索引
(1)商標法のなかでの一般的名称とはなんですか
商標法において一般的名称とは、商品・役務の取引業界で一般的であるという認識に至っているものをいいます。
では、一般的名称は具体的にどのようなものでしょうか。
(1-1)一般的名称
一般的名称は「サニーレタス」という商品に「サニーレタス」という商標を付けるような、商品名がそのまま商標となるものをいいます。
また、「電子計算機」という商品に「コンピュータ」と付けるような、商品名を言い換えた言葉がそのまま商標となったものも一般的名称といいます。
つまり、商品と商標の名称がまったく同じか、同じものを指す場合は一般的名称として商標登録はできません。
ほかに、一般的名称となるものは以下の通りです。
- 商品「さんぴん茶」に商標「さんぴん茶」
- 商品「緑茶」に商標「緑茶」
- 役務「美容」に商標「美容」 などです
(1-2)略称や俗称なども一般的名称
省略された名称や、世間一般に通用している名称は一般的名称に含まれるので、同様に商標登録できません。
そのため、「スマートフォン」という商品に「スマホ」という略称の商標を登録することはできません。
ほかに、略称や俗称となるものは以下の通りです。
- 商品「アルミニウム」に商標「アルミ」(略称)
- 役務「航空機による輸送」に商標「空輸」(略称)
- 商品「塩」に商標「波の花」(俗称) などです
(1-3)商品・役務の区分との関係で…
商標登録する際には、それぞれの商品・役務の区分を指定します。
そのため、ある商品・役務の区分では一般的名称とされていたものも、それ以外の区分では一般的名称とされません。
しかし、ほかの区分であれば可能性があります。
「緑茶」という商品に「緑茶」という商標は付けることはできませんが、「サニーレタス」という商標を付け登録することはできます。
例えば、以下のようにした場合は登録することができます。
- 商品「スマートフォン」に商標「アルミ」
- 役務「美容」に商標「緑茶」
- 役務「航空機による輸送」に商標「波の花」 などです
実際に商標登録されているものの例
商標「APPLE」というスマートフォンをご存知でしょうか。
「APPLE」は「りんご」なので、商品「りんご」では一般的名称として商標登録できません。
しかし、商品「電子計算機(スマートフォンと類似します。)」に商標「APPLE」は登録できます。
現に、アップル インコーポレイテッドが商標登録しています。
特許庁の商標公報より引用
では、どうしてこういった一般的名称は登録できないのでしょうか。
それは、一般的名称を商標登録されると、ほかの人が使えなくなり困るからです。
(2)商標には、弱い商標と強い商標があります
(1)で説明したように一般的名称は登録できませんが、いくつかの一般的名称が集まってできた商標であれば登録されることもあります。
しかし、一般的名称が集まってできた商標は弱い商標と呼ばれます。
弱い商標とは、登録できたとしても価値がだんだん下がってくる商標のことです。そして、その商標を使っている会社はだんだん儲からなくなってしまい、損をします。
それに対して、強い商標とは、高い価値を保ち続ける商標です。
(2−1)弱い商標とは具体的にどのようなものでしょうか
弱い商標は、一般的名称が集まってできた商標であるとともに、同じような商品・役務との区別がつかない、またはつきにくい商標のことをいいます。
例えば、シャンプーの商標で「シャンプー」というネーミングを付けると、ほかのシャンプーと区別がつかないですよね。
また、「よく汚れが落ちるシャンプー」、「髪の艶が出るシャンプー」、「髪が生えるシャンプー」など、ただシャンプーの効能を説明しただけのネーミングも弱い商標にあたります。
これらは、一般的名称である「シャンプー」に、それを修飾する一般的名称「髪」、「艶」などを付けた一般的名称の集まりとなっています。
ここで、シャンプーを買いに行くときのことを想像してみてください。
「髪に艶が出るシャンプーをください」とお店の方にお願いすると、どんなシャンプーが出てくるでしょうか。
そのお店の方が一番よく髪に艶が出ると思っているシャンプーや、お店にとって一番利益率がよいシャンプーが出てくると思います。
そうなんです。「髪に艶が出るシャンプー」で商標登録できたとしても、このネーミングではほかの商品と見分けがつかないのです。
これが、一般的名称を商標のネーミングとして使用すると損をする理由です。
(2−2)強い商標とは具体的にどのようなものでしょうか
強い商標とは、ひと言で表すと同じような商品または役務との区別がつく商標のことをいいます。
それどころか、その商標をみたら、どこの事業者が売っている、どういう商品または役務かまで浮かんでくると思います。
例えば、「綾鷹」、「プリウス」、「ウォークマン」などが挙げられると思いますが、いかがでしょうか。
お店に行き「綾鷹ください」と言うと、「コカコーラ社の緑茶の綾鷹」がきちんと出てくると思います。
(3)なぜ弱い商標を選ぶと、後々損をするのでしょうか?
