索 引
1. 色彩のみからなる商標とは
色彩のみからなる商標は、文字や図形の輪郭に色を付けた商標ではなく、単色または複数色の組合せそのものを保護する商標です。商品の包装、店舗の看板など、使用する対象に応じて輪郭が変わる色彩も対象になります。
日本では2015年4月1日から、音、動き、ホログラム、位置とともに「新しいタイプの商標」として出願できるようになりました。願書では色彩のみからなる商標であることを明記し、RGB値や配色の順序、割合などを「商標の詳細な説明」で特定します。
色は、商品の美観、品質、用途、安全性を表すためにも広く使われます。そのため、色を使っているという事実だけで、特定の事業者の商品・サービスを示す目印とは認められません。色彩だけで登録するには、長年の使用を通じて出所表示として認識されていることを証拠で示すのが一般的です。
2. 登録されている三つの事例
国内の代表例は、MONO消しゴム、セブン-イレブンの店舗表示、UCCミルクコーヒーです。いずれも単に色を選んだ事例ではなく、特定の配色を商品や店舗で長く使い、需要者に認識されてきた経緯があります。
MONO消しゴム(登録第5930334号)
特許庁商標公報より引用
青・白・黒の組合せは、MONO消しゴムのケースに使われてきた配色です。指定商品は第16類の消しゴムです。文字を外して色の組合せだけを見ても、商品との結び付きを認識できるかが審査の焦点になりました。
セブン-イレブンの店舗表示(登録第5933289号)
特許庁商標公報より引用
白・オレンジ・白・緑・白・赤・白の順に並ぶ帯の配色です。指定役務は第35類の飲食料品の小売等で、店舗の看板などに継続して使われてきた表示が登録されています。
UCCミルクコーヒー(登録第6201646号)
特許庁商標公報より引用
茶・白・赤の組合せは、UCCミルクコーヒーの缶に長く使われてきました。実際に使ってきた配色、指定商品、販売と広告の実績を結び付けて識別力を示した例です。
3. 登録の壁は使用による識別力
特許庁は、色彩のみからなる商標には原則として識別力がないと説明しています。商標法3条2項による登録を求める場合は、出願した色彩と実際に使ってきた色彩が同一と評価できることに加え、その色彩だけで出所が認識される状態を立証します。
- 使用開始時期、使用期間、地域
- 販売数量、売上、市場占有率
- 広告の規模と、色彩を目印として訴求した内容
- 商品、包装、店舗、車両などでの一貫した使用
- 第三者による紹介や競合他社の使用状況
- 質問や対象者に偏りのない認知度調査
企業名やロゴを大きく表示した広告が多くても、色彩だけの識別力を直ちに証明できるとは限りません。どの表示を需要者がブランドの手掛かりにしたのかを切り分けて立証します。
2025年度の特許庁実務説明資料では、色彩のみからなる商標は累計574件の出願に対し、登録は11件です。この数字からも、出願件数に比べて登録例が限られていることが分かります。
4. 権利範囲は色と商品・役務から判断する
色彩のみからなる商標を登録しても、社会にある同系色をあらゆる商品・サービスについて独占できるわけではありません。願書で特定された色彩と、指定商品・指定役務が権利を検討する出発点です。
特許庁Q&Aは、色彩のみからなる商標には商標法70条の特則が適用されず、専用権の範囲は「登録された色彩そのもの」であると説明しています。したがって、通常の文字・図形商標と同じ感覚で「少し色を変えても当然に専用権の範囲内」と説明するのは正確ではありません。
一方、色をわずかに変えれば常に問題がなくなる、という意味でもありません。登録商標の特定、実際に使う色、配色の順序や割合、商品・役務、使用態様、商標としての使用に当たるかを確認します。侵害や使用可否は、色差だけを取り出して決められません。
新しい配色を採用するときは、色彩のみの登録商標だけでなく、色を含むロゴ、包装の立体商標や位置商標、意匠、不正競争防止法上の商品等表示も調査対象にします。既存商標との関係は商標権の効力範囲もご確認ください。
5. 継続的使用権と登録が認められなかった例
2015年の制度開始前から、不正競争の目的なく新しいタイプの商標を使っていた人には、改正法の経過措置として継続的使用権が認められる場合があります。従来の業務範囲や、施行時に業務を行っていた地域などに条件があるため、単に「先に色を使っていた」というだけで当然に認められる権利ではありません。
商標法32条の先使用権も別にありますが、こちらは登録出願前から不正競争の目的なく使用し、需要者の間に広く認識されていることなどが要件です。経過措置の継続的使用権と通常の先使用権を区別して検討します。
登録の難しさを示す裁判例として、女性用ハイヒール靴の靴底部分に付した赤色、いわゆるルブタンのレッドソールがあります。知的財産高等裁判所は2023年1月31日、商標法3条2項による識別力を認めず、拒絶審決の取消請求を棄却しました。著名なブランドに結び付いた色でも、日本での使用状況、第三者による使用、需要者の認識などを総合して判断されます。
色彩だけの登録が難しい場合でも、文字・図形を組み合わせた商標、位置商標、意匠、不正競争防止法など、別の保護方法を検討できます。商品発売前から、色をどのように使い、どの証拠を残すかを決めておくと後の立証に役立ちます。出願方針はお問い合わせフォームからご相談ください。
6. よくある質問
Q1.一色だけでも商標登録できますか?
制度上は単色でも出願できます。ただし、単色は商品や業界で広く使われやすく、使用による識別力の立証は容易ではありません。
Q2.会社のイメージカラーを長く使えば登録できますか?
使用期間だけでは決まりません。色彩だけで出所を認識できるか、使用地域、売上、広告、競合の使用、認知度調査などを総合して判断します。
Q3.登録色に近い色はすべて使えなくなりますか?
一律には言えません。専用権の基準は登録された色彩そのものですが、実際の使用可否は商品・役務や使用態様を含めて確認します。
Q4.2015年より前から使っている色は継続できますか?
改正法の継続的使用権が認められる場合があります。不正競争の目的がないこと、施行時の使用や業務範囲などの条件があるため、使用開始日と地域を示す資料を確認します。
Q5.出願前に何を保存すればよいですか?
商品写真、包装、広告、販売資料、売上、使用地域、色の仕様書を保存してください。配色を変更した履歴や、色そのものを訴求した広告も役立ちます。
まとめ
色彩のみからなる商標は、色を企業の目印として積み上げてきた場合に検討できる制度です。ただし、登録例は限られ、権利範囲も登録色と指定商品・役務を基準に判断されます。出願書類を作る段階だけでなく、色の採用時から一貫した使用と証拠保存を進めてください。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247
参考資料
- 特許庁「新しいタイプの商標の保護制度」 https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/newtype/index.html
- 特許庁「新しいタイプの商標の保護制度に関するQ&A」 https://www.jpo.go.jp/faq/yokuaru/trademark/new_shouhyou_faq.html
- 特許庁「商標審査便覧 54. 色彩のみからなる商標」 https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/binran/index.html
- 特許庁「知財動向と特許庁施策」(2025年度知的財産権制度説明会(実務者向け)) https://www.jpo.go.jp/news/shinchaku/event/seminer/document/2025_chizai-setsumeikai_jitumu/01.pdf
- 知的財産高等裁判所 令和4年(行ケ)第10089号・令和5年1月31日判決 https://www.ip.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail?id=5919
- e-Gov法令検索「商標法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000127
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