索引
初めに
業務や営業活動で使っているユニークな肩書きを商標登録する際のポイントを解説します。
一般に、商標登録の対象は自分の商品やサービスではなく、他人に提供するものが対象となります。裏技として、特定の方法で肩書きも権利化することが可能です。
(1)肩書きを特許庁に商標登録するには?
特許庁への申請手続き
商標法では、肩書きそのものを直接商標として登録することはできません。
商標を特許庁に申請する際には、その商標を使用する商品やサービスを具体的に願書に記載して提出する必要があります。この商品やサービスは、他人に販売・提供するものでなければなりません。
たとえば、冠婚葬祭業務など、他人に対してサービスを提供し、その対価を得る場合も対象になります。そのため、業務で使用する肩書きそのものは、一般的には商標登録の対象とはなりません。
肩書きを商標として登録する実例
一方で、実務では、業務で使用する肩書きが商標として登録されたケースもあります。以下にいくつかの例を挙げます。
- 登録5568561号「特命部長」(コンサル業務関連。ただし期間満了により失効)
- 登録5953204号「AI人事部長」(電子プログラム提供関連。ただし期間満了により失効)
- 登録6034280号「労務部長」(コンサル業務関連)
- 登録5405935号「塩こん部長」(食品関連。ただし期間満了により失効)
これらの商標を取得することで、同じ分野での業務においてはこれらの名称を他人は使用できなくなります。しかし、商標権は特定の業務や商品にのみ適用されるため、例えば「特命部長」や「労務部長」が全く別の分野で使用される場合、商標権の侵害にはなりません。
過去に登録になった商標も、今出願しなおした場合、登録されるか、というと微妙です。現在では一般的な名称になっているので、登録を認めない、という判断が特許庁でなされる場合もあります。
肩書的な商標は登録されても権利更新されず、失効してしまうものも多いです。思うほどに活用できなかった、ということでしょうか。
ここがポイント
肩書きを商標として登録する場合、その名称を特定の業務や商品に関連付けて申請することで権利を取得することができます。ユニークな名称やダジャレを含む肩書きは、商標として認められやすい傾向にあります。これにより、他社からのブランド使用を防ぐことができ、自社のブランド価値を守ることが可能です。
(2)肩書きを誰にも使わせたくない
A. 全ての商品役務の権利を取り切るのは損をする
肩書きを他人に使われたくないという思いは理解できますが、すべての指定商品や役務に対して商標権を取得しようとするのは、コスト面で賢明ではありません。特許庁に支払う印紙代だけでも数百万円に達することがあります。
さらに、たとえ全ての権利を取得したとしても、日本での業務にその商標を3年間使用していない場合、第三者から特許庁に不使用取消請求がなされる可能性があります(商標法第50条)。そのため、実際に使用する予定のある商品や役務に絞って商標を登録することで、無駄なコストを避けつつ、商標権を保護することが重要です。
B. メイン業務を中心に追加費用の掛からない範囲の取得を目指す
商標登録の際には、権利範囲を広げすぎると費用が膨らみます。
そのため、最初は主な業務に関連する商品や役務に限定して商標権を取得することをお勧めします。
商標登録にかかる費用は、指定商品や役務の範囲ではなく、区分数によって決まります。このため、将来的に必要な指定商品や役務について権利を取得する際には、追加区分が発生しないように慎重に計画する必要があります。
商標登録は、適切な範囲と計画的な権利取得が重要です。自社のブランドを守りながら、効率的なコスト管理を行うためにも、専門家のアドバイスを活用することをおすすめします。
(3)間違った商品役務を指定しない
商標登録の際、よくあるミスは、お客様に提供するものではなく、自分が使うものを選んでしまうことです。商標登録はお客様に販売・提供する商品やサービスに対して行うものであるため、正確に指定することが重要です。
A. 名刺を選択するのは危ない
肩書きを商標登録する際によく見られるミスの一つは、商品として「名刺」を選択することです。商標法上の「名刺」は、お客様のために名前や住所を印刷して販売するものを指します。通常、自分の名刺を販売することはないため、この選択は不適切です。
B. 他人に名刺で肩書きを使わせないためにはどうすればよいか
他人に自分の肩書きを使われたくない場合、その他人が実際に行う業務を確認することが重要です。
名刺そのものではなく、その他人が提供するサービスや業務が自分のものと重複していないかを確認します。将来的に業務が重複する可能性がある場合には、その範囲での商標登録を検討すべきです。
ただし、他人に権利を取らせないためだけに広範囲の商標登録を行っても、実際に使用しないと登録が取り消されるリスクがあります。実施する予定のある業務に限定して権利を取得することが賢明です。
C. 他人が使っているが登録を済ませていない範囲の権利取得は?
自分が使用予定のある商標で、他人がまだ商標権を取得していない場合、先に出願して登録できることがあります。しかし、相手を困らせる目的での商標登録は避けるべきです。
法的に問題がなくても、ネットで批判される可能性があり、顧客の信頼を失うリスクがあります。
商標登録は、自社のブランドを守り、適切な範囲で行うことが重要です。他人を妨害することなく、自社の利益を最大限に引き出すために、慎重に計画を立てて進めることをお勧めします。
(4)まとめ
肩書きを商標として登録することは可能ですが、特許庁の審査に通るためには注意が必要です。たとえば、英会話教室の「英会話教師」といった一般的な職務内容を示すだけの商標は、特段の特徴がないため、審査に通らない可能性があります。
また、仮に審査を通過しても、一般的に使用される普通名称と判断されると、異議申立や無効審判によって登録が取り消されるリスクがあります。そのため、商標の選定には工夫が必要です。
一方で、意外な商標が登録されることもあります。まずは、日常的に使用している肩書きや名称が商標登録できるかどうかを調査することから始めましょう。専門家に相談することで、登録の可能性やリスクを正確に把握し、効果的な商標戦略を立てることができます。
商標は、ブランドの価値を保護し、他社との競争優位を確保するための重要な要素です。適切な商標登録を通じて、自社のビジネスを守り育てていきましょう。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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