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日本国籍を持つ海外居住者が商標登録する注意点


1. はじめに

日本のパスポートを持ちながら、海外で事業を展開している個人事業主・起業家・経営者の方からのご相談が、ここ数年で目に見えて増えています。

円安基調が続くなか、外貨建ての資産を積み上げたい、アジア・北米・欧州での事業機会を取りに行きたい、というニーズに沿って、日本人の海外進出は加速しています。シンガポール、台湾、米国西海岸、ベトナム、ドバイなど、活動エリアもさまざまです。

こうしたグローバルな事業展開を進めるとき、避けて通れないのが「商標」の問題です。日本国内のブランドを守りつつ、現地でも保護しなければなりません。ところが、ここで「日本で商標を取っているから海外でも守られているはず」と誤解されている方が、想像以上に多くいらっしゃいます。

本記事では、日本国籍を持ちながら海外で事業を展開している方が、商標登録で押さえておきたいポイントを整理してお伝えします。

2. 商標登録の基礎知識

商標は、自社の商品やサービスを他者のものと区別するための「目印」です。文字、ロゴ、図形、色彩、立体形状、音、動きなど、消費者が「あ、あの会社のだ」と認識できる要素であれば、商標として保護を受けられる可能性があります。

商標登録の効用は、大きく次のとおりです。

  • 自社の商標を独占的に使える法的根拠が手に入る
  • 他者が同一・類似の商標を使うことを止められる
  • ライセンス、譲渡、フランチャイズ展開、海外ロイヤリティ収入など、ビジネス資産として活用できる
  • 消費者・取引先からの信頼の裏付けになる

これらは国内・海外を問わず、ブランドビジネスの基盤となる効用です。

3. 海外での事業展開と商標登録

商標権は「属地主義」が大原則

ここがいちばん誤解されやすいポイントです。

商標権には「属地主義」という大原則があり、各国で登録された商標権は、その国の中でしか効力を持ちません。日本で商標登録していても、米国・中国・ベトナムでの商標権としての効力は一切ありません。逆もまた同じです。

つまり、海外で事業展開する以上は、「進出する国それぞれで商標登録を取りに行く」のが基本姿勢になります。

海外で商標を取られてしまうリスク

放置しておくと、現地の競合企業、流通業者、あるいは悪意ある第三者が、あなたのブランド名を先に商標登録してしまう、というケースが現実に起きています。

そうなると、現地で自社製品の販売を続けられなくなるどころか、向こう側から「商標権侵害だ」と訴えられかねません。今治タオルが中国で商標を先取りされ、取り戻すために大きな労力を要した例は、業界では有名な実例です。

ですから、海外進出を視野に入れた段階で、できるだけ早く現地での商標登録に動くのが基本です。「事業が軌道に乗ってから」では遅いことが少なくありません。

日本の弁理士に依頼できる範囲

ここでもう一つ押さえておきたいのが、日本の弁理士が直接できることの範囲です。

日本の弁理士は、日本国の法律に基づいて活動する国家資格者で、日本国内の特許庁への手続きを担います。海外の特許庁への直接手続きは、日本の弁理士単独ではできず、現地の代理人(現地弁理士・現地特許事務所)と連携する必要があります。

つまり、海外での商標登録は、

  • 日本の弁理士が窓口になって戦略を立て、
  • 現地の特許事務所と連携して、現地での手続きを進める

という二段構えになります。日本の弁理士に依頼すれば、現地の信頼できる代理人ネットワークを通じて、ワンストップで対応してもらえることが多くあります。

4. マドリッドプロトコルを使った国際出願

複数国で商標登録を進める方法として、もっとも知られているのがマドリッドプロトコル(マドプロ)です。

マドプロの仕組み

マドリッドプロトコルは、世界知的所有権機関(WIPO)が運用する国際商標登録制度です。日本での出願または登録を基礎として、一度の手続きで複数の加盟国に商標を出願できるのが最大の特徴です。

加盟国は2025年時点で100か国以上に達しており、米国、EU諸国、中国、韓国、シンガポール、ベトナム、タイ、インドなど、日本企業の主要な進出先のほとんどがカバーされています。

マドプロのメリット

  • 一度の手続きで複数国の出願を一気に開始できる
  • 各国ごとに代理人を立てる初期負担を軽減できる
  • 一元管理しやすく、更新時の手間も減る
  • 既存の各国出願との組み合わせもできる

