人気のキャラ「クロミ」の生みの親は誰なのか?
サンリオの人気キャラクターの一つである「クロミ」の生みの親が誰かを巡って裁判騒動になっています。
サンリオ側を訴えたのは、アニメ制作会社の「スタジオコメット」です。スタジオコメット側は、社内のデザイナーがクロミのキャラクターの生みの親と主張しています。
仮に、スタジオコメット側がクロミのキャラクターの生みの親であるとして、なぜ、今ごろになって裁判沙汰になるのか。その背景を説明します。
著作権法には大きく二つの権利がある
著作権法に規定される著作物に関する権利については、大きく二つがあります。財産権としての著作権と、人格権としての著作者人格権です。
財産権としての著作権は、土地の権利と同じで、他人に対価と引き換えに移転することができます。
これに対して、人格権としての著作者人格権は、著作物を完成させた個人でも法人でも、その人に一身専属に帰属する権利なので、他人に移転することができません。
ですので、仮に、イラストレーターにキャラクターの原画を作成してもらったとして、それが著作権法で保護される著作物に該当する場合、お金を払ってイラストの原画を買い取っても、著作者人格権は、購入者には移転されません。
このため、著作者人格権に基づく、著作物を世界に初めて公表する権利とか、著作物に対して著作者の氏名を表示させる・させない権利とか、勝手に著作物を改変されない同一性保持権とかを著作者は持っています。
仮にイラストを買い取っても、買い取った側は、無断では作品を改変したり、著作者の氏名の表示をどうするかを勝手に決めたりできないことになります。
多くの方が腰を抜かすと思いますが、自宅を購入した後に、「あなたの自宅の庭の駐車場を自分が使用しても問題ないか、契約で確認しましたか?」とか「あなたの自宅の二階部分は、あなたが自由に使用してもよいかどうか、確認しましたか?」と言われるくらいに衝撃があります。
例えるなら、お金を出して自宅を購入したのに、庭の駐車場を自分で使えない、二階部分を自分で使えないといった話です。
お金を払って購入したから、後は自由に使うことができる、という考えは、著作権法が絡む場合には通用しない、ということです。
実務上はどうやって乗り切るのか
仮にイラストを買い取るなら、そのイラストに関連する権利で後でトラブルにならないように、弁護士により契約書にまとめます。
著作者人格権については、財産権としての著作権の移転に伴って移転する権利ではないので、対価をお支払いしますので、後から著作者人格権については行使しないでくださいね、文句を言わないでくださいね、ということを当事者同士で取り決めます。
この取り決めがあいまいだと、後から著作者人格権をめぐり、当事者同士で争いが起きます。
実際、ひこにゃんの事例で著作者人格権を巡り、当事者同士で見解の相違が生じたことがあります。
本当の著作者が誰かは、部外者からは分からない
著作権のメリット
財産権としての著作権にしても、人格権としての著作者人格権にしても、著作物の完成と同時に自動で発生します。
どこかの役所に届けでるとか、審査を受けるとか、登録されるとかの要件は一切不要です。
このため、審査費用とか登録費用のお金を払う必要もなく、試験を受けて審査を突破する面倒な手続も必要なく、審査を待つ必要もないです。
無料で簡単に権利が発生する、優れた側面があります。
著作権のデメリット
コインの表と裏の関係で、著作権のメリットはそのままデメリットになります。
著作物の完成と同時に、財産権としての著作権も、人格権としての著作者人格権も自動で発生するが故に、世界のいつ・どこで・誰が著作物を完成させたかを知る手段が部外者にはないです。
誰かが著作物を完成させた、と主張したとしても、部外者としての私たちは、そうなんですか、というコメントしか返すことができません。証拠を知らないからです。
また制度としても、プログラムの著作物を除き、最先の著作者が誰であるかを決定するシステムが存在しないです。
文化庁に著作物を登録するとか、公証役場で確定日付をもらうとかの手続は可能ですが、これらの手続きをもってしても、自分の著作物より先に同一著作物の著作者が存在するかどうかを決定することはできません。
特許権や商標権の場合は、特許庁に願書を提出して、審査を受けて権利が発生しますので、誰が最初に願書を出したかは特許庁に記録が残っているので、本当の権利者が誰かについてもめることはありません。
著作権の場合は簡単に権利が発生する反面、誰が本当の権利者か部外者が知るのは難しい問題があり、
特許権・商標権の場合は、お金を払って審査を受けて権利が発生するので、お金も手間も時間もかかる問題がある反面、誰が本当の権利者かを争う余地がないです。
どちらも制度設計上の問題で、著作権に制度欠陥がある、という話ではないです。
本当の著作者が誰かを決定するには?
仮に当事者同時で、誰が本当の著作者かで争いが生じた場合には、証拠に基づき、自分側が正しい著作者であることを裁判所で主張立証して、裁判所で最終的に判断してもらうことになります。
当事者同士の話し合いで解決するなら、それに越したことはありません。不要な裁判費用や時間を無駄にする必要がないからです。
どうしても当事者同士で解決できないなら、最終的には裁判所の判断を仰ぐことになります。
実際には著作物の創作過程を示すノート・資料の提示、著作物がいつ完成したかを示す証拠などをもとに、誰が本当の著作者かの認定作業が必要です。
著作権の根本的な問題ですが、仮に当事者同士で誰が本当の著作者か決定できたとしても、後から、我こそが本当の著作者であると名乗りでてくる可能性があります。
まとめ
著作物のような創作物の取り扱いについては、完成時点で関係者できちんと権利の扱いをどうするかを話し合い、契約書の形で形に残しておく必要があります。
この様な当事者同士の事前の話合いの内容については、業務の性質上、部外者は知る手段がありません。このため当事者同士の争いが後から発生しても、部外者は当事者同士の主張の是非を検証する証拠を直接持たないので、手がだせないのが実情です。
日本の商取引の実情では、細かい仕様を詰めずに実務だけがどんどん前進してしまい、後になってから言った言わないの揉め事になりがちです。
この様なトラブル事例については、著作物の取り扱いだけでなく、例えば、銀行等の基幹システム開発を巡り、開発会社と発注会社との間で数十億円規模の損害賠償の形で表に出てくることがあります。
後でこういったトラブルに発展しないように契約で最初に基本合意まで済ませておくのが通常ですが、前進してみないと分からない全てのケースの順列組合せまで文章に起こすことができない等の実務上の問題もあり、これまでは空気を読んで当事者同士の流れで進めるといった実務慣行があったように思います。
最初に細かいところまできちんと詰めておけば、後で当事者同士の争いに発展しないからです。
面倒くさいですが、こうった最初の合意や到達時点ごとの合意確認がきちんとなされていれば、当事者同士のトラブルまで発展しないし、どこかの段階でブレーキがかかって、案件状態を見直すことができます。
最初の契約が大切です。事業の取り決めについてはできる限り弁護士の専門家を交えて契約の形で文章にまとめておく作業が欠かせません。
私のサンリオのクロミキャラクターの裁判問題のコメントは、2025年2月26日にフジテレビ「Live News イット!」で放送されました。
また、2025年2月26日(水) FNNプライムオンラインにコメントが掲載されました。
ファーイースト国際特許事務所所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247