(3−1)商品をピンポイントで表せない
先に述べたように、一般的名称の集まりでできている弱い商標を選ぶと損をしてしまいます。その理由は、同じような商品との区別がつかない、またはつきにくいからです。
これは、なかなかピンポイントで選んで(買って)もらえない、ということになります。
シャンプーの例もそうでしたが、例えば、友人から「髪の艶が出るシャンプー買ってきて」と頼まれても、どのシャンプーを買えばいいのかわかりませんよね。
しかし、「メリット買ってきて」と言われれば、花王のシャンプーだとわかり、買うべきシャンプーが絞られます。
(3−2)ほかの人が真似しやすい
弱い商標は一般的名称の集まりでできているため、その一般的名称1つひとつはほかの人も使用できます。
弱い商標を使用していると、儲かり出しても、ほかの企業が便乗して商品を出してしまい、だんだんと利益が落ちてくることになります。
例えば、「朝専用缶コーヒー」を販売し始め、これが飛ぶように売れるようになったら、他社も「朝専用缶コーヒーですよ」といって缶コーヒーを販売することになります。
すると、お店の方は「朝専用缶コーヒーをください」と言われると、区別がつきません。どの「朝専用缶コーヒー」かわからずに、自身にとって利益率の高いコーヒーを出すようになるでしょう。
こうして、多くの他社が市場に入って来れば来るほど利益が落ちていきます。
(4)なぜか、弱い商標を選んでしまう理由
しかし実際には、商標登録を希望する方の多くは、弱い商標を選んでしまっているのです。
上記のことがわかっていても、選んでしまうには理由があります。
(4−1)見ただけで何の商品・役務か理解できるから
一番の理由はこれではないでしょうか。やはり、商品・役務のネーミングということで、それがどんなものなのかひと目で需要者にわかってほしいという気持ちから、このようなネーミングが付けられることが多いと思います。
しかし、これではほかの商品・役務との区別ができません。
例えば、自身の子供が生まれたときに名前を付けますが、そのとき可愛くて小さな女の子だからといって「可愛くて小さい女の子」という名前を付けたりしませんよね。
加えて、「可愛くて小さい女の子」はすくすく育って大きくなって、ある日遊園地に行ったときに迷子になります。あなたが「可愛くて小さい女の子を探しています」と言ってもなかなか子供はみつからないでしょう。
この例は、商品・役務にネーミングを付けるときにもいえることなのです。あなたの大切な商品・役務に、ほかの商品・役務と区別できる、迷子にならないような商標を付けてあげてください。
(4−2)一般的名称は覚えてもらいやすい?
弱い商標は一般的名称の集まりでできている商標です。そのため、すでに需要者がよく知っている単語なので覚えてもらいやすい、身近に感じてもらいやすいという印象があります。
しかし、覚えてもらえたとしても、それはほかの商品・役務と区別がつかない、またはつきにくいものなのです。
一般的名称は商標として登録ができません。また、弱い商標として時間が経過すると損をしてしまう可能性もありますのでネーミングの際は気をつけてください。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247