マドプロの注意点

便利な制度ですが、万能ではありません。

  • 基礎となる日本の出願・登録に不具合が生じると、国際登録全体に影響する「セントラルアタック」のリスクがある
  • 各国の審査は引き続き個別に行われ、現地での拒絶理由対応は現地代理人を立てる必要がある
  • 国によっては独自の運用があり、マドプロが必ずしも最善の選択ではない場合もある(例:米国での「使用主義」の制約)

進出先と事業規模に応じて、マドプロを使うか、各国個別出願にするか、両者を組み合わせるかを、戦略的に判断するのがおすすめです。

5. 海外居住の日本人が商標登録するときの実務ポイント

日本国内の権利は維持しておく

海外を主戦場にしている方でも、日本国内のブランドを今後使用する可能性が少しでもあるなら、日本での商標登録は維持しておく価値があります。

将来日本に帰ってきて事業を再開する、日本人観光客向けにECで販売する、日本企業とライセンス契約を結ぶといった道筋を残しておけるかどうかは、日本国内の商標権の有無で大きく変わります。

現地法人で出すか、個人で出すか

海外で現地法人を立てている場合、商標を現地法人名義で出すか、自分個人名義で出すかは、税務・ライセンス設計・将来の譲渡可能性まで含めて検討すべきテーマです。日本側の弁理士と現地の代理人・税務専門家を交えて、早めに方針を決めておくと、後の組み替えコストを抑えられます。

商標の言語表記をどう設計するか

海外で事業を展開する場合、ブランド名を「英字」「現地語」「日本語」のどれで保護するかは、戦略上重要です。日本人にしか読めない漢字表記だけで現地登録しても、現地市場での識別力が十分に発揮されないことがあります。

  • 主要市場の現地語表記(中国なら簡体字、台湾なら繁体字、韓国ならハングルなど)
  • 英字表記
  • 日本語表記(必要な場合)

の組み合わせで、必要十分な範囲をカバーしていきます。

商品・役務(指定区分)を現地市場に合わせる

商品・役務の分類(区分)の使い方は、国によって微妙に異なります。日本国内向けの区分構成をそのまま海外に当てはめると、現地ビジネスの実態とずれることがあります。現地代理人と連携して、現地で本当に必要な指定範囲に組み直しましょう。

6. まとめ:海外で事業を展開するなら早めの商標戦略を

海外居住の日本人が、海外と日本の両方で事業を展開する場合、商標は次の三本柱で守るのが基本です。

  • 1. 日本国内の商標は維持・拡張する
  • 2. 進出する国ごとに、現地での商標登録を取りに行く
  • 3. マドリッドプロトコルを活用し、効率よく複数国の保護を進める

これらを最初に整えておくことで、想定外の「ブランド先取り」リスクや、海外パートナーとのトラブルを大幅に減らせます。

「いまの進出計画ではどう動くべきか」「マドプロと個別出願のどちらが向いているか」といった具体的な疑問は、日本の弁理士にご相談ください。海外側の代理人とも連携し、ワンストップで戦略を組み立てます。無料相談(/mailform)と費用感の目安(/fee-schedule-trademark)をご用意しています。

7. Q&A:海外居住の日本人の商標登録についてよくいただくご質問

Q1. 日本に住民票がなくても、日本で商標登録できますか?

A. 日本に住所がない場合でも、日本国内に代理人(弁理士)を立てれば、日本での商標登録は可能です。書類のやり取りや特許庁との連絡は弁理士が担当します。

Q2. 現地法人を立てる前に、海外で商標を取っても大丈夫ですか?

A. 出願人は個人でも法人でも構いません。ただし、後で現地法人に移管する場合の手続きや税務処理を見越して設計したほうが、後戻りが少なくなります。

Q3. マドリッドプロトコルで一度に何か国までカバーできますか?

A. マドプロ加盟国(2025年時点で100か国超)の中から、必要な国を選んで指定できます。指定国数に上限はなく、増やすほど手数料は加算されますが、各国個別出願よりはコストを抑えやすい設計です。

Q4. 中国でブランド名を先取りされてしまった場合、取り戻せますか?

A. 取り戻せる可能性はありますが、相応の時間と労力を要します。中国では悪意ある先取り出願への異議申立てや無効審判の制度が整備されていますが、立証のハードルもあるため、現地代理人を交えた専門的な対応が必須です。

Q5. 日本の弁理士に海外の商標も任せられますか?

A. 日本の弁理士が直接、海外の特許庁に手続きをすることはできませんが、海外の信頼できる代理人ネットワークを介して、ワンストップでの対応をしてくれる事務所が多くあります。窓口は日本の弁理士、現地手続きは現地代理人、という形が一般的です。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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ファーイースト国際特許事務所|弁理士 平野泰弘

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