(1)「東京観光の代名詞」となるまで
(1–1)はとバスの歩んできた道のり
株式会社はとバスは、1948年に新日本観光株式会社として創立しました。現在の社名となったのは、1963年のことです。
1949年には、団体貸切バス第1号として成田山初詣への運行を行い、5人の女性ガイドを採用するなど、すでに現在の業務の原型が固まっていたようです。その後、定期観光バスや貸切バスの運行、バスツアーの企画・催行などを行い、利用客をふやしていきました。
そして「はとバス」の愛称で親しまれ、「東京観光の代名詞」としての立場を確立していきます。
しかし、1990年代後半〜2000年代前半には、レジャーの多様化などの影響を受け、一時、業績に翳りがみられました。
けれど、顧客の要望に応える新たなツアーを次々に企画したことや、安く手軽なバスツアーが見直されたことなどから、近年は再び利用者をふやしています。
(2)鳩のモチーフに込めた安全な運行への願い
(2–1)初めて車体に描かれた鳩のマーク
初めてバスの車体に鳩のマークが描かれたのは、1949年のことです。
平和の象徴といわれる鳩は、安全や快速のシンボルでもあります。
そして、目的地を訪れ、飛び立った場所に必ず帰ってくる伝書鳩は、利用者を安全に運ぶバスの運行と重なるものがありました。
そのため、鳩はぴったりのモチーフだったのです。
株式会社はとバスHPより引用
(2–2)商標登録された2代目ロゴマーク
そして、1950年には、2代目となるロゴマークが決定しました。
これはその後、商標として登録されています。
はとバス(商標登録 第2315844号)
2代目のロゴマークは、いくつか商標登録されています。そのうちの1つは以下の通りです。
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用
- 権利者:株式会社はとバス
- 出願日:1987年12月2日
- 登録日:1991年6月28日
区分は以下の通りです。
- 第12類「バス並びにその部品および附属品」
車両の色に込められた意味とは?
はとバスの象徴ともいえる黄色い車両。
この色には、大きくバスがみえることや、東京のビル群のなかでも映える色であること、くもりの日や日陰でもみつけやすいことなど、いくつかの意味が込められています。
1979年3月以降に購入されたものは、車両のイメージ統一のために、黄色で塗装されてきました。
そして、2014年には、「ピアニシモIII」という漆塗りのような黒い車両が登場します。
「ピアニシモIII」は、はとバスの最上級車両であり、革張りのシートなど高級感の漂う車内となっています。
これは、世間に定着した「はとバス」=「黄色の車両」という印象を逆手に取ることで、これまでのバスとの差別化を図り、消費者にその違いを明確に伝えています。
(3)4羽の鳩があしらわれたシンボルマーク
(3–1)デザインに込められた思いとは?
では、1989年から導入され、現在、使用されているシンボルマークをみてみましょう。
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用
「HATO BUS」の「H」「B」を元にデザインされていますが、アルファベットのなかにいる4羽の鳩の姿に気づいたでしょうか?
この4羽の鳩に込められているのは、安全や快適、信頼、繁栄という4つの願いと、夢や未来、飛躍、旅立ちという4つのメッセージだといわれています。
(3–2)シンボルマークの商標登録
このシンボルマークは、いくつも商標登録されています。そのうちの1つをご紹介します。
HATO BUS(商標登録 第5504401号)
- 権利者:株式会社はとバス
- 出願日:2012年1月19日
- 登録日:2012年6月29日
区分は以下の通りです。
- 第16類「紙製包装用容器、衛生手ふき、文房具類、印刷物、写真」など
- 第20類「クッション、座布団、まくら、木製・竹製またはプラスチック製の包装用容器、うちわ」など
- 第21類「化粧用具、ガラス製または陶磁製の包装用容器、おみくじ、花瓶、靴べら」など
- 第28類「おもちゃ、人形、すごろく、遊戯用器具、運動用具」など
(4)車両やコースの名称も商標として登録
はとバスでは、一部の車両やコースの名称も商標として登録されています。
(4–1)人気の2階建てオープンバス「オー・ソラ・ミオ」の商標登録
2009年秋に登場して以来、高い人気を誇っている2階建てオープンバス「オー・ソラ・ミオ(’0 sola mio)」。
屋根のないつくりによって、走行中は景色だけではなく、風や音、香りなどをダイレクトに感じることができます。
「オー・ソラ・ミオ」という名称は、「私の太陽」を意味する「オー・ソレ・ミオ(’0 sole mio)」という、イタリア語をもじってつけられたものです。
その名の通り、太陽の光を浴びながらの走行は、通常のバス旅行では味わえない感動が得られます。
いくつものコースがありますが、紅葉の時期は「東京いちょう回廊」というプランが人気となっています。
国会議事堂や神宮外苑の美しいいちょう並木を、オープンバスの2階から眺めることができます。
オー・ソラ・ミオ/’0 sola mio(商標登録 第5301895号)
- 権利者:株式会社はとバス
- 出願日:2009年9月28日
- 登録日:2010年2月12日
区分は以下の通りです。
- 第39類「車両による輸送に関する情報の提供、その他の車両による輸送、主催旅行の実施に関する情報の提供、その他の主催旅行の実施、旅行者の案内に関する情報の提供」など
(4–2)富士登山をめざすコース名の商標登録
少し変わったコース名としては、以下のような商標も登録されています。
はとバスで行く 一生に一度は富士登山(商標登録 第5659828号)
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用
- 権利者:株式会社はとバス
- 出願日:2013年9月10日
- 登録日:2014年3月28日
区分は以下の通りです。
- 第39類「鉄道による輸送、車両による輸送、企画旅行の実施、旅行者の案内、旅行に関する契約(宿泊に関するものを除く)の代理・媒介または取次ぎ」など
- 第43類「宿泊施設の提供、宿泊施設の提供の契約の媒介または取次ぎ、飲食物の提供、布団の貸与、まくらの貸与」など
(5)まとめ
長年、東京観光に欠かせない存在であり続けている「はとバス」。
その多彩なコースやサービスはもちろん、鳩という身近なモチーフがあったことも、人々に親しまれてきた理由の1つかもしれません。
このような世間に浸透する象徴があることは、その企業のブランド力を高めることにつながります。
多くの人にとってなじみ深い「はとバス」。その偽物が、東京の街を走っている姿はみたくありませんよね。
大切なブランドを奪われないためにも、事前に商標登録を行うのは大切なことです。
また、旅を快適に楽しむためには、運営会社が信頼できる企業かどうかも、とても重要な問題となります。
もし何も知らずに、「はとバス」を騙る会社に申し込んでしまったら、十分なサービスや補償を受けることは難しいのではないでしょうか。
このように、商標登録の保護は、自社の権利はもちろん、利用者1人ひとりの旅の安全や思い出も守ることにもつながっているのです。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247