小田原かまぼこの地域団体商標権侵害問題とは

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小田原かまぼこの地域団体商標権侵害問題について、商標登録の専門家として解説します。

地域の特産品として親しまれている小田原かまぼこですが、その商標を巡って法的な争いが、以前発生しました。この問題は、地域団体商標制度の複雑さと、地域の伝統産業における商標権の在り方を考える上で参考となる一例となっています。

1. 小田原かまぼこ商標権侵害訴訟の概要

小田原かまぼこは、小田原蒲鉾協同組合が地域団体商標として特許庁に登録している商標です。地域団体商標制度は、協同組合などの団体に限定して商標権を認める特別な制度です。

この商標権を巡って、組合に加入していない地元の製造業者が「小田原かまぼこ」の名称を使用したことで、商標権侵害として訴えられる事態が発生しました。

横浜地方裁判所では、訴えられた2社に先使用権が認められ、原告側の請求は棄却されました。これを不服とした商標権者側は知的財産高等裁判所に控訴しましたが、最終的には2018年6月に和解という形で決着しました。

2. 地域団体商標制度の仕組みと課題

地域団体商標制度は平成18年(2006年)に創設された比較的新しい制度です。この制度が生まれた背景には、地域の特産品を保護する必要性がありました。

従来、「地域名」と「商品の普通名称」を組み合わせた商標は、誰もが自由に使用できる表記として、特定の個人や団体が独占することはできませんでした。

「小田原」という地名と「かまぼこ」という商品名は、それぞれ単独では商標登録の対象にならない一般的な表記です。

しかし、地域が一体となって品質管理を行い、長年の努力によって築き上げたブランド価値を、無関係な業者に利用されてしまうという問題がありました。そこで、一定の条件を満たす場合に限り、協同組合などの団体が地域団体商標として登録できる制度が設けられたのです。

小田原かまぼこの地域団体商標は、2010年4月14日に出願され、特許庁の審査を経て2011年9月9日に商標登録第5437575号として登録されました。

3. 商標権侵害問題の本質的な争点

今回の訴訟で最も重要な争点となったのは、先使用権の有無です。

日本の商標制度は先願主義を採用しています。つまり、実際に商標を使用している期間の長さではなく、特許庁に先に出願した者が権利を取得する仕組みです。このため、長年使用していた商標であっても、他者に先に登録されてしまえば、原則として使用できなくなってしまいます。

ただし、商標法には先使用権という例外規定があります。

地域団体商標の出願前から、その商標を使用していた事業者が一定の条件を満たす場合、継続して使用する権利が認められます。

先使用権が認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 1. 地域団体商標の出願前から使用していること
  • 2. 不正競争の目的なく使用していること

注)地域団体商標の先使用権が認められる要件は、他の場合に比較して甘くなっています。

今回の訴訟では、被告となった業者がこれらの要件を満たしていることを証明できたため、先使用権が認められました。

4. 地域の伝統産業における商標権の在り方

小田原かまぼこの事例は、地域の伝統産業における商標権の運用の難しさを示しています。

地域団体商標制度は、地域ブランドを保護し、地域経済の活性化を図ることを目的としています。一方で、その地域で長年事業を営んできた事業者の権利も尊重する必要があります。

特に伝統産業においては、組合に加入していなくても、地域の産業発展に貢献してきた事業者が存在します。これらの事業者が突然商標を使用できなくなることは、地域産業全体にとってもマイナスになりかねません。

5. 事業者が取るべき対策と教訓

この事例から、地域で事業を営む事業者が学ぶべき教訓がいくつかあります。

まず、商標の使用実績を証拠として残しておくことの重要性です。カタログ、パンフレット、新聞広告、取引伝票など、日付が明確に分かる資料を保管しておくことで、いざという時に先使用権を主張できます。

次に、地域団体商標の出願動向を注視することです。特許庁のJ-PlatPatなどで定期的に確認し、自社に関連する商標が出願された場合は、速やかに対応を検討する必要があります。

そして、最も確実な対策は、地域の協同組合に加入することです。組合員であれば、地域団体商標を正当に使用する権利が与えられます。ただし、組合への加入には一定の条件があり、また組合費などの負担も発生するため、各事業者の状況に応じた判断が必要です。

6. まとめ

小田原かまぼこの地域団体商標権侵害問題は、地域ブランドの保護と個別事業者の権利のバランスという、現代の知的財産制度が抱える課題を象徴する事例でした。

地域団体商標制度は、地域経済の発展に寄与する重要な制度です。しかし、その運用においては、地域で長年事業を営んできた事業者の権利にも配慮する必要があります。

今回の事例では最終的に和解という形で解決しましたが、このような争いを未然に防ぐためには、地域の事業者間での対話と協力が不可欠です。地域全体の発展を目指しながら、個々の事業者の権利も尊重する、バランスの取れた制度運用が求められています。

商標権は事業を守る重要な権利ですが、その取得と行使には慎重な検討が必要です。特に地域の伝統産業においては、法的な権利関係だけでなく、地域社会における共存共栄の精神も大切にしながら、適切な知的財産戦略を構築していくことが重要です。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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