索 引
1. はじめに
この記事は、2020年東京オリンピックの開催が決まった直後の2013年9月に書いたものです。
東京大会は2021年に閉幕しましたが、大きなイベントの名称に便乗した商標出願がどう扱われるかという論点は今も変わりません。当時の解説を時点を明示して残しつつ、その後の制度改正の内容を加筆しました。
2. 「東京オリンピック」を第三者が商標登録できなかった理由
この記事を書いた時点で、「東京オリンピック」の文字だけの商標は特許庁に登録されていませんでした。では、大会の主催者以外の第三者が競技会などの役務を指定して「東京オリンピック」の商標登録を試みた場合、どうなったでしょうか。
競技会の分野では、先に「オリンピック」の文字だけの商標が登録されていました(商標登録第3275674号)。
「東京」は競技会が開催される場所を示すものですから、個人が独占するべき部分ではありません。商標の中では「東京」の部分は重要度が低く、「オリンピック」の部分が重要な部分であると考えられます。
このため商標「東京オリンピック」と「オリンピック」は互いに類似すると考えられ、既に登録されている商品・役務の範囲で第三者が「東京オリンピック」の登録を受けることは、まず期待できない状況でした。仮に第三者がオリンピックの開催を阻む目的で商標登録を試みても、特許庁が審査に合格させることはなかったでしょう。
3. 商標法以外の保護:不正競争防止法
気を付けたいのは商標法だけではありません。オリンピックの商標は広く知られていますから、不正競争防止法によっても保護されます。
「商標登録されていない分野なら『東京オリンピック』の商標を使っても大丈夫」と安心していると、商標法ではなく不正競争防止法などの別の法律で責任を問われる場合が考えられます。
実際、東京大会の際には、主催者側が便乗商法に厳しい姿勢で臨むことを表明していました。
4. コンセント制度が導入された現在はどうか
商標の審査では、先に登録された商標と同一または類似の商標は登録されないのが原則です。2024年4月1日に施行された改正商標法では、先行商標権者の承諾を得ており、かつ出所の混同が生じるおそれがない場合に併存登録を認めるコンセント制度が導入されました。
もっとも、オリンピックのように誰もが知っている商標では、出所の混同のおそれを否定するのは難しく、主催者側が承諾することも考えにくいところです。コンセント制度ができた現在でも、有名イベントへの便乗的な商標登録が認められる余地はほぼないと考えてよいでしょう。
5. ビッグイベントに便乗した商標の注意点
東京オリンピックに限らず、万博や国際的なスポーツ大会など、話題のイベントが近づくと、その名称にあやかった商標出願や商品展開を考える方が出てきます。
しかし、イベント名やその関連ワードは、商標法だけでなく不正競争防止法などでも保護されていることが多く、安易に使うと後でトラブルに巻き込まれかねません。
イベントに関連した名称で商売ができるかどうかは、事前に商標の登録状況をよく調べ、慎重に検討しておく必要があります。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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