索 引
- 1. 2021年1月、第二の緊急事態宣言当時
- 2. 特許庁は「手続を止めない」ために受付方法と期限救済を組み替えた
- 3. 救済措置の設計図、指定期間と法定期間を分けて考える
- 4. 指定期間の救済、期限を過ぎてもいきなりアウトにしなかった運用
- 5. 申し出の方法、当時は具体例が用意されていた
- 6. 法定期間の救済、14日・2か月という追いかけ期限が鍵だった
- 7. 2か月以内に救済され得る枠もあり、商標の更新がここに入る
- 8. 証明書は省略OKが現場を救った
- 9. 2021年当時は見えなかった「その後」。特例運用はいつ・どう終わったのか
- 10. 2026年の追記。救済要件は正当な理由から故意でないへ、そして手数料の世界へ
- 11. コロナ禍が加速させた商標実務の新常識。オンライン化は戻らなかった
- 12. いちばん拡散してほしい注意点、救済がない手続もある
- 13. まとめ。晴れる日は来た。でも期限は待ってくれない
「外出できない」「会社に行けない」「郵便物すら確認できない」。2021年1月、社会がそんな空気に包まれていたとき、商標実務では締切だけがいつも通りにくることが問題になります。
当時、当時の人が権利を失わないために、特許庁の救済措置を現在進行形で整理してブログにまとめました。2026年のいま、あらためて振り返ると、特許庁の対応は一言でいえばこうです。
手続は止めない。止められない人のために、救済の運用を柔軟にする。
この記事では、2021年当時の状況から、特許庁の方針、具体的な救済の使い方、そしてその後わかった終わり方と制度の変化まで、流れが自然につながる形でまとめ直します。
※特許庁の対応は事案ごとに異なるため、個別案件は期限や手続の種類により結論が変わります。
1. 2021年1月、第二の緊急事態宣言当時
2021年1月7日、政府は特別措置法に基づき、東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県を対象に、1月8日から2月7日までを期間とする緊急事態宣言を行いました。
その後1月には、栃木県・岐阜県・愛知県・京都府・大阪府・兵庫県・福岡県にも宣言が広がり、いつ解除されるのかが見通せない状況が続きました。
この時期、企業は在宅勤務や出社制限を拡大し、対面の打合せは消え、現場は止まる連続でした。
商標の世界では、拒絶理由通知の応答期限や登録料の納付期限など、ルールどおりに期限が動き続けます。ここに、実務上の問題があります。
2. 特許庁は「手続を止めない」ために受付方法と期限救済を組み替えた
当時の特許庁は、感染拡大防止と社会経済活動の維持の両立を図るため、出願・手続の受付方法を切り替えました。
2021年1月の緊急事態宣言を受けた対応として、窓口での出願等の受付は原則停止し、電子出願や郵送の利用を促進する運用が案内されています。1月12日からは正面玄関を閉鎖しています。
また受付方法を変えるだけでは十分ではありません。問題だったのは、期限までに動けない人が多数出ることです。そこで特許庁は、期限救済についても、当面の間、証拠書類の省略や理由記載の簡略化まで認める方針を示し、柔軟運用を前提に制度を回しました。
3. 救済措置の設計図、指定期間と法定期間を分けて考える
コロナ禍の救済を理解するうえで、最初に注目する点があります。
指定期間
指定期間とは、審査官や特許庁長官などが通知・指令で指定する期間です。商標の拒絶理由通知の応答期間がその典型例です。
法定期間
法定期間とは、法律や政省令で期間が固定されているものです。
特許庁自身も、新型コロナが原因なら何でも一律救済ではなく、救済できる範囲は手続ごとに決まると説明しています。
この区別を誤ると実務は危険です。救済があるはずという思い込みは期限徒過の引き金になります。
4. 指定期間の救済、期限を過ぎてもいきなりアウトにしなかった運用
商標実務でよくあるのが審査の結果、修正を要する拒絶理由通知への応答です。特許庁の案内では、指定期間の例として商標登録出願の拒絶理由通知における発送日から40日が挙げられています。
2021年当時、この指定期間に間に合わない人が出ることが予測できました。
特許庁は、新型コロナの影響で手続ができなかった場合、指定期間を徒過していても有効な手続として扱う運用を示しました。
特に方式審査等における指令・通知への対応では、一定期間、目安として期間延長請求可能期間+2か月が経過するまでは、期間延長請求がなくても有効とする運用がされています。
5. 申し出の方法、当時は具体例が用意されていた
救済の入り口は2通りありました。
指定期間内に申し出る場合
上申書の欄に理由を記載します。
指定期間を過ぎた後に申し出る場合
事情説明の文書を添付し、意見書等の「その他」欄に遅延理由を記載すれば対応できました。
理由の記載例として、会社や事務所が閉鎖(在宅勤務)となり手続ができなかった旨を書いて救済を求める、という形になります。
ここが、2021年当時の実務を救いました。制度があるだけでなく、現場が迷わないレベルまで救済される点に価値がありました。
6. 法定期間の救済、14日・2か月という追いかけ期限が鍵だった
指定期間よりも、商標実務で一発退場になりやすいのが法定期間です。ただし当時も、法定期間の救済は全部救済ではなく、対象手続が限られるという前提は変わりません。
2021年当時の中心は、手続が可能となってから14日以内に手続すれば救済され得る運用でした。特許庁の案内では、その責めに帰することができない理由による救済が定められているものについて、手続が可能となってから14日以内に手続するという枠組みが示されています。在外者は別扱いがあります。
