立体商標とは具体的にどのようなものを指しますか?

無料商標調査 次回定休日4/28-5/2

1. はじめに——“形”が語るブランド力

ロゴやネーミングがブランドの顔だとすれば、パッと目に飛び込んでくる商品そのものの“形”は、体温のある名刺のようなものです。

コカ・コーラのくびれたガラス瓶やヤクルトのかわいらしい容器を見ただけで、味や思い出までよみがえる。こうした「形そのもの」が商標として保護される仕組みが立体商標です。

1997年の商標法改正で導入されて以降、日本でも徐々に登録件数が増え、いまではブランド戦略の要として注目されています。

2. 立体商標の概念と法的背景

立体商標とは、商品の立体的形状や包装の形状など、三次元構造そのものを識別標識として保護する商標の類型です。

平面的な文字・図形商標と異なり、需要者が手に取り、あらゆる角度から目にする「立体」がブランドを証明する、その独自性に着目した制度といえるでしょう。

導入のきっかけは、個性的なパッケージデザインを模倣品から守りたいという実務上の要請でした。

ただし、どんな形でも登録できるわけではありません。

商標法3条1項3号は「当該商品又は包装の普通に用いられる形状」を登録不可とし、さらに「極めて簡単でありふれた形状」も排除しています。機能性やコスト合理性だけで説明できる形は、独占させる合理性が乏しいためです。

3. “見ただけでわかる”形状はブランドになる

実際に登録された立体商標を眺めると、その多くが“姿”だけでブランドを想起させる強烈な個性を備えています。

商標登録第4210761号 アヒル隊長


特許庁の商標公報・商標公開公報より引用

アヒルのおもちゃは黄色いボディと丸みを帯びたフォルムでお風呂グッズのあひる隊長の代名詞になるほどです。

商標登録第5225619号 コカコーラの瓶


特許庁の商標公報・商標公開公報より引用

ガラス瓶に波打つようなくびれをもつコカ・コーラのボトルも今では見る機会が少なくなりましたが、実際に手に取ったことがある方は多いと思います。

商標登録第5384525号 ヤクルトの容器


特許庁の商標公報・商標公開公報より引用

ヤクルトのビンを一度は見たことがあると思います。傾けても一気に中身が全量でないように工夫された、独特の形状を持ちます。

商標登録第4157614号 ペコちゃん人形

特許庁の商標公報・商標公開公報より引用

ペコちゃん人形も店舗の前に置いてある店頭人形として有名です。

商標登録第4153602号 カーネルおじさんの置物


特許庁の商標公報・商標公開公報より引用

ケンタッキーフライドチキンの店頭人形です。

以前阪神が優勝したときに、道頓堀川に投げ込まれてから阪神タイガースが長年優勝できなかったことから、「カーネルサンダースの呪い」とよばれることもありました。

いずれも「名前がなくても通じる」ほどに周知性が浸透した結果、形状自体が商標として登録された好例です。

4. 登録の壁——“普通形状”ゆえの拒絶

もっとも、立体商標の審査は平坦ではありません。

洋酒のスタンダードなボトルや、汎用ペットボトルの円筒形など、誰もが「これくらい普通だろう」と感じる形は、識別力を欠くとして真っ先に拒絶対象になります。

誰もが使える容器等が一業者に独占されると、他の人が困るからです。

また、機能や強度に由来するリブや突起など、デザインよりも実務的な必然性が強い要素は「ありふれた形」に整理されやすく、登録は困難です。

5. 周知性で扉を開けたミニマグライトとスーパーカブ

一度は拒絶されたとしても、長年の使用実績と市場での高い認知度によって“第二の道”が開かれることがあります。

懐中電灯「ミニマグライト」は、切り込み模様や鏡面加工が機能性ゆえの形だとして最初に拒絶査定を受けましたが、雑誌・新聞での露出実績、そしてユーザー調査により「形だけで商品と出所を判別できる」と立証し、登録を勝ち取りました。

本田技研工業の「スーパーカブ」も同様です。

スクーター然とした外観は一見ありふれていますが、50年以上に及ぶ生産台数と国内外での評価が、形状にブランド識別力を宿らせました。「機能形態=識別力なし」という壁を、圧倒的な周知性が乗り越えた象徴的判例です。

6. 意匠権とのちがい “デザイン保護”か“信用の保護”か

立体商標と混同されがちな制度に意匠法による意匠登録制度があります。

両者とも「形」を守りますが、保護法益が異なります。

意匠権は新規で独創的なデザインそのものを保護し、登録のためには発表前の秘密保持や早期出願が必須となります。

期間は出願の日から最長25年(令和2年4月移行の出願分から)で、延長はできません。

一方、立体商標の焦点は形状に乗り移った「業務上の信用」です。

新規性を欠いても、模倣されても、最初の審査の段階で周知性さえ証明できれば登録が可能で、以降は権利期間は10年ごとに何度でも更新できます。

つまり、立体商標は“育てたブランドを半永久的に守る盾”、意匠権は“新しいデザインを瞬発力で守る鎧”と整理すると理解しやすいでしょう。

7. ビジネスで活かす立体商標——登録前の3ステップ

近年はD2Cブランドやスタートアップ企業でも、特徴的なパッケージを差別化武器にするケースが増えています。

自社の形状を立体商標で守りたい場合、まず踏むべきは

  • ①形状だけで自社商品とわかるかをモニター調査などで確認し、
  • ②主要市場での販売実績・広告露出を定量的に蓄積し、
  • ③模倣リスクと意匠権との棲み分けを戦略的に検討する

という三段階です。特許庁の審査は証拠主義ですから、客観資料の用意が成否を分けます。

8. おわりに 形状がブランドを語る時代へ

SNSに写真があふれる現代、ユーザーはパッと目にした“形”でブランドを好きになる時代に生きています。

立体商標は、その一瞬のときめきを法的に独占する最強カードです。

貴社が大切に育てたパッケージやフォルムが、見ただけで世界中のファンを惹きつける資産になった瞬間を逃さないよう、弁理士・弁護士の専門家とともに早めの検討をおすすめします。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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