【2026年版】公道ゴーカート「マリカー」問題の結末

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2017年当時、東京の公道でマリオカートの世界が現実に出現したかのような光景が、SNSを中心に広く拡散しました。赤や緑のカートが隊列を組み、マリオやルイージの格好をした観光客が街を走る姿は、多くの人にリアル版マリオカートとして認識されていました。

そのさなかで任天堂が提訴したのが、いわゆるマリカー事件です。

当時2017年2月27日に書いたブログ記事を、判決確定、商標無効、規制強化、事業者の運用変更といった現在判明している事実まで含めて、商標実務家の視点で改めて整理しました。

1. 知的財産権と公道エンターテインメントの衝突

当時の問題は、面白い観光アクティビティにとどまりませんでした。公道を走るカートという日常のインフラに、世界的ゲームIPの非日常の世界観が乗り移ったことにあります。

任天堂が問題視したのは、株式会社マリカーによる公道カートレンタル事業が、ゲームのマリオカートの略称として知られるマリカーという表示を会社名等として用い、さらにマリオ等のキャラクターのコスチューム貸与、宣伝への利用などを行っていた点でした。

なおマリカー社は後に商号変更しています。任天堂は不正競争防止法違反および著作権侵害を理由に、2017年2月24日、東京地裁へ提訴しています。

2017年当時は、マリカーと入力するだけでリアル版マリオカートに見える写真が大量に出てきました。需要者である一般の人が任天堂っぽい、公式っぽいと感じた時点で、法的には出所の誤認やフリーライドの入口に立ってしまうのです。

2. 両社の主張が噛み合わなかった理由

当時、マリカー社は専門家に相談済み、任天堂担当者と協議し理解を示す発言も得たなどと公表し、突然訴えられたかのようなニュアンスを出していました。報道でも確認できます。

一方、任天堂側は提訴時点から、大切な知的財産を守るために必要な措置を講じるという一貫した姿勢を明確にしています。

2017年の私はここに違和感を持ちました。交渉が本当に順調なら、通常は提訴という最終手段に直行しません。外から見える協議していたという言葉の裏で、許諾の合意に至っていない、むしろ拒否されていた可能性を疑うのが自然です。

判決確定までの全経緯が出揃ったことで、結果として任天堂の主張が司法に広く認められたという形で決着したことがわかりました。

3. 法的な問題点の核心

2017年当時は、著作権法における複製権や翻案、不正競争防止法における混同惹起を中心に説明しました。今も骨格は変わりません。

ただ、結末まで追って分かるのは、この事件では商標権を持っているかよりも、他人の周知・著名表示の顧客吸引力にただ乗りしたかが核心だったという点です。

不正競争防止法は、端的に言えば有名表示に乗っかって誤認させたり、名声にタダ乗りして稼ぐ行為を止めるための法律です。

この法律は商標法の登録の有無と切り離されて機能するため、たとえ登録があっても安心できません。実務上、ここが最も押さえておくべきところです。

4. マリカーの商標は誰のものだったのか

2017年当時、マリカー社がマリカーという文字商標を押さえていたのは事実として大きな論点でした。しかし、ここで問題点があります。

商標登録とは、その名前について、指定した商品や役務の範囲で排他的に使える権利です。逆に言えば、商標登録は他人の著作権や周知著名表示に触れる態様まで免責する万能許可証ではありません。

商標法には他人の著作権等との関係で商標権の効力が制限される趣旨の規定があり、商標法29条です。

さらに不正競争防止法は商標権の有無とは別レイヤーで効いてくる。

この二重構造を理解しておく必要があります。登録できたから安心ではなく、使い方まで含めて設計しないと、普通に負けます。

5. 2020年10月19日の転換点

任天堂は、被告会社が保有していた商標登録マリカーについて無効審判を請求し、2020年10月19日、無効審決が確定したと公表しています。

任天堂の公表によれば、マリオカートが任天堂の商品を表すものとして、またマリカーもマリオカートの略称として、ゲーム分野に限らず広く一般消費者にも認識されていた、という評価が前提になっています。

無効審決が確定すると、その商標権は最初から無かった扱いになります。2017年当時、私は取り消されたら初めから存在しなかったことになると説明しましたが、まさにそれが現実になりました。

6. 裁判の結末

2017年当時は提訴直後だったため、結末は予測でしか語れませんでした。ここからが、2026年版の結果説明です。

2018年9月27日、東京地裁は、マリカーという標章等が任天堂の商品等表示として広く知られていることを認めたうえで、不正競争行為の差止めや損害賠償の支払い等を命じた旨、任天堂が発表しています。

少なくとも公道カート事業におけるマリカーの使い方は法的に問題があると司法判断が出たことになります。

2019年5月30日、知財高裁は中間判決で、マリオカートやMARIO KARTの著名性、マリカーやmaricar等の使用、キャラクターコスチューム貸与等が不正競争行為に該当すると認めたと任天堂が公表しています。

実務的に目をひくのは、この事件がコスチュームの使用自体を不正競争防止法上の商品等表示の使用として捉えた点です。

裁判例の評釈でも、その点が実務上の示唆として整理されています。ロゴを貼った、商標を出しただけが問題なのではなく、体験の演出、衣装を含む演出そのものが表示になり得るということです。

