1. はじめに
商標登録では、ロゴやネーミングだけを出願するわけではありません。その商標をどの商品に使うのか、どのサービスに使うのかを願書に明記します。これが「指定商品」と「指定役務」です。
指定商品・指定役務の選び方を間違えると、守りたい範囲が商標権のカバー外になったり、追加出願で余計な費用がかかったりします。「とりあえず思いついた商品を並べて出願」「3分で出願完了」というやり方は、後で5万円規模の追加費用と数か月のロスを生むことが多いです。
ここでは、指定商品と指定役務の基本と、選び方のポイントを順に説明します。
2. 指定商品とは
指定商品とは、商標を使用する商品の範囲を特許庁への願書に記載したものです。商標権の「射程範囲」を決める基準になります。
たとえば飲料メーカーが商標を登録する場合、「清涼飲料水」「果汁飲料」など、商標を付けて販売する具体的な商品を願書に書きます。出願後にこの商品リストを書き換えることはできません。
指定商品の選択が商標権の広さを決める
商標権は、指定した商品についてだけ保護されます。願書に書かなかった商品は権利の対象外です。「商標は登録したのに、なぜか他社の同じネーミングの商品を止められない」というケースの大半は、ここの指定漏れが原因です。
しかも、特許庁は一度提出した願書への商品の追記を一切認めていません。記載漏れがあれば新たに出願し直すしかなく、特許庁印紙代だけで5万円近い追加費用が発生します。
3分で適当に選んで出願すると、3分で5万円近い追加費用が確定する計算です。
指定漏れがもたらす二重のリスク
指定漏れには費用面のリスクとは別に、もう一つの危険があります。漏らした部分を他社に先に登録されてしまうと、こちらは「異議申立」「無効審判」といった手続きで取り戻すことを試みざるを得なくなります。
これらの手続きは特許庁印紙代と弁理士費用が重なり、追加出願の比ではない金額になります。最悪の場合、取り戻せずに自社のブランドが他社の権利下に入る事態すらあり得ます。
区分という単位
商品・役務は国際的な「ニース分類」と呼ばれる区分体系で1〜45区分に分けられています。商品は1〜34区分、役務は35〜45区分に位置します。出願時にはこの区分も指定するため、商品の性質によって関連する区分を見落とさないよう、最初に当たりをつけるのが肝心です。
たとえば化粧品は第3類、医療機器は第10類、衣料品は第25類、印刷物は第16類といった具合に、似た分野でも区分が分かれることがあります。区分が違えば別出願として扱われるため、関連区分を網羅できているかも要点になります。
3. 指定役務とは
指定役務とは、商標を使用するサービスの範囲を願書に記載したものです。商品ではなく業務を提供する場合に指定します。
役務の例としては、自動車修理、理容・美容、冠婚葬祭業、ITサービス、飲食店経営、不動産仲介、金融サービスなどがあります。お客さまに「物」を引き渡すのではなく、「業務」を提供するものはおおむね役務に分類されます。
IT企業が自社のクラウドサービスに商標を付ける場合、「データ管理サービス」「オンラインストレージサービス」といったサービス内容を願書に記載します。サービス名そのものではなく、サービスの中身を記載するのがポイントです。
指定役務でも追記は認められない
指定商品と同じく、願書提出後の追記は特許庁で認められていません。記載漏れがあれば追加出願が必要になり、出し直しの印紙代がかかります。
追加出願の手数料を二重に請求できる業者側にはメリットがあっても、依頼者側にはデメリットしかありません。最初の出願で漏れなく指定するのが肝心です。
商品と役務の両方を出願するケース
商品を販売する企業が、その商品に付随するサービスも提供する場合は、商品と役務の両方を指定します。たとえば自動車部品の販売とそのメンテナンスサービスを行う企業なら、部品(指定商品)とメンテナンス(指定役務)の両方を願書に書く形になります。
商品か役務か迷う場合
業務によっては、商品分類と役務分類のどちらに属するかが直感的に分からないものもあります。代表例が「ソフトウェア」で、ダウンロード販売型のソフトは商品(第9類)に近く、クラウドで提供する SaaS 型は役務(第42類)寄りという扱い分けが必要になります。
この判断を間違えると、せっかく登録しても自社の提供形態をカバーできない権利範囲になりかねません。判断に迷う場合は、出願実務に詳しい弁理士に確認するのが安全です。
4. 指定商品・指定役務の選び方
他社に取られると困る範囲を基準にする
選び方の出発点は「他社にこの商品・サービスで同じ商標を登録されたら困るか?」という視点です。
たとえば洗剤メーカーなら、他社に同じ商標で洗剤の商標権を取られると、自社が洗剤を販売できなくなります。洗剤が権利範囲に入っているかの確認が出発点になります。
将来の事業展開も見据える
現在使っている商品・サービスだけでなく、将来使う予定のものも指定できます。ただし、登録後に「やっぱりあの商品も追加したい」と思っても、願書の修正は認められません。
