商標登録の実例を調査していると「やっちまったなベイベー」の事例を見つけることがあります。プロにチェックしてもらったなら、しなかったミスです。どこがまずいのか、どこを修正すればよいのかを解説します。
商標登録の願書は、一度特許庁に提出してしまうと、その後は内容を動かすことができなくなります。特許庁で審査を受ける以上、一度提出した答案は、後から勝手に直すことができないのと同じです。
1. 想定事例:かばんを指定した区分と指定商品役務の事例
願書に、次の区分と指定商品を記載して、特許庁に提出した、とします。
- 第18類「かばん類」
- 第35類「かばん類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」
これ自体は、何も間違っていません。
おそらく、ネットかなにかの資料を参照して、「かばん」のキーワードで検索して、得られた結果を記入したのでしょうね。
問題は、この記載自体は間違っていないからこそ、どこを直すべきか分かりにくい点です。
2. 倍額の費用を払う必要があったのか
2-1) 本当は、両方の区分を出願する必要がない
上記の事例では、第18類と第35類の2つの区分を権利申請していますが、両方を権利申請する必要はないです。
なぜなら、第18類の「かばん類」と第35類「かばん類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は、互いに類似する関係にあるからです。
このため、第18類「かばん類」か、第35類「かばん類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」のどちらかの区分で権利を申請しておけば、審査に合格できたなら、他人は同じ商標について、他方の区分で後から商標登録できなくなるからです。
互いに衝突する権利内容の後からの登録を特許庁は認めないから、です。
商標権は独占権なので、重複する範囲で権利者が複数いる状態が発生するとまずいからです。
もちろん、お金が余っているなら両方をとってもよいですが、それだと業者に支払う費用が高くなってしまいます。
片方の区分を取れば十分で、後から権利を補充する場合との総額費用との見合いで、最初に両方を取ってしまうのか、後から取るのかを検討すればよいです。
3. 無料でとれる範囲を取らなくてよかったのか
3-1) それぞれの区分には無料で追加できる商品役務がある
ここがポイントです。
上記の想定事例ではかばんの権利だけを取っていますが、追加料金を払わずに追加できる商品や役務の範囲があったのをご存知でしたか?
最初に取り忘れて、後から追加したなら、また最初と同額の特許庁印紙代が発生します。一つの区分を追加して権利を取り直すのに、特許庁印紙代だけでも5万円近くを要します。
しかも、これから未来永劫、更新のたびに、本当は支払う必要のなかった5万円近くを、未来永劫はらい続けることになります。
例えば第18類の「かばん類」の権利を取得する際に、「キーケース、財布、傘」などを追加しても特許庁に支払う印紙代については追加費用は発生しません。
逆に、追加しないと「キーケース、財布、傘」などの権利が抜け落ちます。
同様に、例えば第35類「かばん類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」の権利を取得する際に、「被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」とか「履物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」などを追加しても特許庁に支払う印紙代については追加費用は発生しません。
ご存知でしたか?
3-2) 範囲を広げたら、追加費用が発生するのでは?
それは、対応する業者の費用体系に依存します。いずれにせよ、特許庁に支払う印紙代の金額は変わらないです。
もし、最初の願書に記載する商品役務の範囲を広げることにより費用が増加するなら
- ①最初の出願に入れて最初に取りきってしまうのに要する金額総額
- ②最初の出願に入れるのを見送り、後から権利を取り直すのに要する金額総額
の総合判断で考慮するのがよいと思います。
4. まとめ
上記の事情をすべて把握した上で、出願する権利内容を定めたならよいです。
けれども上記の事情を知らないままとか、知らされないままに手続を進めると、最初の出願に含めたなら無料で取得できた権利内容を、後から最初の取得に要した費用と同じ費用の倍額を支払って権利を取り直すことになります。
もし、自分の取得した権利に、本来なら無料で追加できたはずの権利の取得漏れがあるなら、なぜ権利の取得漏れがあるのか、手続きをお願いした業者に直接聞いてみてください。
出願を急ぐ気持ちは理解できますが、気が付きにくい落とし穴にはまらないように注意してくださいね。
ファーイースト国際特許事務所所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247