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2026年から振り返る。コロナ禍で商標の期限はどう守られたのか


「外に出られない」「会社に行けない」「郵便物すら確認できない」。2021年1月、社会全体がそんな空気に包まれていたとき、商標実務では締切だけがいつも通りにやってきました。

当時、権利を落とさないために特許庁が打ち出した救済措置を、リアルタイムで整理してブログにまとめた記憶があります。2026年のいま、あらためて振り返ると、特許庁の対応は一言でまとめられます。

手続は止めない。止められない人のために、救済の運用を柔軟にする。

この記事では、2021年当時の状況から、特許庁の方針、救済の具体的な使い方、そしてその後わかった終わり方と制度の変化まで、流れがつながる形で整理し直します。

※特許庁の対応は事案ごとに異なります。個別の案件は、期限の種類や手続の種類によって結論が変わります。

1. 2021年1月、第二の緊急事態宣言の下で起きていたこと

2021年1月7日、政府は特別措置法に基づき、東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県を対象に、1月8日から2月7日までを期間とする緊急事態宣言を行いました。

その後1月のうちに、栃木県・岐阜県・愛知県・京都府・大阪府・兵庫県・福岡県にも宣言が広がり、いつ解除されるのか見通しが立たない状況が続きます。

この時期、企業は在宅勤務や出社制限を拡大し、対面の打ち合わせは消え、業務は止まり続けました。

一方、商標の世界では、拒絶理由通知の応答期限や登録料の納付期限など、ルールどおりに期限が動き続けます。ここに、実務上の大きな問題がありました。

2. 特許庁は「手続を止めない」ために受付方法と期限救済を組み替えた

当時の特許庁は、感染拡大防止と社会経済活動の維持を両立させるため、出願・手続の受付方法を切り替えました。

2021年1月の緊急事態宣言を受けた対応として、窓口での出願等の受付は原則停止し、電子出願や郵送の利用を促進する運用へ舵を切ります。1月12日からは正面玄関も閉鎖されました。

ただし、受付方法を変えるだけでは足りません。問題は、期限までに動けない人が多数出るという現実でした。そこで特許庁は、期限救済について、当面の間、証拠書類の省略や理由記載の簡略化まで認める方針を示し、柔軟運用を前提に制度を回しました。

3. 救済措置の設計図、指定期間と法定期間を分けて考える

コロナ禍の救済を理解する際、最初に押さえておきたい視点があります。

指定期間

指定期間とは、審査官や特許庁長官などが通知・指令で指定する期間を指します。商標の拒絶理由通知の応答期間が典型例です。

法定期間

法定期間とは、法律や政省令で期間が固定されているものを言います。

特許庁自身も、新型コロナが原因なら何でも一律救済、という扱いはしていません。救済できる範囲は手続ごとに決まる、と説明しています。

この区別を誤ると実務は危険な領域に入ります。救済があるはずだという思い込みが、そのまま期限徒過の引き金になります。

4. 指定期間の救済、期限を過ぎてもいきなりアウトにはしなかった運用

商標実務でよく遭遇する場面に、拒絶理由通知への応答があります。特許庁の案内では、指定期間の例として、商標登録出願の拒絶理由通知の発送日から40日の応答期間が示されていました。

2021年当時は、この指定期間に間に合わない人が出ることが、ほぼ予測できる状況でした。

特許庁は、新型コロナの影響で手続ができなかった場合、指定期間を徒過していても有効な手続として扱う運用を示しました。

特に方式審査等で出される指令・通知への対応では、一定期間、目安として期間延長請求可能期間+2か月が経過するまでは、期間延長請求がなくても有効として扱う運用がとられました。

5. 申し出の方法、当時は具体例まで用意されていた

救済の入り口は2通り用意されていました。

指定期間内に申し出る場合

上申書の欄に、手続ができなかった理由を記載します。

指定期間を過ぎた後に申し出る場合

事情説明の文書を添付し、意見書等の「その他」欄に遅延理由を記載すれば対応できました。

理由の記載例として、会社や事務所が閉鎖(在宅勤務)となり手続ができなかった旨を書いて救済を求める、という具体的な書き方までガイドされていました。

この具体例の存在が、2021年当時の実務を救いました。制度があるだけでなく、現場が迷わないレベルまで救済ルートが見える化された点に、大きな価値があったわけです。

6. 法定期間の救済、14日・2か月という追いかけ期限が鍵だった

指定期間よりも商標実務で一発退場になりやすいのが法定期間です。当時も、法定期間の救済は全部救済ではなく、対象手続が限られるという前提は変わりません。

2021年当時の中心は、手続が可能となってから14日以内に手続すれば救済され得る、という運用でした。特許庁の案内では、その責めに帰することができない理由による救済が定められている手続について、手続が可能となってから14日以内に手続するという枠組みが示されています。在外者については別の扱いがあります。

商標に関係する代表例としては、登録料の納付、既納登録料の返還請求、拒絶査定不服審判の請求、再審の請求、商標出願時の証明書提出、国際登録取消後の商標登録出願などが含まれます。いずれも、救済規定のある手続に限るという前提つきです。