将来構想がぼんやりしている場合でも、3年〜5年程度の事業計画の範囲は指定の検討対象に入れておくと、後悔が減ります。
費用とのバランス:核心範囲を先に決める
他社に取られるのが嫌だからと際限なく広げると、区分数が増えて費用が膨らみます。
そこで、まず「この範囲で商標権が取れないなら、お金を払って登録する意味がない」という核心部分を特定してください。これが指定の必須範囲です。
それ以外の商品・役務は、核心部分を指定する際に無料で追加できる範囲から探します。商標出願では、同じ区分内であれば一定数の商品・役務を追加料金なしで含められる仕組みがあるため、ここを活用すると費用を抑えながら指定範囲を広げられます。
競合調査も忘れずに
出願前に、同一・類似の商標がすでに登録されていないか調査してください。先行商標があると、審査で拒絶される可能性があります。
調査対象は完全一致の商標だけでは足りません。読み方が同じ、外観が似ている、意味が近いといった「類似商標」も拒絶理由になります。J-PlatPat(特許庁の検索ツール)で一通り当たりをつけ、判断が難しい場合は弁理士に相談するのが安全です。
広げすぎると不使用取消のリスク
「念のため広めに」という発想で指定範囲を膨らませると、別のリスクが出てきます。登録から3年以上、指定商品・指定役務の一部を実際に使用していない状態が続くと、第三者から「不使用取消審判」を請求される可能性があります。請求が認められれば、その範囲は登録から取り消されます。
3年以内に使う見込みのない範囲まで欲張って指定するのは、取消リスクと費用増の両方を抱える形です。「核心範囲+無料で追加できる関連範囲」までに留めるのが、現実的なラインになります。
5. まとめ
指定商品と指定役務は商標権の射程範囲を決める基準です。願書提出後の追記は一切認められないため、出願時の選択がそのまま権利の広さになります。
「他社に取られたら事業に支障が出る範囲」を核心として特定し、費用とのバランスを見ながら、将来の展開も含めて漏れなく指定しましょう。
商標登録は単なる手続きではなく、自社のブランドを長期的に守るための投資です。指定商品・指定役務の選び方一つで、ブランドの安全性が変わります。出願前の選択に時間をかける価値は十分にあります。
6. よくある質問
Q1. 指定商品と指定役務の違いは?
指定商品は商標を付けて販売する商品の範囲、指定役務は商標を付けて提供するサービスの範囲です。
たとえば食品メーカーが商品を売る場合は指定商品、結婚式場が式の運営サービスを提供する場合は指定役務になります。一つの企業で両方を出願するケースも多くあります。
ざっくりした見分け方は「お客さまに対価と引き換えに何を渡すか」です。物が手元に残るなら商品、行為や時間が提供されるなら役務、というイメージで切り分けると判断しやすくなります。
Q2. 選ぶ際のポイントは?
他社に取られると困る範囲を最優先で指定し、将来の事業展開も考慮に入れてください。
ただし、際限なく広げると費用が膨らむため、「ここを取られたら登録する意味がない」という核心部分をまず特定し、そこに無料追加できる範囲を加えるのが基本路線です。
Q3. 登録後に追加はできる?
できません。追加する場合は一から新たに出願し直す形になります。最初の出願時に将来の展開も見据えて指定するのが肝心です。
これに加えて、追加出願までの間に競合他社が同じ商標で類似の指定商品を登録してしまうと、こちらは登録できなくなる可能性もあります。最初の一回で漏れなく指定する重要性は、この点にもあります。
Q4. 同じ商標で指定商品が異なれば別の登録になる?
はい。商標が同一でも指定商品が異なれば別の商標登録として扱われます。ただし、類似する商品で先行登録があると拒絶されることもあります。
別の業界・別の商品分野であっても、消費者から見て「同じブランドが手がけているように見える」関係にあると判断されれば、登録が認められないケースも出てきます。
Q5. 指定役務はサービス業だけの話?
いいえ。商品を製造・販売する企業でも、関連するサービスを提供する場合は指定役務として登録できます。商品と役務の選択に業種の制限はありません。
たとえば自動車メーカーが自動車(指定商品)と自動車の修理サービス(指定役務)の両方を出願するのは一般的です。
Q6. 区分はいくつまで指定できる?
上限はありません。商品・役務の内容に応じて、必要な区分すべてを指定できます。
ただし、区分が増えるほど特許庁印紙代が上乗せされる仕組みのため、本当に必要な区分に絞るのが現実的です。1区分目は34,000円程度、2区分目以降は1区分につき+8,600円という相場感が一つの目安になります(料金は法令により改定される場合があります)。区分の追加は無料ではない以上、核心範囲の見極めが肝心です。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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