索 引
(1)大阪でパロディ商品一斉摘発・13人逮捕
商標法違反の容疑でパロディTシャツ等を販売した業者13名逮捕
2016年10月26日、大阪のミナミで有名ブランドのロゴマークを、おもしろおかしくアレンジしたパロディ商品を販売していた業者が警察の一斉摘発を受け、関係者13名が商標権侵害の疑いで逮捕されました。
有名ブランドであるナイキのロゴマークを「NICE」や「NAMAIKI」に改変したり、アディダスのロゴマークを「ajidesu」等に改変されたTシャツ等が押収されたと報じられています(NHK等の報道情報)。
警察に押収されたパロディ商品は数百点以上にのぼるとされます(FNNニュース)。
これまでにパロディ商品で話題になった例としては、北海道の銘菓「白い恋人」をもじった吉本興業の「面白い恋人」や、超高級ブランド時計「フランクミュラー」をもじった安物時計の「フランク三浦」等があります。
パロディ商品「面白い恋人」は権利者と和解しています。また「フランク三浦」の場合は商標登録の有効・無効の争いが現在最高裁判所に上告されるに至っています。
(2)そもそもパロディ商品は法律で許されるのか
パロディ商品が許されるかどうかに言及した法律はありません
実は、パロディなら許される、とか、パロディであっても許されない、との法律のしばりは、日本の法律にはありません。
パロディについて直接規制する法律が日本には存在しないのです。
また特許庁の審判例や裁判所の裁判例においても、パロディだから許されるとか許されないかの直接の判断がなされた事例はありません。
ただし、パロディ商品を巡る裁判で判決があった場合には、和解する場合を除き、パロディ商品を販売した側が負けるか勝つかのどちらかの結論になります。
このためパロディ商品を販売した側が裁判に勝てば、間接的にパロディ商品の販売が認められた結論におちつくことになります。この逆にパロディ商品を販売した側が裁判に負ければ、間接的にパロディ商品の販売が認められなかった結論におちつくことになります。
このような背景から、パロディ商品が認められるとか、認められないとかの判断が裁判所などでされたと考えがちですが、実際は違います。
飽くまで裁判所では既存の法律に照らした上で、法令違反があった場合にはその法令に則した罰則や救済規定を適用しているだけなのです。
ですので、「パロディなら法律上問題がない」、という主張は、現在の日本の法律の枠組みでは全く根拠がないことになります。
また過去に文化庁において、著作権法でパロディをどのように扱うか検討がされましたが、現在に至るまでパロディ商品をどのように扱うかの明確な方針は打ち出されていません。
パロディ商品を規制する法律は大きく三つあります
パロディ商品を販売した場合に関連する法律は大きく次の三つがあります。
- 著作権法
- 商標法
- 不正競争防止法
いずれの法律の場合も、権利侵害があった場合には、これらの法律に基づいて民事的救済と刑事的救済の両方を受けることができます。
パロディであると主張した場合であっても、これらの法律のいずれかに違反する場合には、法律違反により逮捕される場合があります。
民事的救済とは、裁判所による差止請求や損害賠償請求等のことです。また刑事的救済とは、逮捕に続く罰金、禁錮刑の適用等のことです。
いずれかの法律に違反すると認定された場合には、各法律に基づいてパロディ商品に対する攻撃が開始されることになります。
(3)パロディ商品が法律違反になる具体例
(3-1) 著作権法に違反する具体例
著作権により、他人の著作物は無断でコピーすることができません。このためディズニーのキャラクター画像とか、映画に出てくるアニメ画像等を無断でTシャツにコピーして販売する行為は著作権法に違反します。
また著作物は、著作者に無断で改変してはいけないことになっています(著作権法第20条第1項)。このためキャラクター画像を書き換えたり、他のキャラクターと合成した画像を無断でTシャツにコピーして販売する行為は著作権法に違反します。
現在のところ著作権法に抵触する場合は原則として権利者側からの訴えがなければ警察は動くことができません。
このように著作権者側からの要請がなければ警察が動くことができない規定のことを「親告罪」といいます。
警察に動いてもらうかどうかは、著作者や著作権者側の意向一つで決まることになります。
(3-2) 商標法に違反する具体例
商標権により、他人の登録商標と同一のロゴや似たロゴを使用することはできません。
商標法の場合には、登録商標と似たロゴを、登録商標に指定されている商品の範囲内で使用した場合に商標法違反になります。
商標法は著作権法の場合と異なり、商標権侵害の罰則規定については「非親告罪」になっています。このため商標権者からの要請がなくても、商標権侵害の疑いがあれば、警察に逮捕されることがあり得ます。
(3-3)不正競争防止法に違反する具体例
不正競争防止法により、他人の有名なロゴマーク等と同一のロゴや似たロゴを使用することはできません。
不正競争防止法の場合には、行政機関に対して何らかの登録手続をしていなくても不正競争防止法に違反する者に対して法律の適用があります。
不正競争防止法の場合の罰則規定も「非親告罪」になっています。このため権利者からの要請がなくても、不正競争防止法違反の疑いがあれば、警察に逮捕されることがあり得ます。
(4)パロディ商品が摘発されるかどうかの境界は?
