(1)商標エンブレムを表示しなくても商標権侵害になる?
(1-1) 立体形状だけの立体商標が登録されている
商標権侵害というと、商標のタグやエンブレムを商品につけた場合に生じる場合が多いです。ところが商品のどこにも文字、記号、マーク等のタグやエンブレムを表示しなくても商標権侵害になる場合があります。
盲点になりやすいのが形状のみの立体商標についての商標権です。
文字、記号、マーク等の情報を一切含まない形状のみの立体商標が商標登録されると、指定商品について登録された立体商標を使うことができるのは商標権者だけになります。
特許庁で公開されている商標公報からエルメスのバーキンの立体商標の登録事例を引用します。
特許庁公開の商標公報から引用
- 登録番号:商標登録第5438059号
- 登録日 :平成23年9月9日
- 権利者 :エルメス・アンテルナショナル
- 指定商品:ハンドバッグ
指定商品はハンドバッグであり、この登録された立体商標と同一か似た立体形状のハンドバッグを販売すると、商標権侵害になります。
(2)指定商品そのものの立体形状のみの出願合格は激ムズレベル
(2-1) 商品そのものの立体形状はまず審査に合格できない
登録されると無限の存続期間のある商標権が手に入るが
例えばハンドバッグを指定商品として、立体形状のみの商標が登録されると、こんなにおいしいことはありません。商標権は更新手続により半永久的に商標権を保持することができるからです。
デザインを保護する意匠権も、著作物を保護する著作権も、権利に存続期間があります。この期間を経過すると誰でも自由に使えるようになります。
ところが商品そのものの形状について立体商標の審査に合格できれば無限の存続期間をもつ商標権が手に入ります。
実際にハンドバッグの一般的な立体形状について、ハンドバッグを商標に使用する商品に指定して特許庁に商標登録出願した場合には、特許庁は簡単には登録を認めません。商品そのものの一般的な形状は、通常は誰もが自由に使えるものであり一個人に独占させるべきではないからです。
これは商品「お米」を商標に使用する商品に指定して、商標「お米」を特許庁に出願しても審査に合格できないのと同様です。
商標法上は例外規定として、需要者がその立体商標をみてすぐにどこの商品が分かるくらいに非常に有名になった場合には、例外的に商標登録を認めて保護しましょう、という規定があります(商標法第3条第2項)。
エルメスのバーキンもハンドバッグの形状を見ればバーキンと分かるくらいに非常に有名になっていますので、例外的に登録が認められた、ということです。
文字、記号、マーク等のタグやエンブレムをどこにも表示していない立体形状について、その立体形状そのものの商品を指定した場合には審査に合格するのは超・難関レベルになります。
会社名等の識別情報を立体形状にいれると比較的簡単に立体商標の登録ができるようになります。
(3)年商10億円の社長は類似していないと主張しているが
(3-1) 商標権を侵害するかどうかは販売者の主観では決まらない
エルメスのバーキンと共通部分の多いハンドバッグを販売した場合、「これはエルメスのバーキンではありません。」とか、「これはエルメスのバーキン風のハンドバッグであり本物ではありません。」との表記を仮に販売者が付けた場合とか、「エルメスのバーキンとは類似していません。」と主張した場合に商標権侵害ではなくなるのでしょうか。
結論からいうと商標権侵害になるかどうかは、販売者の意図や主観は考慮されません。
実務では、販売されているハンドバッグの商品と、エルメスのバーキンの登録されている立体商標とを比較し、「需要者が間違える程度に商品全体の外観が共通しているかどうか」、を裁判官が需要者の立場に立って頭の中で考えます。
商品全体の外観が共通していると判断されると商標権侵害になります。
例えば「これは偽物であり、本物ではありません。」と注意書きを付けても権利侵害を回避できません。商品全体の外観が共通する商品を販売した時点で完全にアウトになります(正確には販売のために商品を製造した段階でアウトになります)。
(4)まとめ
もしかすると商品のどこにもエルメスとかバーキンとかの表示をしていないのでセーフになると社長は考えたのかも知れませんね。
ただバーキンクラスになるとハンドバッグそのものの形状が立体商標として商標法により保護され、バーキンのハンドバッグそのものが商品表示として不正競争防止法で保護されます。エルメスの商標のタグやエンブレムを使っていない、というのは侵害回避のいいわけにはなりません。
ちなみに商標権侵害になるかどうかなんて全然知らなかった、と主張しても警察に逮捕されることはあります。法律を知らなかったからといって無罪放免にしてくれるほど警察は甘くはないです。
もし商標権侵害の事実を全然知らなければ、販売者側は寝耳に水のような逮捕を受けることもあるのです。
年商10億円は他人のふんどしで稼ぐのではなく、正々堂々と正規品を取り扱って稼いでもらいたいものです。
私のコメントはテレビ朝日スーパーJチャンネルで2017年7月15日に放映されました。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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