1.品種登録
(1)品種登録とは?
植物の品種の名前というと、「品種登録」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
この制度は、植物の新しい品種について出願し、要件をクリアすると登録され(品種登録)、その結果、原則として登録された品種を育成した人(育成権者)だけにその品種を育てたり売ったりすることを認める(育成者権)というしくみです。
なお権利の存続期間は25年(30年のものもあり)です。
そしてこの制度は「種苗法」という法律によっていて、管轄は農林水産省です。
1.品種登録制度の目的
優良な品種は、農林水産業生産の基礎であり、多収、高品質、耐病性等の優れた形質を有する多様な品種の育成はその発展を支える重要な柱です。
新品種の育成には、専門的な知識、技術とともに、長期にわたる労力と多額の費用が必要です。
ところが、新品種の育成自体が確実に成果が得られるという性格のものではない上、一旦育成された品種については、第三者がこれを容易に増殖することができる場合が多いことから、新品種の育成を積極的に奨励するためには、新品種の育成者の権利を適切に保護する必要があリます。
このため、我が固においては、種苗法に基づく品種登録制度により、植物新品種の育成者の権利保護を行い、新品種の育成の振興が図られています。
(農林水産省パンフレット 品種登録制度と育成権者より引用)
品種登録を受けるためにクリアすべき要件には以下のようなものがあります。
(A)特性要件
- すでにある品種とハッキリ区別できる(区別性)
- 同じ世代で特性が似ている(均一性)
- 増やしても特性が安定している(安定性)
(B)出願日から1年さかのぼった日よりも前に売ったりあげたりしていない(未譲渡性)
(C)名前が他の品種名や登録商標と似ていない
なおこのサイトで、どのような品種が登録されているか見ることができます。
農林水産省品種登録ホームページ
品種登録データ検索
http://www.hinshu2.maff.go.jp/vips/cmm/apCMM110.aspx?MOSS=1
例えば、みなさんご存知の「とちおとめ」は「イチゴ属」の品種として登録されていました(現在は期間満了につき消滅)。
(2)「ゴリラ」は「登録品種」名?
ここで「ゴリラ」を検索してみると、どの植物品種についてもヒットしません。
つまり「ゴリラ」は「チューリップ」の「登録品種」名ではないのです。
<参照>
農林水産省
品種登録ホームページ
http://www.hinshu2.maff.go.jp/
2.商標登録
(1)ここにご注意!
植物の品種の名前だからといって、「商標登録」ができないことはありませんよ。
ただし「商標登録」の場合、その名前を目印にして使う商品の特定がマストです。
ここで注意したいのが、「チューリップの切花」と「チューリップの球根」はともに第31類に含まれますが、商品としては類似しないのです。
そのため、「チューリップの切花」の商標として「AAA」が登録できたとしても、第三者が「チューリップの球根」を「AAA」という名前を使って販売することが止められないこともあり得ます。
(2)「ゴリラ」は「登録商標」?
ここで「ゴリラ」を検索してみるとヒットしました!
「ゴリラ」
- 商標登録第4907094号
- 権利者:株式会社サカタのタネ
- 出願日:2005年3月25日
- 登録日:2005年11月11日
- 指定商品:
第31類「うるしの実,麦芽,ホップ,未加工のコルク,やしの葉,飼料,果実,野菜,糖料作物,種子類,木,草,芝,ドライフラワー,苗,苗木,花,牧草,盆栽,生花の花輪」
つまり「ゴリラ」は「チューリップの切花」(花に類似します。)や「チューリップの苗」(種子類に類似します。)等については登録商標ということになります。
3.「品種」名と「商標」
ではここで「種苗法」と「商標法」の関係する箇所を見比べてみましょう。
種苗法
第四条
品種登録は、品種登録出願に係る品種(以下「出願品種」という。)の名称が次の各号のいずれかに該当する場合には、受けることができない。
二 出願品種の種苗に係る登録商標又は当該種苗と類似の商品に係る登録商標と同一又は類似のものであるとき。
三 出願品種の種苗又は当該種苗と類似の商品に関する役務に係る登録商標と同一又は類似のものであるとき。
(種苗法より引用)
商標法
第四条
十四 種苗法(平成十年法律第八十三号)第十八条第一項の規定による品種登録を受けた品種の名称と同一又は類似の商標であつて、その品種の種苗又はこれに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
(商標法より引用)
なお育成者権がなくなった後、「登録品種」の名前は、商標の審査で「一般的名称」とみられます(特許庁の「商標審査便覧」より)。
このように、植物の品種の名前を「品種」名としても「商標」としても登録を受けて独占することはNGなのです。
ただし品種の名前とは別にオリジナルの名前を考えて、そちらを商標として登録することはできますよ。
そして「商標」として登録したオリジナルの名前であれば、ずっと使っていくことができます。
4.まとめ
日本の野菜や果物の苗が勝手に持ち出され、海外で栽培され流通しているというニュースを耳にします。
しかし、品種登録による権利も、商標権と同じく、国ごとの発生なので、残念ながら日本での品種登録だけではこのような事例には太刀打ちできないのが現状です。
そのため農林水産省も、海外での品種登録が進むよう力を入れています。
新しい品種を生み出すには、多くの時間やお金・そして労力が必要です。
しかし植物は、一度流出し無断栽培や交配が進んでしまうと、取り戻すのは極めて困難でしょう。
今回は日本国内の制度についてのお話でしたが、「商標登録」と「品種登録」、ふたつの制度の活用が、国内外での日本産のおいしい農産物のマーケット拡大に一役買えればと思います。
それではまた。
ファーイースト国際特許事務所
弁理士 杉本 明子
03-6667-0247