ビジネスを展開する上で、ブランドの保護は事業者の重要な要素です。商標登録は、あなたの大切なブランドを守る確実な方法の一つとして位置づけられています。
しかし、商標登録には明確なメリットがある一方で、知っておくべきデメリットも存在します。
今回は、商標登録の専門家として約2万件の企業のブランド保護をサポートしてきた経験を基に、商標登録の8つのメリットと3つのデメリットについて、実際のビジネスシーンを想定しながら解説していきます。
これから商標登録を検討している経営者や担当者の方にとって、判断材料となる情報をお届けします。
1. 商標登録がもたらす8つの強力なメリット
メリット1:他社から商標権で訴えられることがない
商標権は独占権です。商標権者だけが登録商標を独占して使用できるので、登録商標を権利範囲内で使用している限り、原則として他人から商標権侵害で訴えられることを防ぐことができます。
商標登録の威力は、権利者以外が同じ商標を使用することを法的に禁止できることです。日本国憲法で保障されている「表現の自由」という基本的人権を制限してまで保護される、強力な権利なのです。
この強力な保護の背景には、国家の経済発展は商標の適切な保護なくしては成り立たないという考え方があります。
商標権は国家が経済活動の基盤として位置づけている、重要な知的財産権だということです。この点を理解することで、商標登録の真の価値が見えてきます。
メリット2:類似商標からも保護される
商標登録の保護範囲は、同一の商標に留まりません。類似する表現や言葉についても、第三者の使用を禁止できます。「STARWARS」というアルファベット表記が商標登録されていれば、カタカナ表記の「スターウォーズ」も当然保護対象となります。
この類似性の判断については、過去に話題となった「白い恋人」と「面白い恋人」の商標争いが印象的な事例として挙げられます。
北海道の名菓「白い恋人」と吉本興業が販売した「面白い恋人」が類似するかどうかで法廷闘争に発展したこの事件は、類似性判断の複雑さを物語っています。
類似性の判断は高度に専門的な領域ですが、基本的には社会常識に基づいて判断されると考えて良いでしょう。
メリット3:地域を超えた全国規模での権利行使が可能
商標権の効力は日本全国に及び、権利者の実際の商圏や営業エリアは一切関係ありません。
「白い恋人」が北海道限定販売の商品であったとしても、大阪や東京で商標を侵害する行為があれば、その使用を停止させることができます。
将来的に事業拡大を計画している企業にとって重要な要素です。現在は地域限定でビジネスを展開していても、商標を取得しておくことで、将来の全国展開時に他社による商標の先取りを防げるのです。
メリット4:違反者に対する法的措置が可能
商標権を侵害した者に対しては、使用の差し止めと損害賠償の両方を請求できます。使用の差し止めについては故意・過失を問いません。「悪気はなかった」「知らなかった」という弁明は通用せず、使用を停止させることができます。
侵害者が商標の無断使用によって利益を得ている場合、その利益相当額を損害賠償として請求することも可能です。
商標権侵害は刑事罰の対象でもあり、悪質なケースでは刑事告発という選択肢もあります。これらの法的手段は、ブランドを守る上で強力な武器となります。
メリット5:半永久的な保護と資産としての価値
特許権が20年で効力を失うのとは対照的に、商標権は更新手続きを継続する限り半永久的に保護されます。
実際に、100年以上前から登録され続けている商標も数多く存在しており、世代を超えて受け継がれるブランド資産となっています。
商標権は譲渡することも可能です。
ブランドに金銭的価値が生まれた場合、それを売買の対象とできるため、知的財産としての資産価値も持っています。成功したブランドの商標権は、時として数億円の価値を持つこともあり、企業の重要な無形資産として位置づけられています。
メリット6:他社による先取りを防止
現在は使用していない商標であっても、将来的な使用を見込んでいる場合、事前に商標登録をしておくことで他社による先取りを防げます。新商品の開発や新サービスの企画段階において重要な戦略となります。
日本の商標制度は先願主義(先に出願した者が優先される)を採用しているため、使用の実態よりも出願の時期が重視されます。優れたネーミングやブランド名を思いついた段階で、速やかに商標出願をしておくことが賢明な判断と言えるでしょう。