商標に関係する代表例としては、登録料の納付、既納登録料の返還請求、拒絶査定不服審判の請求、再審の請求、商標出願時の証明書提出、国際登録取消後の商標登録出願などが含まれます。いずれも救済規定のある手続に限るという前提です。
7. 2か月以内に救済され得る枠もあり、商標の更新がここに入る
さらに、法令上、正当な理由や故意ではない基準による救済が定められている手続では、手続が可能となってから2か月以内という枠も示されています。
商標実務に直結するところでは、商標権の存続期間の更新登録の申請、後期分割登録料や割増登録料の追納、防護標章の更新などがこの枠に含まれます。
注意が必要なのは、救済は免除ではないという点です。救済がある手続でも、救済期間内に、結局は手続を完了させる必要があります。この骨格は、2021年当時も現在も同じです。
8. 証明書は省略OKが現場を救った
2021年当時、現場が不安だったのはここでした。罹患した証明書が取れない。会社閉鎖をどう証明するのか。郵送遅延で書類が揃わない。
特許庁はこの詰まりポイントの流れを調整しました。緊急事態宣言を受けた対応の中で、手続が困難な人には、証拠書類の省略や理由の簡略化を認める方向でした。
後年、運用の区切りを示す説明の中でも、手続期間の末日が令和5年5月8日以前の案件については、コロナ影響下の手続における取扱いとして、証拠書類の提出を必須としない運用でした。
ただし、疑義がある場合には、罹患証明書や事務所閉鎖の事実を示す書面など、裏付け提出を求められる可能性はあります。
この省略OKの助けもあって実務は回りました。平時と同じ厳密さを要求されていたら、期限救済の制度があっても実際には使い切れなかったといえます。
9. 2021年当時は見えなかった「その後」。特例運用はいつ・どう終わったのか
2021年当時の関心はこの柔軟運用、いつまで続くのか。柔軟運用が終わると混乱が起きるのではないか。
結論、いまははっきりしています。
特許庁は、新型コロナの感染症法上の位置づけの変更等を踏まえ、コロナ影響下で定めていた柔軟な取扱いを終了し、従来の救済措置の運用に戻すとしました。その適用は、手続期間の末日が令和5年5月9日以降の手続からとなっています。
審判事件(異議を含む)の指定期間延長についても、令和2年4月からの柔軟運用を終了し、令和5年5月9日以降は本来の運用に沿う運用に移行しています。
終わり方は段差ではなく、期限の末日を基準に線引きする形でした。ここが、現在からみた教訓です。緊急対応はいつか終わる。そのとき行政は、混乱を避けるために基準日を置く。これは次の危機でも起きる動きです。
10. 2026年の追記。救済要件は正当な理由から故意でないへ、そして手数料の世界へ
もう一つ、2021年当時には読めなかった変化があります。
2023年4月1日以降に期間徒過した手続について、救済(権利回復)の要件が「正当な理由」から「故意によるものでないこと(故意でない基準)」へ緩和されました。同時に回復手数料の納付が必要になると特許庁が整理しています。
この変化は、実務感覚としては意味を持ちます。正当な理由を説明する厳格な運用から、より客観的な故意ではない説明へ寄りました。ただし、救済は無料ではなく、コスト(手数料)を伴う局面が増えました。
2021年当時の「とにかく権利を落とさないために柔軟に」という空気から、制度としての安定運用へ移行していったと見るのが自然です。
11. コロナ禍が加速させた商標実務の新常識。オンライン化は戻らなかった
救済措置そのもの以上に、2021年当時の経験が残したものがあります。それは、オンライン化が例外から前提に変わったことです。
当時、特許庁は面接審査・面接審理を、インターネット回線を利用したオンラインで継続し、さらにウェブアプリケーション利用の面接も進めていました。押印・署名の見直しも進み、たとえば新規性喪失の例外に関する証明書について、押印・署名を廃止し記名で足りるといった運用が示されています。
そして2026年のいま、発送手続のデジタル化が進んでいます。特許庁はオンライン受領の方法について案内し、令和8年4月以降は届出が必要になるなど、実務上の注意点も案内しています。
コロナ禍で郵便が見られないことが痛点になった以上、今後は紙を前提にした期限管理に戻ることはありません。ここは、商標実務の景色が変わったポイントです。
12. いちばん拡散してほしい注意点、救済がない手続もある
最後に2021年当時も今も変わらない、でも誤解されるやすい点を置いておきます。
救済の対象にならない法定期間もあります。
特許庁のQ&Aでは、たとえば商標登録異議の申立ては法定期間徒過の救済対象ではないと明確にされています。救済規定が存在しないためです。
コロナだから何とかなるは、最悪の思い込みです。救済がある手続・ない手続を峻別し、ある手続は救済期限内に確実に動く。これが唯一の勝ち筋です。
13. まとめ。晴れる日は来た。でも期限は待ってくれない
2021年1月、社会は動けず、でも権利の手続期限は止まりませんでした。だから特許庁は、受付方法を切り替え、指定期間と法定期間それぞれで救済の入口を整え、当面の間は証拠省略や理由簡略化まで含めた柔軟運用で、実務を支えました。
その運用は、令和5年5月9日を境に方向を変え、平時の救済運用へ戻る形で幕を引きました。
2026年のいま言えることがあります。非常時に権利を守る鍵は、制度を知ることに加えて、期限管理の仕組みを持つことです。
コロナ禍以外の現時点の場合でも、自分の案件が救済の対象になるのか、どの書面に何を書けばいいのか、そもそも救済がない手続ではないか、と迷っているなら、手続の種類と期限を確認したうえで、早めに専門家に相談してください。
困ったときほど、権利は静かに消えます。静かな事故を、静かに防ぎましょう。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247