索 引
1. はじめに
近年の商標登録の動きを追っていると、ある明らかな傾向が見えてきます。第14類で「アクセサリー(身飾品)」だけを指定し、「キーホルダー」を指定していない登録が、年間3,000件規模で生まれているのです。実務の現場では、これを「キーホルダー抜け」と呼んでいます。
指定範囲の小さな見落としのように見えますが、後でキーホルダーを追加しようとすると別出願が必要になり、初回と同等の費用がかかります。10年の権利維持を考えると、その差額は決して小さくありません。
問題が顕在化するのは、たいてい後になってからです。ブランドが軌道に乗ってきて、ノベルティとしてキーホルダーを配ろうとした瞬間、限定コラボでキーホルダーをグッズ化しようとした瞬間。そのときに「自社の商標権はキーホルダーまで及んでいない」と気付くケースが、ご相談として持ち込まれます。
以下、データから見える傾向、原因、消費者とブランド担当者それぞれの対策、よくある誤解を順に見ていきます。
2. 何が起きているのか — データで見る傾向
J-PlatPatで「アクセサリー(身飾品)は含むが、キーホルダーは含まない」登録件数を年次集計すると、次の通りになります(筆者集計)。

- 2018年:2,272件
- 2019年:2,196件
- 2020年:3,568件(前年比+62%)
- 2021年:4,256件(前年比+19%)
- 2022年:4,444件(前年比+4%、ピーク)
- 2023年:3,437件(前年比-23%)
- 2024年:3,310件(前年比-4%)
2018-2019年の平均は2,234件、2020-2024年の平均は3,803件で、約70%増えています。2022年をピークにやや減少したものの、2024年時点でも2018-2019年の水準を大きく上回っており、「抜け」のある登録は構造的に増えたといえます。
この変化は単発のトレンドではなく、5年継続しています。2020年の急増を、一時的な出願ラッシュとみなすのは難しいでしょう。出願代理の業務効率化、機械的な指定範囲の選び方、社内承認フローの簡素化、そうした実務的な要因が組み合わさって平均水準を押し上げたとみるのが自然です。
Fig.1 アクセサリー(身飾品)でもキーホルダー抜けが増加している

3. なぜ「キーホルダー抜け」が起きるのか
実務面では、次の三つの要因が複雑に絡み合っています。

出願の迅速化と件数優先
ビジネスの展開スピードが速まるなか、主力商品のアクセサリーだけを先に願書へ書き、出願を急ぐ運用が広がっています。簡単に目につく権利範囲を拾って願書を作成し、内容に漏れがないか検討しないまま提出するケースが目立ちます。単位時間あたりの出願処理件数を増やす方向に、大きく舵が切られた結果です。
業者側にも事情はあります。追加の手数料が発生しない範囲を充実させても収益にはなりません。さらに、その範囲で他社との衝突が起きると機械的な一律処理ができなくなり、処理効率が落ちる。是正ブレーキが効きにくい背景です。
先行商標との抵触を避けるための範囲縮小
第二の要因は、先行商標との衝突を避けるために指定範囲を狭くする選択です。指定が狭ければ拒絶理由を受けにくく、形式的な合格率は上がります。
しかし、これは自社の権利範囲を自ら縮める選択でもあります。挑戦すれば合格できたかもしれない範囲を、最初から切り捨てると、後で禍根を残します。業者側としても、審査官との折衝は経験の浅い担当者には難しいので、できれば折衝を回避して大量出願を捌く方向へ流れがちです。
費用構造への根本的な誤解
第三に、費用構造の誤解があります。第14類という同一区分内で「キーホルダー」を併記しても、出願時の特許庁印紙代と更新時の維持費は変わりません。これが意外に知られていない事実です。
一方、後から「キーホルダー」を追加しようとすると別出願として扱われ、出願料・登録料・更新料がそれぞれ新規に発生します。最初から含めておけば追加費用ゼロで済んだものが、後から追加すると実質的に倍の費用がかかる構造です。さらに、別出願となれば管理の手間も倍増し、更新時期の取り違えによる権利失効リスクも上がります。
