1. 商標登録の出願の願書に記載する指定商品としての「缶バッチ」はどこに入るのでしょうか
商標登録の実務を行う中で、クライアントから「缶バッチを指定商品として商標登録したい」という相談を受けることがあります。
このような場合、まずは特許庁の特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で既存の登録状況を確認するのが一般的な流れです。

ところが、特許情報プラットフォームで「缶バッチ」を検索してみても、ヒット件数はゼロ件と表示されます。
この検索結果を見て、「この商品はまだ誰も商標登録していないのかな」と早合点してしまうことがあるかもしれません。しかし、実はここに大きな落とし穴が潜んでいます。
実は「缶バッチ」ではなく、「缶バッジ」だった
検索結果がゼロ件だった理由は、指定商品が存在しないからではなく、表記自体が間違っているからです。「缶バッチ」という言葉は、実は正しい表記ではありません。これは、恐竜の「ティラノサウルス」を「ティラノザウルス」と間違えるのと同様のミスなのです。
バッジの英語表記は「badge」です。英語の発音をカタカナに直すと、「バッチ」ではなく「バッジ」が正しい表記になります。日本語では濁音と半濁音の違いが重要で、「ジ」と「チ」では全く異なる言葉として扱われます。
特許庁の特許情報プラットフォームで「缶バッジ」と正しい表記で検索し直してみると、今度はきちんとヒットします。この小さな表記の違いが、商標調査の結果を大きく左右することになるのです。

間違えやすい表記ゆれに注意しよう
「缶バッチ」と「缶バッジ」のような表記ゆれは、商標登録の実務において注意が必要なポイントの一つです。他にも日常的によく使われる言葉の中には、間違えやすい表記が数多く存在します。
例えば、「シミュレーション」を「シュミレーション」と表記してしまうケースがあります。正しくは「simulation」の発音に基づく「シミュレーション」です。同様に、「フィギュア」を「フィギア」、「アボカド」を「アボガド」と間違えることもよくあります。
飲食関連では、「コーヒー」を「コーヒ」と最後の長音を省略したり、「スパゲッティ」を「スパゲティ」と短く表記したり、「ブルーベリー」を「ブルベリー」と略したりする例があります。
また、ブランド名や企業名でも注意が必要です。「ディズニー」を「デズニー」、「ミシュラン」を「ミシェラン」と間違えるケースがあります。技術用語では「デュアル」を「ディアル」と表記する誤りも見られます。さらに、「ヒアリング(聴取)」を「ヒヤリング」と表記することもありますが、これらは微妙な発音の違いから生じる表記ゆれです。
2. もはや誤記とはいえない場合は変更ができなくなる
商標登録出願の願書では、明らかな誤記の場合は、補正できる場合があります。
問題は、誤記した先の言葉に別の意味がある場合には、もはや特許庁では誤記として扱ってくれない場合があります。
例えば「シリコン」は金属ですが、「シリコーン」はゴムです。材質としては全く別です。記入した本人は知らなかったので誤記だ、と主張しても、特許庁では変更は要旨変更であるとして認めてくれない可能性があります。
特許庁に提出した願書は特許庁で審査を受けるわけですから、一度提出した願書は試験の答案と同じです。答案を後から書き換えることは、特許庁では認めていないのです。
願書を作成する際には、それぞれの指定商品役務が特許庁のデータベースに存在するか、きちんと確認して願書を作るようにしましょう。
ファーイースト国際特許事務所所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247