同じ商標なのに侵害か無罪か?――商標消尽論から読み解く真実

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1. プロローグ:同じロゴでも運命が変わる

街にあふれるブランドロゴは、消費者にとって品質保証の印であり、企業にとっては重要な知的財産です。

このブランドロゴに関連して、「同じ商標が付いているのに侵害になったりならなかったりする」という一見矛盾した現象が日常的に起こっています。なぜこのような状況が生じるのでしょうか?

そのカギを握るのが「商標権の消尽論(しょうじんろん)」です。

商標権者が自ら、または正規代理店を通じて商品を初めて市場に流通させた時点で、その商品についての商標権は”用い尽くされた”として扱われます。これが消尽論——いわば「ファーストセール・ドクトリン」と呼ばれる原則です。

この原理によって、一度正規に販売された正規商品は、その後正当なルートを通じて転売されても商標権侵害にはなりません。この微妙な線引きが、ビジネスの成否を分ける重要な分かれ道となるのです。

2. 「正規ルート」が魔法のキーワード——商標権が消尽する瞬間

一つの具体例として、プロ野球球団「阪神タイガース」のユニフォームを考えてみましょう。阪神球団のオーナー会社は「阪神タイガース」の名称・ロゴについて登録商標を保有しています。

球団→公式サプライヤー→卸業者→小売店→ファン という正規ルートを経て公認ユニフォームが販売された場合、この商品に関しては商標権が既に消尽しています。正規品について小売店が販売しようと、ファンが正規品をフリマアプリで転売しようと、権利侵害は成立しません。

なぜでしょうか?

それは、最初の段階で商標権者が「商標を付した商品を対価と引き換えに市場に投入」していて、その時点でその商品についての独占的支配を放棄したと評価されるからです。

もし消尽を認めずに小売段階でも差止請求が可能だとすれば、市場は流通コストと法的不確実性で機能不全に陥ってしまいます。消費者保護の観点からも、消尽論は商標権者と消費者の間に合理的なバランスをもたらしているのです。

3. “消尽しない”ケース——侵害品と評価される理由

ところが、阪神球団と無関係の業者がロゴを無断コピーしてTシャツを製造・販売した場合、話はまったく別です。

そもそも商標権者の許諾を受けていない時点で「最初の適法な流通」が存在しないため、消尽論は適用されません。

注目すべきは、当該偽造グッズを仕入れて販売した小売店も、「知らなかった」「卸業者に言われたまま仕入れただけ」では責任を免れられないということです。

商標法には”善意無過失”の抗弁が用意されていないからです。出所確認は事業者としての基本的義務なのです。

このように、同じロゴが付いた商品でも、その流通経路の「最初の一歩」が権利者の許諾を得ている正規品かどうかで、その後の全ての取引の法的評価が変わってくるのです。

4. 再販・転売ビジネスに潜むリスクと対策

近年はメルカリやPayPayフリマなどのオンラインマーケットの拡大で、個人でも簡単に転売ビジネスを始められるようになりました。

しかし取り扱う商品が真に正規流通品であるかを確認しなければ、気づかぬうちに商標権侵害に手を染める危険があります。

■仕入先の信頼性を可視化する

企業情報の開示、納品書や仕入証明の保存は最低ラインです。特に海外からの輸入品は、真贋の見極めが困難なケースが多いため、正規代理店や信頼できる取引先から仕入れることが重要です。

■疑義ある価格差に注意する

相場より極端に安い場合は出所に”赤信号”が灯っています。特にブランド品で市場価格より著しく低い商品は、偽造品である可能性が高いと考えるべきです。

■権利者との連絡経路を確保する

不明点は速やかにブランドオーナーに照会し、証拠を残しましょう。多くの有名ブランドは真贋鑑定のサービスを提供しており、疑わしい商品は事前に確認することで、後のトラブルを回避できます。

このように、権利者に正面から問い合わせる姿勢こそが最良の自衛策となります。「知らなかった」では済まされない商標法の世界では、積極的な予防措置が必要不可欠なのです。

5. まとめ:消尽論は「市場の潤滑油」

消尽論は、正規取引の自由な二次流通を支え、消費者の利便性を守る重要な法理論です。これにより、一度購入した商品を自由に転売できる市場の流動性が保たれています。

一方で、無許諾製造・流通品は消尽の枠外にあり、流通過程のどの段階であっても商標権侵害の対象となります。模倣品の販売は、消費者の信頼を裏切るだけでなく、ブランド価値を毀損するため厳しく規制されているのです。

仕入・販売のプロである事業者は、出所確認の注意義務を怠れば法的責任を負います。特に商取引を行う企業や個人事業主は、取扱商品の出所について十分な調査を行う責任があります。

商標権の消尽論を理解すれば、「同じ商標なのに侵害になったりならなかったりする不思議」が氷解します。

ブランドを守りつつ市場を健全に回す——そのバランサーこそが消尽論の役割です。あなたの商品選択やビジネスモデルを組み立てる際に、ぜひこの視点を取り入れてみてください。商標権の知識は、思わぬトラブルから身を守る強力な盾となるはずです。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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