2020年1月29日、知財高裁の終局判決で、被告らに対し5,000万円の損害賠償と差止め等が命じられたと任天堂が公表しています。

2018年段階から増額されており、ここでメッセージが変わります。やめなさいではなく、そのモデルは採算が崩れるというレベルまで、法的リスクが経営の数字に直結したのです。知財は目に見えませんが、最後は損益計算書に効いてきます。

被告側の上告および上告受理申立てに対し、最高裁が棄却・不受理とし、任天堂勝訴が確定した旨を任天堂が2020年12月28日に公表しています。これでマリカー事件は、推測でも途中経過でもなく、確定判決としての結末になりました。

7. 2026年の現状

判決確定で公道カートが消えると思った人も多かったはずです。実際、2020年にはもう終わりというトーンの記事も出ています。しかし現実は、マリオカートっぽい見せ方を捨てて、事業自体は形を変えて残りました。

現在、事業者のサイトには任天堂やゲームのマリオカートとは無関係という趣旨の文言が目立つ形で掲示されている例が確認できます。これは単なる予防線ではなく、過去の訴訟リスクを踏まえた運用です。

2018年の地裁判決後も、事業者が無関係表示をしたまま営業を続けていたことが報道されています。ただ、無関係と書けばOKという単純な話ではありません。むしろ逆で、無関係を大きく表示しないと危ないモデルだったことが透けて見えます。

8. マリオの格好で公道を走れるのか

この質問はいまでも関心があると思います。答えは、2017年当時よりずっと現実的で、少し冷めています。

主要な予約ページでは、マリオカートに登場するキャラクター衣装は用意しないだけでなく、持ち込みでも着用を認めない旨の注意書きがある例が確認できます。昔のようなリアルマリオカート体験を、そのまま期待して行くと、現地で止められる可能性が高いということです。

一方で、事業者によっては店は貸さないが、持参した任天堂やマリオ系コスチュームの着用は可能と案内している例もあります。2026年時点の観点としては、一律に不可能ではないが、主流の事業者は厳格に避ける方向と見ておくのが安全です。

結論を一言で言うなら、マリオの格好をして走れるかを売りにすると、また同じ地雷原に戻ります。SNSで拡散する映える体験ほど、実は法的には顧客吸引力の真ん中です。事業者側が最も神経質になるのはそのためです。

9. 交通安全のルールの変化

知財だけでなく、安全面でも環境は変わりました。

国土交通省は2018年に、公道を走行するカートの安全確保のため、視認性向上やシートベルト設置義務化等の保安基準改正を発表しています。報道でも、2020年4月1日から座席ベルト等が義務化されることなどが整理されています。

また、そもそも公道カートがミニカー区分等で運用されてきた背景として、普通免許で運転可能、法定速度60キロ、ヘルメット不要、高速道路不可といったルール運用が警察庁資料でも示されています。2017年当時の法の隙間感は、少なくとも放置されたままではなく、制度側が追いつき始めていると言えるでしょう。

10. 自治体による規制の動き

2026年視点で外せないのが、自治体による規制です。

渋谷区は、騒音や交通安全上の懸念、住民からの苦情などを背景に、条例を改正し、公道カート事業者に対する届け出義務等を整備したと公表しています。2025年7月施行です。同じく区の広報でも、2025年7月1日から届出が義務化される旨が案内されています。

ここまで来ると、公道カートは面白いからで押し切れるフェーズではありません。知財、安全、地域環境の3点セットで、常に監視される事業モデルになっています。

11. マリカー社はどうすればよかったのか

以前私は、権利者側に話を通しておけばよかったと書きました。今でも結論は変わりません。むしろ、確定判決と商標無効まで含めると、さらに重くなります。

ライセンス交渉はお願いではなく事業の前提条件です。許諾が取れないなら、その世界観に依存した集客モデルを捨てるしかない。途中で方向転換するほどコストがかさみます。

ネーミングとして商標を取っても、周知著名表示へのフリーライドは別の法律で止められます。

この事件は、それを社会に示しました。最後には、商標自体が無効になりました。登録したから勝ちではなく、登録しても負けることが起こり得るのが、知財のリアルです。

専門家への相談の中身はここです。登録できるかではなく、その使い方は混同、冒用、著作権、契約、利用規約、広告表現まで含めて耐えられるか。商標は入口でしかありません。出口である運用で事故ります。

12. おわりに

マリカー事件は、単に任天堂が強いという話ではありません。公道という公共空間で、強いIPの世界観を広告装置として使ったとき、どれだけの法的・社会的コストが発生するのかを可視化した事件でした。

判決も商標も、行政のルールも出揃った今だから言えます。

リアルマリオカートは、偶然のバズではなく、知財と安全と地域のすべてを試す試金石でした。今後も、日本が観光立国として進むほど、同種の衝突は起きます。

※私のコメントは、平成29年2月27日(月)のテレビ朝日「モーニングショー」で放送されました。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘 03-6667-0247

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