25類なら上衣、下衣、下着、靴下、帽子など衣料品全般。第33類なら日本酒、洋酒、ワイン、リキュールなど酒類全般を視野に入れてください。
実際の表現については、J-PlatPatの標準的な用語例や類似群コードを参照し、担当弁理士と調整しながら決定します。
提出前の最終確認では、指定商品・役務リストの最終版を出願人側で読み上げて確認してください。含めなかった品目は、その理由を明確にし、将来の使用計画と不使用リスクのバランスを考慮した判断であることを確認しましょう。担当弁理士のチェックを経て、社内の関係部署(ブランド管理部門、法務部門、事業部門)の合意を得てから出願手続きに進んでください。
8. 商標登録費用の最適化に向けて
商標登録の費用は区分単位で設定されており、同一区分内の品目追加は印紙代の増加を招きません。この基本原則を理解することが、効率的な権利取得の第一歩です。
出願後は指定商品・役務の追加ができないため、取り漏れが発生すると別出願が要り、二重のコストが発生します。初回出願時に品目を過不足なく含めることで、長期的な費用削減と確実な権利保護を実現できます。
商標登録は企業のブランド戦略の中核をなす投資です。担当弁理士と連携し、事業計画に即した指定商品・役務リストを作成すれば、無駄のない権利取得が可能です。出願前の準備段階で十分に検討し、将来を見据えた出願設計を行うことが、費用対効果の高い商標権取得につながります。
個別の案件では、事実関係、事業計画、各国の法制度により最適な対応が異なります。具体的な出願設計は、担当弁理士や弁護士に相談のうえ、個別の事情に応じて判断してください。
担当弁理士や弁護士と直接相談しないで出願するのは危険です。担当弁理士や弁護士は、(その場に実在するのであれば)直接、責任を持って対応してくれます。安心して担当弁理士や弁護士に直接相談してください。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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ファーイースト国際特許事務所|弁理士 平野泰弘
