索 引
1. 街で見かける「™」の正体とは
コンビニやスーパーで商品を手に取ると、商品名の横に小さく「™」というマークが付いているのを見たことはありませんか。
このマークは「TM（Trade Mark）」の略で、日本語では「商標」を意味します。
しかし、このマークが実際に何を表しているのか、正確に理解している人は意外と少ないのではないでしょうか。
TMマークは、ある名称やロゴが単なる一般的な言葉ではなく、特定の企業やブランドを識別するための商標として使用されていることを示すマークです。言い換えれば、「この名前は私たちのブランドを表すものです」という意思表示なのです。
2. 商標が必要な理由—なぜ名前に価値があるのか
そもそも商標とは何でしょうか。商標は、ある商品やサービスが誰によって提供されているかを消費者が識別できるようにするための標識です。
例えば、「ポテトチップス」という言葉だけでは、それがどのメーカーの商品なのか分かりません。
しかし、「カルビー」や「コイケヤ」といった名前があることで、消費者はその商品の提供元を瞬時に認識できます。
この識別機能こそが商標の本質であり、企業にとっては自社の商品やサービスの品質を保証し、消費者の信頼を獲得するための重要な資産となるのです。
商標は単なる名前以上の価値を持ちます。
長年かけて築き上げたブランドイメージや信頼性、品質への期待値など、すべてがその商標に集約されているからです。だからこそ、企業は自社の商標を大切に守り、育てていく必要があるのです。
3. TMマークが果たす役割
では、なぜわざわざTMマークを付ける必要があるのでしょうか。その理由は、商標として使用していることを示すためです。
特に重要なのは、まだ特許庁に商標登録をしていない段階でも使用できるという点です。新商品の発売や新ブランドの立ち上げには時間がかかり、商標登録が完了する前に市場に出すケースも少なくありません。そんなとき、TMマークを付けることで「この名称は当社が商標として使用しているものです」という意思を示すことができるのです。
これは競合他社に対する牽制の意味も持ちます。TMマークが付いていることで、他社が同じような名称を使用することを心理的に抑制する効果が期待できます。また、消費者に対しても、その名称が特定の企業やブランドを表すものであることを認識してもらいやすくなります。
4. 同じ言葉でも商標になる場合、ならない場合
商標の世界には興味深い特徴があります。それは、同じ言葉でも使用する商品やサービスによって商標として認められるかどうかが変わるということです。
「ポテトチップス」を例に考えてみましょう。お菓子のカテゴリーで「ポテトチップス」という名称を使う場合、これは「ジャガイモを薄切りにして揚げたスナック菓子」という一般的な商品名を表すため、商標として登録することはできません。誰もが自由に使える一般名称だからです。
しかし、もし「ポテトチップス」という名称を「電子出版物」に使ったらどうでしょう。
電子出版物の世界では「ポテトチップス」は一般的な名称ではありません。むしろ、特定の電子出版物を識別するユニークな名前として機能します。実際に、カルビー株式会社は「電子出版物」の分野で「ポテトチップス」を商標登録（商標登録第6730365号）しています。
このように、商標は使用する商品・サービスとの関係で判断されるため、同じ名称でも分野が異なれば商標として成立する場合があるのです。
5. TMマークとRマークの決定的な違い
商品やサービスの名称に付いているマークには、TMマーク（™）の他にRマーク（®）もあります。この2つのマークの違いを正確に理解することは、商標を適切に使用する上で重要です。
TMマーク（™）は、その名称を商標として使用していることを示すマークで、商標登録の有無に関わらず使用できます。一方、Rマーク（®）は「Registered（登録済み）」を意味し、特許庁に正式に商標登録が完了している商標にのみ使用が許されるマークです。
つまり、TMマークは「商標として使っています」という宣言であり、Rマークは「正式に登録された商標です」という宣言なのです。
6. 日本における商標マークの法的位置づけ
興味深いことに、日本の商標法にはTMマークやRマークの使用に関する明確な規定はありません。これらのマークの使用は義務ではなく、使用しなかったからといって法律違反になることもありません。
実務上これらのマークが広く使われているのには理由があります。
商標であることを明確に示すことで、模倣を防ぎ、消費者の混乱を避け、自社のブランドを守ることができるからです。特にグローバルに事業を展開する企業にとっては、国際的に認知されているこれらのマークを使用することで、世界中で統一的なブランド管理が可能になります。
ただし、注意すべき点があります。商標登録をしていないにも関わらずRマーク（®）を使用することは、虚偽表示として法的な問題になる可能性があります。登録が完了していない段階では、Rマーク（®）を使用するのは控え、登録が完了してからRマークに切り替えるという正しい手順を踏むことが重要です。
7. ブランドを守るための第一歩
現代のビジネスにおいて、ブランドの価値は計り知れません。長年かけて築き上げた信頼やイメージは、企業にとって最も重要な資産の一つです。そのブランドを守る第一歩が、商標の適切な管理と活用です。
TMマークは、まだ商標登録が完了していない段階でも、自社のブランドを主張し、保護するための一つの手段です。新しいブランドを立ち上げる際、商標登録の手続きと並行してTMマークを使用することで、早い段階から商標としての認知を広めることができます。
しかし、TMマークはあくまでも第一歩に過ぎません。本格的な法的保護を得るためには、特許庁への商標登録が不可欠です。登録が完了すれば、Rマークを使用できるようになり、商標法による強力な保護を受けることができます。
逆に、TMマークを長年表示したままでは、商標登録に失敗しましたよ、商標権を取ることができませんでしたよ、ということをライバルに教える結果に終わってしまいます。このため、TMマークを1年以上に渡って使用することは推奨できません。
商標は、適切に管理し活用することで、企業の成長を支える強力な武器となります。
あなたの大切なブランドが他者に模倣されたり、不正に使用されたりすることがないよう、今すぐ商標戦略を見直してみてはいかがでしょうか。小さな「™」マークから始まる商標保護の取り組みが、将来の大きなビジネスチャンスにつながるかもしれません。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247