パロディ商品が認められるかどうかは権利者の胸一つ
権利者からの取締要請があれば、警察としても動かないわけにはいきません。
逆にいえば、権利者からの要請がなければ警察としても動きにくい側面があります。
実はパロディ商品には、本家商品との共存共栄が成り立つ場合があります。パロディ商品により本家の商品が有名になって売上が伸び、さらにパロディ商品が目立つようになる、という好循環が生まれる可能性があります。
この場合には権利者は何も文句をいいませんので、パロディ商品が野放しの状態が続くことになります。
ただし、パロディ商品の流通により、本家の商品の売上げが脅かされる状態になると権利者としても黙っているわけにはいきません。
つまり権利者との営業上の衝突が生じた場合に、パロディ商品は摘発寸前の状態になる、ということです。
最近では警察の取締が厳しくなっています
職業柄、商標法違反の逮捕事例はチェックしていますが、最近特に警察は商標法違反に対する検挙姿勢に本腰を入れていると感じるくらい、違反者の検挙事例報道が目立ちます。
今回はパロディ商品を販売する業者が商標法違反の容疑で検挙されましたが、警察の動きはパロディ商品だけを狙い打ちした動きのようには思えないのです。
ブランド品侵害に対する警察の取締姿勢の強化により、パロディ商品もその取締の網にかかった、というのが第一印象です。
東京オリンピックを控え、世界の多くの人をお招きするホスト役の立場として、偽物ブランド品が国内に目立つようでは国の品位を疑われます。
また近年、アジア近隣諸国の問題児たちにニセブランド商品を大量に捌くことを止めるようにいうためには、やはり日本国自らがお手本を示す必要があると考えているのではないでしょうか。
アジア近隣諸国にブランド品の模倣を止めるように主張したとしても、「お前の国でもやっていることではないか。」、と反論されないようにしておく必要があります。
このような背景もありますから、今までパロディ商品を扱っても誰も何も言わなかったからこれからも大丈夫である、と考えるのは危険です。
特に他のみんながやっているから大丈夫、と考るのはもっと危険です。誰を検挙するかの法律上の決まりはなく、こちら一人だけが検挙される可能性もあるからです。
(5)何をしたら検挙されるのか
侵害品を販売した場合は?
侵害品を販売した場合には、文句なく法律違反を問われます。このため商標法に違反した疑いがある場合には、商標権者から警察に要請がなくても侵害の実行者は逮捕される場合があります。
今回のニュース報道で、ディズニーのコピー商品が警察に押収されずに残ったのは、これは著作権法に絡む事案だからと考えられます。著作権法違反の場合は、権利者からの要請がないと、警察は独断で動くことができない法律のしばりがあります。
侵害品を販売はしていないが、所持した場合は?
これは微妙なラインになります。販売のために所持していたのであれば、これは商標法違反に問われます。業者がいくら警察に対して、これは売るためのものではない、売るつもりはない、といったとしても、売ることのできる状態にある商品を、販売目的もなく所持していること自体が不自然ですのでやはり逮捕されます。
ちなみに販売している商品が商標法に違反するものだとは知らなかった場合でも逮捕されます。商標権を侵害するかどうかを知っていたかどうかは、商標権の侵害判断の要素に含まれていないからです。
ですので、店主から「ちょっと店の番をしておいて。」と頼まれた店の事情を全く知らないバイトが店番をしている最中に警察が踏み込んできて、いきなり逮捕されてしまう場合もあり得ます。
侵害品を購入した場合は?
侵害品を購入しても、それだけの理由では逮捕されることはありません。
ただし転売目的でパロディ商品の侵害品を購入して所持していたり、ネットオークションに出品したりすると、逮捕されます。
パロディ時計「フランク三浦」も逮捕される可能性がある?
パロディ時計の「フランク三浦」の場合は、フランクミュラー側と裁判で現在争っています。このため当事者同士の事件が解決しないと警察は動かないと思いますが、もし、当事者同士の裁判がなければ、パロディ時計「フランク三浦」側の当事者がいきなり逮捕されるシナリオも可能性としてはあったと思います。
パロディ商品だから大丈夫、と考えると、後で大どんでん返しを受ける可能性もあります。
(6)まとめ
パロディ商品だから許されるとの法律的な根拠はなく、逆にパロディ商品を販売すると、ほぼ既存の法律に抵触することになります。
またブランド品保護の観点から、警察の取締は今後強化されることはあっても、取締が緩まることはないと感じます。
ブランド侵害品を売っても儲からない、との空気が業界全体に十分拡がるまで警察の強行姿勢は続くものと思われます。
表現の自由の保護か、または、権利者の権利保護か。パロディ商品を巡る争いは今後も続くことになります。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247