4. 「アクセサリーがあればキーホルダーも守れる」は誤解
最も多い誤解が「アクセサリー(身飾品)の商標権があれば、関連商品であるキーホルダーも自動的に保護される」というものです。これは完全な誤解です。
商標法における類似商品の範囲は、消費者の直感とは異なる基準で定められています。アクセサリー(身飾品)とキーホルダーは、消費者の目には関連商品に見えても、同じ第14類に属しながら商標法上は非類似として扱われます。長年の審査実務と判例で確立された基準で、近い将来に変更される可能性は低いといえます。
具体的には、特許庁の類似商品・役務審査基準で、両者に違う類似群コードが割り当てられています。類似群コードとは、互いに類似と推定する商品のグルーピングです。同じコード同士なら衝突しますが、異なるコードであれば原則として衝突しません。アクセサリー(身飾品)とキーホルダーはコードが分かれており、互いに保護が及ばないわけです。
身飾品の商標権を持っていても、それだけではキーホルダーへの保護は及びません。指定商品の追加は出願後にはできない以上、最初の願書で取り切るしか方法がないのです。
5. 消費者・購買担当者へのリスク
「キーホルダー抜け」は事業者だけの問題ではなく、消費者にも影響します。
正規ブランドがキーホルダーの商標権を持っていない場合、第三者が同じブランド名でキーホルダーを製造・販売しても、商標権侵害として差し止めできない場合があります。結果として、品質の劣る模倣品が市場に出回り、正規品と誤認して購入してしまう消費者が出てきます。
特に人気ブランドのキーホルダーは、比較的求めやすい価格帯でギフトとしても選ばれやすい商品です。贈り物として購入したキーホルダーが実は非正規品だった、というのは贈る側にも受け取る側にも不本意な結末でしょう。
消費者としての自衛策
- 直営店、公式オンラインストア、正規取扱店での購入を基本にする
- キーホルダーやストラップなど周辺グッズは特に慎重に。公式ライセンスの表示や販売主体を確認
- 価格が正規品の市場価格から大きく乖離している場合は警戒する
- 「在庫処分」「並行輸入」といった謳い文句は、内容を確認してから判断する
「®」や「TM」の表示は参考にはなりますが、最終的な権利の有無は登録・指定内容に依存します。表示だけで判別するのは避けたほうが安全です。
6. ブランド担当者の実務チェックリスト
出願前・出願時に5分で確認できるポイントです。
キーホルダーやストラップなど、今後販売を広げる予定はないか
将来のライン展開(限定グッズ、コラボ企画、記念品など)で周辺グッズに広がる可能性が少しでもあれば、初回出願時に含めておくべきです。出願後は指定商品を追加できません。
第14類で「身飾品(アクセサリー)」と合わせて「キーホルダー」を明記しているか
同一区分内の併記なら印紙代・維持費は変わりません。後日の追加は別出願で同等費用がかかる点を、社内の決裁者と共有しておくと判断ミスが減ります。
競合他社の動向を確認しているか
同業他社がキーホルダーまで含めて商標登録している場合、自社だけが権利を持たないと競争上不利になります。J-PlatPatで他社の登録状況を確認するのは、出願前の5分でできるリスク管理です。
社内の承認フローに「周辺グッズ展開の可能性チェック」の項目を入れているか
主力商品だけを機械的に指定するのではなく、マーケティング部門や商品企画部門を巻き込むことで、ブランド全体の保護戦略を考慮した出願が可能になります。
出願時の指定商品リストを一元管理しているか
どの商品カテゴリーで権利を持っているか、どこに空白があるかを可視化することで、必要に応じて追加出願を判断できます。
7. 「後から追加すればいい」は危険な楽観論
「必要になったら後から追加出願すればいい」という考え方は、二重の意味で危険です。
第一に、前述の通り後からの追加は別出願となり、費用が二重にかかります。第二に、そして本当に深刻なのは、その間に第三者が同じ商標でキーホルダーの権利を取得してしまう可能性があることです。