7. 2か月以内に救済され得る枠もあり、商標の更新がここに入る

法令上、正当な理由や故意ではない基準による救済が定められている手続では、手続が可能となってから2か月以内という枠も用意されていました。

商標実務に直結するところでは、商標権の存続期間の更新登録の申請、後期分割登録料や割増登録料の追納、防護標章の更新などがこの枠に入ります。

注意しておきたい点は、救済は免除ではない、ということです。救済がある手続であっても、救済期間内に結局は手続を完了させなければなりません。この骨格は2021年当時も現在も変わっていません。

8. 証明書は省略OK、という運用が現場を救った

2021年当時、現場が最も不安だったのはこの部分です。罹患した証明書が取れない。会社閉鎖をどう証明するのか。郵送遅延で書類が揃わない。

特許庁は、この詰まりポイントの流れを調整しました。緊急事態宣言を受けた対応の中で、手続が困難な人には、証拠書類の省略や理由の簡略化を認める方向で運用されています。

後年、運用の区切りを示す説明の中でも、手続期間の末日が令和5年5月8日以前の案件については、コロナ影響下の手続の取扱いとして、証拠書類の提出を必須としない運用だったと整理されています。

ただし、疑義がある場合には、罹患証明書や事務所閉鎖の事実を示す書面など、裏付けの提出を求められる可能性は残ります。

この「省略OK」の助けもあって、実務はなんとか回りました。平時と同じ厳密さを要求されていたら、期限救済の制度があっても実際には使い切れなかったと思います。

9. 2021年当時は見えなかった「その後」、特例運用はいつ・どう終わったのか

2021年当時の関心は、この柔軟運用がいつまで続くのか、そして終わったら混乱するのではないか、という点に集中していました。

結論、いまははっきりしています。

特許庁は、新型コロナの感染症法上の位置づけの変更等を踏まえ、コロナ影響下で定めていた柔軟な取扱いを終了し、従来の救済措置の運用に戻すとしました。その適用は、手続期間の末日が令和5年5月9日以降の手続から、と明確に区切られています。

審判事件(異議を含む)の指定期間延長についても、令和2年4月から続けていた柔軟運用を終了し、令和5年5月9日以降は本来の運用に沿う形へ移行しています。

終わり方は段差ではなく、期限の末日を基準にした線引きでした。現在から見た教訓は、ここにあります。緊急対応はいつか終わる。そのとき行政は、混乱を避けるために基準日を置く。次の危機でも同じ動きになります。

10. 2026年の追記、救済要件は正当な理由から故意でないへ、そして手数料の世界へ

2021年当時には読めなかった変化が、もう一つあります。

2023年4月1日以降に期間徒過した手続について、救済(権利回復)の要件が「正当な理由」から「故意によるものでないこと(故意でない基準)」へ緩和されました。同時に、回復手数料の納付が前提になる、と特許庁が整理しています。

この変化は、実務感覚としては大きな意味を持ちます。正当な理由を説明する厳格な運用から、より客観的な「故意ではない」という説明へ寄ったわけです。ただし、救済は無料ではなく、コスト(手数料)を伴う局面が増えました。

2021年当時の「とにかく権利を落とさないために柔軟に」という空気から、制度としての安定運用へ移行していった、と見るのが自然な読み方です。

11. コロナ禍が加速させた商標実務の新常識、オンライン化は戻らなかった

救済措置そのもの以上に、2021年当時の経験が残したものがあります。それは、オンライン化が例外から前提へ変わった、という事実です。

当時、特許庁は面接審査・面接審理を、インターネット回線を使ったオンラインで継続し、ウェブアプリケーション利用の面接も進めていました。押印・署名の見直しも進み、たとえば新規性喪失の例外に関する証明書について、押印・署名を廃止し記名で足りる、といった運用が示されています。

そして2026年のいま、発送手続のデジタル化も進んでいます。特許庁はオンライン受領の方法について案内し、令和8年4月以降は届出が前提になるなど、実務上の注意点が整理されています。

コロナ禍で郵便が見られないことが痛点になった以上、今後、紙を前提にした期限管理に戻ることはありません。ここは、商標実務の景色が変わったポイントです。

12. いちばん拡散してほしい注意点、救済がない手続もある

2021年当時も今も変わらず、でも誤解されやすい点を置いておきます。

救済の対象にならない法定期間もあります。

特許庁のQ&Aでは、たとえば商標登録異議の申立ては法定期間徒過の救済対象ではない、と明確にされています。そもそも救済規定が存在しないためです。

「コロナだから何とかなる」は、最悪の思い込みです。救済がある手続・ない手続を峻別し、救済がある手続については救済期限内に確実に動く。これが唯一の勝ち筋です。

13. まとめ、晴れる日は来た。でも期限は待ってくれない

2021年1月、社会は動けず、でも権利の手続期限は止まりませんでした。だから特許庁は、受付方法を切り替え、指定期間と法定期間それぞれで救済の入口を整え、当面の間は証拠省略や理由簡略化まで含めた柔軟運用で、実務を支えました。

その運用は、令和5年5月9日を境に方向を変え、平時の救済運用へ戻る形で幕を引きます。

2026年のいま言えることがあります。非常時に権利を守る鍵は、制度を知ることに加えて、期限管理の仕組みを持つことです。

コロナ禍以外の場面でも、自分の案件が救済の対象になるのか、どの書面に何を書けばいいのか、そもそも救済がない手続ではないか、と迷っているなら、手続の種類と期限を確認したうえで、早めに専門家へ相談してください。

困ったときほど、権利は静かに消えます。静かな事故を、静かに防ぎましょう。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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