メリット7:消費者に対する品質保証機能
商標登録により、その商標の出所が明確になることで、消費者に対する品質保証の役割を果たせます。「このマークがあるから○○会社の商品だから安心」という消費者の信頼は、ブランド価値の向上に直結します。
現代のように商品やサービスが氾濫する市場において、消費者が選択の基準とするのは往々にして「信頼できるブランドかどうか」です。商標登録によって確立された明確な出所表示は、消費者の安心感を醸成し、リピート購入や口コミによる拡散にもつながる重要な要素となります。
メリット8:社会的信用の獲得と広告宣伝への活用
商標が特許庁によって正式に認められたということは、日本国がそのブランドの正当性を認めたということを意味します。この事実は、企業の社会的信用の向上に大きく貢献します。
現代のデジタル社会において、ウェブサイトやSNS、各種広告媒体でブランドを宣伝する機会は飛躍的に増加しています。
そうした宣伝活動の中で「商標登録第○○○○○○○号」という表示を行うことで、そのブランドの正当性と信頼性をアピールできます。オンラインでの信頼性が重視される現代において、価値の高いメリットと言えるでしょう。
2. 知っておくべき3つのデメリット
商標登録には多くのメリットがある一方で、デメリットも存在します。適切な判断を行うために、これらのデメリットについても正しく理解しておくことが重要です。
デメリット1:相応の費用負担が発生する
商標登録には費用が発生します。特許庁に納める印紙代として、登録までに合計33,900円(1区分・5年間の場合)が必要となります。これは国に支払う費用であり、避けることはできません。
専門的な手続きを弁理士事務所に依頼する場合には、別途手数料が発生します。この手数料は事務所によって大きく異なりますが、10万円から30万円程度が相場となっています。これらの費用をブランド保護のための「保険料」と考えれば、将来的なリスクを回避するための投資として価値のあるものと言えるでしょう。
デメリット2:登録完了までの期間が長期に及ぶ
商標登録の審査には相当な時間を要します。申請から登録完了まで、順調に進んでも約8ヶ月程度の期間が必要となります。特許庁に申請される商標の数が多く、1日あたり約400件もの申請があるためです。
一定の条件を満たす場合には早期審査制度を利用することで、審査期間を短縮することも可能です。
この制度には利用条件がありますが、急いでブランド保護を図りたい場合には検討する価値があります。審査期間の長さは確かにデメリットですが、その間も「商標出願中」として一定の権利主張が可能であることも付け加えておきます。
デメリット3:先願主義による「早い者勝ち」の性質
日本の商標制度は先願主義を採用しているため、実際の使用状況や知名度に関係なく、先に出願した者が権利を取得します。
あなたの会社が長年にわたってあるブランド名を使用し、それが市場で高い認知度を得ていたとしても、商標登録をしていなければ、他社が先に出願することで権利を取られてしまう可能性があります。
これは権利関係を明確にし、紛争を防止するための制度的な割り切りでもあります。長年使用しているブランド名であればあるほど、他社による先取りを防ぐために早急に商標登録を行うことが必要ということでもあります。
3. まとめ:商標登録は現代ビジネスの必須戦略
以上、商標登録の8つのメリットと3つのデメリットについて詳しく解説してきました。デメリットも確かに存在しますが、ブランドの価値が企業価値の大部分を占める現代において、商標登録はもはや必須の戦略と言えるでしょう。
デジタル化が進む現代では、ブランドの模倣や侵害のリスクは格段に高まっています。一度失ったブランドの信頼を回復するのは容易ではありません。そうしたリスクを考えれば、商標登録にかかる費用や時間は決して高い投資ではないはずです。
あなたの大切なブランドを守り、さらなる発展につなげるために、商標登録という強力な武器を活用することをお勧めします。この記事が、あなたのブランド戦略の一助となれば幸いです。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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