1. 商標権は譲渡できる
商標権は、第三者の使用を止めるためだけの権利ではありません。自社で使う、他社へライセンスする、事業と一緒に譲渡する、商標権だけを譲渡するといった活用ができます。
売買契約に合意しただけでは、通常の譲渡による商標権移転の効力は完成しません。商標法35条が準用する特許法98条により、一般承継を除く移転は登録が効力発生要件です。特許庁への移転登録申請を行い、登録原簿へ新しい権利者を記録します。
登録前の出願により生じた権利を譲る場合、登録済みの商標権を譲る場合、指定商品・役務ごとに分割移転する場合では、提出する手続が異なります。実務の流れは登録商標を譲りたい場合の手続きも参照してください。
2. TGC商標の譲渡価額は7億4,000万円
「東京ガールズコレクション(TOKYO GIRLS COLLECTION)」の商標は、高額な譲渡事例として知られています。DLEは2015年6月、日本知財ファンド1号投資事業有限責任組合からTGC商標を取得したと発表しました。
売主側のドリームインキュベータが提出した有価証券報告書には、譲渡資産「商標権」、譲渡価額「740百万円」と記載されています。報道で「約8億円」と表現された事例ですが、開示資料上の金額は7億4,000万円です。
DLEの発表では、当時のTGCについて、若い女性への高い認知、イベント、商品、ウェブ、海外展開、ライセンスなどの活用計画が示されていました。買主が取得したのは文字列だけではなく、事業に結び付いたブランド活用の可能性です。
その後、株式会社W TOKYOの有価証券報告書によれば、同社は2018年6月にDLEからTGC商標を取得し、商標と運営を一体化しました。古い譲渡事例を見るときは、その後の権利移転も含めて最新の登録原簿を確認してください。
3. 商標権の価格を決めるもの
商標権には一律の定価がありません。当事者が価格に合意しても、登録商標だけで億単位の価値が生まれるわけではありません。名称が示す事業、顧客との関係、継続収益、将来の展開、法的な権利範囲を合わせて評価します。
- 登録商標の認知度と信用
- 対象となる商品・役務、地域、市場規模
- 売上、利益、ロイヤルティなどの収益実績
- イベント、商品化、EC、海外展開への拡張性
- 残存期間、更新状況、実際の使用と使用証拠
- 類似商標、紛争、ライセンス、担保権などの制約
評価方法には、将来収益を現在価値へ換算する考え方、類似取引と比べる考え方、ブランドを再構築する費用から見る考え方などがあります。どの方法でも仮定を置くため、評価額と実際の売買価格が同じになるとは限りません。
売却だけでなく使用許諾で収益化する方法もあります。所有権を残したい場合は、登録商標のライセンス契約と譲渡を比較してください。
4. 買主が確認するデューデリジェンス
買主は、価格交渉の前に権利と事業を調査します。J-PlatPatの画面だけで結論を出さず、登録原簿、契約書、使用資料、会計資料を照合します。
- 登録番号、権利者、指定商品・役務、存続期間、更新期限
- 譲渡人までの権利移転の連続性
- 専用使用権、通常使用権、質権、差押えなどの有無
- 異議、無効審判、不使用取消審判、侵害紛争の有無
- 国内での使用状況と、使用商品・役務が登録範囲に入るか
- ロゴの著作権、ドメイン、SNSアカウント、顧客データを誰が持つか
- ライセンス先の品質管理と、契約終了・承継の条件
商標権だけを買っても、商品在庫、制作物、ウェブサイト、ノウハウ、契約、顧客との取引関係が自動で移るわけではありません。事業価値を支える資産を列挙し、譲渡対象と除外対象を契約に書き分けます。
5. 契約から移転登録まで
取引では、秘密保持、基本合意、調査、価格・条件交渉、譲渡契約、代金決済、移転登録、引継ぎの順で進める例があります。契約では、対象となる登録番号、対価、支払時期、移転登録への協力、表明保証、補償、税金・費用の負担、既存ライセンスの扱いを定めます。
特許庁の移転登録は、原則として譲受人である登録権利者と、譲渡人である登録義務者が共同で申請します。全部譲渡、持分移転、指定商品・役務ごとの分割移転では様式や登録免許税が異なります。住所や名称が登録原簿と違う場合は、表示変更手続も検討します。
譲渡対価には税務・会計上の処理も伴います。商標権だけの取引か事業譲渡か、国内取引か国際取引かで検討項目が変わるため、弁理士・弁護士に加えて税理士や会計専門家とも確認してください。商標権の調査や移転についてはお問い合わせフォームからご相談いただけます。
6. よくある質問
Q1.登録したばかりの商標も高く売れますか?
登録だけで高値になるとは限りません。買主は、名称の認知、収益、顧客、事業との結び付き、権利範囲などを見ます。
Q2.売買契約に署名すれば商標権者は変わりますか?
通常の譲渡では移転登録が効力発生要件です。契約と特許庁への登録申請を一組で管理してください。
Q3.指定商品の一部だけ譲渡できますか?
指定商品・役務ごとの分割移転という手続があります。類似する商標権との関係や分割後の管理も含め、申請内容を確認します。
Q4.ライセンスと売却は何が違いますか?
売却では商標権者が変わります。ライセンスでは商標権を保有したまま使用を認めます。管理権限、対価、品質管理、契約終了後の扱いを比べます。
Q5.TGC商標は現在もDLEが持っていますか?
株式会社W TOKYOの開示資料では、同社が2018年6月にDLEからTGC商標を取得したとされています。個別の登録については、取引時点の登録原簿で最新情報を確認してください。
まとめ
TGC商標の事例は、登録商標が事業と結び付くことで大きな取引価値を持ち得ることを示します。一方、売却価格は登録の有無だけで決まりません。権利範囲、使用、収益、契約、関連資産を調査し、譲渡契約と移転登録を確実に完了させます。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247
参考資料
- e-Gov法令検索「商標法」(35条) https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000127
- 特許庁「権利の移転等に関する手続」 https://www.jpo.go.jp/system/process/toroku/iten/index.html
- DLE「DLE、『東京ガールズコレクション』の商標権を獲得」(2015年6月8日) https://www.dle.jp/jp/news/docs/dle_tgc_press_20150608.pdf
- ドリームインキュベータ 有価証券報告書(譲渡価額740百万円) https://disclosure2dl.edinet-fsa.go.jp/searchdocument/pdf/S1004WK2.pdf
- 株式会社W TOKYO 有価証券報告書(2018年6月の商標取得) https://disclosure2dl.edinet-fsa.go.jp/searchdocument/pdf/S100RY04.pdf
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ファーイースト国際特許事務所|弁理士 平野泰弘

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