特に人気ブランドの場合、わずかな隙を狙って類似商標を出願する業者が存在します。一度第三者に権利を取られてしまうと、取り戻すには異議申立て、無効審判、交渉、訴訟といった多大なコストと時間が必要になり、結果として権利を取り戻せないこともあります。
商標法は先願主義です。同じ商標を同じ商品で2人が同時に欲したとき、出願日が1日でも早い側が権利者になります。アクセサリーで先に登録した会社であっても、キーホルダーについては別出願をした他社のほうが先願権者になりうるのです。「自社のほうが知名度が高いから安心」という感覚は、商標法の制度上は通用しません。
オンラインでの商品販売が一般化した現代では、商標権の空白は以前よりも大きなリスクとなっています。ECサイトやSNSを通じて、非正規品が瞬時に拡散されるからです。特にキーホルダーのような小物は、海外の製造業者が容易に模倣でき、越境ECを通じて日本市場に流入します。商標権という法的な武器を持たない限り、これらの模倣品に対抗することは困難です。
8. キーホルダー抜けに関するよくある質問
Q. アクセサリーを指定していれば、キーホルダーもある程度は守られますか?
A. 守れません。両者は同じ第14類に属しながら、商標法上は非類似として扱われます。アクセサリーだけ指定してもキーホルダーへの保護は及びません。別途「キーホルダー」を指定商品に含める必要があります。
Q. キーホルダーを後から追加できますか?
A. 出願後の指定商品の追加はできません。必要になった時点で別出願となり、出願料・登録料・更新料が初回と同等に発生します。10年の権利維持を考えると、実質的に倍の費用がかかります。
Q. 同一区分内でキーホルダーを併記すると、印紙代は高くなりますか?
A. 変わりません。第14類でアクセサリーを指定する場合、キーホルダーを併記しても出願時の印紙代・登録料・10年ごとの更新料は同額です。費用面では併記しないことのメリットはありません。
Q. キーホルダーの正しい指定区分・商品名は何ですか?
A. 貴金属製キーホルダーは第14類で問題なく扱えます。一方、貴金属製でないキーホルダーは素材や用途しだいで、第18類・第26類など他区分との境界判断が必要になる場面もあります。指定方針は、出願前に弁理士へ確認しておくと安全です。
Q. 既に登録済みで「キーホルダー抜け」に気づいた場合はどうすればよいですか?
A. 既存登録の指定商品を後から追加することはできないため、追加分は新規出願で対応します。先に第三者が同じ商標を「キーホルダー」で出願していないかをJ-PlatPatで確認し、空白があれば速やかに追加出願を検討してください。第三者が出願済みであれば、異議申立てや交渉が必要になることがあります。
9. 商標出願のご相談はファーイースト国際特許事務所へ
「キーホルダー抜け」のような指定商品の漏れは、出願後では取り戻しがききません。最初の願書で必要な範囲を取り切ることが、長期的にみて最も確実で経済的な選択です。
これまでに「ノベルティでキーホルダーを配ったら他社からクレームが来た」「コラボグッズの企画段階でキーホルダーの権利が無いと指摘された」というご相談を受けてきました。いずれも、設立時の出願ではアクセサリーや本業商品しか指定しておらず、事業拡大に伴って空白が問題化したケースです。出願時に少しの想像力を働かせていれば、避けられた局面でした。
実務10年以上のベテラン弁理士・弁護士が、お客さまの事業内容を丁寧にヒアリングし、将来のブランド展開まで見据えた指定商品の設計をご提案します。出願前の調査だけでなく、既存登録の見直しや「キーホルダー抜け」のチェック、第三者出願の有無確認まで一気通貫で対応します。
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ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247
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ファーイースト国際特許事務所|弁理士 平野泰弘
